とある書物の備忘録

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なれる!SE5 ステップ・バイ・ステップ?カスタマーエンジニア

143冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

連日終電帰りが続くような会社に就職してしまった桜坂工兵は疲弊した中で大きな喜びに満ちていました。

否応なしにやらされることになったPM案件、もとより全く知らないところから無茶ぶりでやらされていた会社移転の仕事を2ヵ月を経て完遂したのです。

以前から無茶ぶりなどありましたが、今回ほどの無茶ぶりはかつてなく、かつ(周りに恵まれたとはいえ)初の責任者という立場だったからもあってか、工兵はいっそう仕事を達成した充実感に満ちていました。
「今日はもう帰っていいんですよ」
工兵は上機嫌で同じ会社にいるパートのカモメさんに言います。今日の仕事は確認だけでよく、加えて代休申請してる明日金曜日休みとすれば三連休、加えて今から早退もできちゃうという状況なのだから仕方ありません。
カモメさんは工兵の努力を労いながら、これからある工兵の休みについて雑談を始めました。

上司の室見や藤崎が2人とも不在であり、ふと工兵は自分が帰ってしまうと会社にカモメさん一人になってしまうのに気がつくと、「そんな気にしなくていいよ」とカモメさんは言います。そして「そんなこと気にしないで、ぱっとリフレッシュしておいで」と言うのです。
「お言葉に甘えて」と工兵は室見に報告メールだけ書いておくことにしました。
文面もできて送信ボタンを押そうとした時のこと、ぴょこっと新着メールが届いたことに工兵は気がつきます。
開いてみると、ある顧客から「連絡先の顧客リストを送ってほしい」とのことでした。これはあまり時間がかかるようなものではなく、工兵は少し迷って「いっそ今やっつけようか」と仕事に取り掛かるのです。

あとちょっとで終わる、あとちょっとで終わる、と仕事をしているうちに定時になっており、カモメさんは心配そうに声をかけます。工兵は「心配ないです。すぐ帰りますから」と言いながら残業に突入するのでした。

そしてある程度疲労を感じたとき、あるいは自分の仕事中毒さに薄気味悪くなったとき、スルガシステムは社長をはじめ突発的な仕事が舞い込むことが日常茶飯事なのを改めて思い出します。

急に恐ろしくなって家に帰ろうと、慌ただしく帰宅の準備をしているときのこと、入り口の向こう側に小さいシルエットが見えたのです。
ぞっとする工兵でしたが、もう遅く。それから強引に、ほぼ強制的に室見の話に付き合うことになるのです。

ーーー(ネタバレあり)---




ワーカホリックの才能
しょっぱなの工兵君、様々なところで出てきた才能がここにきてはっきり形になってしまった感がありました。
彼自身、徹夜で会社に行けるような人間であるらしく、その徹夜明けに理不尽な客対応にも応じれる人でもありましたが、まさかここにきて一仕事終えた後にさらに仕事をこなしているという姿を見せています。つよすぎ…。
いや別に、やってもいいんですよね。一仕事終えた後についでに仕事をこなしているっていうやつ。しかしですよ。しかし、彼の場合は全力で走った後にまた走り出そうとしているやつじゃないですか。あれはさすがにやめた方がいいと思いますよ…。
彼は走ったついでにやっておこうのつもりでしょうけど、さすがにそれはちょっとやりすぎなのではと思ってしまいました。待ち時間にシュレッターを使ったあたりから「たまげたなぁ…」って読んでて思いました。

