とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

遠野物語

24冊目
聞いたことがあっても読んだことない名著シリーズだと上位に入ってくるんじゃないでしょうか。
僕もそうです聞いたことがあっても、読んだことない作品の一つでした。

遠野物語

遠野物語

柳田国男による、遠野で聞いてきた話を書き記した本です。
内容は怪談話を始め、伝記、うわさ話、言い伝えなど多種多様に渡りますが、一言で言えば語り継がれている民話を記した本でしょう。
遠野という場所は自然豊かであり、話題も豊富らしく、100を超える話が収録されています。
どこかで聞いたことがある話もあれば、初めて聞く話もあると思います。

-----(ネタバレあり)-------



山に住むもの
白い鹿や猿、狼や狐などさまざまな生き物が登場しました。いずれも存在が災いのもとと表記されず、「人間がいたずらに立ち入ったからこそ災いを受けているのだ」という価値観で書かれているのが、いかにも日本らしい表現でしたね。
思えばいたずらに化かしているのは狐ぐらいか、山男とかそんなのだけでした。変なキノコ拾って、その家の人ほとんど死んでしまったみたいな話もあったようですけど、あれもまた前兆が途中入っていましたし、日頃の行いが悪かったといえば頷けます。
この作品を読むだけでも、山は畏れるべき場所だというのがひしひしと伝わってきました。
ところで、ふと、こんな考え方を持っていたご先祖様がいらっしゃったのにもかかわらず、上の世代はコンクリートを山に流し込んだのかと思いました。もしそうならば、少し残念に思います。まぁ、それのおかげで現に先進国と名乗ることができているのですが……なんでしょうかこのきもち。

マヨイガ
森をさまよっているとあると言われる、豪邸? 生活感のある不思議な家です。
書き記している様子からして、家の中には沸騰しているやかんがあるとかなんとからしいですね。
個人的には家に勝手に入っていいのだろうかと思ったりしたのですが、やはり山の中、これだけの手入れが届いている家を見つけた人は好奇心が止まらなかったのでしょう。こう否定的な事書いておいて、僕もその場にいたら家に入っちゃうかもしれません。
僕がこのマヨイガについて思ったのは、「いったいなんだったんだ」ということです。
狐に化かされた、幽霊だった、山男だった、神様が宿る人形だった、など対象が物や人物ではなく場所を指しているというのが不思議なんですよね。
あるいは狐が化かした家なんでしょうけど、狐ならもっといたずらしてもいいですし……。
作中では「なににも盗らなかったから褒美をもらえた」と「なにか持って変えればおかげがもらえた」の二通りありました。これには「どっちだよ!」と心のなかで突っ込みました。

山の話
話のほとんどが山が関係していたように思いました。当然、遠野という場所が山に囲まれたというのが理由でしょうが、やはり「山があるところは山の話が多いんだ」と改めて思いましたね。
以前、瀬戸内海あたりの民話の本をちょこっと読んだのですが、その時は海の話が多かった記憶があります。海から白い手が伸びる……みたいなそんな話から、俗にいう海坊主の話、幽霊船の話、全国区であるような話しか記憶に無いですね。けれども、海が話の中心なのは確かでした。
場所によって伝承も違うのでしょう。山なら山、海なら海、雪国だと雪国、川なら川の話があるのでしょうか。おもしろいです。
その瀬戸内海あたりの本については読んでる途中で止めになった記憶があり、また読み返したいところです。

個人的に印象深かった話
まず思い浮かんだのは、「田尻丸吉という男が子供の頃、トイレに行こうとした夜に座敷と堺に不思議な人を見た。手を延ばし触ってみたけど何もなく、顔辺りを触ったけど同じだった。人を呼んで戻ったらなにもなかった」という話。あれは子供なりの好奇心に、実際触ったのかよという展開になにも起こらない結末と、不思議ないい読後感がありました。あれ良かったです。
あとは「菊池某という庭作りに長けた男が、山で美しい大石を見つけた。どうにかして持って帰ろうとしたが、重すぎて持って帰れなかった。疲れて石にもたれかかって休んでいると、そのまま石と共に天に登る感覚があった。恐ろしくなってその時は逃げたが、今もその石があり、見るたびに欲しくなることがある」というもの。おそらく不思議な白昼夢でも見たのでしょうか。人間らしい反応に、その様子が想像できてよかったです。
それに「助役北川清という学者がいた。彼は大津波で妻と子供を失い、のこる子供二人とともに暮らしていた。夏の初めの月夜に便所に起きて出ると、男女の影が見えた。よくみれば女性はまさしく妻であり、彼は思わずつけて歩いた。名を呼べば女性は振り返りにこりと笑う。ここで男も以前に心を通わせた人だと気がつく。やがて洞まで彼は歩いた。二人は洞の先で『夫婦になる』と彼に伝える。彼は『子供が惜しくないのか』と言うと妻は泣いた。やがて二人はゆっくり洞へ消えてゆく。ここで彼は二人は死んでいたと気がついた」という、切ない話ですね。祟りやらが並ぶなかで儚げで切なく印象深かったです。
切ない話といえば、「新田乙蔵という老人がいた。乙爺と呼ばれており、遠野のことをよく知っていた。誰かに話したいが口癖の彼だが、いかせん臭く誰も話を聞こうとする人がいなかった」これも、かなしい話でした。なにか病気を持っていたのか、ただ単に不潔な人だったのか知りませんけど夢かなわずでしたね。乙爺は自身の匂いに気がついていたのか気になるところです。

まとめ
昔の作品だというのにそれを忘れさせるほど身近な話が多かったです。不意に出てくる、登場人物の昔話や状況など読んで、「あぁ、これは昔の話だ」と思い出すこともありました。
ときにこの作品、実際の話かなと思うものもあれば、「これもう創作だろ」と内心思ってしまう話もありました。そんな中でらしからぬ、ジャンルで言えばスキャンダルっぽい話がいくつかありましたね。
どれどれがどうなんてことは具体的は挙げませんけど、おおよそ当時の様子を生々しく伝えているようでちょっとしたネットの記事を読んでいるような気持ちになったりしました。それもまた魅力かなとか思ったのですけど、いや、唐突に来るものだからびっくりしてしまいましたね。よくやる世間話を書きましたよ的なノリでしょうか。
個人的には、その、いろいろ思う所ありましたが、語り継がれているという、それは、その……。
つまり、この長年スキャンダルが語り継がれている田舎特有の情報網こそ恐るべき怪異だったんだよ!!
な、なんだってー!!

柳田国男『遠野物語』 2014年6月 (100分 de 名著)

柳田国男『遠野物語』 2014年6月 (100分 de 名著)