とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれる!SE7 目からウロコの?客先常駐術

150冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

いわゆるブラック企業に就職してしまった桜坂工兵は連日多忙に追われていました。

ふと電話が鳴り、工兵は受話器を取ると、金山という男が馴れ馴れしく話しかけてきます。
なんだかんだ電話応対に自信を持っていた工兵も社会常識ない言動に驚きつつ話を聞いてみると、どうやら金山は工兵を上司の藤崎と勘違いしたらしいのです。工兵はそんな彼に出端くじかれて飲まれてしまい(本来は電話を回すかどうか前もって確認するというのに)「今ここに藤崎がいる」ということを金山に伝えてしまいます。
話の流れが止まらず、電話変わって藤崎になり、藤崎は珍しく固い声で強く断っている姿を工兵は見ていました。

どうやら仕事の斡旋らしく、二人ほど月稼働率100%で働けるか、という話だそうでした。現在弱小企業であるスルガシステムの従業員は今でさえかつかつだというのに、二人も抜けてしまったらそれこそ仕事になりません。よって「無理」ということを藤崎は金山に言ったらしいのです。
ほどなく、金山については「どんな話でもすぐに断ること、場合によっては着信拒否」という藤崎の伝言を工兵は受けるのでした。

それから仕事をしていると昼休みあたり、またしても金山から電話がかかってきました。工兵ははじめは対応をしたのですが、食いつきがしつこくやがて面倒になりながら「藤崎に伝えておく」とだけ言って用件を聞くことにとどめることにします。
要件だけ聞いてメモをして紙を藤崎のデスクに張り付けておきました。
そして昼休みこれ以上面倒はごめんとばかりにそそくさと職場から出ようとすると、唐突に社長が現れて、社長は「最近の稼働率が下がっている」と大声で言いだします。金山ほどにしつこいのですが、そんな言葉もちょうど電話を終えたパートのカモメがいいように言いくるめて、社長はしぶしぶ藤崎に「要件をメモに残しておく」ことにとどめました。

そこで社長はあるメモに気がつきます。工兵は天を仰ぐのでした。


ーーー(ネタバレあり)---





隔離施設
「大企業のプロジェクトルーム」と聞こえはいいですが、入ってしまえば「監獄かな?」といえるような世界が広がっていました。貴重品など全没収からの、人口密度多い部屋にて権限がない状態で、仕事(こなせるレベルではない)を無茶ぶり(そもそも権限が少ないので手が付けれない)されるのですからたまったものじゃないです。しかも上司が無能(と表現しますがどちらかというと悪い意味での無神経)なのだから手に負えません。
いやなんというか、この「仕事場」すべてに絶句しました。あとがきに書いてたんですけど、こういう出来事はSE界隈では「珍しくない話」らしいのでぞっとしましたよ。ちなみに話なれるSE!シリーズの第一巻目に入れようとした話らしく、暗すぎるためにこうした後の巻に回されたら誌です。それでよかったと思います。

こちら側の人たち
工兵は早々に音を上げながらも仕事をこなし、室見は室見で乗り越えようとしていました。
二人とも大変だっただろうに、互いに互いとも無理しながら突っ走っていましたよね。特に室見さんなんか、プロ意識高いのはいいんですけど、彼女の性格上、人が多いと所は疲れるだろうに、この巻かなり無理したと思います。工兵君はツナフルコースおごったほうがいいです。
ところでどうでもいいですけど、まだ何も知らない工兵が大企業のオフィスに乗り込もうとワクワクしてるところで室見が「いいのよ。また今回も工兵が客先の女といちゃついて物事解決するんでしょ(意訳)」って言ってるのおもしろかったです。

無神経上司
この物語の敵であり、超えるべき壁である大濠ですが、いい感じに悪役感出ててよかったです。
ただ実際に相手したいか、と言われたらはっきりノーと言えるぐらいに嫌やなやつで、「あんな嫌な奴だというのによく今まで持ったものだ(逆に言えばマネジメントうまいといえます)」と思ったものです。終わりあたりに藤崎が言ってた「内情はよく見ている」という風に、媚びを売るに関してはかなりうまい人間なのかもしれません。
人の扱いがうまいとはいえ、エンジニアの気持ちにはなれていなかったようで……って逆に言えばエンジニアに詳しかったら手に負えなかったかもしれません。そう考えると、彼の今までの言動(エンジニアを雑に扱っていた)が自分の首を絞めたというわけなんでしょうかね。

