とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

古事記物語

148冊目
日本建設と天皇誕生の物語

古事記物語

古事記物語

神様が日本をお創りになってから天皇が国をお治めになるまで記された書物になります。

ほかのレビューなど読んでて知ったことですが、この本は「古事記を子供向けに書かれた本」であり、思い返してみれば「なるほど難なく読めたな」と気がつきました。
それでも、ところどころ(名前とか風習とか)難しいところがあったりしましたけど、全く知識ない僕でも問題ないぐらいには難しくない本だとは思います。

古事記が気になっている人が初めに手に取り読むのもよし、古事記に本格的に触れる前に全体を把握するために読むのもよし、もちろん子供が読んでもよしだと思います。

ーーー(ネタバレあり)---




日本創生までを振り返る
世界ができたはじめ、まず天と地ができたころ(そもそもの日本人の初めのご先祖にあたる)天御中主神*1とおっしゃる神様が天の上の高天原でお生まれになります。次に高皇産霊神*2、神産霊神*3がお生まれりなりました。
ここらへん、世界の天も地も固まっておらず、それらはドロドロでクラゲのように曖昧なものだったそうです。そしてそのクラゲのような曖昧なところから葦の芽が生え出るように二人の神様がお生まれ、また二人お生まれ、また二人、二人と、八人の神様がお生まれになります。
次々と八人の神様がお生まれになった後、伊弉諾神*4伊弉冉*5がお生まれになります。この二人に対し、天御中主神は「あのふわふわしている地を固めて日本という国を作り上げよ」と命じ、立派な矛をお授けになったそうで、二人はさっそく天の浮橋*6に出てからクラゲのように曖昧なドロドロなものに矛を突き立て、ぐるぐるとかき混ぜます。ぐるぐると混ぜたときに矛先に潮水がついて、その潮水がぽたぽたと下に落ち、それが固まって小さな島国になるのでした。

物語と日本創生
この後、伊弉冉神と伊弉諾神は島国に降り立って、風の神、海の神、山の神、野の神、川の神、火の神などお生みになります。
どうやらまだ島国を形作っただけのようで、今の豊かな緑などはここでやっとお創りになったようになります。。
伊弉諾神伊弉冉神はゲームやマンガやソシャゲなどで登場することもあり、名前なら知っている人も多いんじゃないでしょうか。そんなお二人は(命じられて)日本という領土をお創りになった神様になります。そんな伊弉冉神については残念なことに、火の神をお生みになったときのやけどでお隠れになりますね。
ここ読んでで初めて知ったのですが、その「やけどでお隠れになった」という事実が今後の展開につながっているんですよね。確かに僕は伊弉冉神は火の神をお生みになるときにやけどなさったとは知っていましたが、それが今後の展開につながってくるとは考えていませんでした。この古事記全体としても、前に登場した人物や流れを引き継いて次に続くというものがあります。
伊弉諾神のお話や建速須佐之男命*7のお話などそれぞれ独立しているものだと思ってましたが、そうじゃなかったです。

人間味ある神様と家族
伊弉冉神はやけどでお隠れになった後、伊弉諾神伊弉冉神のことを思って黄泉の国に向かっています。結局のところ会えたわけなのですが、その変わりように驚いた伊弉諾神は(見ないでという約束を破ったあげく)逃げます。それに伊弉冉神は怒って後を追い、伊弉諾神は身に着けているものを捨てながらなんとか逃げ切っています。
(どうでもいいですが、伊弉冉神が「呪ってやる…仕返しに1日1000人絞め殺してやるから…(意訳)」って言い、伊弉諾神は「じゃあワシは1日に1500人作るわw」と言い返したところ正直草生えました)
今まで神様の話なのかと思えば、いきなり人間味の溢れるような展開になっていて物語としては面白いことになっています。今後、伊弉諾神は自分は黄泉の国いたということで「穢れてしまった」から清めるのですが、その時に神様を何人ものお生まれます。ここで取れた穢れがそのまま災いの神になったり、有名な天照大神*8月読命*9建速須佐之男命がお生まれになります。
これも初めて知ったのですが、これを読むと「伊弉諾神天照大神月読命須佐之男命の親(もっといえばほか何人かの親)ということがわかりました。ここで家族が形成されつつ、この家族内での問題が下界の話、ましてや天皇誕生などにつながってきています。読み返してみるとこの伊弉諾神による伊弉冉神に会いに行く流れから、汚れをとるあたりに思いをはせてしまいますね。

