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とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

九年目の魔法 下

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 九年目の魔法 児童文学

108冊目
少女の妄想、英雄、出会い、からの魔法 下巻

主人公ポリーィは妄想をするのが大好きな女の子です。そんなポリーィにはリンという(友達と言うには大きな)友達と大きな友達がいて、彼と妄想の内容など話したり手紙などをしてやり取りを続けていました。

さて、現在大学生のポリーィは思い返します。そんな人が本当にいたものか、と。
なにせここ数年ほど彼の記憶が全くなく(全くというかさっぱり忘れていた)、自分もありえないと思いながら思い返したとしても、あの異様な経験を思い返すなり不確かな記憶としてふわふわと漂うのみです。
心配になったポリーィはリンの痕跡を探してみることにしました。彼とは手紙のやり取りをしています。ホコリの被ったプリントの層を探ってみます。が、それらしき手紙は見つかりません。けれども貰った本はあります。『火と毒人参』の絵だってあります。連鎖するように、曖昧だった記憶もどんどん蘇ってきます。

騒がしくしていたところ、おばあちゃんが顔をだしてきました。ポリーィは尋ねます「本を送ってくれたリンって人覚えてる?」、おばあちゃんは「おぼえてないね」と答えます。ポリーィは説明してみるも、おばあちゃんは「いない」と言い嘘をついているようには見えません。
ポリーィは改めて様々な出来事を思い返してみます。でも、やはり彼は確かに「いた」という感覚はありました。

ポリーィは改めてリンの痕跡を探しに行くことにします。


※これは下巻の感想です。上巻はこちら:九年目の魔法 上 - とある書物の備忘録





------(ネタバレあり)-------



いきなりピンチ
たしか母親の魔の手から逃れて、父親のいる場所にポリーィは向かっていました。
ここまで「きっと新しい生活が始まるのだろうな」とか思ったのですが、そんなこと期待させておいて見当違いがごとく、ポリーィ読者ともに真っ逆さまに叩き落とされます。
なんですかね、あの適当な父親は。上巻は「理解ある父親」みたいな空気出してたわりに、なんですかあの展開は。まったく、まったくだめですよあれ。
あの適当っぷりにはアイビーに同情してしまいます。あの報告連絡相談ができていない感、投げやりな感じがあれでしたよ……。
展開が展開なのでこの先どうなることやらと思ったのですが、なんとポリーィはすぐ例の馬を見つけるんですよね。「主人公補正やぁ……」と思う一方、心底ほっとしました。

リンさんと四重奏団
ポリーィ選抜の四重奏団が動き出していました。いろいろ難所(主にローレルかリーロイ)がありながらもたくましく形になっているところに彼らの静かな強さを感じとれます。
ところであの四重奏団は成功したのでしょうか? と考えましたが、ゼブや今後の展開で成功(大成功)したことがわかります。いやー良かったですよね。なにせチェロ弾きが仲間轢いたわけでしたし、チェロ弾きが重体になったこともありました。あのあと演奏やったと思うと、改めてこいつらやべぇってなります。
物語の終わりあたり、リンこそ主人公補正(絶対怪我をしない)を持っており、リーロイがなんとかそれをぶち壊そうとしていたことがわかります。結局計画はダメだったわけですけど、あれは、リンとポリーィがいたところを狙ったというわけかと思ったりしましたが、今までちょくちょくそういう出来事があったんだと思っています。なにせ最後の最後でローレル問いただすあたりの四重奏団理解度すごかったですし。

やっとこさ本編
思えばポリーィの「そういえばこんなことがあった……」の思い返しから始まって、下巻中盤まできてやっと現実(ポリーィが大学生になった頃)の話になります。
この空いた時間で大きく変わったのはリンとの記憶のようで(そもそもポリーィ自身曖昧だった)、なんとだれもリンのことを覚えていないというのですよ。いよいよ「ローレルやべえ」となるわけです。
それからポリーィは過去を思い返しながら当時の人たちと接触していくのですが、ここまで読んできた読者がわかるように、「そいつまでリンのことを忘れてしまったのか」と思えるような奇妙さが演出されています。個人的そういう展開は好きなので、物語として個人的におもしろかったです。
一方、ポリーィは気が狂いかけたそうです(まぁ当然ちゃ当然です)。狂気との間にて、たまたま愚痴るようにフィオーナに言ったところ……このフィオーナはまさに女神といえる神がかった発言をしています。そもそも彼女、遊園地で遊びに行こうとして水疱瘡にかかってましたよね。いやぁ、今作のMVPはフィオーナであり、この水疱瘡です!
あと、この本編が始まった頃はすでにページの半分ぐらい言ってたので、ここから終わるのだろうかと心配になった記憶があります。

