とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

青年のための読書クラブ

120冊目
誰のためでもなく少女たちによる少女への物語

青年という言葉がタイトルにありますが、この物語の舞台は聖マリアナ学園であり女子校の話になりますね。

この本の中心には聖マリアナ学園があり、時系列がバラバラながら聖マリアナ学園に関連した話題が続いています。収録されているのは『烏丸紅子恋愛事件』『聖女マリアナ消失事件』『奇妙な旅人』『一番星』『ハビトゥス&プラティーク』の5編になります。

烏丸紅子恋愛事件:ここに聖マリアナ学園に入学する烏丸紅子という女性がいた。この女性は当時名門マリアナ学園には珍しい「庶民」であり、言葉も頭もそれほど良くはなく他の生徒から疎まれていた。ただ類まれなる美貌を持っていて、それを見出す人もいた。
聖女マリアナ消失事件:その昔、聖マリアナ学園を作った人物がいた。彼女は日本とは遠いパリの人物であり、おおよそ日本には訪れることもないような人物であった。なぜ日本に渡ることになったのか。
奇妙な旅人:バブル全盛期のこと、聖マリアナ学園もバブルの風を受けていた。いままでおおよそおしとやかな学風だった生徒の中に、成金の俗物な女性たちが入学してきたのだ。聖マリアナ学園側はそんな旅人の影響を受けてゆく。
一番星:赤髪で華がある美貌を持ちながらも、地味で内気な十六夜という女性がいた。彼女は凛子という親友にべったりついていて、おおよそ自分から発言するような人ではない。ただあることをきっかけに彼女は一変する。
ハビトゥス&プラティーク:長年続いていた読書クラブも少子化の影響などで廃部の危機に陥っていた。そんな部員を一人残しもうすこしで廃部だという頃に、読書クラブそのものより先に読書クラブの部室が老朽化により取り壊しになった。聖マリアナ学園も来年から共学となる最後の年という節目の中、妙な出来事が学校内に起こり始める。

基本的に女子校のイベントと思ってくれたらいいと思います。男子がいるようなギラギラした感じがなく女子っぽくって、(比較的ライトですが)女子っぽい陰険さがあるような、そんな話ですね。

-----(ネタバレあり)-------



烏丸紅子恋愛事件
アザミの頭脳によって紅子がいろいろしでかす話ですね。
これ読んで気になった点が2つありました。1つ紅子の唐突な子供を授かり学校やめるの件。
あれ唐突過ぎませんか。「これどうやって終わるんだろ」とか思ってたんですが、まさか物語の裏で男性とイチャイチャしてうっかりできちゃった的な事が起こって、結婚を選び、女子から失望などそんなものをせに受けながら学校をやめる展開になってます……唐突過ぎません?(2回目)。
そこらへん紅子は「自分で考えて」動いてたわけでしたよね。それでできたとかってことですか? いやどちらにせよびっくりでした(唐突な展開と女子たちの手のひら返しに)
気になった点のもう1つは紅子に臭うにおいです。あの妙な匂いについては、作中これといったことが書かれてなかったように思えます。
あの匂いは何だったんだろうか……とか思ったりしましたが、紅子は性にわりと奔放だったのかもしれないその結果としての匂いとすれば、すでに臭う時点で男女の関係を持っていたとか考えてますがさてどうなんでしょう。

聖女マリアナ消失事件
妹のマリアナが兄の身代わりになったとか、そして兄が妹になったとかいう話でした。
まず「妹になりきれるほどの美男子ってなんだよ…」という話です。文章的な描写でそれはそれは彼こそ「憂いる美男子」といったところでしょうけど、いやでも妹になりきれるほど美しってどんだけ中性的美男子なんだよって話です。
それに日本に来てから疑われなかった、ってのはまだわかります。しかしシスターたちは気が付かないってなんだよとも思いました。まぁ兄を失って放心していたからそっとしてあげようという思いわかりますけど……どんだけ似てたんですかね……。
この話で個人的に気になる点は「父親に正直に話していた場合どうなったか」です。
あの妹が身代わりになったあたり、あれこそ「奇跡」だと思うんですが、兄が親子の関係が気まずかった理由で話しませんでしたよね。まぁ仕方ないことかもしれませんが、でもうっかり手紙でもしてみればある意味とてもいいことが起こったかもしれませんし、起こらなかったかもしれない。あのあたり正直に親に行ったルートを考えてしまいました。

