とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

102冊目
理由も告げられず絶縁された過去に向き合う男の話

多崎つくるは高校生時、これ以上ないほど完成された仲の良い友達グループに属していました。
男3人(つくるを含む)と女2人の計5人グループはなにかとあれば共に過ごし、なにかとあれば語り合う、「仲の良い」と表現するのがおこがましいほどに完璧なグループです。互いに分かち合い、輝かしい未来を眺めていました。ずっとそのまま仲良く過ごすのだろう、彼らはそう信じていました。

高校卒業後つくるだけ都内の大学に進学(ほかメンバーは地元進学だった)しました。なおグループの交際は続き、仲の良いのは相変わらずでした。
大学生2年生の夏休みのこと、つくるは毎回のように帰省することをグループに伝えます。しかし誰もが着信に出ることなく留守でした。それは何度かけても同じでした。
次の日も同じです。つくるは家族に言伝を残し、奇妙な感覚を覚えていました。
その夜のこと、メンバーの一人から電話がかかります。友人は前置きもなく「悪いけど、もう誰のところにも電話をかけてもらいたくないんだ」とキッパリ言い切られます。つくるはなにもわからず混乱します。辛うじて「理由を知りたい」と聞くと、友人は「俺の口からは言えない」と言った後「自分で考えろ」と続けて電話は一方的に切られました。
それっきりつくるはメンバーと接触をしてません。なんで自分だけ除け者にされたのか分からないまま。

それから十数年と時は過ぎます。
つくるには知り合い、いい関係になりつつある木本沙羅という女性がいました。彼女に対し、つくるはメンバーの話を打ち明けます。
これをきっかけに二人はさらに親密になるのですが、ふいにつくるの家に行くことを沙羅は拒否します。
「抱き合っているのになぜか壁がある気がする。あなたは心の問題を抱えていると思う」
つくるは「わからない」と答え「抱き合っているときは常に君を考えていた」と自らを内省しながら答えますが、沙羅は「でも私には感じ取れた。これから付き合うとしたら、私は『それ』に耐えられない」と言います。
壁となるそれ、心の問題となればおそらく確実にあの4人の事件になるでしょう。
「つまり、そろそろあの4人に会って話せってこと?」つくるは聞きました。
「そうね。そろそろ疑問を解消したらどうかしら」沙羅は答えます。
かくして巡礼の旅が始まるのです。

----(ネタバレあり)-----

続きを読む