おばあちゃんの名言
余談みたいな話になりますが、下巻のおばあちゃん名言吐きましたよね。思わず引用してしまうぐらい良かったですよ。

(前略)あれ以後、ポリーィは真剣に大人になろうとした。その後一年間、努力しつづけた。おばあちゃんは同情的だったが、体育祭のことでもめたときのように、少しだけきついことも言われた。「願いごとばかりで人生むだにするんじゃないよ」と。おばあちゃんの座右の銘になりかけたほど。願いごとばかりで人生をむだにするな。ポリーィはまたもや落ち着きなく身じろぎをした。自分がしてきたのがまさにそれであるように感じて。(後略)

これともう一つ、

「だから今、話しているんじゃない。あたし、とんでもないことしちゃったんだけど、それが何なのか思い出せないの」
「だったら考えるこったね」じょきじょきっと*1おばあちゃんは言った。
「できない――」
「〈できないの本音は、やりたくないということ〉さ。そんなひどいことをしたんなら。さあできたよ、ミントチョコ*2。おいしいお魚だよ」切った魚を皿に盛って水切り台の上に押しやった(中略)
「ことわざでしゃべるときのおばあちゃんってきらい。人の話聞いてくれないんだもの」
「聞こえてたよ。頭の中に埋まってるものがあるんなら、それをとりだしてこないうちは、助けようにも助けられないだろうが」
ポリーィはため息をついた。〈後略)

1つめの引用はいわずもがな「願いごとばかりで人生むだにするもんじゃないよ」だとして、2つめは「できないの本音は、やりたくないということ」もありますが、このあとの「頭の中に埋まってるものがあるんなら、それをとりだしてこないうちは、助けようにも助けられないだろうが」のほうがポイント高いですね。
「なんか苦しいから助けて」って思う人に対して「なにが苦しいの?」と聞くものかと思えば、このおばあちゃんは「それがわからないのに助けれれるわけねーだろ」と最愛の娘にぴしゃり言うのだからすごい人ですよねぇ。このあときっちりポリーィは前に進んでいるのもまたいいです。
このおばあちゃん、最初から最後までよくできた人でした。いろいろ思い返してみても、作中ベストといえる有能キャラでしたよね。
個人的に印象深いのは、しれっとリンを信用するか否かはチョコミントに判断を任せていると言ったあたりです。なんかいいシーンですよねあそこ。

だいたいポリーィのせい
記憶が書き換えられた決定的要因を作ったのはポリーィ自身でした。
彼女はなんと魔法(呪い)をやり始め、あげく成功してしまうというなんともいえないことしたあと、ローレルに自ら突っ込んでいくやらかしを見せました。仮にポリーィをローレルに向かわせるようゼブが適当なことを言ったとしても、それを行動に移してしまったポリーィが全面的に悪いと思います。まぁその、母親の血を受け継いでいるというか、上巻に見えたあの妙な行動力から……なんとも言い難い結果に向かわせてました。
そもそもリンの本当の気持を汲み取ることなく(本を色々渡したのに)、突っ走ってしまった乙女の嫉妬(恐ろしいものです)が大きな要因でした。上巻の物語に登場する女の子に内心「こいつは自分のことを客観的に見ていない」と笑う所ありますけど、あれ見事にブーメランだったわけですよね。やっぱ何事も謙虚に冷静に考えて行動すべきです。いやぁ僕も人のこといえませんけど。
リンを救ったり、一方リンのところに突っ込んでリンを窮地に立たせたり。と、本人としては無自覚でもリンから見ればめちゃくちゃなことしでかされています。もっと言えばゼブ、ローレルもポリーィにめちゃくちゃにされています。

