とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ムーの少年

65冊目
一言でいえば、魔法少女に巻き込まれる男子の話です。

主人公の僕(中島一郎)はオカルト情報雑誌ムーを愛読するほどに、摩訶不思議浮世絵離れが大好きな少年です。
ただそれは趣味というより逃避にちかく、中島を取り巻く厳しい環境(いじめ、両親が行方不明、一緒に住んでいる祖母が認知症になりかけている)がオカルトに向わせていたといってもいいかもしれません。
中島は自らにオカルトをくだらないことと分かっていても、オカルト(最終兵器というか人工妖精フォボス)こそ唯一のよりどころなのでした。
そんな中島はある日、よくあるいじめから逃れるために屋上に向います。
この日は(人工妖精)フォボスと一緒でした。中島はフォボスとともに屋上を歩き、誰もいない屋上にてフォボスに愚痴をつらつら言います。
そして自らの将来に絶望してるときのこと、中島の愚痴に答えた(というか後ろにいた)女性(魔法使い弓子さん)が登場します。
弓子は登場早々「残留思念に影響されてるわ」など中島に注意するなど、オカルト好き中島をドン引きさせるのでした。
あっけにとられている中島に畳み掛けるように弓子は「わたしは魔術師、幻想に取り込まれそう。助けて」など意味分からないことをしゃべり始め、中島を完全にドン引きさせるのです。
けれども中島はこのまま彼女をほっといたら大変なことになると思い、また屋上におちあう約束を弓子とするのでした。

-----(ネタバレあり)-----


中島一郎という少年
中学生にしてムーを愛読し、父親から譲り受けた人工妖精作ってしまうところが将来有望才能人な感じします。
けれどもそうならざるを得ない境遇があり、痛々しい行動をすべて忘れさせてくれるほどの痛々しい環境に立っているようでした。彼の将来については分かりませんが、境遇から脱出できるかどうかは彼自身にかかっているようにも思えます。がんばってほしいですね。
そんな中島君は弓子さん(魔法使いの方)と出会っていろいろな体験をします。おかげでたくましく、ちょっぴり成長したような形であるのですが……それらも最後のどくろ巻き歩行にて忘却してしまっているかもしれません。まぁ成長できるとわかっただけでもよしとしましょう。
とはいうもの、割とこの少年は性根腐ってる(失礼)と思うんですよね。腐っているというか、嫉妬で回り見えなくなったり、格下に威張ったり、夢を追って本来の目的忘れたり、と……個人的に問題ありだと思いますねぇ。下手のところで足をすくわれないように気をつけてほしいです。僕も気をつけます。

白旗弓子という魔法使い
彼女は栗原弓子という存在(栗原弓子は自殺している)としてうろうろこの世界で仕事をしていた魔法使いさんです。
本来の目的は種蒔き師のサーチアンドデストロイらしく、様子からして完遂(とはいえ本人の記憶は魔法は抹消される)したように思えます。その後が気になるところですが、中島とぎこちなく「またね」という様子からふつうの女の子になったのだと思います。
この弓子の魔法能力なんですけど、系統的にえば幻想殺しなんでしょうか。ちょっと気になりました。まぁおそらく、魔法といわれたら「火とか水とか出すあの魔法だろ」という感じのざっくりとした魔法だと思いますけど。

栗原弓子と大原先生
白旗弓子とは別人だとされいる彼女(栗原弓子)は教員と結婚したいと子供を授かり、中絶し、病んで、自殺という黄金パターンを体現した可哀想な女性でした。教員に恋心を持つのはわからんでもないですし、境遇から仕方ないといえますけど「まぁちょっとまて」と言いたいところです。
気になるのは栗原弓子の死についてです。
彼女は死にました。これは現実なんですけど、それが白旗弓子という別人間として家族としては普通に暮らしている(ある意味洗脳)とかなんとかみたいなことになっているんですよね。これは種蒔き師の幻なんでしょうか……と思いましたけど、たぶん(親は)普通に混乱しているだけなんでしょう。多分そうです。
しかし大原先生は弓子と対決したとき「知恵の草で作ったタバコ」とか言うんですけど、知恵の草って加工できるんですかね? 物語後半からは知恵の種と変わったりするのだから、まぁ、草もあるんでしょうけど……うーん?
加えて疑問は大原先生はいつ種蒔き師と接触したか(いつから知恵の草を使っていたのか)が気になるところです。物語のはじめから中島と大原先生の会話から始まっている様子から、たぶんしょっぱなから使ってたように思えますが……うーん。

種蒔き師
本書では諸悪の根源みたいな感じで種蒔き師が登場します。この種蒔き師とはとんがり帽の男であり、中島の父親でもありました。彼の目的は「夢みたいな世界にしたい(意訳)」というものらしいです。
「夢みたいな世界」って妖精さんのいるとある世界を思い出したんですけど、たぶんあれの妖精さんの力をみんな持っているようなそんな世界が「夢みたいな世界」だといえるのかもしれません。いやどうなんでしょう。
なににしてもひとつ願いを願うだけでかなう世界とは、恐ろしいものがあると思いました。そんな世界とかもう捨てちゃって、端っこに引きこもってしまいますよ僕なら。まぁ止めたのだからセーフです。
ところで、種蒔き師とは中島の父親と分かったわけですけど、中島の父親は弓子と対等に戦えてるんですよね。加えてザ・ワールド(みたいな時間をすごく引き延ばす魔法?)みたいなことを中島にぶつけたりしています。多分もう人間じゃないです。
ならば中島も人間じゃないということになり、そういう気がつきが物語り最後に繋がってくるんでしょうね。たぶん。


