とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

EGR3

154冊目
妙なロボットがうちにやってきて

EGR 3

EGR 3

現代から少し未来のこと、世界にはたくさんのロボットが人の助けとなり働いていました。
朝起こしてくれるロボットから、体調管理をするロボット、朝食の準備するロボット、登下校の送り迎えをするロボット、バスの運転をするロボット、場所によっては工場の資材を運ぶ、危険な作業を代わりに行う、などありとあらゆる場所にロボットが見られるようになります。

ロボットは主にライフ社が作っていました。このライフ社というのは今や世界へ食料の配給をはじめ、あらゆる場所で働くロボットの統制、その他もろもろ幅広い仕事をしていて、人々の生活を支えるうえで国レベルでかなり重大な存在になっていました。
ライフ社はみなをより便利に安定した社会を作り出している一方で、ライフ社の人間は優遇されるような社会の仕組みになっており、それを理由にかなりの貧富の格差が生まれているのも事実でした。

ベル家は「プロフェッショナル区域」に住んでいました。ライフ社の関係者が住んでいるテクノクラート区域ほどではありませんが、シティ区域ほど生活に困るほど不自由な生活はしていません。
ただ最近、ベル家には困ったことがありました。それはベル家に長く勤めていた家庭用ロボット「クランプス」がどうにも「おかしい」のです。
なぜおかしいのかは「タイマーが壊れているから」と気がついたのですが、タイマー回線は回路の奥の方にあってやみくもには調整できないのです。クランプスはタイマーが壊れてしまったら、夜だというのに朝食を作ってきたり、妙な時間に活動したりなど、家族はどうにも不便を強いられていました。

「クランプスも家族の一員よ」という母の言葉もあり、ベル一家はそれでなおやっていったものの、とうとう生活に支障が出てきて、クランプスを廃棄するかどうかまで考えはじめます。
けれどもまずは修理をするだけしてみよう、ということで、ロボットに詳しいオグデン教授を父が相談してみたところ、教授は「逆に会いたい」と言い出したのです。

オグデン教授は会いに来た父と息子(ガヴァン)に向かって「私が作った新しいロボットをクランプスのお手伝いとして使ってくれないか」と言い出します。
それを聞いた父と息子(ガヴァン)は戸惑いましたが、その話を受け入れることにしました。


ーーー(ネタバレあり)ーーー




始まったころのベル一家と世界
物語が始まったころ、ベル一家はとても温かみがある平和な家族だなと思いました。
多少不満(旅行いけないなど)があるようですが、大きな問題(クランプスの不具合)を除けば別に大したものではなく、各自思ってる悩みすらも比較的平和な悩みだったと思います。
この物語はところどころでSF的なディストピアがあるんですよね。なのにこの家族からうかがえるように、国民はそれほど生活に不自由してないよような気がしました。なんというかディストピア特有の「誤った発言をしたら即処刑」「劣悪すぎる生活環境」なんてこともなさそうだな(あるかもしれないけど)と感じたんですよね。多少不平不満があれど、誰でも衣食住がそろってそれなりに勉強できる場があるってのが大きかったと思います。でも言えば職種によって格差がかなりあったそうですから、偏見とかいじめとか陰でかなりありそうだなと思いました。隠蔽とか欺瞞とかもありそう。

クランプスの不具合と博士の言動
物語当初、ベル家の持つ一番の問題というものがクランプスの不具合でした。この不具合は「タイマーが壊れている」から行われることだそうですが、どうにもクランプス自身も時間の感覚うまくつかめておらず「わかっているのにどうにもできない」というなんとも言えない状況のようでした。時計とか持てばいいのに、とか思ったりしたのですが、たぶん体感時間とかそういった根本的なものがおかしいのかもしれません。
そんな話を教授にすると、教授は「そらきた!」と新しいロボットを渡すという話を持ちかけてました。
展開としてはそんな感じですけど、ここら辺地味にフーフルがマーシャとの関係にギクシャクしだしたころでもありましたよね。ああいう未発達な関係というものは、どこの小学校や中学校でよくある話なんでしょう。
そんなギクシャクした感覚から、フーフルがマーシャの家に行ったとき、家に潰されかける(潰されはかけない)あたりですでにちょっとロボットに対して不信に思わせる構成になってて「わりと最初らへんから不穏だったな」と思い返しています。