奇妙な旅人
バブル真っ盛りの時期のこと、成金でのし上がった品のない女子たち(という表現しか見つからなかった)がいろいろしでかす話です。
おもしろいのはわりと普通に意見が通っているところです。そりゃ生徒会は部屋にミラーボールを取り付けるってのは当然反対したでしょうが、意見書が届いたのなら普通に可決してしまってる……。もっといえばクラブかディスコ的なホールもできしまっている……というのが「これが民主主義かぁ……」となんかおかしかったです。
「流石におかしい」という人はいなかったのだろうか、と気になります。いやいたかもしれません。でも少数派で声が届かなかったのかもしれませんね。
ところでここに登場するバブル組の上の学年の方は読書クラブに溶け込まないまま卒業しました。彼女らが発していた「私たちの未来はとても明るい(意訳)」という発言はなんとも言えません。当時は(バブルが弾けるなんて)予想外だとはいえ、弾けたととすると彼女らはどうなったんでしょうかね。
一方の下級生は読書クラブに馴染んでいました。たしか彼女がこの章を書いてたようで、ああいった内容を当事者側が書いたということになっています。ありのままのことを書いているとは言えそこには事実しかなく、なんかこう、女性っぽい薄情さ的なものが伺えたような気もしました。「私はこちら(読書クラブ)側の人間なんだぞ!」と言っているような気がしたんです。

一番星
十六夜と凛子の話でした。十六夜は気弱で強気の凛子の後ろにいるだけかと思えばロックスターとまでのし上がっています。
凛子は十六夜のことを「よくわからない」と言っています。その理由は確か「なに考えているのかわからない」というもので、恥ずかしがり屋なのに前に出る、率直なのに腹黒、みたいな相反する気質を持っているかとかなんとかでした。
(個人的にそれ、アーティストやクリエイターとしての素質を持っているのではないかなとか思いました)
凛子はその未知数、それがあまりに不安定である種の恐れや憧れを持っていた風でしたが、ここで思ったのは「なんで二人が仲良くなったんだろ」というところです。二人だって多分馴れ初めだってあったはずですから、その馴れ初めがなんなのか気になったりしました。
しかしブームが終わりだしている頃男子校の生徒を凛子と勘違いしてスキャンダルを起こし(無自覚)、さらにはそれを歌にして相手を責めて(無自覚)、終わりにはごめんなさいの手紙を書く(無自覚)、んですから……恐ろしい女です。十六夜さん作中一番恐ろしい女だと思います。

ハビトゥス&プラティーク
五月雨永遠のイタズラの話かと思えば、今まで出てきた登場人物がでてきたりするなど賑やかな話でした。
感想には書いてませんが、今までの伏線が回収されたのもこの話だったりします。女子だけの学校から男女共同になったり、アザミが訪れてみたら色々起こっていたり、などそういった各種の話がまとまってきます。
ところで消失事件で出た占い師の老婆すごくないですか。言ってること大体合うという意味分からない予言しています。まぁ物語だからと言ったらそうなんですけど、これ普通にすごいことだと思います。
さてここで登場した五月雨ですが、彼女はそのガタイの良さを活かしてシスターに扮装していろいろしでかしていましたね。気になったのはここでもシスター変装に気が付かなかったところです。五月雨の変装うまいのもありますが、いやそれ……ガバガバだなおい! って思いました。いやなんというか名門女子学園なんだからもっとこう、セキュリティきちっとした方がいいと思いますよって話です。
ところで、アザミにノートを渡す五月雨は粋でしたね。あれでこの物語が終わったのかと思えば、まさかの紅子登場したりとかしてました。彼女らが元気な間にでも五月雨も喫茶店を知ればいいのですね。

名門女子校という特殊な環境
物語の舞台、「場」がかなり特殊な場所でした。そもそも「1年に一度王子様を決める」というその時点で「え?」となったわけですよ僕。そこから王子様に選ばれることは名誉なことである、王子様は一年間アイドル活動(と僕が表現しているだけです)をしなくてはならない(王子様役もノリノリである)。など本当に特殊な環境だと思い返します。
なにより特殊だと思ったのは、それを女子たちが疑問なく受け入れているところです。「これやっぱおかしくね?」みたいな事言う人がいるのかと思えば、だれもみんな王子様王子様ですからね。まぁ疑問に思った人たちは目立たなかっただけかもしれませんが。
あと女子特有の熱狂的な「勢い(ノリ)」が各種見られて、それはインフルエンザのように広まっているんです。勝手に期待して勝手に失望して憎悪になるなど、そういうところに(これは偏見ですが)女性っぽさがあったように思います。一人男子としてはぞっとしました。
まぁなんというか、僕がこう言っていたとしても彼女らは楽しいでしょうし、楽しいのだったらいいのでは? とも思いました。

【まとめ】
ふと思ったんですが、同性愛者っぽい人が出てきたわりに腐女子的な人物は登場してきませんでしたね。腐女子こそああいった場所に(特に読書クラブなんかに)ワイワイいそうな気がしたのですが。
そう考えてみるとこれだけ女子の話が続いてお菓子の話やダイエットの話とか、もっといえば生理の話とかもしてなかったような。
……とか考えておきながら、そんな生々しい話題わざわざ取り上げる必要はないな、と思いました。ああいう生々しい話は物語の影でしてるんでしょうね。