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とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

火の闇 飴売り三左事件帖

北重人 時代小説

60冊目
実は歴史小説と時代小説の違いはいまいちわかってないです。

火の闇 飴売り三左事件帖

火の闇 飴売り三左事件帖

主人公、土屋三左衛門という男の話になりますね。
飴売りをし、なにかと目立つ三左は顔が広く、いろいろな問題ごとの相談を受けたりして、どうたらこうたらです。
想像するなら『銀魂』のように、ああいった世界観(SFは無いですが)でよろずや(飴屋ですけど)の三左が鮮やかに問題解決している感じです。時代もあるので、金貸しやら賭博やら岡っ引やら時代らしい部分がありますが、それが雰囲気が出ていてよかったですね。

本編は『観音のお辰』『唐辛子売り宗次』『草笛の了五』『佛のお円』『火の闇』の5編が収録されています。
それぞれざっとあらすじ書いていきます。
『観音のお辰』:三左の知り合いにお辰という金貸しが居た。しばらくぶりに会うと、昔は美しかった面影を残すがひどく痩せていた。そんなお辰はらしくない言葉とともに「やらなきゃならないことがある、元気なうちに」と、三左に言った。
『唐辛子売り宗次』:三左の後輩(のようなもの)に宗次という男がいた。宗次は昔やんちゃしていたのだが、いまは落ち着いて唐辛子売りをしている。美しい妻も養い、日々汗を流していた。そんな宗次が最近やつれていると、市兵衛から三左は聞かされ「どうにかしてくれ」と頼まれるのだ。
『草笛の了五』:亥蔵のお使いが三左のもとにやってきた数日後、三左は亥蔵と会うことになった。亥蔵は「あたしは繋ぎです」と三左に言うように、やがて二人の前に多度津瓶右衛門という男が現れる。古く、瓶右衛門は三左の遊び相手だった人だ。そんな顔なじみの瓶右衛門から「人を預かって欲しい」と三左は頼み込まれるのだった。
『佛のお円』:長生き婆さんのお円という女性が居た。三左の妻もお世話になり、ましてやここに住む人たちはだいたいお世話になっているような女性だ。そんなお円には悩みごとがある、それは勘助という男性について。勘助は妻子がいるのにだらしなく、妻に逃げられてしまっていた。お円は子供の面倒を見つつ、二人の仲介をなんとかしようと試みており、もう一息でなんとかなりそうだとお円は言うのだが。
『火の闇』:土屋三左衛門が武士をしていた時代のこと。人の顔を伺うのが苦手という性分があるというのに、三左は江戸屋敷に飛ばされることになった。三左は納得ができないまま、江戸で堅苦しい生活をおくる。そんな中、与十郎という男と久々に遭遇した。与十郎は三左が剣術を教えた弟子、あるいは弟といえる人物であり三左は懐かしむ。しかし与十郎はすでに大人の世界に入っており、饐えたような目をしていた。
こんな感じです。

ところで、あらすじは上にある通りなのですが、この作品の魅力は文体にあると僕は思います。
確固たる普遍的な美しい文章なんてものはまだわかりませんが、これは美しい文章に入ると思いますよ。本屋でこの作者の本を見つけたら、とりあえず開いて文体を見ることをおすすめします。

----(ネタバレあり)-----




今回は『観音のお辰』『唐辛子売り宗次』『草笛の了五』『佛のお円』『火の闇』それぞれ振り返っていこうと思います。

観音のお辰
お辰さんが弱っている自らに気が付き、さらには悪い予感して罪滅ぼしをする話です。この初っ端にてお辰と三左との会話から物語が始まるものだから「(お辰が)ヒロインかな」とか思ったんですけど、速攻で殺されてました。びっくりですよね。
故にこの物語のジャンルはミステリーと言えるかもしれませんが、調べをしている調べ人(鎌五郎)こそ犯人ということがわかっているのに訴えれないという展開になっていて、「歴史小説」だなぁとため息が出てしまいそうでした。そりゃ指紋とか当時はなかったわけですから、ちょっと権力ある人が脅すだけで事件の真相が有耶無耶になったなんてことたくさんありそうです。時代ですかね。
ただ有耶無耶になると考えていた鎌太郎の考えとは裏腹に、三左は事件を強引に解決してしまいます。鎌太郎は相手が悪かったとしかいえ、ざまぁになります。ご自慢の脅しも三左には聞かなかったようで、小紋も「おーこわ」と流すという肝の座りっぷり。この時点でもう二人は只者ではないという雰囲気ありました。

