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とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

フォア・フォーズの素数

93冊目
ジャンル多種多様の短編集

竹本健治さんによる短編集です。
短編集とだけあってあらすじを書くのも難しいので、それぞれ一言ずつ紹介していきます。

『ボクが死んだ宇宙』:夏から逃げて宇宙船に乗った男子と女子の話
『熱病のような消失』:パレードの人混みを渡クンと駆け抜ける話
『パセリ・セージ・ローズマリーそしてタイム』:熱い夏の日に小父から聞かされたことを子供がなんとなく察する話
『震えて眠れ』:隙間恐怖症の男性の話
『空白のかたち』:寝てしまうと記憶が消えてしまう男性が自分で書いたノートを読む話
『非時の香の木の実』:タイムリセットを見つけた青年の話(※注意 エログロあります)
『蝶の弔い』:蝶の標本する様子を興味深そうに見ている少年に標本のやり方を教える話
『病室にて』:病室にて考える男の話
『白の果ての扉』:辛いカレーを作ることに情熱を燃やす男の話
『フォア・フォーズの素数』:4を巡る数字遊びに没頭する男の子の話
『チェス殺人事件』:チェスのプロが殺された事件に挑む天才囲碁棋士青年の話
メニエル氏病』:宇宙船に取り残された男女、そのうち男がなんとか帰る方法を見つけようとする話
『銀の砂時計が止まるまで』:ひとりぼっちの星にいる男子トキのもとに不時着したネコという女性がやってくる話

そんな感じですかね。基本、不思議で難解な小説ばかり(個人的主観)なので、一度開いて読んでみるといいかもしれません。


----(ネタバレあり)-----


今回は短編たくさんあるので、気になった話を上げていこうと思います。


熱病のような消失
風景描写が好みでした。僕自身、パレードのようなきらびやかな光景を眺めているのが好みなので、これはいいですよ。
たしかこの作品自体は、渡クンがこっちにおいでよ→からの消失、主人公「どうしよ…」みたいな感じでした。あのあとの展開がわからないまま物語は終わっており、余韻どころかブッツリ切れてしまったようなそんな行き場のない読後感がありましたね。
あの不安な感じはあとがきや解説にあったように、「ふと夜市とかで迷子になったとき」みたいな(たとえです)不安げな感じを表しているらしい、と書かれてあって「なるほど」とか今更ながら思いました。
実際、楽しげなお祭りでもふと不安になる瞬間があり、そういう不安な感じとしてなら納得ができます。
まぁ、でも僕はこの話は風景描写がいいと思いました。

空白のかたち
寝ると記憶が飛んでしまう病気を持つ主人公の話です。この「意識を失うと記憶が飛んでしまう」という病気は別作品で見たことがあるので「これはどういう話になるのだろう」とか思ったんですけど、普通にノート広げてから、いろいろ考えて、最後はなにも確かめぬまま終わってしまいました。
個人的に気になったのは、過去の自分が未来の自分に向かってノートを書くのはわかりますが、あのノートの文章はちょっと悠長ではないか? ということですかね。
まぁでも、過去の自分その時の何を思っているかというのは込めるべき(そうしない情報だけ出されても未来の自分は困る)かもしれません。しかしけれども、後ろの方に(あるいは始めの方に)情報のまとめみたいな、そういう情報を入れたほうが得策ではないのかなぁ……とか無粋なことを思いました。
ただもっと気になるのは、「いずれかの過去の自分がした行動」ですかね。どうやって、桜の木の下になにか埋まっているかわかったのか、「ひどい、なんてことだ!」といつのの自分が記したのか、どうやって教授が自殺したことを知ったのか……など、そういう動いたけど忘れてしまった流れというものが見てみたかったです。
しかしこの物語がノートに書いてある以上、そんな描写は難しそうですが。

非時の香の木の実
正直、この短編集の中で一位二位を争うおもしろさがあったと思います。
一言で言うと、タイムマシン(タイムリセットですが)を見つけた主人公が好意を持っている女性を落とそうとする話……それだけなんですけれども、なんでしょうね。実際に道具を使っているからでしょうか、あるいは僕個人がループもの好きだからでしょうか、なににせよその官能的な展開からの残虐さ、さらには「戻れない」というオチの滑稽さ、よかったと思います。
あんまり書くとアドセンスBANになりそうなのでここまでにしておきます。

