とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

星の綿毛

128冊目
ある砂漠ばかりの星の話

砂漠ばかりで日中60度にもなることが珍しくないこの星では、およそヒトが過ごせないような環境下でありました。
そんな中でもヒトが生きれる理由というのは「ハハ」と呼ばれる銀色の物体があるからであり、「ハハ」の後を追うように緑が形成され、「ムラ」ができるからです。
この「ハハ」とは地方でそう呼ばれている銀色のおそろしく大きな壁のようなものです。その銀色の物体は光りながら先を進みながら不毛の大地を耕し、種子を植え、森を作ってくれます。このハハが通る道がいわば森となるわけで、森に沿うようにムラが形成されるので「ムラ」を上空から見れば川のようになります。

そのムラ(ヘリソリ)に住んでいるニジダマという少年は、この砂漠のどこかにあるという「トシ」に夢を持っていました。
ムラとトシの接点と言えばたまにやってくる交易人ぐらいなもので、それ以外はなにもわからない優雅な場所だという想像程度です。交易人とはトシからドウグををもってきてムラから食材などを交換していく職業についているヒトたちです。
ハハは「ドウグ」を作ることができないので、仮に鉄の鍋だとしても、それは貴重なドウグになるので交易人はムラからとても重宝されていました。

ニジダマはその人達がいつ来るのかという話題を嫌なほど聞いていました。
ニジダマに与えられた落ち穂拾いは面倒で、ニジダマはわざと遅れてきたり、手を抜いたりなどしながらその話題を聞いて、ついに「そんなドウグがほしいなら、トシに行けばいいじゃないか」と言います。
周りの人たちは言い訳をするように、ムラから出ないことをまた話し始めます。
ニジダマは飽き飽きとして、その場を後にしました。

ある日のこと、交易人ツキカゲがムラにやってきます。彼は村人から歓迎された後に、案内人としてニジダマを指名します。ニジダマはドキドキとしながらムラの案内をしたその後の夜、ツキカゲが「一緒にトシに来ないか?」とニジダマを誘うのです。


-----(ネタバレあり)----



ヘリソリというムラについて
物語のはじまりのムラこそ、この物語の始まりであり終わりの始まりをやらかした場所でもありましたね。
この物語が続くことによって、ヘリソリってムラめちゃくちゃになりましたけど、ならなかったらそれでこそ「平和なムラ」だったんだろうなとか思いました。ちょくちょく交易人など登場が生活が便利になるとか捉えているも、今思えばドウグなくても問題なく過ごせそうですし……。
しかしムラに奇妙な雰囲気ありましたよね。「ハハ」がその元凶といえばそうかもしれませんが、個人的には女性が一人もいないところがとても不気味だなと思わせました。まぁ争いがない平和な様子はわかっていても、仮にあの場に女性がごくわずかでもいたらそれでこそ問題が起こりまくりそうな気もしますが。

交易人の苦労
砂漠の世界を横断して「ドウグ」を売って「食料」を調達する交易人の苦労さは計り知れないものだと思います。
仮に遺伝子を変えて適度に「なんとかなる」とはいっても、それは「なんとかやり過ごせる」程度の話だと思いますし、あんな生活を40日と続けてやっと訪れたムラで雑な扱いをされたらと考えると恐ろしいです。それに食べ物だっておかしな(まぁムラからすればおかしくないんですけど)事になったりと気も休まらないでしょうし。こういうのなんですが……苦行なのでは……。
そんな仕事をツキカゲは誇りを持ってしていました。中盤あたりで「トシ」とは「記憶」みたいなものだとわかったわけですけど、それでやめていく人が多い中でツキカゲは交易人を続けてました。
そういえば、現実の世界の食料をどうやってトシの中に入れたんでしょうかね。ツキカゲがトシの中に入る様子からヒトは中にはいることはできるんだろうなとはわかりますけど、大量の食料となると難しいのではないでしょうか。なんか宅配サービス的なのがあるのかもしれません。

トシと都市のしくみ
トシとは、まさかの「仮想世界」だそうです。思わずとあるラノベを連想しました。
思えばここらへんから一気にSFっぽくなりましたよね。まさかのトシがないみたいなとこから「ここに取り込まれているんだ……」みたいな感じになって、なんだかんだあってクロモジやツキカゲがなんとかしようとするみたいな感じになってます。
トシについて個人的に気になったのは、その人間の実態はどこに行ったのか? というとこでした。ヒトがイシコログサに取り込まれて、おそらく「データ」として読み込まれて……という流れはわかりましたけど、そのデータになったカス的なイシコログサの中にある「ヒトの抜け殻」的なものはその後どうなるんでしょうかね。
たしか途中にツキカゲがイシコログサから出てくるシーンから、イシコログサの粘液がたくさん絡みついていたとかなんとかされた様子からすると普通に消化されるのかもしれませんね。そういえば、なんかそういうゲームあったような気が……。

銀のアレ
終わってみれば、あの「銀のなにか」についても正体がつかめたりしたのですが、仮につかめたとしても「あれってなんなのだ?」という疑問が残ります。
物語終盤あたりに、銀のアレ(ゴライア)の真骨頂を見ることになるわけですが、それがまた不気味で(特に人間の再現など)、どうにも不完全な機械感が抜けきれませんでした。まぁその不気味さ、SFっぽく考えたらいいと思います。
ところで素朴な疑問なのですが、あんな銀色で大きな物体が砂の上で沈んでないってのが不思議ですよね。物語終盤あたりであれは「生き物に近く」「ナノマシーン」とかわかってきていました。あと「放った」というふうから、最初のゴライアは小さいサイズだということも想像させます。そう考えると成長していることになり……SFっぽくていいですね。

その後の話
あの種子が飛ばされて、なんか良い感じに終わってますけど、あの種子は「みんなのデータを運んでいる」ってことでしょうか。
そもそも最後の宇宙船にはみんな乗っていた――、ということからイシコログサとゴライアが融合して「答え」を出したとかなんとかというのはわかります。そして種子は宇宙のどここかに飛んで行って、あれが新しい星にくっついて、いろいろ動き出すってことなんでしょうかね。
個人的にそっちはいいんですよ。気になるのはゴライアの後ろにあったヘリソリですよ。ゴライア消滅してましたし、食料がなくなるのは確実とみれますが、そうなると困る村人たちはどうなるのでしょうか。ろくな知識も持たずに、砂漠に放り出されるのだからそれはもう、せめてイシコログサの使いみちを知っていれば……とか書いてて「ツキカゲは星測師にそんなこと言ってたような」と思い出しました。上手く使ってくれたらいいのですが。

【まとめ】
冒険系の話かと思えば、星の話になって、星から脱出しようとして、いろいろ秘密を知るような話でした。
個人的に気になったのは、物語中盤あたりになって銀のアレとトシの秘密に触れたあたりからのバッドエンド臭がぷんぷんしだしたことですかね。物語が続くにつれ匂いがどんどん強くなってきていましたが、最後の最後で未来に繋がるパッピーエンドみたいな雰囲気になって良かったなと思いました。
ところで地味に終盤のニジダマやノノフシが銀のあれから生成されたりしたあたり、あのあたりに生まれてきたヒトたちの意識がどうなってるのか知りたく……やっぱ、知りたくないです。