とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

テルミー きみがやろうとしている事は

7冊目
児童書とはいったん離れて、ライトノベルです。
この作品との出会いは某掲示板サイトのまとめブログにて、おすすめのライトノベルについての記事を眺めている時のことでしたね。
テルミーというシンプルな響きと、暗いながらも希望を見る設定が印象深く、いつか読んでみたい小説でした。

この物語は二十六人の高校生の話であり、悲劇から始まります。
修学旅行のバスで移動していた月之浦高校二年三組は、土砂崩れに巻き込まれ悲惨にも二十四人の死者を出します。
その中で奇跡的に生き残った鬼塚輝美、もう一人偶然にもバスに乗っていなかった灰吹清隆がいました。
「生き残ってしまった」と思う清隆は絶望のなか、バスの中に居た彼女、桐生のことを思い、苦しみます。
清隆はせめてもの形見として桐生にあげた指輪を手に入れようと桐生の家に行くのですが、桐生の母親は「一人の生き残りに渡してしまった」と答えます。
なにも、生き残った輝美はクラスメイトの大切な形見をを片っ端から受け取り続けていたのです。桐生の指輪もその一つでした。
渡した桐生の母親もそうですが、いわば形見として清隆にとっても大切なのもなのに、と、ほぼ面識ない輝美に対し灰吹は憤りを感じます。
合同葬にて、輝美と立ちあいながら「指輪を返してくれ」と清隆は言いますが、「片付いたら返す」と輝美はきっぱりと断ります。
「片付いたら返す……?」と清隆は混乱しながらも、合同葬が始まるのだから、いったんは置いておいて合同葬を眺めていました。
清隆は献花台に花を捧げる人を見ながら、大切な人を失って悲しみに暮れている人を眺めていると、ひとり大男が泣き崩れます。月之浦高校の番長の通称を持つ宮崎です。
清隆は「たしかクラスメイトに番長とよく一緒に居た高畑って人がいたな……」と思い返していると、隣に居た輝美は突然立ち上がり、献花台の上に立ち宮崎に喧嘩を売ります。
辺りは突然の不届き者に騒然としますが、清隆は別の部分で驚いていました。輝美がついさっきまでとなりで居た姿と別人の雰囲気があることを感じとったからです。その雰囲気は、そう、高畑に似ていたのです。



------(ネタバレあり)-------



土砂崩れによる悲劇
なんて言ったらいいのでしょうか、突然の悲劇に翻弄される人々がたくさん出てきます。
だれだれがどのように印象に残ったなどとは明確には書きませんが、どれも愛する人を失くした苦悩が痛々しく印象に残りました。
辛うじて輝美が前向きな希望を見せているのだから、やっと読めるほどの危なっかしいどんよりとした空気がありましたね。あのまま救いがなければ最悪の場合になっていたかもという人が何人もいました。
作中では「なんて? どうして?」と言わんばかりの現実を受け入れられない行動が幾つか見えましたが、悲劇にそんな理由なんて無いんですよね。最近の事件を見ると改めて思います。やはり悲劇は突然起るんですよ。それも本当に脈絡なく、伏線なく、唐突にです。

鬼塚輝美
この話の主人公の一人、二十四人の人生を背負って、二十四人分の技能を手に入れた女子高生ですね。
この輝美、別にこの二十四人分の人生背負わなくても、まぁまぁ壮絶な人生を送っていたようです。作中には家から出てきた程度の情報のみでしたが、それ以上にも親友やらそれらやらいろいろ謎が残っているところが気になります。どうでもいいですが、この狂った父親のくだり辺りで「よーしいっちょやるよ!」とか言う霊媒師が頭のなかに浮かびました。
作中の輝美は最後の願いを実現させてゆき、周りの人に希望を見せるさまは優しい世界といわんばかりでした。もう鬼塚輝美が超高校級の希望の称号もっていいよと思えるほどです。まぁ、輝美はほぼ確実に「そんなのいらない」とか言いそうですね。

灰吹清隆
この物語の主人公の一人ですね。真っ直ぐで一途で良識がありながらも、やや危なっかしい真っ直ぐさを持っています。
この主人公について思うことといえば、成長しているなと。始めは「こいつ、もう後追い自殺しそうだな」とか思ってたのですが、思いつめることなく立ち直りました。
清隆は輝美のお陰で本当に救われたのだと思います。それに輝美もいい工合に灰吹の影響を受けてます。人に希望を見せながら、両者とも傷を癒えていくいいコンビです。
松前エピソードの時にアダルトなものは持ってないとか言っていましたが、彼女いるのに性欲はどうしてたんでしょうね……いややっぱ、どうでもいいです。

松前考司という男
シスコンといえばアレに聞こえますが、この人はなかなかに紳士でした。そもそも元が優秀で、まぁちょっと変態があるけど、そこらが余裕で目をつぶることができるぐらい魅力的な人物ですね。
しかし、この人の自慰エピソードは男児みんな「ひえっ」となったんじゃないでしょうか。僕もそうです。もうアレですね、ほんとアレだからな! おま、次、勝手に部屋入ってきた時はアレだからな! というキリキリとした痛みがありますね……。
このエピソードがインパクトでかすぎて霞んでいますが、最後まで兄として妹へ配慮をしているところかっこいいと思います。かっこいいお兄ちゃんでありたいということよりも、妹を思ってからこそ威厳を崩したくないという配慮がもう男ですね。

孤高の天才
檜山とかいう人は本当にすごい人ですね。恵まれた才能に、人柄まで良い。
なんというか、生き様がストイックでかつロックです。この真っ直ぐな感じがほんとすきですね。
ところで、この檜山が出る章は三人の女性がいろいろある話でしたが、この章はキマシ…キマシタワーの連続でした。気持ち重くとも、女性の恋愛にニヤニヤしている奴いると思います。円華目線で見れば、もうほぼ恋愛ものですよね。
檜山見てると紺双葉を思い浮かべるのは僕だけでしょうか。

児島先生
佳奈が運び込まれたときに出た病院の児島先生いたじゃないですか。その先生の娘さん? 倅が同じ年ぐらいであの事故で亡くなったとありますが、あれがちょっと気になります。
この児島先生はバス事故について、考えられないほど悔しかったと想像できます。腕がいいのだから助けられたのにと、その分無念さも大きそうです。
だけど一つの話題として流れているのみなので、エピソードとして気になりました。

重い重い出来事から、希望の光を分け与えてゆく話です。
最後の盛り上がりもとても良く、物語として読み応えがありました。
ときに、この物語は三人称になっていますが、これがまたいい味を出していますよね。
いろいろな視点から物語が進み、繋がりながらもいろいろな人の考えが分かる感じがとてもいいです。これは作者の腕でしょうね。
おもしろいというより、切なくて綺麗というべき物語でした。