白の果ての扉
大学生のくだらないノリみたいな感じでおもしろかったです。くだらないといっても、周りを苛めるような悪いくだらなさではなく、「辛さを突き詰める」というどちらかと言うと愛すべきバカみたいなノリでしたよね。
この物語によると、辛さを極めると食べた時に花火みたいなものがほとばしるらしいです。僕は辛いのが苦手なので、そういう光(衝撃的過ぎる辛さ)すら体験したこと皆無なんですよ。(じゃやってみろだって? けっこうです)。
仮に光が見えたとして、その後辛さを増してゆくと色が変わって見えるのでしょうか。そういうことを芸人なんかに聞いてみてもおもしろいかもしれませんね。そして光の色が変わるほど辛いカレーを作った彼については、辛いのに美味しいカレーを作っているところに彼の才能を感じます。無茶しやがって……ですよ。

フォア・フォーズの素数
4を4つ使い、いろんな数字を出してみようとする少年の話でした。
これは終始数字の話をしており(多少数学ガールみたいだなとか思ったんですけど)、なんと物語など後付に過ぎないほどに終始数字の話をしていました。
特筆すべきはその数式が約束通り~100まで端折ることなく書かれてあるところです。先人が計算したのかと思えば(してたかもしれませんが)、あとがきにて「このパズルを作ることに熱中していた」という様子から、作者が全て答えを出したらしく「暇人だな!(褒め言葉)」と驚いたものです。賢い人のお遊びみたいですね。(その作者さん、囲碁むっちゃ強いらしいです)。
けれどもしかし、数字を見て、いろいろな数字を求める男の子の様子は(作者さんも同じでしょうか)、とても楽しげに見えました。いきいきと数式を計算する姿は美しい。

メニエル氏病
これも個人的好みな作品でした。上に「一位二位を争う」と書いたように、非時と同着ぐらいによかったです。
僕は星新一さんの本を読んでまして、なのでエヌ氏みたいなそいう、カタカナ+氏とあればなんとなくSFを想像するんですよね。今回のこれは病気を指していたようですが、宇宙船に乗った弊害みたいな病気だということで、「お、SFかな?」と読み始めたとき思ったわけですよ。
実際にSFだったわけですが、実はSFではなくミステリーがこの物語の本質だと知るなり、見事に「あ、これ違うやつだ」と思いました。
どうやら伏線もいろいろあったわけで(全然気が付かなかった)、それでいてきちんと推理してトリック(といえるのだろうかぐらいの大きなトリック)を推理するのは眺めていてミステリーとはまた違った壮大さ(SF要素があるがゆえの)があって、読み終わってみると「よかったな…」とか思いました。
まさに意表をつく物語でしたね。

銀の砂時計が止まるまで
おじいさんが死んで、ひとりぼっちで過ごしてる少年のもとに「ネコ」という女性があらわれる話でした。
思い返してみると、こちららのほうが星新一要素(オチがそんな感じがした)があるように思いましたね。だからといってなんとも言えない(バッドエンドだろうか?)終わり方していましたけど、それはそれでしょうがないような、切ないような、そんな感じの読後感です。
思うのが、終わってみれば毒ガスが漂っているその場所にてネコは大丈夫なのか、というところです。いわゆる致死量まで届いていないならまだわかりますが、それでも結構な時間いましたから……大事になっていないことを願いますよ。
一方残されたトキはというと、あのあとどうやって過ごしたのか気になるところです。あの夜(ネコと一緒に寝たこと)を思い出しながら、砂をさらさらと眺めているだけなんでしょうか。まぁ、そうなると思いますが、その究極の孤独がオチの孤独感を際立出せているように思います。

【まとめ】
読み終わってみると「これが竹本ワールドか…」と思えるわけですが、読んでる途中は「え、ここで終わり?」なんてことがよくありました。
例えばそういうサスペンス、SFとかなら「この先どうなるのだろう」と想像ができるからまだしも、『チェス殺人事件』みたいなミステリーでは「実は僕も犯人はわからないんだ…(意訳)」とかいうのは「え?」みたいに思っちゃうのも無理ないと思います。流石にミステリで投げやりはやめて欲しいですよ……。
それ言ったら『メニエル氏病』だって動機わからないじゃないか。と言われれそうですけど、僕としては動機がどうでも良くなるぐらいにトリックぶっ飛んでたし、ちゃんと犯人わかったからセーフです!

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