とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

体育館の殺人

37冊目
別作者の某館シリーズを想像させるタイトルですね。
その館シリーズは十角館の奴しか知らないのでなんとも言えない僕ですが、とにかく気になったので手にとってみました。
開いて立ち読みしてみれば、若い作家さんの第22回鮎川哲也賞受賞作品らしいです。ほぼ同じ歳ともあって妙な親近感が一方的に……なんでもないです。

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

タイトル通り、体育館で殺人事件が起こります。そして探偵役が事件を解決するミステリーですね。
おもしろいのは事件の舞台がごくごく普通の体育館だということです。なにかその館限定の特殊な装置があるわけではなく、普通に僕らが居た体育館と何ら変わらない場所が密室殺人の現場になるのですよ。
登場する物も特殊なものがなく、そこらにあるようなもので密室になっているんです。
【あらすじ】
その日最後の授業が終わり、卓球部に所属する柚乃と早苗は台出しのため早めに体育館に向かっていました。
体育館に到着してみれば、すでに一番乗りした佐川部長から「遅いよ!」とどやされます。佐川はいつも制服の下に体操着を着ており、真っ先に体育館に行くという部活熱心な生徒でした。
早い到着の卓球部員三人しかいない体育館にて、柚乃は体育館の異変に気が付きます。それはステージの幕が降ろされているのです。めったにないことですから異変に思うのですが、早苗の声によって注意はそちらに向かいます。
注意がもどってすぐのこと、今度はドーンドーンとくぐもった大きな音が聞こえ、不穏な雰囲気が一瞬体育館を包みました。
困惑する三人ですが、次に「すみませーん」と声とともに舞台側から演劇部部長の梶原が顔を出し、三人に「なんで幕が下りてるんだ」と聞きます。すると佐川は「朝島さんがたぶん下ろしました」と答えます。佐川は朝島がステージに入っていって、それから幕が下りたのを見たからです。梶原は「なんで」と困惑しつつ、後輩に幕を上げるよう指示します。


----(ネタバレあり)------



探偵側の面々
裏染をはじめとした香織と柚乃の三人は、いろいろ公務執行妨害罪をしていました。お陰で事件が解決(ほぼ裏染の手柄)したようですけど、危ない橋をいくつも渡っていたようです。特に兄の手帳を見るとは、これはさすがにすごいものがありました。仮にこれがなかったら、真相が解けなかったかもしれませんので、そう考えると柚乃もお手柄だったといえます。
ときに今巻は学校という舞台というだけあって、探偵側が確信に迫る最中、犯人側が探偵を妨害するという危険な雰囲気はありませんでした。あるいは先生が犯人だと思った時には、途中に多少圧力(とはいっても裏染には効かなそうですけど)とかいうこともありえたわけですから。その分には安心して密室トリックが解かれることを眺めることができました。天才であり探偵だとはいえ、裏染は学生なのですから危機感持った犯人から背後ぽこっとやられたら万事休すだったでしょうしね。

犯人側の面々
一方の犯人側はわりと複雑でした。複雑な密室トリックだったとはいえ、動機は所詮、隠蔽(正木)と嫉妬(千鶴)なので普通なものでした。特別恨まれるようなことを朝島はしていなかったわけですから、生徒会にゴタゴタ巻き込まれて死んだといえます。とはいえ、この二人の余裕はすごいものがありました。まぁ途中、千鶴はなんとなく怪しいと思ってました。(読後報告)
個人的に気になるのは、生徒会に所属しているトップ二人がやめてしまうというその後ですね。人が死んだと言うのはもうすごくやばいと思いますけど、それが生徒会が犯人だったなんて、作中は学校の花とあったし、あの二人仲がいいなど噂もありましから、もう学校としてもズタボロになるでしょうね。おそらく次に生徒会長になりそう椎名君がんばって。

警察側の面々
袴田と仙堂でしたっけ、あとは白戸かな。ミステリーの舞台としては敵キャラしながらも、情報を集める役、探偵の推理を反論する役として警察側は十分に働きました。この警察側について個人的に意見をいうならば、「仙堂をもうちょっとかっこよくしても良かったんじゃないかな」とかでしょうかね。初っ端から最後まで裏染に一本とられまくって面目丸つぶれだからというのもありますけど、仙堂が登場した始めあたりは(情報を集めてから推理するなど)有能っぷりを見せてるんですよ。なのに、終盤では全校生徒の前で「聞きこみを行う」など勝手に言い出すんですよね。もっと、こう、それこそ校内放送を使うとか、先生に指示させるとか、そんな感じでよかったんじゃないかなって。最後は裏染を認めて、協定を結ぶなどやってましたからいいです。

体育館のトリック
いかにもシンプルな完全犯罪になりかけながら、偶然の連続で密室になっていました。密室とはいえ、犯人が自らを閉じ込めて密室としてしまった珍しいパターン(裏染より)でしたね。僕は本格ミステリーに明るくないので、トリックの全貌には「おぉ」と驚いたものですが、ミステリーファンはどんな反応を見せるのか気になるところです。
個人的に推理した展開として、ステージの幕が鍵を握っているんじゃないかなとか思ってました。幕を上げる時に、または幕を下ろしている時になにか大きな仕掛けが作動してそのまま人を刺したと、そんな感じです。それだと「なぜ死体が移動したのか」と裏染から半笑いで聞かれそうです。聞かれたら僕は口を閉じますね、きっと。

裏染天馬
天才でした。天才と言ってもいろいろありますけど、ジャンルで言えばシャーロック・ホームズのように謎解きが好きな知識人という印象を持ちました。ところでこの裏染は作中、しきりに「オタク」と表現されてますけど、僕から言えば彼はオタクじゃないですよ。天才のオタクではなく、天才がオタク趣味を持っているだけの話であり、俗にいうおまえらとは別の存在になります。例を挙げるなら、『神のみぞ知るセカイ』の桂馬君のような感じです。これを読んだ人はくれぐれも「オタクの中には天才がいるかもしれない」という勘違いしないように。
そんな裏染くんに僕から言えるといえば、部屋にあるオタクグッツを隠した方がいいんじゃないかなということですかね。特にポスターなんか、たくさん貼り出されてるとなると、居心地悪く寝付きも悪くなりそうなイメージです。そう思うのは僕だけかもしれませんが。

【まとめ】
ミステリーの王道を突っ走ったような内容でした。学園モノのミステリーだと思って読めば、普通に密室殺人が起こって、探偵が出てきて、傘からいろいろ推理して、「犯人はお前だ」と言いつけて解決し、舞台裏で黒幕を退治など綺麗に終わってます。
作中いろいろな人物がでてきましたけど、個人的に好きだったのは針宮です。次いで裏染かな。まぁ、本格ミステリーでは人物をトリックを演出するコマみたいなものだと思っているので、キャラ動向よりもトリックに注目すべきだと思いますが……針宮と早乙女がイチャイチャしてる漫画ください。
終始裏染が好きなように調査して推理するという展開ですが、高校生にして踏み込みしすぎだと思うシーンがいくつかありました。しかしそこで気がついたのが、ミステリーはだいたいこんな感じだということです。裏染よりも、少年探偵団のほうがよっぽどやばいということです。

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