とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

決壊石奇譚 百年の記憶

79冊目
大地くんによると、石には感情が刻み込まれるらしいです。

決壊石奇譚 百年の記憶

決壊石奇譚 百年の記憶

大地という不思議な青年が居ました。彼は常に妙な雰囲気を出している青年であり、迷信が信じられている地方だからこそ「天狗だ」など影でささやかれていました。
主人公の徹は成績優秀で完璧主義で人望もあるといわれる芦原のミスを見抜き「生徒会に入らないか?」とスカウトされている頃のこと、近寄りがたい大地に多少苦手意識を持っていました。これは芦原も同じのようです。
それからしばらく、徹は生徒総会のために朝早く学校に到着し鶏小屋の過度を曲がろうとしているときのこと、ふと何かつまずきます。みると大地でした。
驚きながらも「大丈夫か」と心配する徹に、「紫水晶だ」など意味わから無いことを大地は言います。意味が分からない徹に大地は「……なんでこんなところに徹が居るんだ?」とまで言うのです。
徹は「なにって」と動揺しつつも大地こそなぜここにと聞こうとしていると、その大地があまりに子供っぽい雰囲気をだしているので徹はおかしくなって、「石がすきなのか?」とどうでもいい疑問を口にします。
大地は「石ではなく鉱物」と訂正して答えました「永遠だから、いい」
このとき大地が持っていた紫水晶を徹は見ます。その美しさに言葉を失い、そして同時に一陣の風が吹き抜けました。
こうして不思議な青年大地にある意味魅了された徹は生徒会の招待を蹴って、大地の居る地学部室に向うことに決めたのです。

----(ネタバレあり)-----

石の声が聞こえてくる
この物語の鍵となる「石から聞こえる」という特殊能力についてですが、現実にあるかどうかを置いておいて、どういう風に聞こえるんでしょうかね?
個人的に「聞こえる」と言うものだから「声が聞こえる」と言う風な「語りかけてくる」というイメージを持っていましたが、物語終盤あたりの様子からして聞こえるより「追体験する」みたいな、そんな感じのイメージに変わりました。
この追体験するというの、石の記憶はつらいものが残りやすいなんていうものだから、石集めしている人はこの能力に目覚めたらなかなかにつらいものがあるかもしれません。
おもしろいのはそういう能力は奇異だといえるのに、なんだかんだ物語に登場する人物の半分ほど石と対話する能力を持っているということですよ。スタンド使いスタンド使いを引きつけるように、石の声が聞こえる人はそういう人を引きつけるのでしょうか。

百年の記憶を残した琥珀
伝さんから貰ったといわれる琥珀には伝さんの記憶すべて(およそ100年分)が琥珀に組み込まれているらしいです。
大地の言うとおり「鉱石に記憶が入り込まれている」という証明がこの琥珀といえますけど、ここで冷静に考えて「100年のデータを永遠に、一つの石に記録している」ってすごくないですか。HDDとかでもテープでもない石ころに100年のデータですよ。
そりゃ、大多数が伝さんの謎技術だといえます。しかし、でもそんなのすごすぎますよ。唯一のデメリットといえばデータが整理されていないといえます。それでも、妖怪やら天狗やらといわれても仕方ない技術だと思いました。

翡翠に刻み込まれた出来事
航が手に入れた翡翠はいわくつきの(決壊した)翡翠でしたね。僕から見れば「もう壊せば良いじゃん」など無粋なこと思ったりしましたけど、石が好きな航だからこそ離さず持ってしまい、そのまま翡翠に取り込まれてしまったようです。
この翡翠が決壊するに至る事件のことですが、たしか昇が火事の出火をやらかして、それを伝が気がついて良治のために自ら罪を被ることにした。それをなんとかしようと良治が奔走して、だめで、いろいろ良治が抱え込んでしまって決壊みたいな感じでした。
僕からすれば「いくらでも本当のことを言える場面があったのではないか?」と言う疑問です。みんな優しく、それが連鎖となり悲しい結末になったわけですけれども、途中に本心を言うべきシーンはけっこうあった気がします。どうにも無粋なことを考えてますけど、本当に言うべき肝心なこと(常にずけずけ言ってたら問題ですが)を、肝心なときに言わないなんて、これある意味問題だと僕は思いますよ?
そんな賢一みたいな「いえよ! そこは言うべきところだろ!」という思いをもつ僕でした。