狐目の女性
途中から出た謎のキツネ目の女性貝塚こそ、この巻のキーマンでした。
「食えない女」表現があっているように、おおよそ工兵が攻略できるレベルではない格を感じましたが、工兵がうまいように商売とはったりを持ちかけて利害が一致し、なんとかかんとか突破口をこじ開けてくれた人です。でも「食えない女性」という表現であるように、気がついたら毒が回ってる的なことをしでかしそうな危うさも持ち合わせているように感じていたので、藤崎が終わりあたりにくぎを刺しているのを見てちょっとほっとしました。いい人ではあるとは思うんですけどね。
ところで彼女、終わりあたりにある藤崎との関係も踏まえて「あの場にそのままいる理由」なんてほぼないと思うのに、エンジニアから政治の方に傾いてしまったからなんでしょうか。なんというか、「藤崎さんと会いたい」と熱烈に思ってる風から「まだエンジニアをやめてない」と感じたんですよね。それだけですが。

打開策皆無
深夜テストに呼ばれたあたりから、なんかヤクザっぽいお偉いさんとの打ち合わせ、室見が倒れる、大濠の言動、など憂鬱な展開が続きます。ここら辺の厳しいところは、打開策が皆無(そもそも上司が話を理解してくれない)というところにあり、何とかしようとしても、ことごとく潰されて八方塞がりになっているところにあります。
読んでてもう「よく頑張ったから…もう休んでいいから…」と思いながらも「どうこの話が終わるんだ」と思ったりしたものです。無理なものは無理ですから、もう異世界転生するぐらいの勢いがないとあの破綻プロジェクト完遂できないですよ。だから途中抜けてもいいと思いま……と思っても室見が途中でやめるってことも考えられなかったのでどうにもこうにもです。

打開
たまりかねた工兵は同僚の梢にメールを送っていました。物語はこれを機に大きく好転していきます。
ここ地味に工兵が「壊れずに梢に電話をする冷静さがあった」、という部分すごいと思いました。ああいう究極的な局面に立ったとき(怒りながらも)冷静に判断できるってそれはすごいことですよ。
そんな工兵の切羽詰まった状況を察して梢の方からやってきていました。ここまで重苦しい話ばかりでしたので、この梢との掛け合いを読んで「これ、これだよこれ!」と思ったものです。彼女のヤンデレさがいい息抜きみたいになっていて(とはいえちょくちょくやばみでてましたけど)よかったです。
ところで梢の話からして「私ならやめますよ(意訳)」という風に、読んでて「(仕事に対する真摯さは同じでも)人によって物事の対処が違うんだな」と思いました。

対峙と解決
梢の入れ知恵を持った工兵は大濠と対峙するのですが、まさかの工兵が言いくるめられてしまうという展開になっています。まぁ彼口がうまそうだと思ってましたから、生真面目な工兵を言い負かすなんてわけないのかもしれませんけど、「ここでそれ言う?」ということを言ってしまう彼はめっちゃヘイト集めてそうで長く生きられないだろうなとか読んでて思いました。まぁ現実的にこのプロジェクトで終わってまってましたけど。
一方の工兵は無力に打ちのめされて、走って走って偶然にも貝塚についてのヒントを得ます。それから藤崎の情報も得たりなど幸運な連鎖が続いています。
貝塚との交渉あたり空気もかなりピリッとしたのですが、工兵はなんとか「交渉」して勝っていました。ただここらもこの物語をすべて読んでみれば、もっとお金吹っ掛けてもよかったですし、もっと大きく出てもよかったかもしれません。なにももうちょっと儲けれたのに、といいたいわけではなく、それで「ギリギリのラインの商談だった感」を出していた貝塚やべぇなって話です。

【まとめ】
工兵の伝達からバタフライエフェクトが起こって大変なことになる巻でした。
正直その大変さはあまりに大変さであって、よく壊れなかったなと思ったものですよ。工兵も室見もギリギリのラインでやっていたようで、もうしばらくはじっくり休んでほしいものです。そして弱肉強食の世界を何とか生き抜いてほしいものです。
ところで最後にグローブオンラインの運用が中止になっていましたよね。いままで続きが気になるような書き方をしていなかったというのに、ここにきてこの書き方……また波乱が続きそうな予感があります。