とある書物の備忘録

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日本林業はよみがえる 森林再生のビジネスモデルを描く

151冊目
日本林業の今までと未来

日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く

日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く

一言でいうと日本林業の今までと、これからのことが書かれた本になります。

この本では海外の林業(主にドイツなど)と照らし合わせてみながら、日本林業の現状、あるいはこのまま進んでしまったらどうなるのか、などつらつら書かれてありました。日本林業というと現在「荒廃」した状況にあるそうです。
比べると書いたら「比べてるだけ」なんですが、感想としては「(比べるまでもなく)これはひどい」といったもので、読んだらわかるんですけどほんとめちゃくちゃなんですよ。かといってどうしようかということも(民間の関心の少なさなど相まって)これといって見つからなく、なんとも読んでて無力な印象を受けました。

林業の現状を知るためにも、国産の木材を使うことに関してなど、林業のこれからを考えるにはいい本だと思います。


※ネタバレありと書きますが、気になったところを挙げていこうと思います。

ーーー(ネタバレあり)---




ひどいありさ
林業の現状はひどいものでした。それはどうひどいか言語化できない多様性あるひどさであり、強いていえば「無関心さ」といったところでしょうか。
森や木の本などちょくちょく読んでいると「林業がどうとか」という話題はちらほら見かけており、どれもやんわり批判してて「なんかやばそうだな」という印象を持っていましたが……今回それ中心に見てみてみれば、もうこりゃひどいって感じでした(こう書いてますが林業だけが悪いってわけじゃないですからね)。
ただそのひどいありさまを作って守ってきたのはよくよく考えると国であり、国が林業側に大金を与えたうえ放置してるのだから、そりゃもう適当に仕事しちゃう感じになるのも仕方ないのかもしれません。人間そんなものです。
今回こういった問題があげられて、なんとか改善しているような事例もあったりして、国もそういう感じで意識から変わってほしいものだと強く思いました。

山を壊す伐採
たとえば「この森〇ヘクタールのうち、〇ヘクタール分を伐採してださい」と言われたとき、本来なら「伐採する木の様子を見て」「木のこれからの成長を考えて」「伐採するときは周りの木を傷つけないようにして」「できるだけ効率的に」……というようなことを考えられるべきなのですが、このあたり林業側には特に規則などなく、いわば「ノルマ達成さえすれば自由に伐採して」いいのだそうです。
じゃ各自やってもらったらいいんじゃないの、って思われるかもしれませんが、自由をいいことに森のことを考えない伐採が広がってしまい(そもそも現場に専門家がいない)、それはそれは森を傷つける要因になっているようでした。
問題なのは「それでお金がもらえる」システムがあるってところなんですよね。国が(森が多すぎるってこともあり)森の様子を把握できないがために、形だけやるだけでもお金が発生するんですよ。
さらに問題なのはだからと言って森を放置するわけにはいかない。ってところです。専門的な知識をもって「〇ヘクタール分伐採してくれ」といわれても「無秩序な伐採」が行われてる現状なようなので、伐採一つでも森のことを考えたものが一般的になってほしいものです。

より深刻化させる政策
日本はかなり林業に力を入れているようですが、その力が強すぎて無秩序な伐採を深刻化させているようでした。
これは林業に限らないことなのですが、やれ「環境保全」やら「自然環境を守ろう」などそういった「表向きはきれいな理由」というものがあって「莫大なお金が動くわりに対象そのものに無関心」だという時に場合はかえって現状を悪化させます。緩く曖昧な感じならなおさらです。

2000年前半から半ばにかけて、公共事業は減少の一途をたどっており*1森林組合の中には、森林組合本来の業務であるはずの民間林事業の開拓へと乗り出そうとするムードが高まっていた。それだけ森林組合も追い込まれたということだ。

