とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

「健康な土」「病んだ土」

106冊目
いま土がヤバイ!(危機的状況という意味で)

土のことについてや、土の現状について書かれてた本になります。
傾向といえば「危機喚起」といったもので、データと照らし合わせながら「土やばい」という主張で一貫していました。
ほか土の歴史やら、土の構成やら、土に巡る物事はけっこう詳しく書かれてあるので土について知りたい人も読めばいいかと思います。

個人的に、いまの日本の大量生産大量消費に疑問を持っている人に読んでもらいたいですね。
まぁなんというか、土がいままさに笑えない状況に置かれていることがわかると思います。


※今回もネタバレありとありますが、気になる所を挙げていこうと思います。

----(ネタバレあり)----



土とは
そもそも土ってなんだって話ですよ。こう大地は想像できても、「土」と言われると果たしてなんて言ったらいいのか悩むところです。作品では次のように書かれてありました。

土は、個体、液体、気体の三相からなる、スポンジによく似た多孔質体です。ただし、骨格がスポンジのように柔らかくなく、しっかりしている点が異なりますが。

「スポンジ?」と疑問に思いましたが、水分を吸収する土を想像したら理解できました。

固相は、土粒子、有機物*1、生物から構成されています。土粒子は、大きさによって砂、シルト*2、粘土*3に分類されています(後略)

土はこれらの物質がただ集まっているだけ、ではないようで、

三者*4の空間的な配置様式を構造と呼んでいます。典型的な構造に、単位構造と団粒構造があります。単位構造の土とはすべての土粒子が、互いに結合することなく、バラバラな状態で詰まっている土を指します。(中略)水に漬けても壊れないものは団粒と呼ばれ、団粒のみから構成されている土は、団粒構造の土と名付けられています。雑木林の表面近くのサラサラした黒みがかった土は団粒構造とみてよいでしょう。

単位構造は砂や粘土が多い土に見られるらしいです。イメージするなら小さい粒がぎっしりと詰め込まれた感じです。
団粒構造はシルドと粘土がくっついてできた粒です。イメージするなら小さい粒を包み込んだ「すこし大きな粒」が集まったような感じです。
ちなみにですが、団粒とだけあってたとえ水でばらばらにならなかろうが、小さな粒(とはいっても大きさは普通の砂と変わらないぐらい)をきゅっと押し込むとばらばらになるのだそうです。公園とかでやってみたいですね。

ってな感じで、簡単に土の構造を振り返ってみました。

土も成長する
植物は成長している。というイメージは湧きますが、土だって成長していると言われたらちょっと不思議に思いませんか。たしかに「森の土」と「砂漠の土」だとしたら森の土の方が遥かに「豊か」であるというイメージはできても、「土が成長している?」ってなりませんかね。
実際の話、土は成長しているらしく、いろいろな連鎖が起こりながらまっすぐに豊かに豊かになるのだそうです(ほっといたら基本豊かになるとか)。そしてある臨界点に達すると*5、急速に「老い」が発動し、その生涯を終えるそうなんですよ。そうなんですって言えるほど、その成長過程はとても長い期間に及びます。森の様子なら外見から見えても、土ですからね、じわじわと変化していく様子がとても緩やかめなんですよね。

その成長した土の話ですが、成長しきった「(多くの農家の方があれが理想の土だと言うほどの)成熟した土」というものがあるらしいです。
それはブナの森の土です。あの黒い土(団粒構造ですね)こそ完成された理想の土だとか。理由は、

以上要約すれば、O層*6とは、土の表面上に存在し、落葉・落枝およびその分解物からなる層で、土中への有機物の供給基地の役割を果たしています。A層*7は腐食に富み、暗色で、団粒構造が発達し、植物根・微生物・土中動物などの生物の活動が活発に行われている層です。B層*8はA層の影響を強く受けている層、C層*9は単に岩石が風化して細粒化している層ということです。(後略)

と、見てとれるように、たくさんの落葉で全体の栄養が供給されている上に、その下の層では土中生物が元気に動き回っていて、排出された糞など栄養分は植物が受け取って……それがひたすら繰り返されているのがわかります。「ブナの森」こそ、たわわな森ってことですね。

