ホーキング虚時間の宇宙 宇宙の特異点をめぐって
125冊目
きょ、虚時間……?
加えてホーキングらしい人柄もよく書かれてあり、「ホーキングはこんな人なのか」みたいな楽しみ方もできます。あと彼の人生哲学にも触れていて、彼の著書特有の難解さを解く手助けになりそうな感じもありましたね。
取り上げている内容はブラックホールの中身や宇宙の始まりあたりの考察になります。
以前(2004年)、ホーキング博士がブラックホール理論の誤りを認めたというニュースがありました。その誤りを認めるまでの過程をを眺めているような本になり、内容としては本格的ながら知らない人でもホーキングに触れられる様になっていると思います。
とはいえ、僕にとってこの本はとても難しかったです。よくわからない部分も多く、なのでここで書いてること盲信しないで気になった箇所は各自調べてください。
※今回もネタバレありとありますが、個人的に気になった箇所を挙げていこうと思います。
---(ネタバレあり)---
初っ端のショートショート
これから理科の話が始まるのかと思えば、まさかの竹内薫さんによるショートショートが始まってます。この本を一通り読んでみると、このホーキング周りを巡っていた話題が散りばめられているのがわかりますが、初っ端読んだ時全くわかりませんでした(正直)。
この分からない感覚どこかで感じたような……と既視感が会ったのですが、こうして感想を書いている時に思い出しました。これは難解なSFを読んでいる時と同じような気持ちです! まぁこの作品もジャンルで言えばSFなんですけど。
ホーキングさんについて
作者さんは彼を「アインシュタインとファインマンを足してに2で割ったような人」と言っていました。
実のところ彼は「車椅子に乗ったニュートン」など呼ばれているようですが、作者はそう表現する理由は「初期の研究はアインシュタインの相対論の枠組みで行われ、その後の発展はファインマンの量子論を活用したから」だそうです。個人的に読んでみれば「たしかに」と思いました。
しかし……本人は自らをどう思っているのか気になります。そういえば「ガリレオに親近感が湧く」というふうな文章を見た記憶があります。
彼の考える時空に関して(個人的に)わかりやすい例えが作中あったので引用します。
イメージとしては、ニュートンの宇宙が硬い鉄板の時空だとすれば、アインシュタインの宇宙はゴムのように凹む時空であり、ホーキングの宇宙はそのゴムの表面が泡みたいになっている感じか。その泡がわれわれの時空から離れて独り立ちすると別の宇宙になるわけだし、どこからか来た泡がわれわれの宇宙にくっつくことだってある。
それぞれ時空の捉え方が違うようでした。ここには「光速を絶対」と思っていた人や「重力で光速も変わるぞ」と気がついた人や「そもそもこのままの考えでは宇宙について語れないのでは?」など思った人など……それぞれにエピーソードがあるようですが、ここでは割愛します。
ときに、今までのルール(時空観)をぶっ壊しているとこすごいと思いませんか。「ニュートン」や「アインシュタイン」がすごい! と言われば「偉人だしすごいよな」と思うかもしれませんけど、ここにテレビで見たことのあるホーキングさんが並んでいるんですよ。そして二人の世界を壊してるんですよ。結果的には「ちょっと言い過ぎた(新たな説が生まれたことにより虚時間なくなるかもしれない)」んですけど、なんかこう、時代を築いたって感じしますよね。
優秀な人が紡いでゆく論理
これはどの分野でも言えることなのですが、誰かが何か考えてそれに反論するようにまた誰かが考えて、その考えた説を新たな部品としてまた誰かが使ってみたりして……が続いていく様子がなんとも「熱い」気持ちにさせてくれます。
今回はブラックホールの話題でした。(個人的に頭を整理するために)少し紹介するなら、
まずはじめにアインシュタインが「重力は時空が曲がっていることだ」と言いました。
物体が重ければ重いほど時空は大きく歪みます。それが重力の意味らしく、歪んだ曲がり具合を調べたらそこにある「物体」を調べることもできますよね(詳しくは「アインシュタイン方程式」でググってください)。
このアインシュタイン方程式を使って一度計算してみようと試みたのが、カール・シュヴァルツシルトという人です。
彼は第一次世界大戦に従軍中にてこの計算をしてみるとあることに気が付きます。それは奇妙な境界線があり、その境界線内部に入り込むと、時間が消えて空間が無限大になってしまうというのです(どうでもいいですがバグみたいですよね)。
シュヴァルツシルトはそれが奇妙なのでしばらく調べていると、どうやらその境界は普通の星なら「星の内部」にあるようで、星の外部にはなんら問題がないことがわかりました。
