とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

廃墟建築士

98冊目
不思議な世界観の建物のはなし

この本は『七階闘争』『廃墟建築士』『図書館』『蔵守』の4編で成り立っています。

それぞれのあらすじを書いていきます。

『七階闘争』:だれかがなにげない事件の法則を見つけた。それは決まってビル7階で事件が起こるということに。いつの間にか噂は街の周知の事実となり、いつしか市議会にて「7階という場所は事件の温床となっている。どう対処するおつもりですか市長」とまで言われる事態となった。一方市長は「7階を撤去する」と答える。かくして市すべての7階が撤去されることになるのだが、当然7階に住んでいた住民は反発を始める。

『廃墟建築士』:廃墟の美しさを建築する、という職業が世界中にあった。ただ世界中とはいえ日本は遅れており、主人公はそれを嘆きながらも、目の前にあるビルを眺めていた。それは自分の弟子だった人物が作り上げた、日本が廃墟最先端の国なるべく作られた巨大な廃墟ビルだ。主人公の会社をでた弟子は成功し、随分と差をつけられてしまったようだ。

図書館』:本を「調教する」職業を持つ人がいる。主人公もその一人であり、今回夏休みの子供達に夜の図書館を体験させるべく地方にやってきた。館長の催促を受けながら、主人公はまず「夜の図書館」ができるかどうかの確認を始め、時間に追われながらゆっくりとした調教、というより図書館との対話がはじめる。

『蔵守』:長年破られていない蔵があった。そこを何十年も昼夜問わず守ってきた蔵守の前に、蔵守見習いが現れる。彼女(女性でした)は蔵守と反発しながらも蔵を守ることの大切さを学ぶ。時を同じく、蔵に自我があった。蔵も蔵守と同じく蔵の中を守る一心で長年過ごしてきた。そして彼らは気がつく、略奪者が近くやってくる事に。

基本的な情報として摩訶不思議な世界観で(本が空を飛ぶなど)、不思議なことが起こる、そういう世界観です。

----(ネタバレあり)----



今回はそれぞれの短編を振り返ってみようと思います。


七階闘争
おそらくコメディ枠に入ると思います。「7階を消滅させる」からの「7階を守る」という闘争を書いた作品なので、どうしても前半部分はシリアスな笑い的なシーンありましたよね。
まぁしかし結果を見れば、並川さんという女性など7階に思い入れ強い数人ともに7階ごと消滅してしまったわけで、表現してみればバットエンドといえます。
いやぁ……ねぇ……。7階だけ消してみせる、なんて芸当できるのでしょうか。そもそもそんな疑問に誰も気がついていないのが異様であり不思議な世界ですよね。
てか前半に出た7階が事件の温床たる関連性よりも、こっちほうが気になりますよ。役員達はどうやって7階だけを消滅させたのか。手順など、その過程が気になります。7階は一気に消えたのに、大きな音だって出ている描写ないですし……。
あと森崎が指摘したとおり、たとえ7階が撤去が撤去されようが、犯罪は減ることがないと思うんですよね。むしろたまたま7階に事件が集中したわけで、別にそれ以上もそれ以下もない気がするんですよ。なのに役所は人ごと消しちゃった、というのは恐ろしいものです。
だから森崎は最後、七階撤去反対運動過激派となったんでしょうね。

廃墟建築士
ここでは廃墟を創るためだけの建物を建てる廃墟建築士というものが登場します。
廃墟建築士というものがどうかというところを置いて、個人的に廃墟というものは好きなので、「廃墟」をつくるための建物を建てるという考えは「おもしろいな」と思いました。仮に現実でそういうことが行われるならば、僕は喜んで署名するぐらいですよ。
ところでこの廃墟建築士について、作中ではあんまり描写されていませんのでわかりませんが、廃墟を創るのは同じとてそれぞれの考え方は違うようでした。鶴崎は「絵画」みたいに廃虚を作品と捉えている一方、関川は「実家」なアットホームなイメージを持っているようです。個人的には関川さんのほうが考え方は近いかなと思いますが、美術展のような廃虚も見てみたいなという気を持っています。ただだからといって、不正はダメだと思います(マジレス)。
あと気になったのは、とても大きな廃虚がある「西の彼岸」場所に最後関川は向かうのですが、そこは廃虚に心底惚れた人達が集まる場所であり、楽園みたいな雰囲気があるんですよ。楽園はいいんですよ。楽園はいいんですが……いやそこ観光地にしたほうが廃虚の認知広がりそうじゃね? など無粋なこと思う僕がいました。

