とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

図書館ドラゴンは火を吹かない

94冊目
それは温かくも切ない物語

この物語は様々な方面から語られる物語です。
骨の魔法使いに拾われた少年の話、孤独だったドラゴンの話、天才的な才能を持つ踊り子の話……など、いろんな方面で物語が進み、それぞれが交わるのかと思えば、(交わるのですが)物語が一つ終わった前や後だったりもします。
よって結果がわかったうえで展開を眺めることになったり、気がついたら過去編を眺めることになったり、と忙しい作品でもありましたね。
それでも基本的な展開(ユカという少年の旅)は変わらず、それらを眺めながら話は展開していきます。

いろいろ書きたいですが、あらすじを書くことができないような、難しい本でした。
ただ愛された物語だなぁとは思いました。

この本は「小説家になろう」発なので、なろうを読むなり公式サイト読むなりしたほうが早いと思います。

小説家になろう:図書館ドラゴンは火を吹かない
公式サイト:図書館ドラゴンは火を吹かない



----(ネタバレあり)-----



ユカ
物語の中心人物です。彼は途中魔法使いとして覚醒し、さらには司書王などと呼ばれてゆく人生を歩いたようです。
本書ではそんなユカの拾われてから育てられた話、ドラゴン(リエッキ)との出会いの話、それから夢を持って旅をしている話、辺りを中心に書かれていました。
とはいうもの、この話は旅途中や後日談があれど、ユカそのものの人生を書いているわけではないんですよ。だからその穴埋めを僕らがしないといけないわけで……まぁ、そんな断片的なエピソードであろうが「ユカ」という人柄は十分に伝わりましたよね。
僕からすればユカはすごい才能を持っていると思うんですよ。ちょくちょく気弱で凡人な主人公とか表現されてますけど、仮に魔法使いという要素を除いたとしても、コミュニケーション能力カンストしてますし、純粋に物事を信じる力があるみたいですし。そう考えると、ある意味最強な主人公だと思えます。
まぁそれを寛容する周りの環境を持っているから、とも言えるのですが(幸運体質もまた強さだと思います)。

リエッキ
ヒロインにしてドラゴン、プロローグ唯一の生存者であり、過去の呪縛に囚われていた人(ドラゴン)でありました。
彼女の境遇などそういうものは一旦置いておいて、まず言いたいのは、「魅力的な人物だな」ということです。読んだ人にはわかると思います。長年生きていたとは思えないほどに子供っぽい(魅力的)素直じゃない(魅力的)すぐ顔に出る(魅力的)みたいな……いちいち魅力的な人物でしたよね。
見ているぶんではかわいらしい人物(ドラゴン)ですが、本人にとってはエネルギー使いそうですよね。読んでて思いましたよ。彼女はユカの最後まで共に過ごしていたらしく、ユカもユカで最後まで全く変わらないような人だと思いますし……つまり、最後までリエッキはユカに振り回されていそうだなとか思ったわけです。
仮に振り回されるのが彼の死までならまだよかったものの、律儀なことにリエッキは彼の死後までも約束を守っているんですよね。健気です。しかし気は重そうでした。
物語中盤辺りになって牛頭が連れてきた子供見て、「いままで」ではなく「これから」に目を向けれるようになり、彼女の物語が終わります。「よかった……」と思う一方で「続きはよ!」という思いもありました(正直)。

踊り子あたりの話
中盤で出てきた踊り子こそ、主人公が外で出会った初魔法使いです。彼女はユカに魔法を教えるという師匠的な立ち位置であって、ユカとリエッキの頼れるお姉さん的存在だったらしいです。そしておもしろいことに、その踊り子も別の人(色の魔法使い)から魔法の存在を教えてもらってるんですよね。
そんな出会いの物語が最後あたりにあるわけですが、ユカとリエッキはそこら辺全く出てこなく(過去編だし別の場所だし仕方ないことですが)、改めて踊り子の重要な立ち位置を知るなり「実はこの物語の主人公は踊り子なのではないか?」と思う僕がいました。
そういえばユカとリエッキに別れを告げるとき、ユカはどこかで聞いた言葉を発するんですよね。踊り子だって出会った時にどこかで聞いた言葉をユカに投げかけるわけですから、ある種ここは対象的なシーンになっているようです。いろいろ巡り巡っている気がしますよ。

