とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

告白

71冊目
復讐する教師の話です。

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

S中学校のプールにて水死体が見つかります。被害者は愛美という女の子で事故として片付けられました。

終業式の日、森口悠子は教員を辞めることを生徒たちに言います。生徒達は「あのことか?」など憶測が飛び交うなか、悠子はある思いを胸に秘めて、つらつらと今までのこと、および娘だった愛美の思い出など告白し始めるのでした。

あらすじはここまでです。なにを書いてもうっかりネタバレしそうなので、この程度にとどめておくことにしました。あとは各自見てください。この本は実際にドキドキしながら読み進めてもらうのが一番だと思いますので。

※この本を読まずにネタバレありを読んでも良いですけど、実際に読んでもらうほうがおもしろい作品だと思います。(2回目)

-----(ネタバレあり)-----



森口悠子の思惑
物語、すべて悠子の手のひらの上と言ってもいいような感じでした。想定外のこと(牛乳血液混入回避)があったとはいえ、予想外の幸運(寺田良輝が担任になったこと)も利用してなんと思惑は達成したようですが。
思惑すなわち復讐ですけど、この復讐のなにがたちが悪いかって「社会に殺される」というあれを再現しようとしたことですよ。恐ろしいことに、(子供達が純粋なのもあって)普通に思惑通りに行ってるんですよね……。まぁ、そんな悠子の容赦ない徹底的なところは(キャラとして)逆に好感持てるところでもありました。
その徹底的について、ちょくちょく慈悲(優しさ)があるよう僕には見えました。「愛美の母親」でありながら、あくまで「教員」なんでしょう、葛藤がちょくちょく見えたように思えます。(でも復讐はしてるんですけど)

残された子供達
人殺し、よりもエイズ感染のほうが威力あるのがまた生々しいですよね。そんな子供達は残されたまま犯人を「制裁」をします。ただまぁそれは「弱いもの」を見つけてイジメをする(○○菌がうつる~)みたいな、加えて「あいつは人間じゃないから強く当たってもいい」みたいなやつが合わさったものだと思います。恐ろしいことにそういう「人」を見下すのは気持ちがよくて、子供達はそんな「異常」ともいえる環境に慣れていったようです。
途中に寺田良輝が担任になって、いろいろ暑苦しい関与があったり、あとは少年Aの(渡辺修哉)エイズうけとりの違い(死ぬ病気を持つことの喜び)などすぐ制裁が終わったようです。
このあたりの子供達の反応は本当にごくごく普通だと僕は思いました。あれを面白がっているのは異常ともいえますけど普通であって……一つ、相手(修哉と悠子)が特に異常な人たちだったということです。そんなん手の上で踊らされる役者に過ぎないということでしょうね。
ところで、このイジメの鍵は一斉送信のメールでした。 今、LINEというアプリがありますよね? ……あとは察してください。

少年Aと少年Bの動機
まず少年A。少年A(修哉)の動機を究極的に言えば「母親に認めてほしかった」ということのようです。それに対して本人の未熟さ(周りが馬鹿に見えるなど)が過激な行動に移させる要因となっていました。僕から見れば、彼はちょっと未熟なところを自覚するべきで、自覚して受け止めるべきでした。まぁ、物語残り数行にて悠子が行った行動を聞いてやっと「とんでもないことをしてしまった」と嫌でも自覚することになるんですけど。皮肉にも認めてもらいたい対象を壊すことで、自らの成長ができたといえるんでしょうか。
次に少年B。少年B(直樹)の動機はただ単に「仲間がほしかった」といえると思います。途中まで仲間(とはいえ利用されているだけなのですが)、修哉という仲間ができて喜びをあらわにしていました。あの修哉と直樹が計画を立ているらへん(どんな計画かと、修哉の内心に目をつぶれば)児童文学のイタズラっ子がしめしめと計画しているようなさわやかなシーンだと思います。
けれども裏切られて(本当のことを言われて)、ここで直樹は落ち込むだけにするべきでしたね。けれども、ここで本人自身の卑しさが出て来て(自己肯定感が低い、母親からのプレッシャー、自らの弱さを容認できない幼さ、などが要因も含んで)あんな行動に移ったのでしょう。
思うのは両方とも子供っぽい動機だということです。「おかあさんに見てほしかった」「友達がほしかった」とか、そういう子供の欲求はすでに中学生になるころには満たしている(そこまでには成熟している)べきで、それが理想だと僕は思います。けれども少年Aと少年Bは満たされていなかったということですよね。となれば家族が原因? でも、ないですよね。

巻き込まれた人たち(下村家)
シンプルに復讐すれば良いものの、悠子は手の込んだ復讐をしています。それのせいで、結構な人が巻き込まれる結果となりました。
その一つ下村家、主に直樹の母親です。直樹の姉(下村聖美)が見つけた日記(遺書)からは、つらいことがつらつらとかかれてあって、巻き込まれた結果「無理心中」を選んだとありました。母親として「息子が失敗作だと確信したから」みたいな理由で死を選んだようですが、僕が強いて言いたいのは、「父親は異変に気がついたなら強く言えよ」ということです。せめて息子(直樹)と性格が似ているなら、いろいろ息子と腹を割って話すべきだったと思いますよ。まぁ、冴えない父親が行動ができずに見てみぬふりをしてしまう気持ちもわかります。でもなにかしら、なにか父親はするべきだったと僕は思います。
第三章の慈愛者にて、下村家の姉(下村聖美)が登場しました。確かあそこで「弟は無罪にできる。でもその前に、思っていることを聞いてみよう」と考えます。その弟(直樹)は記憶障害みたいな(病名が分からない)感じになっていて意思疎通ができない様子も想像できますが、この姉の行動が下村家のすべてがかかっていると思えました。もう一人の姉(下村真理子)もいろいろショックで流産しかかってますし、父親はうつ病(なるかもしれない)だし、もうめちゃくちゃです。下村家の今後はどうなることやら。