情報が行き届いてない
今回のテーマであるカスタマーエンジニアですが、このカスタマーエンジニアというのは「できる範囲が決められていて」なにか問題があったら「連絡をして指示を仰ぐ」というものでした。
これのせいでラムダコムとの連携がうまく取れない時の待ち時間などそのまま問題になっています。まぁ書いてしまえば「ラムダコム側がいろいろ不足していた向こうが悪い」と言えるわけですが、そうとは言ってられないのがカスタマーエンジニアのつらいところのようで、実際に現場にいるわけですから顧客の対応をしていかなきゃならないわけなんですよね。
ラムダコム側の「ちょっと待ってください」と言って仮に迅速に方針を決めていたとしても、その間は現場にいる人は「待っている顧客」共に待機ってわけですから何とも言えない気苦労があるでしょうね…
ましてや今回のラムダコムのように、連絡先がずさんなものだとしたら、ストレスに挟まれてとてもとても受話器を投げてしまいそうな感じがあります。最後までやり通した室見と工兵は大変だったのに完遂してすごいと思います。(かといってブルドックさんも、そのたラムダコム側も大変だったと思います)。

梢さん
物語中盤あたりで梢さんが登場します。彼女が登場したとき帰省中だったらしく、たまたま出張中の工兵とぱったりであったらしいです。
らしいというだけあって、今までの展開(暗に工兵がサイコなところ気がついているなど)からしてほぼもう梢は真っ黒みたいな感じになっています。工兵もそんな人に付きまとわれるなんて大変な話で……と書いておきながら思い返してみても、そういうサイコな部分を除いたら梢さんはとてもいい人だと思うので、工兵から見ても悪くない相手なのかなと思ったり思わなかったりしています。
ところで一つだけすんなり終わった案件ありましたよね。あのあと梢とのデートやら、室見の呼び出しからの出張やら、ケーブルがないやらで何事もなかったかのようになってますけど、あれなんですんなりできたのか説明されてないところが逆に不気味な印象として残っています。まさか、まさかね……。

工兵の里帰り
いろいろな不運が重なって、工兵の家にて室見と工兵は一夜を過ごすことになっていました。
ここの出だしの妹といい、父親といい母親といい、ちょっと古風ですが明るい家族なんだなと思いました。ただちょっと工兵に対しての信頼が薄いようで、それのせいで結構なドタバタが起こってました。
このドタバタを経て、室見が風呂の中で何を思っていたのかは想像の中に置いておくとして、ここで妹が室見と会話していたそうです。妹の誉は室見の印象を「空っぽみたい」と鋭いことを言っています。
この巻では室見が工兵の家庭に触れ、いろいろ考えている様子でした。残念ながら? この巻でも室見についての謎は明かされませんでしたが、工兵に対して「あんたと一緒なら、知らない土地でもやっていけそうだし」とか言っています。なんというか、今後の二人の行方が気になりますね。
ところで奇しくも、梢の予定だった「実家での里帰り(+工兵を紹介)」という展開を工兵自身が室見という女性で行っているんですよね。ここで梢さんの「がんばってくださいね」の見送りが儚く思い返されます。

深夜のトラブル
室見さんといい感じの雰囲気になっていたちょうどその時にトラブルの連絡が入っていました。工兵は怒りをあらわにして拒否をしようとしたところ、室見は厳しく一瞥してからこれから向かうと伝えていました。
実際にはラムダコム側の不適切な準備などが主な原因なんですけど、それでも顧客のことを考えるとこちらが動くことがベストだといえて、それはこちらに責任がなかろうがやっていくしかないってことでもありました。このとっさの判断というのが、業界にいて長い室見とまだ浅い工兵の違いを端的に合わしているシーンなのかなとか思いました。
その深夜のトラブルシューティングも一筋縄ではいかないようで、結果的には梢のアドバイスを思い出した工兵が機転を気がせて、「設定変更をするために運用システムを変えてしまう」という大きな一手をつかって法外的に解決しています。ここ工兵君マジですごいと思いました。なんか工兵君、弁護士とかもできそうですね。

【まとめ】
初の出張、初の一人作業などありましたが、なんとかかんとか工兵は仕事をこなしているようでした。
この「こなす」というのも、「現場で指示を待つ」というのに似ていて、現場に立つ人たちの気苦労を知ることができた工兵君もまた一歩成長できたんじゃないかなと思います。
しかし工兵君できることめっちゃ増えてきてますよね。社会人一年目でこれって、成長どころ圧倒的成長してますよね。