イーガーと新しい日常
教授が作ったという、見た目不格好な最新ロボットこそイーガーは向上心が高い人格? というものをもっていて、なににでも意欲ある行動をしてくれていました。
本来ならクランプスのお手伝いという名目だったのに、家に来て早々にガヴァンと友達になったり、父とは仕事の話をしてみたりなど、新しいことをしていました。ただここら辺でまだイーガーに多少「未熟さ」が残っていて、それのせいでひやっとするシーンがありましたよね。
例のシャーロット洗濯しようとした件ですけど、あのあたり読んでて本当にドキドキしてました。クランプスによる「洗濯は洗濯機に聞いたら教えてもらえるよ(意訳)」というのは本当でしたけど、まさかあんなに悪くかみ合ったのだから驚きました。「そうです! 天然素材で……」と会話が通じてる当たりは(会話的には)おもしろかったですけど危なかった。ギリギリでクランプスが登場して「クランプスゥー!!」ってなりましたもん。

不穏な空気とガヴァン
たしかここらでマーシャがBDC4を連れ歩き出していて、ガヴァンなどが「あいつはおかしな感じがする」と感ずき始めてました。でもまだここら辺はロボットが人間みたいな動きをするという不安、いわばあれです「不気味の谷」的な不安ぐらいでしたね。
不安がほぼ確信に変わるのがガヴァンがマーシャのツボを見せてもらうシーンでしたけど、あのあたりのBDC4の動きはかなり不気味でしたよ。初めあたりにフーフルが壁に挟まりかけたこともあって「マーシャの家は大丈夫なのか」と読んでて思いました。もうここらへんですでに、なんかマーニャ一家はなにかやらかすのではないかという風がありましたよね。
後々の展開で気がつくことですが、BDC4が初めから何でもできるというところも不気味さを強調していた気がします。フーフルとマーシャが通話しているあたり「ハンドメイドしてもらった」というのも「ハンドメイドどうやって知ったんだ?」という疑問が渦巻くようになっていて存在の知れない不穏さがありました。

マーシャを追って
異様な光景を見たガヴァンはマーシャを心配に思い、マーシャの後を追いかけます。ガヴァンがずぼらなのか、マーニャが神経質なのか、好奇心に襲われててマーシャの家まで行ってしまった頃にマーシャはガヴァンに気がつきます。
この時、幸い(幸い?)両親がいない頃のようで、マーシャがガヴァンをもてなしていました。ガヴァンはロボットの情報が知りたかっただけでしょうけど、マーシャはマーシャでガヴァンをからかっておもしろがっていました。ここで特に恋愛的な波動もなく、強いて言えば最後の掛け合いぐらいで、そんなことを考えてたから見落としてたんですけど、地味にここでマーシャとイーガーが顔を合わせてるんですよね。今後の展開から盛り上がってくるのはこちらのようでした。地味にマーシャは二人の騎士に守られたってことですね。

不思議な出会い
ここでもいろいろBDC4の妙な動きがあったようですが、ここらでの一番大きなイベントと言えばガヴァンがシティの子供達に襲われたところでしょう。
彼らはライフ社に対して敵意を持っていて、自由を獲得するために戦っているのだそうです。言い換えるなら反政府勢力といえて、ここでは男子二人でしたけど、けっこうな人数シティの人が思っているようなことをうかがえたので、まぁまぁ危ない危険分子と思われても仕方ないなと思いました。
思えばここらへんでライフ社や政府に対して疑問を持ち始めていました。すこし以前にフーフルと母(ママ)とのガソリンの話も相まって、どうやらライフ社は利権を使う悪の存在なのかもしれないという風に話が続いてます。
読者としては「それを知ったとしてどうするんだ?」と思ってました。まさかライフ社と全面戦争するわけではないでしょうから、どうやって物語が終盤に向かうのか楽しみでもありました。

ホテル潜入とやらかし
BDC4が危ないと確信した面々は夜あたり、ガヴァンの計画として、母がホテルに働いていて誘われたことを利用してホテル潜入を試みることにします。その適役がイーガーとなるわけですが、そもそもこの計画読んでいる時点で僕としては「大丈夫なんだろうか」と思ったもので、実際やってみたところもうめちゃくちゃになっていましたよね。
ホテルの混乱が目的かな? という素晴らしい働きっぷりで、イーガーは大したやつだと読んでて思いました。本人に悪気がないってのが大きく、生真面目にやらかしていたのだから周りは頭を痛めたことでしょう。
そんなやらかしをしておきながら、本人は気がつかないようで(そもそもの目的が違う)、なにも思うことなく本来の仕事に取り掛かっていました。ここで登場したロープの男でしたっけ、よくわからないんですけど彼にはかなり助けになりました。まぁ風呂場に突入というやらかしがありましたけど、そこでイーガーは大きな情報を手に入れてました。いやぁ、よくやったと思いますよ彼は。