呪使い側の話
けっこういろいろな呪使いが出てきました。物語にしてみれば唯一の「悪役」といえる彼らについてはまぁ、宗教が強い世界ので正統派みたいなイメージでした。
正統派だと言うだけならまだそれなりに頑張っているんだろうな、とか思えるのですが、実情は魔法使いにただ嫉妬した集団であって(偏見)、それは内部の人間が呆れるほどに慢心してる軍団でもありました。
物語でも決定的な部分で足を引っ張っているのが彼らでありましたが、思えばユカの前に出てきた呪使いは後にも先にもあの「左利き」ぐらいだった気がします。左利きの経緯が書かれてある以上、左利きだってユカをよく見ていないわけで、ここから左利き(呪使い)とユカ(魔法使い)の因縁が始まるってわけですよね。いいところですよね、物語終わっちゃいますけど。
結果的に言えばユカは図書館作っちゃうぐらいなのだから、ユカの勝利だと予想はできます。できますけど、僕としては、天才呪使いと幸運魔法使いのバトル見たかったです。

ユカが拾われる前の話
物語途中、骨の魔法使いの半生が書かれてありました。彼女の半生は、狂気的な父親のもとで生まれます。
そういえば彼女も呪使いの一員でした。狂気的な父親と呪使いという見事なマッチングをしてもなお、彼女はまともでした。そもそも狂気的な父親の余波が届かなくてよかったですよ。仮にうっかりその狂気的な実験に巻き込まれたと考えたら、もう普通に終わってしまいそうでしたから。それだけが不幸中の幸いといえます。
とはいえ父親の手は母猫に届きそうになったわけで、それを彼女は決死で逃げ切ります。やがてクジラの寝床をもらい、クジラと共に生活してしばらく、クジラが亡くなります(ここでも呪使いですよ)。よって魔法を得るわけですけれども、おそらく作中一番強力な魔法だったと思います。森という巨大さ、その上になんかギミック付き。これは伝説になるのも頷けます。

さらっとある悲劇
物語は常に温かみを帯びているように思えますが、ちょくちょくどうしようもない悲劇がありましたよね。例えば色の魔法使いが父親を助けたのに軽蔑されたりとか、いたずらにクジラ殺してみたりとか、強力な魔法で人を殺戮しようとしてみたりとか、信頼していた母親は外では悪口ばかり言われているのを知ったとか、挙句子供の死体を並べて悪魔召喚しだしたりだとか……わりとちょくちょく真っ黒い悪意があったような気がします。
ユカパワーさえあれば乗りきれる! という難所だとしても、それはあくまでユカの周りだけの話であって、現実的にその世界を俯瞰して見てみれば、少なくともいい世界だとは言えそうにありませんでした。これらの悲劇がさらっと出てきた様子や、呪使いが適当なこと言ったり、貴族が堂々と踊り子を買おうとしたり……つまり、そういうことが日常的に行われる世界なんだなと言いたいわけです。

それから
物語一番進んでいた箇所はリエッキが立ち直るところでした。
いろいろ過去を振り返ってその上で、「立ち直って良かったね」となるわけけど、その後どうなったの? と気なる僕がいます。
この物語の断片的な部分はそれはそれはそれぞれ独立して動いているわけで、それらの穴はいろいろ気になるわけですが、個人的に一番気になるのはリエッキと牛頭の間にいる女の子の今後ですよね。
彼女たぶん全て託されたカルメだと思うんでけど、本の中には名前すら出てこなかったような……いや、二人に育てられる彼女は今後どうなるんでしょうか。
まぁそんな感じでそれからが気になる僕でした。

【まとめ】
読んでて思った素朴な疑問ですが、リエッキはなぜユカの子供を作らなかったのでしょうか。流石にそういう異種では子供を授けるようなことはできなかったのか、そもそもそういう気持ちが互いになかったのか。どちらにせよ、そのうち寿命の問題にぶち当たるのでしょうから、せめて子供がいれば、リエッキは母親としても頑張れた気がするんですよね。牛頭の下りでも子供を抱いたことなさそうでしたし……やっぱ人とドラゴンでは難しいんでしょうか。
そんな子作りの話題を続けて、色の魔法使いと踊り子の間に子供はできたんだろうか、などとも考えました。
別に夜の事情を妄想したいというわけではなく、その子供がリエッキと会うシーンとかあれば胸熱だなぁ! とか思ってのことです。こうした世代がバラバラ話題はどうしてもそういう、世代を超えた偶発的で運命的な出会いを妄想しちゃいますよね。