家族喧嘩
天照大神は大空を、月読命は夜の国を、それぞれ伊弉諾神のご命令により治め始めたころ、須佐之男命というと大海を治めるべきなのに伊弉冉神(母親)がいないことに駄々をこねていて、それがもうずっと大声で泣いているようでした。神様が大声で泣いているのだから、地上はめちゃくちゃになり見かねた伊弉諾神は「出ていけ(意訳)」とおっしゃるんですよ。
そこで須佐之男命は「ならお姉さまのところに行こう」と実際に出ていくわけなのですが、神様が勢いよく上昇するのだからまた地上では混乱が起き、一方で天照大神は「須佐之男命がこちらにあんな勢いで来てるなんて…ただ事ではない!(こちらの国を奪うつもりかもしれない)」と戦闘態勢に入っています。実際に戦闘になりかけるのですが天照大神須佐之男命が悪気がないと試して*10知るなり一応は(須佐之男命がやや言いくるめた形になりますが)信用するんですよね。
ただこれで大義名分を得た須佐之男命は得意になって、天照大神が納めている地で威張り散らし始めます。もうそれはめちゃくちゃで女神が作った田んぼの畔を壊したり溝を埋めたり、終いには初穂を召し上がる御殿でうんこをひりちらすというネット掲示板レベルのことをします(とはいっても母離れができてないぐらいの子供と考えたら仕方ない…わけでもないですね…)。

天照大神が引き込もる話
ちなみにそこまでやって大空の神様たちが頭を悩ませている中もなお天照大神須佐之男命をかばっていました。
ただそれに乗じて須佐之男命はさらに悪さをするようになり、やがて機織り織場の屋根を破ってその穴に血まみれの馬を投げ込んだときのこと、驚いた機織り女が逃げ惑うはずみに死んでしまうんですよね。
これにはさすがに天照大神も心を痛め、天の岩屋という石室の中に引きこもってしまうんです。
ここからは有名な話なので多分知っていると思いますが、天照大神が引きこもったせいですべてが真っ暗になりみんな大変困るという展開に続きます。
この話で踊っていたのは天宇受女命*11という神様になります。ただこの踊るって言っても盆踊り程度かと思えば、ほぼ裸でかつ激しく踊っていたようです。読んでて「水龍敬ランドかな?」と思いました。

下界を交えて
雲の上での話題はここらへんで終わり、須佐之男命が下にお降りになったあたりから地上編が始まります。
ここでは須佐之男命が八岐大蛇を討伐したり、大国主神*12が国を治めてみたり、そんな勢いのある神様に頭を悩ませる天照大神など、上の話と下の話が交互にくるという構成になっています。
特に須佐之男命の活躍が目覚ましく、上では問題児扱いだったのに地上では英雄といった活躍を見せています。だいたいの悪人をばったばったと倒してゆく姿は(境遇も含めて)さながら異世界転生モノのように感じました。八岐大蛇討伐の際に出てきた刀が後々登場する草薙の剣だったりするなど、この時点で登場するキーアイテムも熱いですよね。
ところで思うんですが、大国主神須佐之男命と櫛名田媛*13が結ばれてお生まれになった孫みたいなものですから、須佐之男命のご子孫というわけになります。そんなご子孫の領土を結果的には天照大神がなかば強引に奪っていました。以前、須佐之男命が天照大神の領域に来た時に「弟は自分の領土を奪うかもしれない」と心配したことも相まって、ここになにかの因果を感じました。

天皇誕生から
さらにこの後、天皇誕生から何代かの天皇の生涯が記されています。
天皇にもいろいろなお方がいらっしゃったようで、民衆から慕われるような偉大な天皇から、暴君と言えるような天皇など、様々な天皇がいらっしゃいました。
ただ天皇が誕生したあたりまでくると、人物も多くなり、さらには暗殺とかが多く殺伐で陰険な印象を受けました。ずいぶん(悪い意味で)人間味のある話が続いています。
なんというか、思い返そうとしてもこの天皇の話を思い出すと頭がごちゃごちゃしてくるんですよね……。これといった話は明確に思い出せませんが、そういえば暗殺の話と男女の話が多かったように思えました。時代ということもあり、地位を使ってだれでも妻に選べる立場であるが、それゆえの泥沼もあり、「暗黒の時代かな」と思いました。どの国でもそういったことがあったのでしょう。

【まとめ】
読破後に「すべての話がつながっている」という感覚を覚えました。上から下に流れる川のように自然と自分たちが知っているような世界に送り込んでいるようで、今まであった「神様の話! 人間はこうして作られた!」という神話のイメージが覆ったような感じがありました。
そのうえたまにヤンデレやら引きこもる太陽神(女)やら男の娘やらメンヘラやら愛らしい属性の人物も登場して読みものとしても楽しめました。
そういえば愛らしい人物と書いてて思い出しましたが、登場人物皆「美しい」「凛々しい」と美男美女風に書かれてありましたよね。まぁ物語上格好が悪いのは避けるとは思いますが、たまに出る不細工な人物には風当たり強いのを見て「どの時代も大変だな…」と思ったものです。

*1:アメノミノナカヌシ

*2:タカミムスビノカミ

*3:カミムスビノカミ

*4:イザナナギノカミ

*5:イザナミノカミ

*6:雲の中に浮かんでいる橋

*7:タケハヤスサノオノミコト

*8:アマテラスオオミカミ

*9:ツキヨミノミコト

*10:ここで須佐之男命が「悪気がないことを示すために子を作って示して見せよう」と言って天照大神に示してます

*11:アマノウズメノミコト

*12:オオクニヌシノカミ

*13:クシナダヒメ