森の豊かさの指数
落葉が上にたくさんあって、黒い土で、団粒構造で、土中生物がたくさんいて……などいい土の条件はわかりましたが、土を見て「あぁあれは豊かだ」といい切れる条件というの、実はまだ決まってないそうです。
僕らが勝手に「あれは豊かな土だ!」と思っても、その「豊かな土」と決めた理由って総合的に見たなんとなくだと思います。それが研究者とていろいろ考えてからの「豊かな土だ」と判断する理由も似たようなものだと思うとおもしろいですよね。

「土が肥沃になったかどうかを判断するには、土のどのような性質を調べればよいの?」。こんな質問にあうと、土の科学者達は、ドギマギし、返答に窮してしまいます。現在、土の肥沃性の評価は、物理的・化学的・生物的性質など、土のいろいろな性質の分析をもとにして、総合的に決めざるをえないとされているからです。(後略)

ところで生態学では植生種の多様性を示す尺度として「多様性指数」というものがあり、この本でもこれをもとに土の豊かささについての話題を続けていました。「これ」といったものがないだけで、ないことはないようです。

多様性をめぐる森と土の話
たとえば、森に植物の多様性。これは「植物の」多様性です。森のなかにたくさんの植物があると、なにか森にトラブルが起こったとしても「なにかしらの植物が生き残る」可能性が高くなるのはわかりますよね。たとえば病気が広がったり、害虫が現れたり、温度差があったり……そんな問題が起ころうが、それは「たくさんある森の植物のうち種類だけ全滅」に留めることができるのですよ。ちょっと意識高い言い回しをすると、リスクマネジメントみたいですよね。

これと同じようなことが土でも起こっています。土の場合は「栄養の多様性」やら「虫の多様性」やら、「植物の多様性」だってあります。それこそ土にはこういった多様性がむちゃくちゃあって、それらが絶妙な均衡で保っている存在なんですよ。

どれから言えばいいのかと難しいところですが、つらつら挙げると、今の農業は大体1つの野菜などこだわって作っていますよね。農家さんによっては工夫もされているでしょうが、土側の影響としては、1つの植物ばかり育てていたら、その植物が必要な栄養だけたくさん吸収されて、結果的に土の中の栄養が偏るんですよ。
収穫した後はなにもなくなるところも問題とありました。ブナの森のように落葉などそのままでいいのに、収穫後はなにもかも回収されて(多少残るでしょうが足らないと思います)、本来栄養になる雑草さえも除去されていますからね。(昔は雑木林の落葉が使われたそうです)

ここに加えて害虫を駆除しようとして、農薬をまきますよね。希望通り害虫は死にます。けれども、ほかの「ただの虫」だって死ぬんですよ。
今までどっちでもなかった「ただの虫」が死ぬということは「多様性失われている」ということですね。多様性が失われたら、いままで「ただの虫」だった「虫」が「害虫(天敵)」がいなくなったことにより、好き勝手勢力を強めることになります。さらに事態は悪化することになります。あと、虫だって耐性を持つかもしれません。そして虫に限らず、土中の生物も農薬の影響を受けますよね。

……と、正直なにから書いて良いのか、と迷うほどこの本には多様性の話題がたくさん書かれてありました。均衡が崩れると全部崩れていくんですね……。

土が病んでる
なんというかもう、なんと言えばいいのでしょうか。その置かれている現状(調べた範囲での現状)に僕は絶句しました。
いやまぁ、農薬が広がってそれが使われるまでは分かるんです。「これが便利だ」と言われたら試しに使うのはまぁ分かります。なにせそういうのはやってみないとなにもわからないですから、そして実際使ってみて「あ、これはまずい」となるのもまた仕方ない話です。
問題は「問題が判明した後」ですよ。明らかに問題ありとわかった後、なぜ農薬を使い続けているのか、なぜそれを注意しないのか、などそういう行き場のない問題に頭を痛めました。
実際その問題とは「(若者)人手不足」や「資金不足」「時間がない」「ノルマがある」などいろいろな要因があることも本から伺えましたが……でも、なんで農薬を使い続けている現状があるんですかね……。そこ黙認する必要ないでしょう。と思いますけどね……。

