とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

イカはしゃべるし、空も飛ぶ 面白いイカ学入門

69冊目
イカ博士による、イカの知識がほしい一般人向けの、イカした本です。

本書につきましては、本当にイカのことしか書かれていません。
なので内容の説明が難しいです。ざっと挙げるなら、イカの生態、イカの臓器の働き方についてや、イカの潜在能力、イカの生殖、イカと人のこれからについて……という感じでしょうか。ともかくイカだらけなのは確かです。
「イカ」についても、スルメイカケンサキイカなど有名なところに加えてダイオウイカ、ソデイカなど多種多様であります。そもそも僕はスルメイカケンサキイカとダイオウイカぐらいしか知らなかったので、「こんなにもイカっているんだ……」と思うことができましたね。
うーん、説明が難しいので、売り文句をここに掲載しておきますので気になった方は各自手にとってくれたらと思います。
ヤリイカは集団結婚をする
蛍烏賊はなぜ光る?
○“おしゃべり”なイカもいる
○イカには心臓が3つもある
○イカの神経は動物で最も太い

読んだらイカは高性能なのが分かると思いますよ。

※ネタバレありとありますが、今回も個人的に気になったことについて書いていこうと思います。

----(ネタバレあり)-----

イカとは
そもそもイカの語源自体が衝撃でした。

(前略)『新釈魚名考』(栄川省蔵著)によると、イカの「イ」は語声強調の接頭語で、カは「食」がなまったもので、食用にされる動物の呼称とみなすべきであるという。つまり、イカは海の幸の代表というより、食物そのもにであったというのだ。「イカ」の名は、すでに『出雲国風土記』(七三三年)に見えるという。

海の代表ならまだ分かる。けど食物そのものって、そのものってすごくないですか。それに733年にすでに名前として確立してるなんてけっこうすごいことだと思うんですよ。加えて、『延喜式』(927年)には朝廷への献上物にスルメがすでに入ってるらしいです。(知った雑学:スルメは乾燥させた「イカ」の事を指す。スルメイカはスルメの原産物として利用されるイカだからそう呼ばれ始めただけ。つまりイカならなに干しても結果「するめ」となる)
作中でもありましたが、ここまで日本人から愛されているイカという食べ物に漢字がないんですよね。「烏賊」という言葉もあるみたいですけど、これは中国の言葉らしいです。これだけ愛されているんだから、大和言葉っぽい感じのイカもあっても良いと思うんですよね。不思議です。
新釈魚名考 (1982年)
風土記 (上) 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
風土記 上 現代語訳付き<風土記 現代語訳付き> (角川ソフィア文庫)

イカの生態(眼)
イカについていろいろ生態が書かれてある本書ですが、個人的に気になったのはまず眼です。
イカの目は閉眼式(透明な膜で眼球が覆われているもの)と開眼式(膜が無いもの)に分けられるらしいです。そのどちらにせよ、イカの眼球はとても大きく、視神経は(正しくは「眼葉」という神経節)脳の容量よりも大きいとのことです。そして光を感じる神経の密度が高く、脊椎動物と変わらないほどなんです。(イカの眼は下等な無脊椎生物と比べたらありえないほど高性能)
僕が注目したのはそんな高性能なイカの眼にサングラス機能がついている。ということです。

それによると、スルメイカの眼の網膜にある細長い桿状細胞の中には黒い色素があって、強い光に会うと、その黒い色素は上の方に上がってきて、ちょうど “サングラス”をかけたような効果をもたらすのだという。(後略)

すごー!ですよ。普通に考えて強い光が苦手なら暗いところに住んで出てこなければいい話なのに、わざわざ強い光に対応する機能搭載しちゃうってすごいと思うんですよ。
なのに逆手に取られてイカ漁(集魚灯)で利用されて捕まるんですから、もう、人間の学習能力のチートっぷりを感じますね。人間がすごいんじゃなくて、イカがすごいのに、利用されるなんてイカもびっくりだよな……とか思いました。
(ちなみに集魚灯の光の強さは強すぎるのもよくなく、ちょうどいい明るさが良いらしいです)
まぁ人間側も、なぜイカは光に引き寄せられるのかは分かってないらしいです。

