とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

さつき

118冊目
教科書掲載作品です

※ここに収束されているらしいです(僕は教科書で読みました)。

主人公の惇とその父親(正作)が山で七夕の笹を取りに行く話です。

惇は父親を心から尊敬していました。その父親の背中を追いながら、山道を歩いてゆきます。
長かった梅雨のせいで、梅雨が開けた頃には積乱雲が高く伸びるほど暑く、汗をかきつつ眩しい新緑の森を惇はうきうき歩いてゆきます。
笹を取った後歩いていると、山の上にある一枚岩を見つけて登ってみれば、峰々を望む清々しい場所でした。二人はそこで弁当を開き食事を始めます。ときより気持ちのよい風が通り抜けるのでした。

教科書に載っていた作品の一つなので、覚えている方がいらっしゃるかもしれません。

---(ネタバレあり)---

尊敬できる父親がいるということ
ここに登場する正作から偉大な父親という雰囲気がひしひしと伝わってきました。
こういう「尊敬できる父親」ってのかっこいいですよね。「背中で語る」なんてことを言いますが、正作さんからはそのタイプのオーラを感じます。
たしか60過ぎて惇を授かったとかなんとかでしたよね、というととても溺愛してるんだろうな、と思う一方で無駄に父親らしさを見せているんだろうなとか想像します。実際に父親らしさが垣間見せていて、惇が尊敬しているのがいいですよね。
しかし、こういう父親がいるのっていいですよね。いや僕の父親も尊敬できるっちゃできるのですけど、彼(正作)のようなパターンの人間ではなかったので。
と、こういう父親っていいですね、って話題です。

一枚岩の上での食事
あのシーンいい感じでしたよね……。これを読んだ当時はそんなこと全く思わなかったんですけど、あのシーン温かくて本当にいいと思います。父親が息子を見て、期待し眩しい未来を見るような感じがとても良いです。ついで言うとあの一枚岩までの風景描写も良かったです。今までの流れからの「ランチ」ってのが「夏休み(ではないですけど)父親と過ごした大切な思い出」みたいな雰囲気がよかったです。
惇がいう将来の夢は航海士でしょうか、叶うといいですよね。将来なんらかの形で両親を船に乗せるとか、いい親孝行ですよね(想像するだけでしんみりしていてしまう)。

転落
そんな幸せな雰囲気はつかの間で、父の正作が滑落してしまいます。恐ろしいことにけっこう危険度の高い滑落のようで、子供一人どうにもできないような悪い落ち方をしていました。
初めて読んだ当時は「こんなん何とかして助けれれるだろ」とか思ったりしていましたけど、今読むとやばさがかなりあります。もし手元に教科書にて『さつき』がある人は読んでみたらいいかもしれません。ここ(教科書だからなんとかなるとわかっていても)けっこうはらはらさせられると思いますよ。
あれだけカッコつけていた父親がもうどうしょうもない状態にさせられていて、こっちは無力だなんてちょっとした悲劇ですよね……。しかも正作が持っている木の枝も頼りなくミシミシ言っているあたりが不安をより大きくさせます。いやもう動くなって! みたいに思いながらも、「なんとかしなくては」と思いつつ、冷静に考えて「(正作は)片手で枝を持っている」という事もわかったりして、その上に落ちたらやばそうな描写もあったりと絶望感はかなりのものでした。

惇駆ける
惇はどうするのかといえば、駆け近くの小屋にいたおじいさんに助けを求めに行きます。
この行動まぁわかりますけど、今までの展開を踏まえてみると「どうなることやら」と心配になりますよね。はたして惇が無事助けを求めに行けるのか、それまで正作は耐えているのかなど。そして時間制限に間に合うのかどうか、もありますよね。いやぁ、ここらへん読んでてハラハラしました。
結果として近くの小屋にいたおじいさんに惇は助けを求める事ができたわけですけど、ここのおじいさんかなり有能でしたよね。冷静に惇から状況を聞いて、的確に縄をもって、迅速に救助に向かっていますからね。よしこれで助かる! と思う一方「この爺さん何者だよ」って思いました。

救出ができて
惇が遅れてやってくるまでの間、助かったかどうかギリギリまでわからないのが憎い演出でしたよね。まったく最後まで読んでしまったよ、みたいなことになるような物語構成になっています。
(やはり教科書ということもあり助かったということはなんとなくわかってましたけど)ここ、本当に助かってよかったと思いました。正作は腕負傷しながらも、助けられた時点で「もう木にぶら下がることもないですし」と冗談を言えるぐらいに無事でした。
この冗談もそうですが「山の神様に怒られた」というのが、大変なことがあったのになんか爽やかなな読後感につながっているようで、いい言い回しだなぁとお思いました。

【まとめ】
物語とは少し離れてしまうのですが、この話いいようにまとまってませんか。
内容に無駄がないような、気になった事柄がだいたい回収されてまとまっている話だと思いました。それでいて、きちんとエンターテイメント感ある(ドキドキハラハラもある)のだからすごいですよね。それぞお手本、教科書ににしていいような物語だと思います。
まぁ教科書収録作品なんですけどね。やっぱ教科書は教科書だけあって収録作品はおもしろいなぁと改めて思いました。