とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

聴き屋の芸術学園祭

18冊目
大衆文学からの一冊です。
これを選んだ理由は特になく、ただ目に入った作品を手にとったというだけです。
不意に気になった本を手に取る、読書ではそういうのもありだと僕は思います。

人の話を聴くことが得意な大学生、柏木を中心に展開していくミステリーです。
学園祭で遭遇する焼死体、未完のままの脚本、濡れ着を着せられた無実の模型部員、打ち上げで訪れた宿での話。
それぞればらばらな場所で起こっている事件に対して、柏木が人の話を聞いたり、質問したりして推理していきます。
芸術大学を舞台としているだけあって、個性豊かなキャラクターが登場します。
アクが強い登場人物に引っ張られながら、ロジックも綺麗に決まり、わりとあっさりと読むことができるミステリー本でした。



----(ネタバレあり)-----


聴き屋の柏木
本作の主人公です。なにかしら話しやすい雰囲気があるのでしょうか、歩いているだけで謎のヒントを聞き出しています。
よほど話しやすいのか、焼死体の事件の時には、喫茶店であろうが「聞いて欲しい」とわいわいと人が訪れてきて話を聞いたりしていますね。その人望たるや見上げたものですが、やや黒いところがあるので、そんな柏木に赤裸々に、弱みを出すような話をしていいのでしょうかとふと思ったりしましたが。
柏木君、推理もできます。脚本の終わりが消えた二部も「あれどうやってまとめるのだろう」と僕は心配していたものの、あっさりとかつ閃きで文句なしという完成度にしました。すごいです。
気になったのは柏木は謎を、水平思考で解いているということでしょうか。シャーロックホームズのようにうろうろと一人証拠を探して、「分かったよ。つまりこういうことだねワトソン君」というものではなく、「そこはどうったの?」「なにか見たりした?」など細やかに質問して、行き当たりばったりもありながら、相手の答えを聞きながら真相を探るパターンの人でした。思えばカウンセリングとかなんとか先生からいましたよね。先生は柏木の本質を見抜いていたということでしょう。

女装癖の川瀬
なんかよくわからないけどすごい感がある彼は、個人的には好きな人物でした。
女装すれば男を悩殺できるほどの美少年って、どれだけ顔が整っているのでしょう。想像ができませんけど、とても美形なのでしょうね。ただ、自由奔放な性格が災いして、残念なイケメンといったキャラクターなのでしょうか。
ところで川瀬はミステリーが好きだとかなんとか言ってましたよね。そんなミステリー好きは偶然にも死体を見つけても驚かないのでしょうか。僕だったら焼死体見るだけで気絶してしまいそうではあるのですが、川瀬と柏木は作中で計四人の死体を見ていたのにいっこうに腰を抜かさないどころか、推理を始めるのだからすごいですよね。

根暗の先輩
ひたすら暗いと主人公から言われ、他の人物からもけっこうひどいことを言われてる先輩です。
わりと事あるごとに登場し、第二部では決定的な助言をするものだから、ヒロイン的なキャラクターなのかと思えば、第四部で普通に締め切り間に合わないから打ち上げに行けないという失態を見せました。あれで単位はフルでとっているらしいので、ある種の才能を感じます。
しかし、先輩がいるだけでその湿度があがるってどんだけジメジメしているのって話です。僕も少ないなりにも人を見てきましたが、その人がいるだけで湿度が上がるという人は見かけたことありませんね。

我儘役者の月子
役者としての才能は有り余っているように見えるので、役者としては完璧でも性格に難ありといった人でした。
犯人探しやら、殺人事件やらいろいろありましたけど、個人的には一番性悪に感じた人物です。まぁ、思っただけで、住む世界が違う人のノリだと思えば納得ができますね。
作家さんにはやり過ぎなんじゃ……と思いましたが、劇団ではそんなドッキリが日常的に起こっているのかもしれません。そう考えると、ちょっと怖いですね。

天邪鬼の牧野
一見飄々としておきながら、模型部のことをよく考えている部員でした。
成田さんの模型が壊されたことについては、残念としか言えないですけれど、最悪部活まで壊れることなくてよかったですね。
なんだかんだで牧野は模型部好きなのがひしひしと伝わってきました。まぁ、成田のフォローを嫉妬で壊したのはちょっとあれでした。
ところで、牧野くんは友達少ないことを気にしている描写がありましたが、友達が少なくても気にしなくていいと思います。少なくとも趣味を共有できる友達が一人二人いれば十分ですからね。友達は数より質だと僕は考えているので。

腐女子の梅
完全に腐ってる人でしたね。BLや同性愛についてはよく知らないので、ここで一緒に挙げちゃうほどには詳しくないです。
思えば、第四部でも特に際立った人物のように感じました。いまでも泥棒を捕まえて正座させているところを見るなりハァハァしているシーンが特に印象深く残っているほどにキャラが強く、オチまで担当しましたね。
悪い子じゃないようには思いますけど、ちょっと現実に帰ってきたほうがいいと思います。
ときに、現にそういう人達はみんな梅ちゃんみたいな思考回路を持っているのでしょうかね。そういえば高校の時「◯◯くんってヘタレ攻めぽいよねー」とか言ってる女子が居ましたけど、こんな感じの思考回路だったのだろうかとか思ったりしました。

「イカれたメンバーを紹介するぜ!」のごどく感想を書いていきました。
個人的に一番好きなキャラクターは副会長ですかね。クロちゃんもセットで戯れている画像ください。
そんなことを書いちゃうと、「あぁ、やっぱ男子はこういう人が好きなんだ」とか思われてそうですね。そうですああいったのが好きです。(個人的に)
全四部ありまして、僕的には『からくりツィスカの余命』が一番好みでした。ちょっとクセのある女役者が登場したりしたのですけど、あれは綺麗に二転三転と読んでて面白かったです。この作品は人が死なないほうが映えるんじゃないかなとか生意気なこと思いました。ぜひ次巻は、人が死なない方向であって欲しいです。(あとがきに次巻があることがやんわりあったので)
あと僕は、芸術系の大学はまったく詳しくないのですけど、芸術の大学はみんなこんな感じなんですか。いつも突拍子もないことをして、キャラはみんなアク強くて、レモンティーにみりんを入れるような学部なんですか。教えて下さい。
もしそうならば、すごく刺激的な大学生活ができそうですよね。(イメージ)
しかしちょっとイメージしましたが、やっぱぶっ飛んでますね。混沌という言葉がこれほど合っている場所は、芸術系の大学以外にないんじゃないかと思っちゃいます。
大衆小説だけあって内容はあっさりとして読みやすかったです。あと、「スカイエマ」さんが描いているイラストもすきです。
作中は「謎解きはディナーの後で」や「珈琲店タレーランの事件簿」のような雰囲気がありました。読後感はなんというか、アニメや映画よりは、ドラマを見たあとのような感じです。
綺麗なロジック、魅力的なキャラ、これもそのうちドラマ化かアニメ化されそうな作品だと思いました。

スカイエマ (イラストレーション別冊)

スカイエマ (イラストレーション別冊)