かつてない事態
かつてないことが起こっていると書いてありました。
ここ数十年で農薬を使い始め、いつのまにか数百年か数千年の豊かな土地の均衡を壊すようなことになっています。
木は切られてますし、多作したいのにできない環境(野菜出荷安定法というものがあります)、便利に染まった現金主義な社会……もうだめですよね。なーにが食料自給率を上げるだよ! って話です。正直持続可能な発展といえば農業や漁業や林業ぐらいしかないですよ。省エネリサイクルなんてものはどちらにせよ、木を焼かないとダメなんですから。
読んでて分かるんですが、ただでさえ豊かな土地(恵まれた場所にある国)であり、加えてたゆまぬ努力(先祖たちが血反吐はいて作り上げた豊かな畑+ノウハウ)であるこの土地を、わずか数十年でぶっ壊し、土地を薬漬けにし、その上に「なにも考えてない」僕らに腹が立ちます。頭にきましたってやつです。
あげく残飯残して食料輸入ですからね。怒りを持っている人も居るでしょうが、安いから買う僕らにも問題がありますよ。

最終的な問題は消費者にある
土の問題を考えると社会の仕組みに向かい、国に巡り、最後には消費者に行き着きます。つまり僕らがいちばん土に関係しているということです。
僕らのなにが問題なのか、それを考えるのが僕ら君たちの仕事です。なんて言えばかっこいいんですが、一言で言えば(僕がいうのも何ですが)「行動を起こしていない」ことでしょうかね。
たとえば「日本の食料自給率を上げたいと思っていますか?」と聞かれたらたぶん「そうですね」と答えるはずです。ほかにも「農業をするときに、農薬を使わないほうがいいと思いますか?」と聞かれたら「はい」と答えるでしょう。
ここまではみんな、おそらく日本全国みんなそう答えるはずです。しかしこう続けて聞いたらどうでしょううか「ならどうすればいいと思いますか?」
たぶん答えられないはずです。実は僕もまだ答えが見つかっていない口だけの人間の1人です。でも、そう考えて行動をすることが重要だと思います。
たとえば「自分も野菜を作ってみます」とか「不耕起栽培をすればいいと思います」とか「生ゴミを集めて肥料にすればいいと思います(日本でうまれる残飯、糞尿、生ゴミですべて使えば肥料はぜんぶ賄えるそうです)」とかそういうのを考えるんです。そして学び、無意識に呼びかけ(行動に写せたら)いいんじゃないかなって僕は思います。

【まとめ】
結局批判的な内容になってしまいました。せめて読者がなにか思ってくれたらなと思います。
そもそも農業の重要性を再認識してほしいものですよ。本来、農家はもっとも尊敬されるべき人種だと僕は思います。もっと評価されるべきってやつです。
でも人手不足なんですよね。そもそも若者が向かわないということは魅力不足ってことですから、こうイメージも変えて……農家が誇れるようにして……かつ結構儲かる……って、やっぱまず国の支援からですかね。となると国を動かすのは僕らなので結局は僕らの話になるのですが。

*1:落葉・落枝、枯死した植物根、微生物・動物の死骸などのこと

*2:砂と同じく物理的風化作用によって岩石が細分化されたもの

*3:岩石の成分であるケイ素、アルミニウムなどの金属が降水によって溶かし出され(化学的風化)、再結合したものです。(引用)

*4:ここでは砂、シルト、粘土のこと

*5:詳しく書きませんが、簡単に書くと降水による栄養の流失によりバランスが崩れる臨界点があるのだそうです

*6:「腐ってない落葉」から「完全に腐りきった落葉」までの層

*7:かなり黒みがかった層。0.1mmから1mm前後の粒子で成り立っている。O層の下にある

*8:A層から流下してきた腐植や養分が溜まっている場所。よってA層より黒っぽいこともある。A層の下にある

*9:岩石が風化し細粒化した褐色の層。B層の下にある