とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

人間なんで怖くない 今どきの野生動物

番外編
人間社会に順応してきた野生動物たち

最近の野生動物にスポットを当てた写真集になります。

写真とともに野生動物の解説があるのですが、その解説が「最近の野生動物について」わかりやすく書かれてあります。
むしろこの解説こそがこの本の大事な部分であり、その解説の説得力をあげるように写真が載っているような感じがありました。
文章写真に加え、この写真家さんが長年見てきた野生動物の変化なども読み応えあります。
最近の街の周りにいるような動物(むしろ動物側は隠れているので見えないかもしれませんが)はどんな生活になっているのか、私たち人間の生活が彼らにどう影響させたのか、などざっと知ることができますよ。

※ネタバレありと書きますが、個人的に気なったところを挙げていこうかと思います。

ーーー(ネタバレあり)ーーー



イマドキの動物を作ったのはイマドキの人間
ちょっと昔までは自然の近くで生きてきた日本人たちですが、ここ数十年ほどで飛躍的に科学発展し、ひたすら都会に人が流れてゆき、自然とは相反するコンクリートの森の中に生きるようになりました。
よって関心は自ずと自然の方から離れてゆき、その「関心のなさ」がこういった結果(野生動物の変化に気がつかないなど)になってしまったようです。
一方の動物側は人間をよく見ているようで、人間のことをよく理解しているようでした。読んでて「動物たちはとても賢いなぁ」と思いました。読んでる方ならわかると思いますが「作者とイノシシのいたちごっこ」のイノシシの賢さには感心しました。

ニホンカモシカの話
ニホンカモシカという動物がいます。この動物は以前(1950年代)高山帯から亜高山帯にひっそりと暮らしているとされ、いわば「幻の動物」と言われ天然記念物として選ばれていたそうです。

そのニホンカモシカにボクが初めて出会ったのは、1967年のことである。中央アルプスの標高1600mほどの森林帯で砂防工事をしていた作業員から、「カモシカによく出会うよ」という話を聞いたのだ。あの幻の動物が、工事現場に出てくるという。なんとも複雑な感情が湧いたものだった。

ちなみにですが、その作者が向かった先にニホンカモシカがいたそうで、そのニホンカモシカ皆伐されたハゲ山を歩きながら、木々の間にある雑草や灌木をさかんに食べていたそうです。

さて当時、大規模伐採よく行われていた時代のようで、ハゲ山が至る所にあったようです。それがニホンカモシカに食料を与えてしまい、ニホンカモシカは爆発的に増やしてしまったようです。
どんどん増えたニホンカモシカは新たな土地を探すため移動を始めるのですが、移動をするにしたがって植林したヒノキ若木などを食べるため、いつしか「害獣」認定されました。
以前は幻の動物とされ「天然記念物」として認定されていたニホンカモシカは今やもう「害獣」になり果てた……(人間が勝手に決めて、人間が増やして、勝手に害獣にしてる)というなんともいえない話です。

餌付けいろいろ
餌付けと聞くと公園とかでパンの耳を鳥に分け与えていたり、たまにやってくるキツネなど野生動物にお菓子とか余ったものとか(本当はあげちゃだめですよ)を分け与えるものをまず想像します。
しかし考えてみると、畑とかに動物がいる様子や、田んぼに鳥が飛んできてたりする姿を見たことがあります。少し視点を離すと「野生動物に果物をやられた」などもたまにニュースでしてたり、都会では動物がごみをあさったりとかする話を聞きますよね。
そして上の状態はどれも「(人間が与えるというのを意識しているか無意識かの違いだけでどちらも)餌付けに変わりがない」ということが書いてあって個人的になるほどと思いました。
たしかにそうで、例えば果物をここに捨て解いたら動物たちが勝手に食べてくれる、として捨てた果物もそれもいい方によっては餌付けに過ぎず、「ここに食べ物がある」と動物は学んでしまい、やがては「野生動物が畑があらわれて果物たべていく」なんてこともにもなりかねないってことです。
この餌付けの話のように野生動物について、人間からすれば「盲点」のような話が色々ある気がします。そういう盲点によっていろいろ大変(専門家と一般人との食い違いで混乱とか)になりそうな気がします…。

