とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

九年目の魔法 上

107冊目
少女の妄想、英雄、出会い、からの魔法 上巻

なにかになりきって、なにか設定を考えたり、互いにわかり合うごっこ遊び(「リアルおままごと」みたいなもの)が好きだったポリーィ・ホイッテカーという女性がいました。
彼女は今、大学一年生を控えベッドの上で奇妙な感覚を覚えています。
それは初めて読んだはずの本に既視感をもっている、というもので、その奇妙な感覚は額縁にも向けられます。額縁に入った写真、それは黄昏時に畑で燃えるいくつかの干し草の写したものでした。
少し前までこの絵は動いていました。燃える干し草の煙のさきに誰かがいるような、場合によっては馬も見えたはずなのに、今や単なる写真にしか見えません。ここでポリーィは気が付きます。そもそもポリーィは馬を見たことがないのです。

なぜ奇妙なのか理由を探るため、ずっと前のことを思い返すしかないとポリーィは考えます。そうして思い返すと共に、当時一緒にいたニーナという友達と、遊んだ、お葬式での出来事に気がつくのでした。

ポリーィが10歳の頃の話です。友達ニーナは飽きっぽい性格をしており、なにかと「友達やめる!」と言ってくる女の子でした。ポリーィは絶交になるのがいやで、彼女とくっついて行動をしていました。ある種ニーナの言葉がいい脅しとなり、臆病なポリーィを勇気づけていた節もあったのです。
あるハロウイーンでのこと、ポリーィとニーナはおばあちゃんのはからいでハロウィーンの衣装を着せてもらえることになります。二人は喜んで、服を着て街に繰り出します。
しばらくハロウィーンの行進をしたのですが、ニーナは相変わらずの無茶苦茶なことを言いながら、人の家の塀を登り、人の庭に入っては、別の庭にまた飛び込んでを繰り返します。ポリーィは後を追います。ともに夢のように楽しい時間でした。

そんな無茶を繰り返していると、あるシーツの後ろでポリーィはニーナを見失います。あたりを探してみると、ニーナはたまたま開いていただろう建物の中に入る姿をポリーィは見つけました。ポリーィはドキリとしながら迷い、やがて勇気を出して建物の中に入ってくのでした。

中は静かでした。周りの大人達は魔女の格好をしていたポリーィと同じように黒い服に身を包んで、なのにパーティーのような異様な雰囲気を持っています。ポリーィはあたりをめぐりながらニーナを探しますが、つい見かけたニーナは見当たりません。
やがてパーティーが始まるのか席につくように言われ、ポリーィも適当な席につくと、誰かがなにかを読み始め、ときより息を呑むような、あるいは喜びを隠す雰囲気が立ち込めます。
ここでポリーィはやっと気が付きます。これは魔女のパーティーではなく、葬式なのだと。

しかしいまさら席を外すには怖じけつき、どうしたものかとポリーィは頭を抱えます。そこにひょろっとした長身の男の人ががこちらに見るなり席を外そうと合図をしてくれました。
彼はトーマス・リンという名の男性であり、外した席のさきで談笑をすると、なんと彼もごっこ遊びをしていたというのです。

仲良くなる二人、これをきっかけにポリーィの運命は奇妙な方向に動き始めるのでした。

※まだ下巻読んでません。

----(ネタバレあり)-----


ポリーィ・ホイッテカー
主人公ですね。彼女自身、妄想癖のようなものがあり、それを踏まえてからの「英雄になる」という目的が漠然とあるような人です。
思ったのですが、10歳ぐらいの女の子ってこんな妄想するんですかね? 女の子なのに(って言い方おかしいですが、姫様ではなく)英雄になりたいって人いるのかな、とか思いました。まぁ思うだけなら普通にいるのかもしれません。
そんなポリーィは自身を臆病など思う傍ら、やるときにはやる、というより強行突破するわがままさっていうのでしょう。こう踏み込むところは踏み込む人のような雰囲気が終始ありましたよね。つよい。
現状を打開できるエネルギーを持っているも、周りの環境はよくはないようで(とくに親)、それは見ていて痛々しかったですね。友達も(ニーナにはわるいですが)恵まれていたなんてこともなさそうでしたし、おばあちゃんとリンが唯一の良心みたいなものでした。おばあちゃんは厳しくも優しいスーパーな人でしたね。