クランプスとの別れ
ここらで森林浴の提案を父(パパ)から受けるという、予想外の展開になっています。ガヴァンもガヴァンでイーガーを連れて行ってやろうなど、ここでもベル一家が平和な家庭ということを感じ取れれて、多少トラブルもありましたけど「いい家族だな」と読んでて思いました。
森林浴先に向かうまでは特に問題はなく、その森での散策も特に問題はないようでした。それぞれ多少疑念があったとはいえ、それぞれがそれぞれ楽しんでいるようで(個人的にはシャーロットに向かって「ニャーニャーではありません。あれはねこです」とクランプスがいうシーンがおもしろかったです)、いい気分転換になっていました。
しかし一転、道沿いにガヴァンが出た頃に大きなトラックが突っ込んできます。
クランプスは大破してしまい、もう助からない状態になってしまっていました。ここら辺の展開は悲しく、ベル家もイーガーも大きな穴が開いてしまったようになってしまってました。読んでて「あぁ…」と僕もなってました。たしかにシャーロットが助かったのは幸いですけど、クランプスを失ったのは大きかったですよ……。

悲しみの中で
クランプスを失った悲しみ、異変にまだ慣れないまま言われたマーニャによる「パパとママが人質にされた!」の一言でまた急展開を迎えます。
この急展開はある意味想像ができていたことですけど、いざこうなってみると何が起こるのかという未知の恐ろしい気持ちが募っていました。ここからマーニャとフーフルとガヴァンとパパは本拠地に向かうことになります。
一方で自分のせいでクランプスを失ったと理解していたイーガーも自ら家を離れることにしていました。
どちらも悲しみの中で起こった行動ですが、両方とも巡り巡っていいように働いています。おもしろいことに前に出会ったイーガーとマーニャが共に行動していたりもするんですよ。一方のベル一家もベル一家で大変そうでしたけど、それぞれホテルで無事を確認したりとかして……なんというか、ここら辺は急展開で目まぐるしい感じになっています。長い長い一日になりました。

ロボットの投身と終幕
いままで妙な行動を見せていたBDC4というもの、どうやら「海が見たい」という記憶を追っているようでした。記憶を追うというだけだとあれかもしれませんが、ロボットがこの記憶を追うまでの過程がなかなか気持ち悪かったですよね(死んだ人間の情報をそのままロボットにコピーしたなど)。
ただそう考えてみると、彼らBDC4の不審な行動の理由にも納得できる一方で、「そう考えてみると彼ら(BDC4)も悲しきロボットだな」と思い返します。彼らは記憶の再現をしているにすぎず、その記憶を否定されようとしているのですから。好きにさせてやれ、とは言いませんが……悲しき怪物という感じがしました。
一方でここら辺、イーガーがかなり活躍しています。ただし人質を助けたあたりでうっかり自分も崖から落ちて、そのまま気を失っています。(ところでこの光景、冒頭の崖付近での行動と同じような感じですよね)
どうなるのかと思えば部品をほとんど変えたようで、「部品をほとんど変えたロボット、イーガーはイーガーなのか?」という哲学的な疑問を持つさなかに「イーガーはイーガーのままだった」という報告を受けます。いやぁ、よかったです。

【まとめ】
妙な行動をするロボットには、妙な行動をする理由があって、その理由は人間の虚栄心が生み出したものでした。
それを感じた博士はどうにかしようと、別に作ったロボットこそEGR3でありイーガーでしたね。このイーガーが物語の中心になっていて、イーガーが見ている世界そのものが世界を一変するような新しいものであるような感じがありました。
全体的な展開はここに書いておいた通りなんですけど、こうした感想では書ききれてない、ちょくちょく哲学的な話があったり、ユーモアがあったり、詩的になったり、といろんな場面があるんですよ。それが魅力的でいいなと思いました。

一つ、印象深く残ってる文章があります。唐突ですが最後にそのシーンを引用して終わろうと思います。

イーガーはキッチンの真ん中に立って、さまざまな家庭用品をじっくりとながめまわした。いつか寿命がくることについて、どう思っているんだろう。「すみません」イーガーはていねいに冷蔵庫に話しかけた。「死について、なにかご存じですか?」そうきいてしまってから、冷蔵庫がしゃべれないことを思い出した。冷蔵庫の扉にメッセージが表示された。「ただ今死というものは切らしているようです。注文しますか?」