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とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

この雨が上がる頃

大門剛明 推理小説

126冊目
同じ雨の日に

この本には計7編の短編が収録されています。すこしあらすじを書くなら、

『この雨が上がる頃』
法律事務所で働いてる高島沙織は週末になると決まってレンタルビデオを借りていた。この日も彼女は週末というのに予定がなく、愛車を走らせて一人寂れたレンタルビデオ店へ向かう。その先、レンタルビデオ店には白のランサーエボリューションが停まっていた。これは沙織がひそかに気を寄せている土谷弁護士のものだった。

『雨のバースデー』
放課後、六年B組はもうだれもいなくなっていた。工藤修斗は遅くまで服部先生に叱られて、これからやっと学校から帰ることができる。「今日は誕生日だと言うのに……」と修斗は服部先生の愚痴をこぼしながら下駄箱を開けると、そこには手紙が入っていた。宛名を見るとクラスの中でも一番かわいい吉田妃菜からだった。ラブレターをもらったことがない修斗は浮足立つのを感じていた。

『プロポーズは雨の日に』
夫の孝則と娘の夏帆は亡くなった妻であり母親のお墓参りをしていた。その流れはいつもどおりながら、父の拝む姿を見ながら夏帆は、最近気にしている父の動きを不審がっていた。なにも、こそこそとなにかしているらしいのだ。なにか企んでいるような、なにかコソコソしているような、それは女性と会うようで、夏帆はそんな父親を漠然と不審に思っていた。

『密室の雨音』
雨の日の高級フィットネスクラブ、菊川由希菜は震える手で蔵元愛梨のロッカーをあさっていた。愛梨は最近フィットネスクラブにやってきたきり注目の的になっている。それまでは由希菜が注目の的になっていたのだが、流石に愛梨の若さ、金持ちの娘という境遇、愛くるしさにはかなわないことも自覚していた。けれども由希菜は愛梨に嫉妬心を持ちながら、愛梨のロッカーにある金色の腕時計を手に掛けた。

『軍艦橋に降る雨』
佐山巌は連日将棋クラブに通っていた。いわゆる冴えない中年、いや老人といった彼は、自分の人生をまるで不運なように思っていた。ある日のこと、彼はこの将棋クラブにやってきていた間垣という青年にお金を騙し取れていたことを仲間から知らされる。ただ佐山から見れば間垣は苦学生であり、自分と似たような匂いを感じていた。それなのにこの仕打ち、と彼は落ち込み、真意を確かめるべく間垣の住むボロアパートに足を運ぶ。

『記憶と雨とニート
36歳でなおニートをしている栗原賢也は薄っぺらい人生を送っていた。親のお金で一人暮らしするも、怠惰のせいで体重はみるみりゅ増えていた。ネットカフェの帰り道、賢也は自転車をパンクさせてしまい、しょうがなく歩いて近くの公園を通り過ぎようとするその時のこと、公園に若い女性が立っていた。彼女はとても美しく可愛げで、賢也は人生とは相反する存在に思えていた。そんな女性は賢也に「わたしはだれなのか」と尋ねた。彼女は記憶を失っていたのだ。

『地検の通り雨』
黒い噂が絶えない地方政治家である江上洋二郎を追い詰めることができた谷原正也は検事として事情聴取に手を付け始めていた。一方で黒い噂が絶えないとはいえ、全く尻尾をつかめなかった江上をなぜここまで追い詰めることができたのか不思議がっていた。なにも、今まで情報のすべて謎の人物からの電話によって進んできたからだ。谷原は名乗ろうとしない謎の人物に疑問を持ちなら、たしかにある証拠を眺めていた。

「ある雨の日」をテーマにしている短編集になります。
物語が始まる時間こそまちまちだとはいえ、それぞれの物語が始まってやがては「同日の雨の日」に繋がってきていますね。
とはいえ、物語はそれぞれバラバラなので、それぞれの物語が続くことになります。


----(ネタバレあり)-----

この雨が上がる頃
初っ端からレンタルビデオ店を占領するという展開は異様ながらも、全体的な異様が解決された時「な、なんだってー」みたいな感じの物語になっています。その流れはとてもきれいにまとまっているなぁと読んで思いました。
しかし、銃を持った沙織が「私が銃を持ちます!」発言は盛り上がりましたし、終わってみてあれは墓穴を掘っていたと知ったときは「おもしろかった」と思う一方で「あの計画してた人達、よくアドリブで任務完遂したよ……」と思ったものです。
ところで沙織が人質の女性を見た時の評価が「いいところのお嬢さんなのだろう」でしたが、終わってみれば見事に自分を皮肉っているような事になっていますよね。

雨のバースデー
この物語もまた「な、なんだってー!」といった物語でしたよね。上の『この雨が上がる頃』をサスペンス型のミスリードだとすれば、こちらはホラー型のミスリードといったところでしょうか、最後の一文でひっくり返す形の物語になっていました。
この話、今一度思い返してるんですが、思い返したからこそ修斗の不気味さがいっそう際立っています。某バーロー名探偵と自分を投影している部分とかもう……(まぁ本人も名前とメガネぐらいしか共通点ないとか自覚してましたけど)、そもそもいい年してそんな子供っぽいポスター眺めて自尊心高めてる時点でもうやばいと思います。
まぁなんていうか、そんな彼でも謎を解明して「真実は1つだが解釈の仕方は1つじゃない(意訳)」的なことを言ってて、かっけぇことをしてました。でもそれですら、成金の息子だったからと思えば、「てめーのせいでもある」という気持ちになってしまいます。
てか物語が解決したようで解決していませんよね。この輩を野放しにしていて、妃菜ちゃんが気が気でないです。