この話を思い返してて(僕の頭が)結構ごちゃごちゃしてきたので、ちょっと(僕が)分かる範囲で情報をまとめてみることにします。

○確かなこと
・中島の父親はムーの雑誌やら残して蒸発していた
・栗原弓子は教師との恋愛のを経て自殺した(中島と弓子がお墓参りしていた)
・弓子の仕事完遂すなわち、中島と弓子の出会いなどの記憶が消えるということ(二人に限らず広範囲で記憶消えるっぽい)
・白旗弓子は種蒔き師根絶やしの仕事を完遂した(完全に種が根絶やしできたかは不明)
・魔法使いは都合よく種蒔き師との記憶を消すことが可能である
・登場した種蒔き師は中島の父親だった
・種には願った幻を見せる力がある(本人のみかどうかは不明)
・魔法側の目的は偽りの幻想から人々を解放させること


【考察】


種の使用条件は「願って使う」でした。途中出てきた慶ちゃんの様子からして、「願って飲み込む」というのが本来の使い方とすれば、(あるいは「願って地面に埋める」もあるかもしれませんけど)対象者は本人のみと考えられます(だから元気になったんですよね)。
ところで被験者として中島も一度、種を飲んだような感じになりましたよね。(『さよなら弓子さん』のはじめあたりです)
その様子といえば中島が視線で言うと「超リアルな幻覚を見せる」というものでした。この超リアルな幻覚がかなりややこしく、作中一まとめのシーン(弓子が魔法使いを忘れた状態で中島がアタックするくだり)をすべてになっています。
もしこれが被験者の状態なら、慶ちゃんについてもよく分からないということになってしまいます。そもそも種の効果っていまいち分からないんですよね。思い返しても「広範囲の記憶を操作する」と「難病を完治させる」と「想像する幻を超リアルに見せる」の二つなんですから。
まぁそれらをまとめてみれば、種の効果は「自分の都合のいいように世界を変える」という力なのかもしれません。

どこまでが幻なのか
どこまでが幻なのか、ということは疑問として残りました。種の(花の香りですけど)効果で幻を見せる力があるとすれば、結局のところすべて夢落ちだということもありえるわけじゃないですか。すべて中島の見ていた幻だったなんてこともあるわけです(そう思うと急に出てきた父親も理解できますし)。
だから弓子さんには悪いですけど、完全完璧に解決しましたとはいえないと僕は思いますね。だって種まだ残っているような気がするんです。
これが恐ろしいところで、種蒔き師の様子から種は量産できること、あと種ひとつでこの世の理を壊すほどの力を持っているというわけなのでして、もしかすればすぐまた爆発的に幻を見ることになるなんて普通にあると思うんですよ。
まぁ、そのための螺旋モードのどくろ巻き歩行でしたし、弓子さんの力を全部使ったのですから消えたでしょう、ともいえるんですけど。

フォボスと中島が気がついたこと
フォボスこそ物語のキーとなる道具になります。「フォボス」とググってくれたら分かるように、なんかよくわからないけどすごい人工妖精だと分かります。とても強い兵器らしいですよ。
このフォボスについては、物語しょっぱなの終わり辺りで「現実を見せてくれ! それに耐える力をくれ!」と中島が願い使用して退場しています。それから物語り最後に弓子が「これ返す」と受け取る形となっています。
いろいろ(引用あげるのめんどくさいので)カットしますけど、この本を読んでなんとなく行き着いた答えと言うもの、中島の気がつきこそ、このフォボスこそ種であり、中島が(無自覚で)種蒔き師だったということなんじゃないでしょうか。
だってすべての責任を父親に向けていたり、あとは綺麗な女の子と楽しい(必死ですけど)思い出を作ってみたり、あるいは後輩ができてみたり、夢にみたツチノコ見つけてみたりと……それって中島の深層心理に繋がっているような願望だと思うんですよ。
だからすなわち、これはすべて中島の見ていた幻という感じですかね? いや分かりませんけど。

【まとめ】
難解な本とまではいかないですけど、難しい本に入ると思います。なんか意味ありげな言葉がいろいろあって、それらまとめるにはたちょっと情報が少ないかな? とか思っちゃう僕がいました。
まぁ考えてみれば、複雑な構成(途中妄想が入るなど)が相まって僕の読解力がそれらを消化できなかったというだけなんですけど。
とはいえどんなに複雑だろうが、「摩訶不思議大好き主人公が魔法使い少女の手に引っ張られて事件に巻き込まれる、そして最後その間の記憶を失う」という一言で完結します。
こう書いてみると夢落ちみたいですね。夢落ち……中島君はこれから現実を見るという意味でも、夢落ちの話と言っていいかもしれません。

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