とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

虚構の男

144冊目
穏やかな村に潜む異変

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

主人公のアランは郵便局一つ、雑貨店一つ、民家も片手で数えるほどしかない小さな村に住んでいました。
この村に住んでいる人たちをアランはみな言うことができ、彼らと共に穏やかで楽しげな日々を過ごしています。

アランは小説を書き、その報酬で生活していました。身の回りのことは子供のころからなじみである、家政婦のロウにやってもらうので自分は小説を書くことに集中できます。

このごろ「長編を書いてみたい」とアランは考えてました。いつもは短編を書いているぶん気合を入れて手に付けていこうと前々から思っているのに、どうもアイデアが思いつきません。
締め切りに追われてるわけでもなく、穏やかなので切羽詰まってアイデアを出すわけでもなく、「楽でいいな」とすぐ隣に住んでいるリーが茶々を入れてくるような日々、アランはそれに笑いながら応じつつ、その会話の中で創作のヒントを得たりします。
ほかにもアイデアを練るには散歩が一番だと、日課の散歩に出てみれば、町に住む人たちから挨拶がてら冗談を交わし楽しげな一日を過ごすのです。みな小説が完成するの心待ちにしているようでした。

ある日のこと、いつもの散歩に出かけたアランは道中、雑貨店に車で品物を送ってきているフレッドと立ち会って、のろのろ会話しながら同じく雑貨店方面に向かっていました。途中に別の住民であるホルトと会話する際に車と別れました。
ホルトとは適当に立ち話をして、アランは散歩を続けます。
この方面の先は古びた農場があります。そこは今ではもう立ち入り禁止になっていて、アランはその行き止まりで考え事をするのが好きなのです。
今回もここでアイデアを出したりして、元の家にまで戻ってきます。

ここでアレンには妙な違和感がありました。なにせ例の車をあれっきり見てないのです。


※この本はできるだけ内容を知らないまま(このあらすじさえも忘れて)読んだ方がおもしろいと思います。


ーーーー(ネタバレあり)----





奇妙な村
初めてこの本を読んだとき、初めに登場するビューデイという村がありました。
あの村、初見のしょっぱなの印象からすれば「穏やかな村だ」と言えましたよね。時間がゆっくりながれているようで、周りの人たちはあたたかく、不自由はありそうですけど、それなりに楽しい老後なんか迎えれそうな場所だな、という印象を受けました。
ただまぁ同時に「奇妙」に感じたのも確かで、アランが外出するとき「けっこうな声かけあるな(でもそれだけ暇ってことか)」と思ったのを覚えています。それに加えて「村にしてはあまりにも人数すくなくないか」とかも思いました。
でもいろいろ疑問に思っても、ミステリならこういう限界集落みたいなのがわりとよくあり、この後にある「ミニバン消失事件」も相まって気にしなくなるんですよね。

バン消失事件
アランがふと気がついた「あれ、車あれっきり見てないぞ」という小さな問題です。
この展開があった時点で読者は「穏やかな町」から「穏やかだが奇妙なことが起こる町」という印象に代わり、もっと言えばアレンから見えてきたすべてのものに対しての疑問的なものを持ち始めてきます。
このバン消失事件の答えについては至極簡単なものでした。しかしアランから見ればとても(アランは決まった毎日を送っていたそうだからなのさら)大きな問題だったといえることになります。個人的にここらへん、リーとの会話を含めて「推理小説のネタに使えるのでは?」とかのんきに思っていました。

ヘイガン・アーノルド
アランが作中に使う予定だった名前であり、この物語を一転させる言葉でもありました。
この名前がつぶやかれた電話といい、あの場面がこの物語初めの転換点だと思います。記憶をたどりながら電話のシーンをぱらぱらと読み返してみると、どうやら物語の序盤のようで「こんなはじめあたりだったっけな?」と困惑したりしています。ついでに言えば読み返して気がついたのですが、ここらへんですでに「グレゴリー・ガレア」や「エリック・キッチ」の名前が出ているんですよ。すでに役者がそろっているんですよね…。
今後の展開と踏まえてもなお、「まだ平和だったころ」の話が「これから先の状況」に対して筋が通っているということであり、作者さんすごいな思いました。ここらへんで行われるレーザーガンの狙撃に関しても、「このシーン、実はあいつはあの家にいなかったんだな」と思わせたりとか、読み終わってから気がつくんですよね。

