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とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

変身

カフカ・フランク ホラー小説

73冊目
かの有名な「目が覚めたら毒虫になってた!」って小説です。

変身

変身

グレゴール・ザムザは目を覚ますと、自らが毒虫になっていることに気がつきました。
グレゴールは現状に驚きながらもまず仕事のことを思います。なにせ、グレゴールが勤めている旅回りのセールスマンとは(悪い意味で)厳しく、さらに店主は(悪い意味で)時間厳守な人なのです。その酷さはグレゴール自身も家族のため(グレゴールは家族を養っている)ではなかったらすぐに辞めてやる、とぼやくほどでした。
とはいえ、グレゴールの汽車は早朝5時に出発します。けれども時計を見てみれば、もう6時半を過ぎて45分と針は動いていました。グレゴールは焦りを覚えながら、「次の列車は7時に出る」と予定を立てながら、朝準備してない状況で間に合うはずも無い絶望感に陥りながら、もし遅刻したら勤務先はほぼ確実に家族に(悪い意味で)迷惑かけるというのを安易に想像しながら、言い訳を考えたりしていました。
グレゴールはベッドの上でぐるぐる考え、やがて今の状態(わりと調子良いかも)に気がつき、意を決してベッドから降りようとします。すでに6時40分を過ぎようとしていました。
ちょうどそのとき、ドアをノックする音がグレゴールの耳に届きます。相手は母親でした。「6時45分だけど、出なくていいの?」そんな声に答えてみれば、グレゴールは自分の声の変化に驚いたりします。幸い母親には気がつかれませんでしたが、後に続く父親、妹の返事(発音)にはことさら気を使うのでした。
さて、とグレゴールは考えます。何にせよまずはこの大きな図体のままベッドから降りなければならなず、これをしなければドアの鍵すら開けれません。開けれないと仕事に行けませんし、出てこないなら家族の心配をさらに大きくするかもしれないのですから。

----(ネタバレあり)-----


社畜ここに極まれり
グレゴールは相当な社畜、俗に言うブラック企業(といっても収入良さげのようです)に勤めているようでした。
もうね、別に毒虫にならなくてもグレゴールはそのうち壊れてしまうんじゃないかというレベルでしたし、グレゴール自身もそういうブラックに染まりやすい考えの持ち主だということが冒頭あたりで分かりましたよね。
主人公主観で物語が進むものですから、「やっべぇ、このままだと上司に怒られる!」とかいってなんとなくスルーしてますけど、まず毒虫になっている(異常が起こった)ことに心配をしたほうがいいですよ。逆に言えば、そこまで会社に尽くしているからこそ「毒虫」になる前兆を(あるのかどうか不明)見抜けなかったのかもしれません。
どちらにせよ、時間厳守というのも大切ですけど誰かが「休む」と言えるだけのゆとりがほしいものです。そういうゆとりが「毒虫」の前兆を見抜くだけの余裕になるでしょうから。(引きこもりの僕がなに言ってんだって話ですけど)
星降る夜は社畜を殴れ (角川スニーカー文庫)