リンを追って
リンを追って今までお世話になった人物に接触して行きます。あの無駄に危なっかしい道を渡ってゆくポリーィはなお健在のようで、「おいおいそこ大丈夫かよ」と僕が思うのを置いてさっさと行動していました。二人ほど危なっかしい人がいましたよね。誰とは挙げませんが。
しかし人はそれそうに変わらないものなんだなと思いました。特に母親に関してはわずか数ページの登場だというのに、上巻の最後あたりに立ち込めていたあの妙な嫌な空気(ローレルにはないもの)が立ち込めて「これだよこれ!」と僕は思ったものです。
あと、ニーナがポリーィをまったく知らなかったことが意外でした。レスリーはまぁ記憶を消されたのだろうな、と思ったりできたのですけど、ニーナはいろいろ悪いことあれど仲良くしていたのにポリーィとまったく話していな異様になっているなんて……「どう記憶が変わったんだ?」と思ったものです。一方でこうして縁が切れて(って表現もおかしいですが)良かったかなとも思いました。かくして今のフィオーナと仲のいい女友達が確立しているわけですね。
このフィオーナの話ですが、リンを探しながらポリーィと軽口叩き合っている姿が微笑ましかったですよね。あのあたりちょくちょく画像くださいセンサー働いてました。

再会からの対峙と決戦
再会して記憶が書き換えられていたというのに、ポリーィの名采配によりみんな記憶を取り戻せる人は取り戻していきました。それからのリンとのラブロマンスが多少あって、まるで死亡フラグが(もうすでに立っていましたが)立ったのではないか、「もうこいつはダメかもしれない」とドキドキしている僕がいました。
リンもその手のこと自覚していた上での立食会ですから……てかあの立食会の空気ってすごく異様だったんじゃないでしょうか。外見こそすでに異様だからそんな描写されてなかったですけど、いやなんか妙な空気が足し込めてそうな気がします。少なくとも僕は行きたくないです。
そんな場所で行われた言い合いはとても熱い物がありました。バトルこそしてないですが、一歩間違えたらすべてダメになるパターンの緊張がありました。しかしなんとポリーィは完璧にこなすのです。
勝った! と喜ぶ一方で、ゼブはびっくりしたでしょうね。「え!? 死なないですか! やったー!」からの「え! 選べれたんですか! やだー!!」ってな流れになっています。しかも実質ポリーィ(ゼブが想いを寄せている相手)からの宣告ですから呆然としたことでしょう。まぁ、うん。どんまい……。

リーロイのあがきもあって、最後数ページあたりリンとリーロイが命がけの決闘をしています。ちょっと僕の読解力でははっきりとわかりませんが、どうやらリンが勝利したと考えるべきなんでしょうか。ローレルが負けとなると、すなわちゼブも道連れとなって……もしかしたら作中一番のかわいそうな人物はゼブかもしれません。
ところでこの勝負の話に戻りますが、この勝負どうやって戦ったんでしょうか。リーロイは魔法を使った? といえるわけなのでそれにリンが対抗して、でしたけど、うーん。ここらへんは他の人の考察を見てみようと思います。

【まとめ】
長い妄想の旅が終わりました。あの途中に拾った写真はまさかのポリーィの祖父だったそうですね。僕はてっきりリンのものかと思っていました。
この写真がもし祖父のものだとしたら、ローレルにポリーィの祖父も目をつけられていたということですか。となればおばあちゃんがあの館を異様に嫌っていた理由もなんとなくわかります。思えば「これをもっと早く知っておけば」というところもうなずけます。たしかおばあちゃんは読書が嫌いだったとか。いや、それはリンの記憶だったかもしれません。
あと、あとがき読んでびっくりしたんですけど、この著者が『ハウルの動く城』の原作(『魔法使いハウルと火の悪魔』)書いたんですって。こんなところでジブリ作品をみるとは。

*1:この時おばあちゃんは料理ハサミを使っていた

*2:おばあちゃんが飼っているネコの名前

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