とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれる!SE4 誰でもできる?プロジェクト管理

140冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

桜坂工兵がスルガシステムに入社して4か月、7月になりました。
相変わらずの忙しなさに工兵は参りながら、上司の室見とともになんとかこなす日々を過ごします。

先日工兵自身がとった大型案件である業平産業との仕事も動き始め、ただでさえ忙しいのにすべてこなせるのか不安に思うそんなある日のこと、徹夜明けの桜坂と室見は社長に見つかり強制的にある案件のキックオフに参加することになるのです。

その案件とは、とある出版社の引っ越しのようで、引っ越しをするにあたっての機材移動、もっといえば向こうの物件の回線の整備、すぐに動き出せるような状態を作るというものです。
案件は幅広くすることがあるので、プロジェクトリーダーを中心に何社とも連携して行っていくそうでした。
工兵はそのミーテングに参加しながら、会社同士の情報交換があまりできてないことや、顧客自身がやる気がないことや、そもそも行う仕事の範囲が不明だとか、いきなりのぐずぐずっぷりが気になりましたが、それらを気にするほど体力が残っていませんでした。

社長がいるため余計な仕事を増やすかもしれないと工兵と室見がひやひやしながら待っていると、終わってみればどうにもWANルータの移設と確認作業という簡単な仕事のようで二人はホッとするのです。

ミーテングの方はうやむやに終わり、とりあえず仕事の範囲を決めたいということで、個別に打ち合わせをすることになりなります。
つまりミーテング延長ということになり、工兵は待ち時間やれやれと自動販売機に向かいます。するとさっきのPMを見かけます。本来なら他社と時間調整などの打ち合わせをしている時間だというのに、と工兵はPMに声をかけてみると、彼もまた無茶な要求に疲弊している一人だそうで、すでに欠落寸前の危ない雰囲気を醸し出しているのです。
かかわりたくない工兵は彼のもとから離れるのでした。

ほどなく、「先方の取締役に挨拶をするから同行しろ」と社長の指示を室見と工兵は受けます。
工兵と室見は呼び出された会議室に向かい、向こうの重役と社長が歓談しているのを眺めていると、その会話の途中、取締役に「例のPMが逃げた」という情報が入ります。
ひどく混乱する取締役の一方、社長は目を光らせます。この直後、工兵と室見はひどく絶望するのでした。


ーーーー(ネタバレあり)----




逃げたプロジェクトマネージャー
冒頭で工兵がプロジェクトマネージャー任されたという風から、「あぁ…なんかに巻き込まれたんだな…」と思ったりしましたが、まさか元のプロジェクトマネージャーが逃げて、その代役として(半ば強制的に)選ばれた展開は意外というより困惑というより絶望感ありました。
工兵は戸惑っているって感じでしたけど、あれは戸惑いとかいうレベルじゃないぐらいに恐ろしいものでしたよ……仮に僕があの場にいて、プロジェクトマネージャーが逃げて、たまたま居合わせたせいで「代わりのプロジェクトマネージャーになってくれ」と言われて否応なしにあの場に立ってたら……と考えるとぞっとします。立ってるだけでトラウマになるレベルですよ。
任されて立っている工兵すごいです。まだ入社して4か月なのに。

前途多難のプロジェクト
そもそもの顧客が無関心ってところがもうだめですよね。物語後半になって(そういう仕組みがあるとはいえ)料金が支払われてないままプロジェクト開始してるパターンだそうで、もっといえば見積書でしたっけ? それすらもらってないというプロジェクトとしては破損しまくってます。
こう前提条件から壊れているプロジェクトって実際あるんでしょうけど、やってる身からすればたまったものじゃないですよね……。せめて顧客がしっかりしてほしいものです。企画を投げて、あとはプロジェクトマネージャーに任せますっていう適当さを何とかしないと、おそらく今後なんかやらかしてしまうと思いますね……。作中出てくる顧客の姿勢は終始「あーもうめちゃくちゃだよ」と思いました。