イカの生態(発光)
イカの生態で次に気になったイカの発光についてです。
イカの発光する理由と用度については、外敵から見えなくするため、仲間同士のシグナルのため、求愛行動のため(トウガタイカ)、足の先を光らせてルアーにするため(ユウレイイカ)、などけっこういろいろあるようです。
イカが光る手段については、もとから発光器搭載の自家発電しているタイプとバクテリアを飼うという手段があるらしいです。
個人的にはバクテリアの手段のほうが気になりました。なにも自家発電なら光を調整できるでしょうけど、もしバクテリアに光を頼っているなら好きなときに光ことができないんじゃないか? と思ったわけです。
光る仕組みとして外套腔の中にバクテリアの住ませる袋があって、近くにレンズがあるような感じです(いっそ調べてもらったほうが早いと思います)。で、僕が心配していた勝手に光るんじゃないか問題、あれ光らなくて良いときは外套腔とレンズの間に墨を入れ込むらしいんですよ。すごい。
あと、バクテリア側も種類によって好みのイカが違うらしいです。イカとバクテリアも相性があるのがおもしろいですよね。

イカの生態(体色変化)
次に気になったのはイカ(ケンサキイカヤリイカの仲間)の体色変化についてです。

これらの色素胞は皮膚の下に、表面から内に向って黄、赤、褐色の順に重なり合っていて一平面にはない。それぞれの色素胞は細い筋肉で四方八方から吊られている。その筋肉の収縮や弛緩はもちろん神経による支配で、筋肉が収縮すれば色素胞の周囲が引っ張られて拡がり、ゆるめれば色素胞の面積が小さくなる。すべての色素胞が収縮すると、イカの皮膚には色が無くなり、体が透明となる。

ケンサキイカがなぜ透明なのかまでついでに説明されてますが、今回気になったのは色を自在に操れるがゆえに行われるイカ同士のコミュニケーションについてです。
上の機能を持っているイカは、その色素胞をよく使うか使わないかはイカ自身の問題になるんです。だからいわば「自分を主張するイカ」と「自分をそんなに主張しないイカ」となって、この本のあおり文句である「おしゃべりなイカ」か「寡黙なイカ」と分けられるんですよね。
踏まえてアメリカのイカと日本のイカを比べたところ、アメリカのイカは日本と比べて「おしゃべりなイカ」の傾向らしいです。まさか日本の自閉的な傾向がイカにまで及んでいるのか、と僕は驚きました。

海の霊長類
交接後すぐ卵をうむコウイカ類やヤリイカなどは、雌が産卵している間は雄が雌を守りながら寄り添うという行動するようです。
この『海の霊長類』という章で「コブシメ」というイカが登場するんですが、この守りながら寄り添うコブシメの体色変化がすごいんですよね。(コブシメ 産卵 雄 など検索してくれた分かると思います)
みると雌と寄り添う内側(メスが見ているほう)は穏やかな色合いであって、外側(外敵が見る側)は禍々しい色合いになっているんですよ。それならまだ分かると思いますが、それが綺麗に半分に体質変化してるんですよね。綺麗にですよ、真っ二つにってのが、どうしてこう、合理的な進化ができたのかと思いました。
話はそれるんですが、イカが食事するとき(ハンティングするとき)の様子も合理的で驚きました。こう二本の長い触手をパーンと叩くように獲物を捕まえるのではなく、触手にある固着器が触手同士を固定してペンチのようにくっつけてからのつかみとるんですよ。(イメージするなら手首くっつけてつかむような感じ)そのペンチの先(イメージからだと手のひら)に吸盤(くっつくよりも引っ掛ける)があったりなどちゃんとした仕組みになっているんですよね。
さらにガラスの中にえさを入れて与えたら、イカはしばらくえさが取れないことを試してから食べれないことを学習するらしいです。海の霊長類というのは伊達ではないですよ。

個人的に気になった点
どうでもいい個人的な話ですが、イカの成長のくだりで変態するイカというものが登場します。
そこで絵として出てきたクジャクイカの赤ちゃんとミツマタヤリウオの赤ちゃん(各自ぐぐった方が早いです)がなんとも宇宙人みたいに見えて、でも既視感あって、あれ、あれこれは……『寄生獣』か! と気がつきました。「まんま寄生獣やんけ!」と思いました。それだけです。
寄生獣 コミック 全10巻完結 [マーケットプレイス コミックセット] by 岩明均

【まとめ】
正直なことを言えば、読むたびにイカを食べたくなっていました。ちょくちょく出てくる、イカ料理見るたびに「イカの刺身食べてー」「イカ料理食べてー」など深夜の飯テロ状態になりましたよ。もしこれを読む人がいましたら、読む時間帯に注意してもらいたいものです。
さて、この本を読んで思ったことはざっと上に書きました。けど、改めて「イカのことしか書いていないな」と思いましたね。
まぁイカの本だからだろといわれればそうかもしれませんけど、海洋生物の本で最初から最後までイカのことしか書かれてい本って珍しくないですかね? 
読んだら読んだでこんなにイカの話題あるんだ、と感慨深くもなる勢いでした。