プロポーズは雨の日に
これも雲行き怪しい雰囲気ありましたけど、娘である夏帆の誤解だということでめでたしめでたしとなっていました。
この物語には真奈美という体を売っているような女性が登場します。体を売っているとはいえ、彼女は心はきれいな人のようで(そういえば心がきれいな登場人物けっこう出てきましたよね)、そのきれいな心が孝則に認められて……でも実は追い詰められていていました。ディナーでは孝則の信念の強さに感心してました。
ときに個人的に気になっていたのは富子ですよ。彼女、普通に家政婦してましたけど、警察官であって鍵も破ってましたよね。まぁ彼女の推理は外れてましたが、その個性の強さに作中トップレベルに印象が残っているキャラクターになります。

密室の雨音
初の主役キャラそのものが犯人かと思えば、犯人にならざるをえないような展開になっていました。
由希菜が盗んだ金の腕時計すら、実は愛梨が盗んでいたり、別に愛梨が時計盗まれてないことがわかったりして「よかった悪い人なんていなかったんだ……」みたいな読後感がありました。いや、普通に万引きしたやついるんですけどね。
気になるのは、ノリノリで推理していた遠野ですかね。ノリノリなのはいいですが肝心の動機について深く考えてなかったこと、そもそも思い込みが激しかったこと、など問題点が(あの情報量では難しいかもしれませんが)あったように思えます。まぁあの場で正義振りかざしたくなるのはわかります。
さて、終わりあたりで由希菜は愛梨をかばうように、濡れ衣を着るようになっていました。あの後どうなるかわかりませんが、愛梨には改心してほしいものです。

軍艦橋に降る雨
冴えない中年男性が巡り巡って生涯ずっと好きだった女性と再開するという流れは、いい話だなーという感じでした。
この物語で注目すべきはやはり麗音ちゃんですよね。彼女には幼いというのにすでに包み込む優しさが溢れていて、とてもよろしいことだと思いました。麗音は文字通りこの物語のキーマンであって、彼女がボランティアをしているから、こうして巡り会えたんですよね。いやぁ、良かったなと思いました。佐山が感じた「葉子かと思った」というのもあながち間違いではなかったようです。
ところで事件のことですが、間垣は残念でしたね。貧乏に不運が重なってこんなことになり……やはり貧困だめですね。

記憶と雨とニート
ニートが(良くも悪くも)大活躍する話です。思うんですが、ニートの彼は巨漢でそれはそれは見るからに「やべぇやつ」感があったでしょうし、そんな彼が全力タックルをしたものだからもう、男性も吹き飛んで当然ですよね。そしてその男からボコボコにされたならもうボコボコも無理はないですよね……。
一方、その旦那からDVを受けていた女性の真希ですが、作品通して読んで、おそらく彼女が(ヒロインっぽいという意味で)女性らしい登場人物だったのではないかと思いました。それほどに「(それはいわゆる2次元的な)ヒロイン!」という魅力を感じる、そんな浮世離れした魅力的な人なのだと思いましたね……。思い返してみると、その浮世離れした雰囲気を出しているのは、記憶喪失していたということと、彼女自身の素直さにあると思います。
しかし、この物語を思い出してみても、これはいわゆるメリーバッドエンドなのでは? と今思ってます。

地検の通り雨
今までなんだかんだで色々なジャンルの物語を見てきましたが、これはより一層ミステリー色が強い物語でした。
実のところ、この作品について途中まで「これ綺麗に終わるのか」と疑問に思ったりしていました。なにせ怪しい人物がけっこう登場しましたし、それでいて犯人が真っ黒なのは(証拠などから)確実だとわかっていたのに、妙な違和感がある雰囲気が立ち込めていたんですからね。その妙な感じは、なんかこう『逆転裁判』を彷彿させました。
ところで、ここで登場した若い検事はとても有能でしたよね。しれっと出てきて決め手となる情報をもたらし、先輩に花を持たせてますよ。個人的に作中一番の切れ者だと思います。
有能で思い出しましたが、この作品に出てくる絵里加さんもなんか印象に残ってます。ま、最後の物語だからってこともあるかもしれませんが。

【まとめ】
こういう表現をしていいのかわかりませんが、この本読んで思ったのは「普通におもしろかった」です。これは70~80点ぐらいの作品が並んでいるという意味で言っていて、完成度の高い物語が多かった気がしている意味で言ってます。
一つ一つの物語がそれほど長くもないんですよ。文体も読みやすく、個人的に好みの展開も多く、おもしろかったんですよね。でも(こう言ったら失礼だとは思いますが)特別めっちゃおもしろい! ってわけでもなかったです。なんて言ったらいいんでしょうか……見てなかった高評価のドラマ再放送見たら普通におもしろかった、ってな感じです。

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