奔放する工兵と強力な助っ人
そんな大変な案件のプロジェクトマネージャーになってしまった工兵、なんとかしようと参考書を読んでみたり、ネットで調べてみたりと手当たり次第に試行錯誤しています。
結果的には「正確だけどめんどい報告書」みたいなものができて、周りのメンバーから疎まれて反応薄いまま(というか主に顧客失言によって)ミーテングが失敗しています。
そんな失意のあるころに、「飲み友達」こと橋本さんが現れます。
橋本さんプロジェクト関係っぽいことしてたらしく、とても端的に工兵にアドバイスしてくれてました。もっといえば工兵に喝を入れてくれたりして、工兵をある意味支えているような展開になっています。前回の敵キャラが仲間になった感じで熱かったです。
余談なんですが、橋本さんの見た目によらずメールかわいらしく、そのギャップに自分かなりやられました。なんか橋本さん、家の鍵とかにかわいいキーフォルダーつけてそう(偏見)。

室見の領域
お酒を飲み倒れた室見を担いで、工兵は初めて室見のプライベートな場所に立ち入ります。そしてそこは異様な場所でした。
不気味に思った工兵はうずくまってしまい、あとに来たカモメさんに任せているので、その後のことはわかりませんが、あの家の話……もっといえば物語後半に出てきた謎の物置部屋? 工兵が室見の大切そうなファイルをもらったあの空間、それらの気になることが謎のままでしたよね。なんとなく室見の周りについて予想はできるんですけど、それはあくまで予想なんですよね……室見さんっていったい何者って感じです。今後わかってくるのでしょうか。

加奈子
今回の巻の敵キャラ? というか対抗してきた女性です。
一通り読んでみると「彼女も彼女なりのプライド」があったとわかりますし、仕事を第一に考えてるからこそああいった強い言い方になってしまっていたということがわかります。
けれども、それでも堪えていた工兵には強すぎたようで、工兵は正論を感情的にぶつけてしまっています。まぁでも工兵も工兵としてああいった強い言い方をしてしまうのもわかります。傷つけあっていますが、最後は雨降って地固まるみたいになってよかったです。
どうでもいいですが、加奈子の課長がやたらと工兵を気にするようになり「どこまで進んでるんだ」と加奈子に聞いたところ、加奈子は「(仕事の進捗だと勘違いして)作業の進捗を伝えてる」というエピソードは正直草生えました。

結局は室見さん
ギリギリまでスケジュールを詰めても、ギリギリ合わないと気が付いた工兵は一つの工程をスルガシステムで賄うことで時間を圧縮しました。
問題はその圧縮作業は工兵が想像するよりも難しいことだったそうで、室見が悲鳴を上げています。僕には実際どういうレベルで難しいのかわかりませんが、たぶんめちゃくちゃな難しい(同時にこなしている案件を想像したらなおいっそう時間的にも難しい)と思いました。終盤あたりではぶつぶつ愚痴りながら仕事を考えている姿があって、成功しているのかしてないのかわからないんですよね。でも室見さんなら何とかなるんじゃないですかねとか思います。たぶん。
今回の話は工兵だけではなく、室見もなかなか無理をしているような気がしました。慣れないことをやってる感じもあるようで、それが負担になりながらも工兵だからやるみたいになってます(いいですね)。
(ただ無理ばかりはいけないと思うので、せめて工兵くんは室見にツナの大盤振る舞いをするようにしてください)

【まとめ】
ストレスが溜まる巻でしたね……。工兵が社長に怒鳴られたあたり、ちゃんと録音して労働組合に報告したらかなり厳しい処罰入りそう(白目)と思いました。パワハラパワハラあんどパワハラでしたから。今回はプロジェクト管理なんとかなってますが、次に社長に詰められるシーンとかあったらぽっきり折れてしまいそうでこわいです。工兵くん無理しないで……。

ところで余談ですが、最後あたりに工兵が藤崎さんに訊ねてるシーンがあるんですよね。

「あ、そういえば藤崎さん。一個だけいいですか?」
 うん? と藤崎が顔を向ける。工兵はわずかに逡巡した後、訊ねた。
「藤崎さんにとって……プロジェクト管理ってなんですか?」
「みんなが気持ちよく仕事できるようにすること」

ここ、なんか「いいな」と思いました。