とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ダイオウイカ、奇跡の遭遇

147冊目
幻のイカを深海で撮影する

ダイオウイカ、奇跡の遭遇

ダイオウイカ、奇跡の遭遇

ちょっと前にNHKで放送され話題になったダイオウイカプロジェクトを覚えていますでしょうか。
この本は、あの「生きているダイオウイカを深海で撮影する(これができたら史上初)」というプロジェクトの中心になっていた人物の手記みたいなものです。

プロジェクトの中心になっていた人物(著者)はイカについて長年調べているようで、そんな彼が長年調べてきたダイオウイカについての謎を解き明かしてゆく流れやら、彼の情熱やら、プロジェクトについてやら、昔からの研究仲間の話やら、そんな話題がちらほら出ながらもダイオウイカを撮影成功した話が載っています。

NHKディスカバリーチャンネルなどで放送されたドキュメンタリーを文字にしたような本なので、本も映像も両方とも見てみるのもおもしろいかもしれません。

※ネタバレありとありますが個人的に気になったところを書いていこうと思います。


ーーー(ネタバレあり)---




幻のイカという存在
物語の始まりは窪寺恒己(著者)さんがダイオウイカの調査をするため小笠原まで行ったところから始まります。
どうやらこのダイオウイカ撮影プロジェクト前というのは、ダイオウイカについて全く何も(たまに沖合に流れ着くぐらいの)情報がないようで、この「小笠原にクジラがいるならダイオウイカもいるはずだ」という考えを出したのも著者さんらしいです。
ここまで知って個人的に持った感想なのですが、人類はこれだけ世界を知ってもなお(地球上のほとんど足を踏み入れてもなお)深海のことはまるでなにも知らないんだなということでした。

ダイオウイカを釣る
2004年の9月30日のこと、たまたま偶然にも海から上げた小型水中ロガーにダイオウイカの足がくっついていたようです。奇しくも「ダイオウイカの写真撮ろうとしたら足を釣ってしまった」というわけになっていたわけですね。この「ダイオウイカの足を釣ってしまうこと」もさることながら、「ロガーのカメラにダイオウイカを映している」こと、そして画像から「ダイオウイカの生態について解明される」んですよ。ここらへん「どんだけ運がいいんだよ」と思っていたのもつかの間、まさか2006年12月4日にはダイオウイカそのものを釣ってしまうんです。
もうなんというか、(毎日の調査があってこその結果ですけど)すさまじい豪運を見せつけられたような気がしました。本書を読んでると見えてくることですけど、この作者さん全体的にイカの神様に見守られているような人生歩んでますよね。

世界の反応と日本の反応
ダイオウイカの足を釣ってしまったときの調査結果などを1年ぐらいかけてまとめ論文に出したところ、それが世界的なニュースになり大きな話題になったそうです。ロイターやAP通信など世界各国の取材が押し寄せてきたり、ナショナルジグラフィックの2004年10大ニュースの一位に選ばれるほどでした(やばい)。
そんな海外の盛り上がりとは裏腹に、日本はと言うとそれほど盛り上がることもなく、ニュースを知って考えられることは「すしにしたら何皿ぐらい?」というレベルの認知だったそうです。日本らしいといったららしいです。*1
個人的にもダイオウイカの研究がこれほどまでに熱狂していることに、NHKの映像見てやっと「史上初? すごい!」と初めて知る程度でした。そんな放送局で放送される前すでに世界で話題になっていたというのが日本と世界の認知差というものを感じました。
URL:NHKスペシャル | 世界初撮影!深海の超巨大イカ

巨大プロジェクトへ
ある意味で「結果を残してしまった」ダイオウイカプロジェクトですが、そのままの勢いで「次は映像をとってみよう」という展開になっています。さらには「実際に深海に潜ってダイオウイカを目で見てみよう」的なノリになってて、読んでる僕は「勢いよすぎでは…?」と心配になったりしてました。
考えてみれば、このプロジェクトは古来からいた一つの「怪物」の究明というわけで、それはそれはロマンがあることだとわかる一方で(たとえそこに「怪物がいると確信した状態」でも)、いざそれを「実際に深海に潜って撮影します!」って言われても無茶苦茶な話なんですよね。
別に無駄遣いするなと言いたいわけではなく、そういうロマンを追うために大金をつぎ込むのって無茶苦茶だな!(誉め言葉)って話です。

各国の研究者が集うプロジェクト
作者さんは出資額を聞いてなかったそうですが、それはそれはとても大きなプロジェクトになったそうで、船も大きければ潜水艦も最新で、第一線の人たちが世界各国から集められたそうです。
出向直後に行われたBBQも含め、メンバーそれぞれかなり楽しそうな感じではありましたよね。ちょくちょくぎくしゃくあったそうですが、みんな「ダイオウイカと接触してやるぞ!」という共通の目的を持っているのもいいのでしょう、それぞれ文化を超えた関係になっているように感じれて「いいな」とプロジェクト読んでるとき終始思いました。それぞれ乗客にとってとても貴重な時間だったと思います。

ダイオウイカとの遭遇
さまざまなダイオウイカ接触アイデアを出した中で、著者のアイデアが功を奏しダイオウイカと見事遭遇を果たしていました。
この奇跡的な遭遇した時、いろいろ「わーっ」となった著者がLEDライトをつけるよう指示するんですが、ここで僕「えぇ大丈夫なのか」って思いましたし、実際逃げてしまう場合も著者さん十分想像できていたようですが、それでもライトをつけてもらうところに「研究者っぽい」と思いました。ちなみにこの危ない賭けに勝っていて、ダイオウイカはライトに照らされながら逃げないままそのまましばらくいるんですよね。
この場面のなにがすごいかって世界初の遭遇でこれほどゆったりとした遭遇で、それをハイビジョンで撮影できたことで、なんだかんだ巨大プロジェクトを見事(最高の形で)完了できたってところです。もうここらへんダイオウイカが空気を読んでくれたとしか言いようがないです(そういえば自ら一回転してくれたりとかも書いてありましたよね)。

【まとめ】
世界的な出資はもちろんのこと、世界中の研究かの悲願もあり、著者さんの「今まで考えてきたことが正しいとあってほしいという切なる願い」もあるなど、テレビで見たダイオウイカプロジェクトは思いのほか規模が大きなものでした。
今回そのプロジェクトがほぼ完璧と言える状態で終幕し、読んでるこっちも「叶ってよかった…これで終わった…」と感慨深く思いましたね……。
ところでダイオウイカ目撃して海に上がるころにはもう「もっとダイオウイカ観察したい…また潜りたい…」と著者が思っていたりして、そしてそれに答えるようめっちゃ潜水したりしている様子から「ああこれ研究者っぽい!」と読んでて思いました。

*1:ちなみにダイオウイカは深海を上昇下降するためアンモニアを体内に含んでおり、食べるとイカの味がするものの、噛むほどにえぐみ苦みが出て不味いのだそうです