とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ビーバー族のしるし

139冊目
立場が違う二人の少年の出会い

ビーバー族のしるし

ビーバー族のしるし

主人公のマットは父とともに森で丸太小屋を作っていました。
父が買ったというこの森で「家族とともに暮らそう」と共に夢を見ながら、父息子そろって汗を流します。

やっとの思いで小屋が完成したころのこと、最後の段階……もっといえば一番大切である「母親と娘を呼びに行く」という段階にさしかかります。畑などがある小屋は誰か面倒見ておかなければならず、父が家族を呼びに行くためマッド一人でこの小屋を、ほかに誰もいないようなこの森で一か月ほど維持していかなければなりません。

「インデアンがいるかもしれないから、会ったら礼儀正しくするんだよ」
白人とインデアンの争いが終わった直後の時代、白人という存在を恨んでいるインデアンは少なくありません。そんな人たちがいるかもしれない森にマットはたった一人で自給自足しながら父親と家族の帰りを待つことになるのです。


ーーー(ネタバレあり)----

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堕落論

138冊目
開放されて堕落して

堕落論

堕落論

坂口安吾さんによる『堕落論』という作品になります。

読んでて思ったのですが、これは一種のエッセイでありブログみたいな内容だという印象を受けました。その内容についてあらすじ的なものを書こうと思えば書けるものの、なんというか「これは実際に読んだほうがいい」と思ったのであらすじは端折ろうかなと思います。

この本、あまり文量も多くないですし、すぐ読み切れると思うので興味がある方はさくっと読んでみてはいかがでしょう。(青空文庫Kindleなどで無料で読めます)

----(ネタバレあり)----

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アミターバ―無量光明

137冊目
死へ向かう朗らかな女性と

主人公の私は肝臓の難しい箇所にガンを患います。

もう治ることのないような、そんな難しい箇所にできたガンをなんとなく彼女は知りながら「治してみせる」と気丈に言ってみせたり、訪れた人に冗談を言ったり、とくに人生に絶望したわけでもなく、楽しげに病院の生活を続けていました。
ほぼ毎日のようにやってくる娘の小夜子、たまについてくる娘の旦那である和尚の慈雲、まれにやってくる腹違いの息子の富雄、お世話になっている医師の人たち、など彼女のもとに訪れて会話をします。彼女の性分か、周りの人よりも彼女のほうが明るいということもあるのでした。

ただ彼女はどんどんと衰退していきます。
そんな中で彼女は不思議な経験をするのです。よくわからない幻覚を見たり、過去を思い出すことが多くなったり、夢に実感が湧くようになったりなど、彼女はそれらを新鮮に驚きながら慈雲に問いかけます。慈雲も普段持っている問いかけとともに、たわいない雑談がごとく「死」について話し合うのです。



----(ネタバレあり)----

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なれる!SE3 失敗しない?提案活動

136冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

終電帰宅は当たり前、そんなブラックシステムエンジニアになった桜坂工兵がスルガシステムに就職してから3か月が過ぎようとしていました。
仕事に慣れてきたとは言えないものの、なんとかギリギリのところをなんとかこなします。

そんなある日のこと、工兵は職場に自分一人しかいないことに気がつきます。
職場に1人という開放感に飲まれながらも、工兵は黙々と仕事をこなしていると、ややあって社長が現れます。工兵は困惑しながらも社長と雑談すれば、社長は熱を帯びながら「仕事とはなんだ」という問いかけを語りだします。
次第に工兵も熱くなってきて、社長も工兵に「可能性を広げてみないか」と持ちかけます。「プロジェクト管理! コンサルタント! プリセールス!」など単語を並べます。工兵は意気揚々と「いいですね!」と頷きます。
すると社長は「そんな君に丁度よい話があるんだが…」と話し始めるのでした。

やがて帰ってきた上司である室見が工兵の異変に気がつきます。
「どうしたの」と室見が聞くと、つい前にあった頼まれ仕事「(仕事を受けるため)提案活動をしてくれないか」を室見にいいます。室見はため息をしました。
本来ならスルガシステムの全営業は社長が行っています。ただ今回の案件は提案前にて社長による不正が行われ、相手の会社から社長は出禁を言い渡されていたのです。

工兵は絶句しながら今後のことを考え始めるのです。


----(ネタバレあり)----

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オリエント急行よ、止まれ

135冊目
誘拐殺人と一億円消失

現在フリーライターの印南はライターとしてこれといった大きな仕事はもらってないですが、編集側から、あるいは読者からはなかなか好評なノンフィクションライターでした。
彼はもともと推理小説家を目指しており、文章力は多少は磨いてきたのです。しかし小説家としては、いいところまで行ったのに夢破れたままきっぱりと書くのをやめてしまいました。

ある日のこと、以前自伝を代理執筆してからお世話になっている、代理士の牧岡から「知り合いの女性の相談に乗ってほしい」と頼まれるのです。
印南はその知り合いの女性である織江に会ってみることにします。織江は以前記事を書いた相手であって、初対面ではありません。織江は印南が書いた記事の感謝をしたものの、話半ばで「ある男を調べてほしい」と言い出します。印南は不審に思いながら「なぜです」と聞き返すも「言わない代わりに資金面で援助する」と頑なです。
印南はこの奇妙な依頼に少し悩んだのですが、調べるだけなのならいいかと仕事を受け入れることにするのでした。


※この作品には『オリエント急行殺人事件』のネタバレがあるので注意してください。

---(ネタバレあり)---

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共喰い

134冊目
いつかの芥川賞作品

この作品はタイトルの『共喰い』の他に『第三紀層の魚』が収録されています。

共喰い
篠垣遠馬は複雑な感情を持ちながら日々を過ごしていました。理由は父の性癖のようなものである、性行為中に女性を殴る癖が息子の自分にもあるのではないか、とずっと考えていたからです。
遠馬には千種という彼女がいました。彼女と何度も性行為などしてきたものの、その父の血とやらを感じたことはなく、いや、感じないようにしてきただけなのでは……と、溝が深まって深く千種に近づくことができないのです。
それでも日々は続き、父と同棲している琴子とともに混濁した生活が続くのです。

第三紀層の魚
信道は幼くして父親を亡くし、母親が仕事に行っているので自然と祖母の家によく行くようになっていました。
この日も友達の勝を誘って趣味の魚釣りをし、その帰りに釣った魚を持って祖母の家に向かうのでした。
祖母の家には曽祖父がいます。曽祖父は認知症はないものの、もうすでに動けない状態になっており、祖母がつきっきりで介護しています。祖母には息子がいましたが失っていて、夫もいません。そんな祖母が血のつながってない曽祖父の介護をしているのですが、子どもの信道は疑問もなにもよくわかってないのでした。


----(ネタバレあり)----

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