とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

むかし僕が死んだ家

2冊目
以前、どこかのサイトでおすすめをされていたところを見たことがありました。当時も気になる作品として頭に入れていたはずでしたが、いつの間にか忘れていたようです。
偶然この本を見つけると、見ての通り、とても気になるタイトルに気になっていた当時のことを思い出させました。ミステリーも読みたい気分だったのでちょうどよかったです。

むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)

むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)

7年前に別れた彼女(沙也加)から電話を受けたところから話が進んでゆきます。
電話で「二人で会おう」という彼女に、主人公はすでに結婚していた元彼女に対し、淡い期待と不審な感情を持って落ち合います。
そこで沙也加は主人公に頼み事をしました。それは「子供の頃の記憶を取り戻したい。亡くなった父がしばしば行っていたらしい家に一緒に行ってくれない?」というものでした。
主人公は一度断るも、沙也加の様子が気がかりで一緒にその家に向かうことにします。
二人が家に立ち寄った時、人の気配がありません。無人でした。
早速探索を始めますが、家は奇妙なものでした。玄関の四方はボルトと金具で開けれなくなっていたり、地下からでしか入れない設計になっていたりとしています。
家の中も奇妙でした。せいぜい数年ほっとかれた程度の汚れなのに、家に残る日記には23年前と記されてあったのです。
二人はその不可解な状況に疑問を持ちながら、「沙也加の記憶を取り戻す」という目的で家の探索を続けます。


-------(ネタバレあり)----------



タイトルに惹かれて読んだ本です。
いろいろな感情になりながら読んだのですが、最後の一撃は、せつない。といった内容でしたね。
この話の発端はどんな感情であれ、親子関係というものに行き着きそうです。

気になっていたことを振り返ってみます。
まず、あの白い家について。
家ではなく墓でした。という展開は予想外でした。びっくりしながらも、よくこの二人冷静にいられるなと思ったものです。
そもそも入り口は厳重に閉められていて、地下からしか入れない家の時点でちょっとしたホラー展開だというのに、二人は一晩泊まってどんどん入って謎を解いてゆくのがすごいですよね。
摩訶不思議を信じない理系男子だからでしょうか。終始「す、すげぇ。そこいくのか」とドキドキしてました。こんな奇妙な家、いつポルターガイスト現象きてもおかしくないと思ってましたから。
だからこそ読んでいてしばしばあったホラーテイストな部分はちょっと怖かったです。夜に本を読んでいたのですが、ホラー苦手なのでその先を読むのを止めて日を改めたことがありました。
余談ですが、別荘と屋敷という部分は違うものの、この作品を読んで『アナザーコード 2つの記憶』というゲームを思い出しました。

沙也加のこと
沙也加は記憶を取り戻すという目的であの家に行ったのですが、結果として苦い記憶を呼び覚ます結果になりました。
そもそも娘に暴力を振るっていたということ、主人公が書いていた虐待の記事を思い返す辺り、僕は「この二人(沙也加とあいつ)は父娘なんじゃないか」とふと思いました。しかし、その時は違うと思ったので考えを変え、条件の一つに性的虐待があり、僕は「→もしや性的虐待を受けていた?」という考えに変わりましが、まさか両方とも合ってたとは思いませんでした。
一通り読んだ後、沙也加→娘・あいつ→佑介 に向けられた暴力をするくだりはけっこう似てるんですよね。
それのせいか、沙也加は佑介に同情を持つシーンを思い返すとより一層、皮肉に思えました。
どうでもいいですが、あいつが沙也加に迫るシーンで、なぜかもう内容も忘れているというのに『さんかれあ』というマンガを思い出しました。

主人公のこと
すみません。主人公の名前忘れてしまいました。
博識で論理的思考力があるがため、推理をするさまは鮮やかでした。なんだかんだやってくれる感はあったので、残った謎はどうやって推理するのか見もの……と思っていたら、最後にやらかしました。証拠隠滅です。
沙也加に真実を見せるのは怖いと主人公は思ったらしいです。主人公自身、とっさのことでしたでしょう。読者すら欺く素早い動きでした。
一方で正直に沙也加に言ったらどうなったのかとちょっと気になりますね。主人公の思う通り壊れてしまうのか、それとも……どうなるのでしょう。僕としては沙也加の記憶が戻って目的達成、ハッピーエンドで終わって欲しかったですけど、おそらく主人公の思う通り壊れていたと思います。
この主人公が触れた虐待の話は興味深かったです。例では母親が出てましたが、母親は虐待後、病院に行かせたり、ひどく後悔するということが意外でした。反省するならやらにゃきゃいいのにという一般人の回答を、そうではないと作中で主人公から否定するのです。ここがこの物語の要になっている気さえしてきました。
あと揚げ足を取るようで悪いのですが、家を泊まると決まり、主人公と沙也加はコンビニで食料を買いに行った時のことです。
そこで買ったのはサンドイッチとコーヒーとコーラだった気がするのですが、僕はその時「友達の家に行くのかな?」と思わず思ってしまいました。そして「そこは水だろ!」と心のなかで叫びました。どうやら緊迫して読んでいたのは僕だけのようで、登場人物は無人の家に一日泊まる程度の事だったようです。つよい。

佑介と家族のこと
話の中心です。彼の日記が物語の鍵となっていますね。日記にはチャーミーという人物(人物とは当時気が付かなかった)がまさか沙也加とは思わなかったです。キャッチボールのくだりでとある妹とともに友達の死体を探す話と似た奇妙感を覚えたのですが、まったく気が付きませんでした。
佑介はかわいそうでした。人間関係に巻き込まれて死んだと言っていいような不遇さです。彼に失敗があるといえば、あいつを毛嫌いしていたことでしょうか。ただこれはまっすぐであるがために、あいつを実の父親と理解ができなかったということかもしれません。ここらを改めて思い返すと沙也加と娘の虐待状況が似ていますね。やはり似せているんでしょう。娘さんから見た沙也加はこんなかんじなのでしょうか。

ミステリーかと思ったら、切ない話でした。
けしてハッピーエンドという終わり方ではなく、冒頭部分に戻りますが、主人公は実家に対してトラウマ似たようなことになっています。はたして正しかったのだろうかとまで主人公は言っています。
しかし、最後に沙也加は離婚したとありました。離れて娘さんも幸せに暮らしているでしょう。これが物語の唯一の救いですね。
だから個人的には正しかったと思います。しかし、これは読者の感想ですからね。主人公のことは分かりません。

アナザーコード 2つの記憶

アナザーコード 2つの記憶