これは「シュヴァルツシルトの解」として有名で、学会ではアインシュタイン自身に朗読されたとか(本人は前線にいるので学会にこれなかったから)。
ちなみにその境界線のことを「事象の境界線」あるいは「シュヴァルツシルト境界線」など呼ぶそうです。
量子論には「パウリの排他律」と言うものがあり、これは「電子同士はくっつかない(反発する)」というものでした。それは、たとえとても重い星が圧縮されていったとしても、電子同士が反発するおかげで星が潰れることないということを示しているわけなのですが……1930年のことです。
当時19歳だったチャンドラセカールが航海中のこと、「太陽より1.4倍重い星の場合、パウリの排他律による反発力でも耐えきれない」ことに気が付きます。
これは大変なことで、仮に重い星がどんどん圧縮され、反発が押さえられないまま圧縮されたとすれば、あの星の内部にあったはずの「事象の境界線(魔の半径)」の中に到達することになるのです。
これにハートランド・スナイダーという物理学者が解決策を見つけます。
いわば観察者の立ち位置を変えたら見え方も変わるでしょ、と言うもので、簡単に説明すると二つ(引用します)。
1 遠くからだと、星はシュヴァルツシルト半径のところで潰れるのをやめて「凍りついた」ように見える
2 星の表面と一緒に動いていると、シュヴァルツシルト半径はなんの意味ももたないように感じられ、星はものの数時間とたたぬうちに完全な点にまで潰れてしまう
というわけで、めっちゃ重い星(ブラックホール)を外から見ると「ある一定の大きさでそのままの様子(凍りついた星)」であるが、ブラックホール内は変わらず圧縮が進んでいるのでそのまま落下してゆくのだそうです。
これは恐ろしいことに「事象の境界線」まで落ちてしまうと、たとえ光速のロケットに乗って境界線から抜け出そうとしても無理だということなんですよね。
一方で外から見ると、境界線辺りで凍りつくのでまるでなにもかも止まって見えるそうです。
さて、この圧縮され続けてるとブラックホール内はどうなるのでしょうか。これがタイトルの「宇宙の特異点」と繋がってきます。
ブラックホールのゆくえ
1965年のこと、ロジャー・ペンローズという数理物理学者が「ブラックホールの中はやがて小さく小さくなり、最終的には点にまで潰れてしまう」と主張します。でも点は更に小さい点になり、それもまた小さい点になるのだから、やがては点がない状態……体積ゼロになるというのです。
その最終的にゆくつく点(特異点)はなんなのかというと別に悪い特異点ではなく、(作中表現の引用ですが)いわば北極点のようなもののようです。地球に北極点という特異点はありますけど、そこには地球内部に続く穴があるわけでもないように、ブラックホールの特異点もそこには別になにもないのでは? というわけです。
けれども一方でそんな事を言ってられない「モノホンの特異点(ブラックホールの芯)」がブラックホール内にあるはずです。そこは圧縮され尽くした「時間と空間の終わり」の特異点というわけです。
まぁここで本ではいろいろな論争やらリフシッツやら登場するのですがそれら端折っておいて、ホーキングはペンローズと協力してブラックホールの芯について考え始めます。
そして答えが出るわけですがそれがあまりにシンプルで、「それってありなのかよ!?」と僕は思ったりしました。
物理学をやっていると時間を逆さにしても計算がなりたつようで(時間反転)、それをホーキングはブラックホールの芯でも同じことをしたというわけです。
ブラックホールに吸収されて特異点にゆく様と、特異点から空間が広がる様(逆にしてる状態)にしたら「その芯こそ時間が始まる点」ということになり、時間が始まる点となると「もうそれはビックバンではないのか?」とホーキングの考えはじめます。
この発想はすごいことだと思う一方で、この話をカトリック教会が公式に支持したってのがおもしろい話題でした。
ホーキングに翻弄される教会
教会がホーキングの意見を支持した理由は2つあります。1つ目に「宇宙に始まりがある」という特異点定理(上のやつです)こそ、一部の人達から「神の存在証明」だと捉えられたこと。もう1つが前にちょろっと出したリフシッツ(ソ連の方でした)を否定する論理だったから、だそうです。
さて、ホーキングを公式に支持したカトリック協会側でしたが、ホーキング自身はと言うと「その特異点とはなんなのだろうか」と考えていました。彼は純粋にビックバン(ブラックホールの芯)を解き明かそうと、量子論に手を出すわけなのです。