毒虫になった男
物語しょっぱなのこと、グレゴールはベッドから降りようと必死になっていました。なぜかそこがコメディっぽく書かれているので、危機迫る状況だというのになんだか面白く読んでしまいました。(いや、笑い事じゃないんでけど)その様子からグレゴールはなににでも真剣な男だったんだろな、生真面目な男だったんだろうなというのを伺わせて、今後の展開をなおいっそう痛々しくさせています。
真面目で優しい人だから、自分の居場所を失っていることに気がついたり、できるだけ家族に迷惑かからないよう隠れたりにしたり、妹のために居間に突っ込んだりしてましたよね……。今思い返しても痛々しいです……。
ただ運が悪かった(?)といえるのに、希望は果たせず(妹を音楽学校に行かせる)死んでしまうなんて悲しいものです。けれども、周りから(家族)迫害されなかっただけマシだといえるかもしれません。
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ザムザ家
グレゴールが働いていたころは、父親はだらけて、母親は弱ってて、妹は何1つ苦労をしていないとか言ってました。その妹についてはグレゴールが言っていたように「(世間知らずだからこそ)音楽学校に行きたい」と無茶言い出して、けれどもそれがグレゴールにとって生きがいになっていたようです。
これ一見幸せな家族のようにみえますが、物語り全部を読んでみれば「グレゴールに依存していたのではないか?」ということも考えられます。だからといって悲しいのはグレゴールそのものが障害になってしまい、依存から開放(乗り切ったあと)した家族、成長した家族とグレゴールが共に居られなかったことでしょう。やはりどうにも、報われてない気がします。悲しい。
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ザムザ家が崩壊しそうな痛々しさ
毒虫になったグレゴールに妹がご飯をあたえ出したころから、父親がりんごをグレゴールに投げつけるところあたりまでが特に痛々しかったです。さらに追い討ちをかけるように、いろんな問題が訪れてなんとか資金繰りをしても、毒虫の存在が大きすぎて絶望しているようでした。
あの痛々しさってなんでしょうね。各自グレゴールに対して思うことはバラバラでありながらも、あれはグレゴールだとほんの少し思っているところ、加えてグレゴール自身も「自我」を持っていることがわかっているでしょうか。たぶん、グレゴールとザムザ家みんな想いあっているからこそ痛いんでしょうね。互いにコミュニケーションさえとれれば、会話さえできれば、こんなことに……いや、もっと痛々しくなるかもしれません。

ハッピーエンド
物語はグレゴールが死んで、「あれ? 意外とやり直せるじゃん」と家族が気がついて、妹が大人びた「希望」を見せてくれて終わっています。この最後あたりであの毒虫はグレゴールだった。とやっと家族は気がつくようですが、むしろ「死んでよかった」など思うわけではなく、「やっと開放された」と思うわけではなく、「あれはグレゴールだった」とただただ共有し合っているように思えました。
これ複雑ながら大事な気持ちなんだと僕は思います。グレゴールは不幸でしたけど、誰もがグレゴールをせめて(忙しいがゆえ雑に扱ったこともあるようですが)「家族として」最後まで居たということですから。
まぁ死んじゃったしよくないんですけど、これがもし「うわぁ、虫だ」と殺虫剤で殺したり、気持ち悪いからと閉じ込めて放置したりしたなら話変わってきます。
だから餓死しても「自らで選んだ」、仮に周りからそう選ばされても「家族はグレゴールを最後まで家族だと思ってくれていた(それがまた痛々しいんですが)」というのが大事だと思うんですけどねぇ。どうなんでしょうか。
なににせよ、グレゴールは最後なにを思ったのでしょう。親愛なる妹に絶望され、あげく結局ごみ置き場みたいな部屋に閉じ込められて、希望を絶たれて、一番苦しいとされる餓死を選んで……やはり、グレゴールから見れば、救いようのない話です。

メタファー的な意味で
これはグレゴールが毒虫になる話で、不幸な男グレゴール(毒虫)の気持ち悪さが物語の中核となっています。この「毒虫」について、これは私たちにも十分関係ある話だと思います。
そもそも「毒虫」は「鬱」のメタファーなんて十分考えられると思います。(実際どうだかは知りませんよ)
なにせ鬱になって引きこもりとかしてみると、とたん家族から疎まれたり、さらに「うちの子はあんなんじゃないんです!」みたいなことを母親から言われたり、家族の優しさが逆に怖くなったり、急に傷つきやすくなったり、そこからなに言ってるのか分からないこと言い出したり、そういうのが「毒虫」に限らず家族関係的にあんな感じになると思うんですよ。
だからたぶん、あの「毒虫」を持つ家族は日本にある思うんです。まぁ、そんなことを考えて、それだけです。
ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫)
大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち (講談社現代新書)

【まとめ】
毒虫になった男の半生が書かれています。はじめは面白いコメディーみたいなノリかと思えば、終わりは「なにか救いないのかよ!」と思ってしまうほかない展開になっています。けれども考えうる範囲ではこれがむしろ、ハッピーエンドだと思ってしまうのが不思議なところです。(これも一種のメリーバットエンドかな?)
救われない男の話はたまに見かけるのですが、これは気弱で優しいグレゴールだからこそ、こういう死を選んでしまうそれが、なんとも……ねぇ、救いがないのは分かっているんですけどねぇ。これがベストなんですけど割り切れない気持ちが残る、そんな本でした。

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