とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

人間椅子

121冊目
へ、変態だー!

ここに佳子という女性がいます。
佳子は夫を見送ったあと、だいたい夫の書斎で篭もるのが常になっていました。理由は佳子が持っている雑誌の特大号創作のためです。
近頃、自身の美貌もあいまってでしょう、佳子は外務省書記官の夫を凌ぐほどの有名人になっていました。そんな作家には毎日のようにファンからの手紙がやってきます。佳子はそれら一つ一つ丁寧に読む習慣がありました。
ある日のこと、妙な原稿用紙が届けられます。佳子は例に従いそれを読み始めるのでした。


----(ネタバレあり)----

手紙に紛れた原稿
唐突に送られてきた手紙(原稿)こそ、この話題の中心であり、ゾッとするような展開を見せてくれている媒体のようになっています。
個人的に思うのは、「なぜ原稿が作者の手にわたっているのか」というところです。佳子ほど有名で美貌も持っている作家さんなら、だいたい編集とかそういったファイヤーウォール的なものがつくと思いますし、だとしたらそんな妙な手紙(原稿)を先に目を通した上で取っ払うこともしたと思うんですけど……。うーんどうなんでしょう。
まぁ今よりもそういうプライバシー保護されてないとすれば、こう作家の住所はここだよ! みたいな長者番付的なことがあるとすればわかりますね。だとしても、だとしたら当時の作家さんは住所管理とかそういったの大変だったでしょうね。
しかしこう、手紙に紛れてガチの原稿が送られてきたら、原稿そのものの紙の重さもあって「異様感」半端なかったと思います。佳子さん律儀に読んでましたけど。

椅子職人の男
手紙に出てくる告白者は椅子が好きで好きでたまらない、という始めこそプロ意識が高い職人というふうに話が進んでいます。
手紙中盤までは問題なくその男半生かと思えば、その男はなんと「椅子が好きすぎて離したくない。もう椅子と一緒にいたい」とか言い出して(?)なんと椅子の中に空間を作った上で、その中に入り込んでいました。
まぁここまでなら「愛すべきバカ」ぐらいでいいんじゃないかな(よくはない)といえます。ただその男の当初の目的(適当な屋敷に入って盗みを働いて帰る予定)を変更するほどに「椅子になる喜び」みたいなものを途中から見出して、「これこそ祝福」ということを手紙に嬉々として記していました。
いやね、こわいですね。なんというか、理解を超えた変態といいますか、そういったものを感じさせる薄気味悪さを覚えました。でも一方で別に相手に迷惑をかけていないパターンの変態でしたし、それなら問題ないのでは? とも思いましたが……うーん。

いろいろな人を座らせて
手紙の後半、椅子になりきることの素晴らしさ的なものを説いていました。まぁ本人が最高だと思っているのならいいですけど、とても人が入るような空間ではないことは確かです。なのにその椅子になりきることがこれ以上ない喜びだというのだからこいつはやべぇと思いました。
ところで、椅子に座らせる相手が若い女性だけと思えば、別に男性だって老人だってだれでもおっけーみたいな感じがありましたよね。作品全体を見渡してみても、ここらへんうまい表現だと思いました。対象が「(若い女性が一番うれしいけど)誰も座っていいよ!」とすることで読者の大多数に不快感を覚えさせることができますからね。僕もいろいろ楽しげに椅子になりきることを書いてるとこ読んで「あのさぁ…」と思いました。

オチとか
なんとなく察していた物語の答えである、佳子が座っている椅子こそ椅子職人がいる「椅子」につながってきていました。
いやぁ気味悪い話でしたよね。こんな変態行動していることを告白しますからの、実はその椅子いまあなたが座っている椅子なのです! ですから、もう「うわああ」って感じです。
かくしてこの椅子が異常とわかったわけですが、終わりの終わりに「これ物語です。評価お願いします」的な手紙が届いていました。よかった……椅子の中に隠れている変態なんていなかったんだ……と思う一方で、なんでそんな紛らわしいことをしたんだよって話です。
佳子がこの原稿を読んで誤解するだろうと予測できながら、その原稿に概要やコメントやら添付させないってけっこうな悪趣味だと思いますよ。実際に感想もらう相手に対してはする礼儀ではないとは思いますけど。
まぁ仮にそういう「冗談」「単なる物語」だったとしても、読み手を誤解させるような手紙の送り方をしているところに薄ら寒さを覚えました。

【まとめ】
江戸川乱歩といえば推理小説でしたので、この『人間椅子』というタイトルを見た時、これは「さては人間の皮で使った椅子が出てくる作品だな……?」と勝手に想像してました(それもまた狂気溢れる想像でしたが)。
結果として(作中作ですけど)恐ろしい変態が登場するというもので、これもこれで狂気ある話でした。
しかしまぁなんというか、こう身近な物に人が(変態が)隠れているという作品は少なからずや現実にも「疑念」をもたせるかと思います。そう考えると、これもまたホラー作品なのでしょうかね。