図書
空を飛ぶ本を操る女性が出てくる話でしたね。
まず思ったのが、その本が空を飛び回る美しさよりも、「そんなんしたら本痛むだろ」という心配の方でした。
本が飛ぶときこう、そのまま飛ぶのではなく、羽ばたくように(本を開きながら)飛ぶと書いてあったんですよ。それってやっぱ、本の機嫌調子云々を置いといたろしても、むちゃくちゃ劣化早めそうな気がするんですが。まぁマンション階を人間ごと消滅させれる世界観なのだから、これぐらい取るに足らないことなんでしょうね。でも、本はそうやって飛ばして楽しむものではないと思います(無粋)。
ときにこの短編ではけっこう人物も出てきました。個人的に鵜木さんがお気に入りになります。理由はふわふわとした人が多い中で彼女はただ一心に、図書館のことを考えていたからですね。それに暴走している本に対して臆することなく、一喝して封じ込めるシーンがありました。あそこがいいと感じたからでもあります。
ところで登場人物の一人、高畑が料理をするとか言って実は機密にしていた方法を盗み見ていた問題について。あれやんわりと終わってますけど警察案件の話だと思います。とはいえ力づくでということではないので、まだまし……だろうか? やはり信用しようが、部屋に他人を一人おいて置いてはいけない(戒め)。

蔵守
なんかよくわからない蔵(あれ生きているんでしょうか)を守る蔵守たちの話でした。
あのよくわからない蔵についてですが、なんなんですかあれ。自我があるまではまだいいとして、最後なんか子供産んでましたし……なんなんですかあの蔵。
と、考えた個人的なイメージとして、「蔵」は僕らの思う蔵ではなくなにか別の生き物、もっと言えば「植物」っぽい「なにか」なんじゃないかなとか思いました。そう考えたら自我を持っているというのも、なんか分裂したのもイメージできる、かも知れません(わからない)。
蔵の中に「あるもの」についても不思議でしたよね。たしか未知の物質があって広まって、いろいろ被害出て、延命するために蔵を襲撃してるとか。不思議なのがその「未知の物質」とは蔵の中にあらしく、けれども(自我がある)蔵が思う「蔵が蔵たる理由は蔵が破られていないから」ということから自我が生まれて今まで一度もやぶられたことのないと示しているんですよ。だからあの蔵の赤ちゃんが生まれた蔵の中にも未知の物質があると考えられるわけで、かといって「誰かが入れた」というわけではないということは、はじめから持っていて……やっぱ、わかんないです。

【まとめ】
個人的に好みな作品を上げるなら『七階闘争』か『蔵守』ですかね。
『七階闘争』は客観的に見ればおかしな世界でおかしなことをしているわけで、そのおかしなことをしている彼らは真剣なわけで落ちこそバットエンドだったもののコメディみたいでおもしろかったです。世にも奇妙な物語に使えそうですよ、これ。
『蔵守』はなんというか惜しいです(個人の感想です)。もうすこし蔵守と略奪者の背景設定みたいな、そんな説明が欲しかった、とか指摘しながらもああいう裏でつながっていた展開は個人的好みなので選びました。
この2つにかぎらず4つ全て不思議な話でした。そしてその不思議な世界に大多数が疑問を持たないこところがまた不思議でした。これは誰か疑問を持たないとリアリティがない! と言っているわけではなく、それがまた不思議さを強調しているようだ、と思ったわけです。