真夏の岩場での出会い
カレンと会ったのもこのあたりでした。ふだんはなにも知らないアランだったのですが、このころ疑問に持っていたばかりにカレンという存在と立ち会った結果として「あの村はおかしい」と自覚をします。
このカレンとの出会い、というものが偶然的で運命的なものを感じました。第二の転換点だと思います。
ところでアランは彼女に対してどんな感情を持っていたんでしょうか。物語後半あたりで「アランには性的欲求はない(意訳)」とクラウザーから言われてた気がしますが、この場合、カレンと会いたがっている理由は何なのかって話です。まぁおそらく「あの町から逃げたい」とか「もっと知りたい」とかそんな欲なのかなと思ったり、思えば今までの平穏な生活と比べたら「彼女と会う」のはありあまる刺激だと思うので「刺激を求めていた」ということかもしれません。

ニューライフ計画
隠し通路など利用して秘密裏に会っていたそうですが、普通にカレンはリーなどの保安局から特定されて、そのまま捕らえられていました。
その捕らえられた先で尋問とかあり、カレンを正式な「村の住人」として迎え入れたうえで、「ニューライフ計画」というものが公開されていましたね。
このニューライフ計画というものは(様々な思惑を置いておいて)、アランことヘイガンを50年前の町に住まわせて「秘密裏に集めた情報を思い出させよう」といったものでした。まぁここ読んでいる人は一読していると思うのでわかると思いますが、たとえ竹のカーテン先の情報を得たいがためにやっていたとしても、その計画自体かなりの「狂気」でしたよね。そもそも50年前の世界を人工的に(嗜好品まで)再現するというのがもうあれですし、その記憶を取り戻したアランはどうやって情報を流すのかといえば「小説を書かせる」という方法についてもかなりのものです。よく国家最高司令官はGOサイン出しましたよ……。
まぁ無謀な計画、狂気など表現していますが、ああいうプロジェクト好きな人いると思います(僕がそうです)。

グレゴリー・ガレア
ここらあたりでガレアが登場します。はじめあたりで名前だけ登場したっきり「謎の人物」としていた彼が初めて登場するということで、ここ読んでるときテンション上がりました。
ちょっと前にカレンが「ニューライフ計画」としてヘイガンの話を聞いていたうえで、彼の話を聞いてみるといわゆる「別方面から聞く話」のようで全貌が分かってきます。彼はどうもヘイガンの戦友であり一番近い友人みたいな感じでした。
ここで思い返されるのがフレッドを「親しいと友人」とアランが表現したことや、アラン自身が「(彼からは)なぜか親しい感じがする」とかあった場面ですよね。あれは伏線なのだとはっと気がつく感じよかったです。暗に彼がガレアなのか、と思う一方で納得もできます。読んでてちょくちょく思いましたが、この作品要所要所で本格ミステリなにおいがします。
ところで次の日ぐらいにカレンとフレッドが顔合わせをするシーンがあるんですが、そこもよかったですよね。

急展開
ガレアとカレンが表舞台で無事に会えた、というその帰りぐらいにすでに「内通者の情報」がダーウィンに偶然にも知られてしまいます。。
ガレア自身有能ぽいですけど、ところどころで(アランという不確定なものの相手をしていたこともあってか)ミスしていたようで、それらが原因でガレアは正体がばれてしまっています。この展開が厳しいのはカレンと顔を合わせた直後に起こっていること、そして(相手も有能ということもあり)速攻ガレアがばれてしまったところにあります。しかしダーウィンが機転を利かせてくれたおかげで、なんとかかんとか程度には危機回避できていました(どうでもいいですけど、ダーウィンが「朝食です」というシーンよかったです)。
一方でリー側もエリックに(おそらく)国家最高司令官を呼ぶメールなど書いています。ここはリーの考えがあったそうで、ある意味「ドクターとの立場をはっきりさせる」という意味合いを持たせていたのだと思いますが……今後のことを考えるとこれも急ぎすぎたのかなと思います。
まぁでもそれらの焦りはそれぞれ、アランが急速な進化の前兆をみているから、のせいでもあるんですが。

誘われた家にて
アランの急成長に気がついたクラウザーは焦っていたようですが、偶然にもガレアの存在に気がつき「利用しよう」と思ったのかは知らないですけど、ガレアことフレッドと接触を試みています。
この接触を試みている当初、久しく嵐が吹き荒れているようでガレアは指定された時間場所までの時間つぶしに苦労しているようでした。思えばですけど、ここでカレンへの気持ちを自覚? したような風でもあり、同じく初めてだろう嫉妬っぽいものをヘイガンに向けています。ここらへんで「ヘイガンとカレンの優先順位」が迷っている感じがありました。
そんなガレアに「ヘイガンをだしにして」クラウザーが交渉しているのがおもしろかったです。まぁこの時のヘイガンは「二人のうちどちらか大切か」ではなく「断れない状況」だからこそ受け入れてますけど。