唐辛子売り宗次
心中エンドですね。ちょっと欲を出した(というか欲を出させるように仕向けた)宗次の足元すくわれてそのまんま借金抱えて妻を抱かれ返り討ちに遭う話です。お前らの好きなバッドエンド(正しくはメリーバッドエンドだと思いますが)ですよ。
この話では、ナチュラルに悪に手を染めている曾根来三郎という男が登場します。あと西慶という悪役も登場しますが、どちらもふざけた野郎でした。ただ弱みを握って西慶を思うように動かしている、というすべて来三郎さんのおかげみたいになっています。
すごいことに来三郎は腕っ節はかなりあるようで、宗次が殺しに来たのを逆に切り捨てました。さらに死にゆく宗次に妻の抱いた感想を言うなど、けっこうな悪役ぷりを見せています。やはりあの時代、強さが正義なんでしょうね。悪事をしても権力と純粋な強ささえあればセーフみたいな感じなんですよ。
ときに、三左はその場に居合わせていました。結果的にぶつかることはなかったのですが、ふと「三左と来三郎はどちらが強いのだろう」と思いました。互角ぐらいしょうかね? 展開として「てめーは俺を怒らせた」ってな感じで覚醒三左が来三郎ボコボコにして欲しかったですけど、お由を憑依させた(たぶん)、宗次が来三郎を切り捨るんですよ。まぁ、あれでよかったと思います。
しかし恐ろしい時代ですよね。この話みたいな事件、たくさんあったと思いますから。

草笛の了五
了五郎という男性が出てきます。彼は「百姓(大嘘)」と言って三左に面倒みてもらうんですが、普通に三左にバレてしまうというものでした。
この了五郎とは試行錯誤する才能があるらしく、すぐに飴売りのトップセールスマンとなっています。思うのはやはり、どこかでリーダーをするような人物は有能が多いんだろうなということです。居ますよね、この人どこでもやっていけそうだという人、やっぱそういう人は別の職につこうがなんだろうが、あり溢れる人格がにじみ出るのでしょう。俗にいう勝ち組ってやつかもしれません。
ただ逆の立場である、三左と小紋からしたら残念なことでした。なにせやって来た人が超有能で、いろいろ飲み食いして打ち解けて、こうして今後を考えていたときに「やっぱ戻る」というのだからまったく思うようにはいかないものですよ。それでも納得する三左の懐の深さを見るべきです。
ところで、この物語ではおそらく作中一つだけの戦闘シーンがありますよね。日々鍛錬しているだけあって、三左さんはやっぱ強いことが伺えるのですが、その辺りのドタバタはやはり『銀魂』思い出してました。

佛のお円
「死んでも死にきれない」などどこかの十代目みたいなことを言うおばあさんの悩みを解消するという話です。この話の面白いところは同時進行でミステリー(事件)が起こっていて、関係ないのかな(あるいは勘助が盗人してるのかな)と思えば鍵作りという設定が生きるということですよね。そういえば変わった職をしていたな、と思ったあれがまさかつながってくるとは思いませんでしたよ。
勘助はわりとダメ人間でありましたが、それは「借金の泥沼にハマっている状態だから」と言えました。恐ろしいといえばそうかもしれませんが、たしかきっかけはちょっとした出来心でもありました。あれはダメですよ。
物語終盤、なんとお円さんが土壇場でなんとかしてくれるという展開になっています。なんですかあのそこはかとなく場所を聞き出すなんて、ちょっとお円さん有能過ぎません?
婆さんが活躍する物語って割と少ない気がするので、こうしたのもいいなと思いました。しかし前の茶菓子婆さんといい、この話年寄りが普通にアドリブ効かせてなんとかしてるんですよ。そりゃ、尊敬されますわ。

火の闇
過去編になります。三左衛門は江戸屋敷に飛ばされたのやら、実は妻子持ちだったとかやら、そんなことが書かれてあります。やはり過去編というのは胸が膨らむもので、ちょくちょく物語に登場してた人物の出会いを見るのは楽しかったです。
気になるのはやはり与十郎。物語ちょくちょく出ていた人物でありながら、苦労人っでもある彼が疲弊してゆくのは痛々しいものがありました。お金の流れに手を入れるからこそ、嫌な部分を見るはめになって……と、この厳しいものがあったと思います。
そして与十郎は切腹という幕引きとなります。三左は与十郎を守ることができず、むしろ介錯(意向もあってですが)となってしまいました。思うのはやはり彼は人間に巻き込まれただけなんだろうな、ということです。この人も時代に殺されたのでしょう。
悲しいことに、彼の死のおかげで不正は明るみとなるのですが、しばらくして(『鳥笛の了五』の時みたいに)また癒着やらでドロドロしてきているんですよね。まったく、どの世も変わらないものです。それ今m……なんでもないです。
そんなこんながあって、与十郎の妻、小紋は三左と同棲することになります。新たな同棲生活と言われれば聞こえがいいかもしれませんが、三左は妻子持ちなんですよね。どういうことかと考えてみても捨てたというように、あの後なにもかも捨てたんでしょうね。

【まとめ】
実は初の時代小説になります。時代小説については、「漢字いっぱいで大変そう」と勝手に壁を感じていたのですが、読んでみればわりとすらすらと読むことができました。(まぁ慣れてないので多少時間はかかってしまいましたが)
読んで思うのは、いつの世界も基本的な物語は変わらないのだな、ということです。たとえ舞台が江戸だろうが未来だろうが、今だろうが、人情話は身近に感じるんです。だからこそ、世界が違えど、こうして楽しむことができるのだと思いました。
読んだ人ならわかると思いますが、本は絶筆とあるように北重人先生の遺作となります。文章の美しさが相まって、読み終えると無性に儚く感じました。たぶん、続きやら後日談やら、そんなの考えていたんでしょうね。
今となっては夢の跡ですよ。

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