攻撃的なサル
長野県志賀高原には有名な温泉に入るサルがいます。そのサルは外見はかわいらしく観光客からも人気で、いわば共存しているかのように見えます。
しかし、それは人間慣れしたサルであり、野生の猿でもあるわけです。「かみつきザル」という単語があるように、時と場合があればサルは野生化することもあるのでですから、あながち「安心」と言えるわけではないようです。
作者さんも書いてますが、僕としてもこういう野生のサルが身近にいるってのちょっと異様で怖いです。なにせサルって身が軽いですから、ひょいと襲ってきそうですし……。どちらにせよそんな恐ろしいものを近くで風呂とか食事とかおちおちできる気がしませんね……。

ところで、作中ところどころ書いているのですが、それらたくさんの害獣の対策として犬(日本犬)のはなし飼いがいいのでは、という話がありました。現在は危ないから犬のはなし飼いはだめ(リードを付けるとおっけ)なんですけど、「範囲を限定的にやるならありなのでは」ということです。確かに適切に運用するのなら犬のはなし飼いはいいと思いました。
ちなみにですが、日本は古くから犬でサルを追い払っていたそうです(そこから犬猿の仲という言葉が生まれてます)。サル除けとしても犬のはなし飼いいいと思います。サルよりはかわいいですし(単なる好み)。

増えつつあるシカ
シカ激増が問題になっているようです。まず人が手を付けない過疎地が増えてしまったこと、次に天敵であるオオカミが絶滅してしまったこと、加えてシカが必要とする「塩分」を高速道路などの除雪材(塩化カルシウム)で賄えてしまえること……など、ほかにもいろいろあるでしょうけど、それらが相まってシカは恐ろしいほどに増えていってるようです。
シカが増えたことで起こるのは農家の人たちの食べ物が食べられる、あとは高山帯とかにある貴重な花とかそういった草木が食べられるなどあります。現在南アルプスにたくさんシカがいるそうですけど、このままのように増えてしまっていったら被害はどんどん全国に広がっていくというもので、世間が気がついた時には山の希少な山菜に深刻な影響が出ていた、なんてことにならないことを願っています。
ところで長野県(美ヶ原高原)に国産牛などを育てる大きな牧場があるんですけど、そこでは牛たちのために栄養価の高い草とか植えられるんですよね。そこにシカが住み着いてしまい、いまや牛より圧倒的に多かったとかあっておもしろかったです(おもしろいことにはなっていないんですけどね)

とはいえなにもわからないという話
シカが増えてきてる、攻撃的なサルが増えてきてる(人間が舐められている)、ツキノワグマが街に降りてくる、カラスが街灯を怖がらない……野生動物は明らかに日本社会の影響を受けていてその「結果」みたいなものは見えているにもかかわらず、現状日本では把握しきれてないところがあるようです。
ツキノワグマの話題でもありましたが、そもそも「どれだけのは範囲」に「どれだけの数がいるのか」すらわかっていないことも多く、ニュースはただ町にでてきたツキノワグマの被害を流しているのみのようです。
これもそもそもですけど、街に出てきた動物を「(人間が森を伐採したから)追われて出てきた」などかわいそうな印象すら間違っているようで、実のところ「あっちにおいしそうなものがあるから寄ってみよう」というノリで街に訪れることも多いそうです。
そういう間違った印象は変えた方がいいと思いますね……。早いところ現状把握がされるといいですね。

あまり理解しない人たち
作中こんな一文がありました。

(前略)人と野生動物が真に共存していくためには、互いに関心を持ち、危険を認識し合って、うまくすみ分けていくことが必要だ。そのためにも、自然や動物をただ花鳥風月的に愛でる自然観は、もうなくした方がいい。そのように美化された架空の自然観は、自然の本当の姿を見る目を曇らせ、あやまった保護意識を生む。それは結果的に生態系を攪乱し、自然を荒廃させていく要因となりかねない。

ただわかったつもりで「美しい自然」を守る形やら、ただかわいいからと言ってあまり考えないで行った行動はだいたい自然に大きな影響を与えて思わぬところで表れてきます。
まぁでも「自然や動物が美しい」のは確かなことなので、関心をもって理解して、自然と正しく向き合っていきたいものです。

【まとめ】
人間社会が想像以上に影響を与えていました。そもそも「深夜も明かりがともっている」というとこからドバトが夜間を活動するようになったり、光があるところは安全だというとこで鳥たちが明かりに照らされて眠っていたり……など街の中でもそういった影響された様子が見られるようです。
いろんな人がそういった「変化」に気がついたらいいと思いました。ほんと、そうなればいいんですけどね。