ところが、2006年の初めに、吸収源対策によって700億円の補正予算がつくことが決まり、現場のムードは一気に弛緩して、公共事業にどっぷり漬かる元の森林組合に戻ってしまった。実際、それ以降、森林組合は「吸収源対策バブル」というべき状態で、一般民有林整備など脇目も振らず、公共事業をこなすことに追われていったのである。この結果、林業再生の努力は大幅に後退し、貴重な時間が失われていった。

問題なのは「吸収源対策」が名ばかりであり、前に書いた「無秩序な伐採」も相まって「対策するべく予算をもらっているのに無秩序な伐採」が続き「結局的には無駄(どころか損失)」になっているとこでしょう。うーん……。

ドイツの生活事情
話ががらりと変わり、ドイツですが、林業に関してはスペシャリストなようです。
どんな感じにスペシャリストなのか書ききれないほどに、ドイツ人は自然(森林)とともに生きているといえるようです。個人的にはあとがきに書かれてあった作者による「公園がたくさんあった(意訳)」というのが羨ましかったですね。身近に自然があるっていいものです。
公園がぱっと思いつきましたが、もう一つ個人的に思い出しているのは「ボイラー(チップ*2とペレット*3の話」でしょうか。

ドイツは森林管理が発達してるので木材が安定化して供給することができます。すると木材関連を加工する会社もたくさんできるわけで、たくさん会社が出てくると、余った端材やおが粉なんかが大量に出てくるんですよね。それらをエネルギーにしてみよう、って話です。
農家なんかになると自前のボイラーなんか持っていたりして、森林管理のついでに切ってきた薪とかチップとか(そもそも気を入れたら勝手にチップにしてボイラーに入れてくれる仕組みがあるらしく)それら入れてから熱は賄っているそうです。これから寒い時期になりますけど、こうしたエコな暖房っていいですよね。

再生可能エネルギーといわれて久しいですが、ドイツではこれらのことに力を入れているらしいです。ペレットは作る過程で多少コストがかかってますが、民間に普及させるために民間や企業に投資していってるようですから、これからも普及していくでしょう。
この話のすごいところって「エネルギーを自国で安定して供給できてる」ってところですよね。いいサイクルが回って、しかも再生可能エネルギーってこれは…つよい。

ひとつのターニングポイント
戦後50年となり、戦後に植えられた木などが豊かになってきて今ちょうど収穫の時らしいです。山も放置したら勝手に大きくなっていくわけではなく、暗く生い茂って日の光が浴びれなくなったりとかして崩れていきます。木を太らせて安定して収穫していくにはそれこそ手入れしていかなければならず、その手入れする時というのもここらへんがギリギリの時期に入ってきているそうです。
つまり日本林業の分岐点に差し掛かっているということなのですが、ちょくちょく書いてあるように問題が結構あり、さらに言えば地味になりがちな話題のため関心もあまりないようにも思えます。

そんな中、以前の民主党政権だったころ、「森林・林業再生プラン」というものが動き出しました。これを書いてる著者などを含む人たちが集まって「これからの林業」を考え、大きな計画として作成したうえ実行に移っているようです。思い通りにいかないようなことも本には書かれていますが、いろんな取り組み(ドイツから訪れたフォレスター*4と交流など)が始まっています。事実改善しつつあるばしょもあるようで、これからって感じがしました。

URL:林野庁/森林・林業再生プランについて

【まとめ】
日本は木の国だと思っていたのですが、想像以上に林業に関しては遅れているようで、しかも基礎すらままならない状況らしいのがショックでした。
そんな情報を淡々と出されて「もうだめだー」と読んでて思ってたんですが、最後あたりに日本の林業の立て直しを図る案などや、成功した事例などがいくつか上がりつつあって希望を見た気がしています。
どうにもこうにも、うまくやっていってほしいものです。そう願うばかりですね。

*1:森を扱ってる森林組合の収入源として、公共事業の割合はとても大きい

*2:端材などを砕いたもの

*3:おが粉を集めて固めたもの

*4:山の専門家