航と賢一と伝
物語終盤になる頃、航と伝が出会っていたのではないか? という疑問の答えが書かれてありました。
たしか翡翠に取り込まれてしまった航が伝の圧倒的オーラに怖気づいて(ある意味では良治の感情が乗り移ってしまったことが影響)、逃げてから誰にも気がつかれないよう塞ぎこんでしまいました。
ここで気になるのは賢一があのあと航をどうしたのか、ということです。賢一は航大好き人間だったわけですから、航による「かかわらないでくれ」という拒絶にどこまでおせっかいしたのかと言うところが個人的に気になりました。そりゃやがて「もういいよ」とあきらめるわけですけど、そこにもまた一つ物語がありそうな、そんな気がしたんですよ。

徹と大地のそのあと
航の話になり、はたまた良治と伝の話になってと忘れかけていますけど、これは徹と大地の話ですよね。
この二人は互いに尊敬しあいながら、尊敬の気持ちが大きいせいか徹は紫水晶を決壊させるという展開になっています。物語は徹が決壊した紫水晶に取り込まれて(ずっと寝ている状態)いるようで、航は大地に対して「やっぱおまえのせいだ」と殴りかかったり、それを賢一が止めたりしていました。
気になるのはやはりその後の展開(徹が目を覚ますのか、覚ましたらどんな感じになるのか)ということですよ。もし目を覚ましたら、百年を経た今までの出来事をすべて解決できる勢いで話が進みそう、だというのにそこで終っているのだから言いようの無いもどかしかを覚えてしまいます。だって、普通に目覚めないことだってありえるわけじゃないですか。あの手の握り返しだって、べつに気のせいだってこともありえますし。
せめて「ゆっくり目を開けた」ぐらい、それぐらいほしかったです。それぐらい大地の思い(形見の琥珀までかけたのだから)があるのだから目覚めてほしいものですよ。

これは男性だけの友情物語
この本を読み始めて違和感を感じ、半分ぐらい読んで違和感の理由に気がつきました。この本、女性が一人も出ないんですよ。
気がついてしまえば甘酸っぱい仲間思いの告白にも、「あっ、ふーん(察し)」みたいなものが含んでる気がして、まるでやっぱなんとかじゃないか! みたいな思いで僕は読んでいました。いや悪いってわけじゃないです。仲間思いの男性がたくさん出てきただけですし。
けどごく普通に「彼が見ている世界が好き。だから守りたい(どうにかしたい)。なんとしてでも」みたいな考え方は出てくるので、妙なところがかゆくなるようなそんな気持ちでありましたよ(正直)。
しかしまぁ仲良くなった男性同士、そんな自己犠牲まで及ぶほど互いに思いやれるのでしょうか? と、考えながらこれ書いてましたが、ちょうどその頃『アメトーーク!』にて「いつも一緒に居る芸人」というのししてたんですよね。それ見るなり「普通にあるな」とか納得したりしましたよ。ただただ僕がそう思える友達に出会ったことがないからかもしれません。
でもまぁ、一人ぐらい女性出てほしかったです(正直)。

【まとめ】
はたして徹の目は覚めるのか!? というところで終ってます。上に書いてた通り目が覚めてほしいですが、決壊の力は百年の感情だって鮮明に記憶しているのだから、徹の目だって半永久的に覚まさないなんてこともありえます。植物状態ではないからこそ、(植物状態かもしれない)栄養が行き渡らないあの様子で5日寝たままとしたら、栄養不足が心配でなりません。
そんな思いを持って、大地は真理「伝が待っていたのは本当、だから長生きできたんだ」という伝の記憶をもって、琥珀もすべてかけて徹の回復にあたり……いや、だってすべての思いが分かったわけですから、徹くん目覚めてほしいですよ。なんであそこで終っちゃったんですかね、それだけがこの物語の気がかりですよ……。