妄想仲間
お葬式潜入をきっかけにポリーィはリンさんという妄想仲間と知り合います。
始めは「一緒に話に乗っかってあげているのかな」と思ったりしたたのですが、まさかのガチ勢だったようです。後々いろいろな本を送っている様子から、リンはかなりの読書家(それもファンタジーよりの)と思われます。たぶん常日頃からそういう物語を読んで、それでいて妄想とかしてたんでしょうね。
疑問なのは彼がポリーィをみて瞬時に「仲間だ」と思ったのか、それとも話しているうちにポリーィ自身の世界観を面白く思ったのか、そういう直感がリンの中にあったのかどうかというところです。
まぁけれども、ああいうマイナーな趣味の仲間ができて、互いに試すような話もありながら手紙を書くような知り合いっていいですよね。そういう友達が居るだけで恵まれてますよ。ポリーィの境遇からしても、出会えてよかったなと今更ながら思います。

リンさんの関係
上巻だとまだはっきりわからないんですが、どうやらリンはローレルから逃げ出そうとしている感じでした。たしかリンは前に屋敷にいて、しかしけれども屋敷から出ていこうとしていたところを、ローレルは「君は逃さない」的な感じでしたね。
葬式で疎まれている様子から、それなりにうまいこと抜け出したと想像できるのですが、ここにポリーィが入り込んだお陰でとてもややこしくなっている印象でした。客観的にみるとポリーィがやらかした(絵のすり替えや、盗みなど)ことはかなり悪手だったかと思います。
しかし仮にあの絵のいたずら(ポリーィがやらかした絵の入れ替え)がなかったとしも、リンは開放されたのでしょうか。リーロリは「ローレルは手に入れたものをけしてはなさない」と言っていた雰囲気から、手放すとは思いませんが……なににせよポリーィがいろいろやらかしてすべて事情が変わったぐらいしかわかりません。

ポリーィがどんどん女の子になってゆく
上巻だけでもポリーィが女の子に変わるまでの過程が書かれてあるような気がしました。弁護士に会いに行くことでリンと再び出会えるようになったあたりの「髪は邪魔だからいや!」が「髪の手入れをして」ですから、そこからなにか意識していたのかと思ったりしています。
ほかにもいろいろな男性(だいたいリンですが)ちょくちょく外見を気にするようになり、過剰に周りの視線に気にしなくなったりと、それでいて子供っぽいわがままを出したりとか(リンのチェロ壊れろと思ったり、リーロイに反抗したり)そういったいわゆる反抗期っぽい感じもありましたよね。
そういうの成長期特有の不完全さが現れているようで、個人的にいいと思います。

ポリーィが覚醒したあたり
ポリーィ途中で覚醒しましたよね。たしか、リンからの本を読んだ休み明けのこと、ニーナの「友達やめる」という声に「別にいいよ」と突き放したのをきっかけに背筋伸ばしたり、筋トレしたりとかしていました。
ここでいろいろ問題を起こしたそうですが、個人的にはほっといても良かったのではないかと思いましたね。校長先生も校長先生として、なんで親に言ったのか(仕方ないことですが)、そもそも親に問題があるということにも……あそこで一つ可能性が潰されたような悲しい気分になりました。まぁポリーィ本人ははけろっとしてましたが(つよい)。思えばここらあたりから図太くなったのかもしれません。
なにかになりたいという思いは僕らだって持っています。ポリーィはそれを切実に思ってから、行動して人を助けてるわけですからすごいです。

妄想が現実に
リンとデート(?)に向かうことになって、たがいに妄想していた場所を探してみようという粋なことをしていると、なんとその妄想していた場所が実際に見つかるという(従業員まで類似)意味分からない展開になってます。
意味分からないといえど、「あぁあったのか」みたいな感覚になるのがこの物語の不思議なところで、ちょくちょくそういう妙なことが起こっているような気がします。僕が気が付いていないだけで。
しかし、もし妄想をしていた場所が実際にあったとしたらそれはそれは驚きますよ。なにせそれだけ詳細に考えたのが一致していたわけでしたし、従業員に至ってはほぼ同じ印象を持つのだからもう、ぞっとする通り越して放心してしまうでしょうよ。なんかのお告げレベルです。
たぶんこの店が後々つながってくるのかな、とか思ったりしました。あるいポリーィかリンがもつ特殊な力が作用して店が……って展開なんでしょうか。