アランの家にて
アランの家に行ったとき、家に見張りをしていた人々はみな倒れていて、アランはその場にいませんでした。
真っ先に思い浮かぶのは「例の狙撃者」といえるわけですけど、やがて目を覚ましたカレンの話によるとアランはそのまま一人で出て行ったのだそうです。そしてそのカレンは「アランはアランではなかった」という風にいい、周りの天候も相まって一気にホラーっぽくなります。
一方でここらへんで狙撃者であるタンが登場し、それを見つけたガレアが後を追い戦闘に移ってます。戦闘はまぁあっけないもので、一人の犠牲が出たものの、狙撃者はアラン? のサイコキネシス? っぽいものにやられてます。ここでクラウザーにも大きな転換が起こり、アランを処理するという方向に向かいます。
気になるのはガレアの気持ちなんですけど、狙撃者の戦闘中にもふと「あの家にカレンがいる」と思って我を忘れかけたように、ややカレンよりに向かっているのかなと思いました。

ジェットヘリ部隊
話半ばでジェットヘリ部隊が村にやってきます。その中には国家最高司令官もいるようで、村にめちゃくちゃな戦闘力がやってきていました。戦闘力の暴力みたいなやつです。
これでアランを討伐するのかと思えば、たぶんリーはこのことについてあまり知らないでしょうから、おそらくタンの討伐とクラウザーとの立場をわからせる程度の目論見なんだとは思いますが、いささかクラウザー側からしてみればタイミングが悪すぎる(とはいえ逆に言えばよかったかもしれません)と言えました。
そんなジェット部隊を見るなりガレアは一人ぬけてどうにかクラウザーやカレンなどを無事にさせようとしました。カレンのいう抜け道を探り、そこから何とかしようと(実のところカミカゼ精神だったそうですけど)言うわけです。
ただそんな情報をカレンとともに共有した最後にキスをするなどし、なにを思ったのかガレアが行ってしまったあとにカレンがついてくるとかいう最後の最後でラブロマンスが開始してます。
正直読んでる身としては「あと十数ページしかないのにいちゃついてる場合じゃない」と見ててはらはらしました。不意打ちなんてことはなさそうですけど、いつガレアにレーザーガンが飛んできてカレンと共にやられるなんてこともあり得ましたからね。

あけっけない終幕
ガレアとカレンの逃走劇はギリギリのところでジェットヘリに見つかり、カレンをかばったガレアは一人空き地に上って岩に隠れました。それでもジェットヘリがどんどん集まってきて、ガレアは最後のことを考えながら降伏をしようかと考えていたころに、その岩はアランだったとわかります。よく見ると足とか見えたらしいです。
途端ガレアは動揺を隠せず(思えばガレアが我を失うのはここだけでしたね)、そのままうろうろと歩いて回りました。レーザーガンに打たれたりしましたが、レーザーガンの恐怖よりもアレンの恐怖の方が大きかったようで、へなへなとしているときになんとジェットヘリは墜落し始めていました。
結局のところアランのサイコキネシス? 的なものから助けてもらった、と言えるわけですけどそのアランそのものは飛んできたジェットヘリの部品につぶれて絶命したようです。絶命したのはアランだけではなく、緑の制服(運よくリーは生きていたそうですが)、国家最高司令官も含んでいました。

これから
どうにも、これから彼らの国はどうなるんでしょうか。混乱は免れず、運よく暴動が起きなくても国の仕組みが変わったりしたりなど、めちゃくちゃなことが起こりそうです。ここらあたり『シン・ゴジラ』ヘリ墜落のシーンを連想しました。でもあちらは民主主義でこちらは国が第一世界ですから、そのトップが死んでしまったら……いや最高司令官は「生きていた」んでしたっけ。
最後の最後のわかってきますが、国家最高司令官の顔を見ながらアランが、あるいはヘイガンが、またまたそれ以外の「なにか」が自身を認めています。ある意味でリーが国家最高司令官を殺し、クラウザーが怪物を復活させてしまったといえて……もうなんだか新しい時代がまた始まりそうな感じありましたね(白目)

【まとめ】
あとがきにあるように、ジャンル分けが難しい作品になります。個人的には「SF」と感じましたが、ミステリ、ホラー……なども含むシーンがあり、あらゆる要素がこの本に合わさっています。すごいのはそれでかつエンターテインメント感がある作品だということであり、これが50年前に書かれた作品だということです。
50年前から見た未来(2016年)が現在ということもあって(舞台設定的には同じ年ですね)、それがよりいっそう読んでて特別感がありました。