日本は宗教がゆるいっていうか多種多様な感じだからあんま感じない問題かもしれませんが、カトリックが「神の存在証明だ!」と嬉しげに言っている中にホーキングはと言うと、「あんなかどうなってるんだろ」といわば「神を証明する」みたいなことをしているってことですよね。妻がクリスチャンだと言うのに(この方とは離婚してます)、カトリック教会も「やめてくれ」って言ってるのに、ホーキングは気にせず照明をしようものだからまったく、神をも恐れない的な話でしょうか。
参考文献など
後ろにある参考文献リストのうちホーキングに関連したものだけまとめとこうと思います。
◯ホーキング、宇宙を語る
ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: スティーヴン・W.ホーキング,Stephen W. Hawking,林一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1995/04
- メディア: 文庫
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◯ホーキング、未来を語る
- 作者: スティーヴン・ホーキング,佐藤勝彦
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2006/06/29
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◯時空の本質
ホーキングとペンローズが語る 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ
- 作者: スティーヴンホーキング,ロジャーペンローズ,林一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
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◯時空の歩き方 時間論・宇宙論の最前線
- 作者: スティーブン・ホーキング他,林一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/07/22
- メディア: 単行本
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◯Hawking on the Big Bang and Black Holes
Hawking on the Big Bang and Black Holes (Advanced Series in Astrophysics and Cosmology)
- 作者: Stephen W. Hawking
- 出版社/メーカー: Wspc
- 発売日: 1993/09
- メディア: ペーパーバック
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◯The Large Scale Structure of Space-Time
The Large Scale Structure of Space-Time (Cambridge Monographs on Mathematical Physics)
- 作者: S. W. Hawking,G. F. R. Ellis
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1975/02/27
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◯スティーブン・ホーキング 天才科学者の光と影
スティーヴン・ホーキング―天才科学者の光と影 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: マイケルホワイト,ジョングリビン,Michael White,John Gribbin,林一,鈴木圭子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/09
- メディア: 文庫
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◯ホーキングさんの公式サイト
URL:Stephen Hawking - Home
【まとめ】
天才っているんですね。まず前提条件の知識すらなかった僕でも「そこに気がつくとはやはり天才か…」といえるような、逆転の発想、突然のひらめき、そこからいろいろ常識が変わって行くような感覚になりました。
ただ彼自身の問題が気にかかりましたね。これは彼の問題というべきでしょうか、彼も一人の人間で、周りの人も人間だそうで、その人間らしい泥臭さがどうしても彼の周りを漂っていました。これだけの偉業を成し遂げている人なのだから、いい余生を過ごしてほしいと願いますね。