迷信クラブ
途中にニーナが作ったおもしろクラブです。たしか入部条件は「本に載ってない迷信を教えてもらうこと」だったのですが、これがまたおもしろい条件ですよね。くわえてニーナには独特の才能があったのか、とても大きなクラブになったそうです。
影響を受けて生徒たちは自ら占いをしたりなど……そういえば占いは色んな種類があり、人相、トランプ、器を使ったもの、鏡を使ったもの、などある中でさらっと易が登場しておもしろかったです。「ひとりガチのやつ(他にガチのあるかもしれませんが)いるやんけ!」みたいなツッコミをしました。
結局、校長先生からお叱りを受けて自然に消滅したとかなんとか。もうこの迷信クラブこそいい感じの迷信になりそうな出来事ですよ。

ポリーィのまわりの悪いひと
終始、母親が嫌な人物になっていました。本当にいそうで、本当に子供に害を与えそうな人物でしたよね。被害妄想が強い上に、癇癪をよく起こしている様子から読んでて「あぁ…」というため息しか出ません。
上巻の終わりあたりでは母親の悪いところが濃縮したような展開になってます。これでいてポリーィが発狂しないことがまたすごい健気だと思いますね(逆に冷静になっていたのかもしれない)。結果としてポリーィは家から締め出される展開になりますが、これでよかったのかもしれません。ただデイヴィッド・ブラックは……もうだめかもしれませんね……。
ニーナもさらっとひどいことを結構言ってます。ニーナは気分屋(表現を軽くしている)で、なんかもういろいろ問題起こしてはどこかに去ってゆく、なにもかも続けれないような人だと思いました。けれども上巻あたりの最後では、恋する乙女みたいに(体型もきちんとしたりなど)、普通の女子みたいになっているのかな? とか思ったりています。ポリーィが引っ越すのでこれから先はわからないかもしれませんね。しかし別学年の男子から逃げられるって、なにやらかしたんですかね。

館に潜入また盗み
自暴自棄になっていたポリーィはなんとまた館に忍び込むことにします。勇気があるなと思う一方で普通に入れるものなのか、と疑問に思いました。が、普通に入れた上に館の仲間でがら空き立ったそうです。
「お金持ちだから、たとえ旅行に行ったとしても庭の手入れしているし、暖房だってついているんだ」とポリーィは考えてますけど、いやそれはないでしょうと僕は内心思っていたものですから、終始ヒヤヒヤしました。うっかりお手伝いさんと鉢合わせたらどうしたんでしょうね。警戒しているからどうにでもなるとか思っていたのでしょうか。
この館シーン、物語としてはいい雰囲気がある場所でしたよね。不気味であって(そもそも誰も居ないのに暖房がついている時点で不気味)、縁のある興味深い館を探検するわけですから読者としてはとてもおもしろかったです。
終わりあたりにリンとリーロイが登場してゲームオーバーかと思えば、逆に勇気が出てきたポリーィは写真絵泥棒をかましています。僕は「大物になるでぇ…」と思ったりしました。あの写真もたぶん、重要な写真なんでしょうね。

それから下巻へ
上巻の最後は父親のもとに引っ越しすることで終わっています。さらっと仲良くなりかけていたフィオナ・バークスとの別れという悲しいことになっています。
けれどもポリーィ自身、地元に嫌気が差していた雰囲気があったのでこれでまた一つ変わるのかな、とか思いました。いいように変わればいいのですが。
いろいろ伏線みたいなことは示されていたので、どう回収していくのか気になるものです。いわゆる逆境に立っているという彼女ですから、どうやって物語の終わりまで向かっていくんでしょうかね。
リーロイも「恐ろしいことが起こる」と言っていたものの、まだなにもこれといったことが起こったとも言えません。これから起こると考えると、ポリーィの逆境はいよいよ崖っぷちになることでしょう。どうなることやらです。

【まとめ】
内容の密度がかなりありました。これだけ感想に書いても書ききれない細々した出来事が数多くあり、すべてがすべて把握できないぐらいです。
ところで、本のなかでいろいろな作品(主にリンが送ってくれた本)が登場していましたよね。ざっと探してみて、個人的にいちばん気になったのは最後に紹介された『金枝篇』というやつです。なにが言いたいのかというと、こう、本の中に登場した本が現実にあって、それを読んでいくのって、なんかいいなと思ったのです。