巻き込まれた人たち(協力者)
直樹を学校に行かせるため、ウェルテル(寺田良輝)という男性が奔走します。奔走といえば聞こえが良いものの、ただ彼は自己顕示欲っていうのでしょうか、有能なものを見せたい……意識高い系みたいな、無能な働き者でした。おかげで直樹を追いつめたといえて、「お前やらかしたな」といえるほどの、うーん、無能な働きぶりを晒してました。なんでしょうかね、このほとばしる無能な働き者感。やんちゃ先生本人はあんな聖人みたいな人だったというのに、弟子の君はなんだよって感じです。まぁ、これもある種の「幼さ」があるからと言えるかもしれません。
もう一人の協力者として北原美月が登場します。彼女は賢いといえますが、ある種の不満(直樹を貶められていること、クラスの不穏さの不満、あと良輝の不満)と、ちょっとした「気取り」というのでしょうか、そんな雰囲気を感じました。まぁこの気取りとは、いかにも中学生らしい反発といえるでしょう。あと唯一、彼女はこの作中で厨二病を患っていたと僕は思います。殺人犯ルナシーに憧れを持ち、薬品を集めているような人でした。まぁでも、美月も家庭環境が良くは無かったようですし、友達もいないとかなんとか、少年Aと少年Bの合わせたような境遇にいるんですよ。そんな彼女の不幸といえば、「気取って」いた異常者なのに「本気の」異常者に失言してしまったことです。

よって森口悠子の復讐は完遂する
ラストのこと、爆弾を作った修哉が「さらば!」と全校生徒と集団殺害をしようとして、あえなく失敗して、電話がかかります。相手は悠子でして、その電話にて衝撃の言葉を修哉に投げかけました。なんと爆弾はK大学理工学科棟第三研究室に置いてきたということですよ。
僕個人としては、たしか唯一時間が出された(修哉曰くK大学まで4時間かかるとか)部分だったので、(前日サイトを公開して悠子が見てから)はたしてその時間までにK大学に爆弾を持っていけたのか? とか思いました。ネットサーフィンしていると同じこと考えている人もいるそうで、「(ざっと言えば)朝爆弾を解除したのは本当で、大学に持っていくのは時間的に不可能。そもそもデリケートな爆弾を持ってゆくのは危険すぎる」という結論のようでした。あの最後の「脅し」は狂言として、教師悠子は修哉に道を教えたとのことです。(意訳)
URL:湊かなえ「告白」の考察〜2つの救いある真実〜
でも僕は、やっぱり悠子は大学に爆弾を持って行ったのではないかと思っています。ただその「爆弾」がどの爆弾なのか(修哉のものなのか)というのは分からないんじゃないかとも思っています。つまり持っていくのは難しいとしても、悠子が作り直してみた(発明品)があの場に置かれたのだと、そんな仮説を考えたりしました。まぁ、これはと飛躍した考えだと思いますけど。
まぁどちらにせよ(だれの爆弾だろうが)爆発はあの場であったと僕は思います。そして爆発は警察がすぐ来るほど大きなもの(悠子の雰囲気からして)だと考えてます。
問題の被害は分かりません。修哉の母が巻き込まれたかどうかも分かりません。(大やけどしてもかろうじて一命を取り留めたとも考えられますよね)わかるのはどちらにせよ、修哉は母親と二度と会えないほどに切り離されてしまったということです。

なにが悪いのか
終始、人に汚い感情や、思惑やら、落としめる様子が生々しく書かれてありました。僕個人なにが悪いのかと考えてみたところ、それは「殺人」という決定的な悪いことを直視しない「いわば現実を見ない」という状態にそれぞれ気がつけなかったことが一番悪いことなんじゃないかなと思いました。(なんかいいこと言ったぞ今)
そもそも要因をいちいち挙げていても、たくさんありすぎてなにがなんだか分からなくなるんですよね。言っちゃえば、愛美が母親にプールに行っていることを言わなかったこと、悠子も愛美の異変に気がつかなかったこと、が発端だといえます。それに、修哉だって直樹と途中で切り捨てればよかったし、直樹だって自分のことをもっと回りを見るべきでした。良輝だってよけいな大声出さなければよかったですし、修哉の母親も直樹の母親も……そういう言いようのない要因が重なってそういう結果になったのだと思います。悪いのはそういうざっくりしたものの中にあると僕は思いますね。
でもやっぱりこの作品で一番の被害者は愛美だと僕は思います。

【まとめ】
久々にすごい作品を読みました。ただ復讐すればいいのに、えげつねぇ方法とっていて「えげつねぇな」と終始思っていました。
前に書いたように悠子の復讐する姿勢は(物語のキャラクターとして)好感が持てるのは変わりなく、それでも徹底的な復讐は震えちゃいます。修哉などは「子供らしい詰めの甘さ」が未熟な感じのミスとなっていたわけですから、それが痛々しくもあっても、それが「人間味」あったといえるんですよね……。けれども悠子は徹底的ですし、もう爆弾だって大学で爆発させる言ったら(うそじゃない限り)完璧にこなしたんだろうなとか、謎の確信みたいなものありますよ……。
ところで、これを作品としてみれば、「よくできてるなぁ……」と感心する思いです。まず第一章の『聖職者』で賞をとったらしいですけど、続いて『殉職者』『慈愛者』とあって、あとの『求道者』『信奉者』『伝道者』と続いて書き下ろし、しかも全部話が繋がっているなんてすげぇ、「悠子の復讐は完遂する」なんてもうすげぇ、ですよ。