とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれる!SE9 ラクして儲かる?サービス開発

155冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

いわゆるブラック企業(スルガシステム)に就職してしまった桜坂工兵は連日多忙な仕事に追われていました。

近くあった大型案件の防衛戦にてなんとか案件を守り抜いたものの、いままで契約していたいくつかの案件の打ち切りを受けて、スルガシステムはなお存亡の危機が目の前にあるままでした。
ある案件で使う予定だったサーバーを使うことなく契約打ち切りが大きく、実質的に損害も甚だしく、これからのことを今一度考えるべきかもしれない、と思っているころに危機感を持った社長が部屋を借りて全社員同時ミーティングをする機会を設けます。

社長は壇上に上がるなり、スルガシステム全社員に向かって喝入れます。そして今まで無茶苦茶言ってきた社長がまた無茶苦茶なことを言うのかと思えば、「新サービスを始める」と誰もが思ってみなかったことを言い出すのです。そして「これからサービス開発の責任者を探したい。明日の提示までにメールすること」など残して去ります。

工兵は全体ミーティングを終えて日常に戻り始めていました。
大変な仕事は先輩に任そう、さすがに新人社員では荷が重すぎる、いったいだれがサービス開発の責任者になるのだろう、など考えながら。



ーーー(ネタバレあり)ーーー




サービス開発に携わることになってしまった人達
なんとも想定外の展開により3人のサービス開発者が選ばれていました。この選ばれるあたり、もういろいろツッコミどころがあるんですけど、まず社長の催促の仕方が「人狼でも始めるのかな?」的な人を不信させるには十分な感じの言い回しで「こんな社長いるのによく和気あいあいと仕事できてるよな!」と思って「いや…社員同士仲いいわけでもないか…」と思いなおしました。
そんな仲の悪い代表的なSE部OS部がぶつかり、結果としてよい? 感じに票が集まって室見と梢が選ばれています。災難なことに工兵が間の悪い登場によって責任者に選ばれもいました。ここ室見さんは「票を奪う」という表現が合うような感じの一方、梢さんの方は「票を買う」という別方向の手段のくせにやってることはほぼ同じというのが二人の関係性を表しているようでおもしろかったです。

新サービスの鍵
新サービスはインターネットプロトコルのバージョン違いの変換方法についてがキーになっていました。
今回それに気がつかせてくれたのは始めあたりにある美倉印刷との打ち合わせでしたよね。ときにこの美倉印刷のY崎さんかなり有能で…思えばこの巻に登場する人達の大多数は(珍しく)みんな有能だったように思います。以前の人身売買の話の時が大きいのでしょうか、わかりやすく無知で悪いやつが登場しなかったからそう感じたのかもしれません。
このあたりの打ち合わせなどを読みながら、こういう有意義な時間が新しい技術や発見、あるいはビジネスチャンス的なものが転がっているんだろうな、とか思いました。

工兵リーダー
ほぼ毎回追い詰められてからの機転を見せてくれる工兵くんですが、この巻ではしょっぱなあたりから冴えた発案をはじめ、全体を通して室見と梢やその他勢をいい感じに引っ張っていました。
今回の工兵くん頼りがいのある人物になっていましたよね。梢からみた工兵の評価ぐんぐん上がっていいると思いますし、室見の評価もかなり上がっていそうです。地味に例の有能プログラマさんも抱え込んだりして、あの気難しい人たちをいなして、調整して、さらには自分が動いてなんとかするなんてもうプロですよね。システムエンジニアを超えたなにかになりつつあるようです。
この巻のMVPが彼ですし、彼の活躍があったからこそスルガシステムの風向きがよくなったといえます。今までの労いを含めて彼にボーナスをはずんでもいいと思いますよ、社長さん。

いろんな問題
新サービスが形になっていざ売り込もうとしているところあたり、まさかの認知の問題(マーケティングの問題)という壁にぶつかっていました。読んでてて「もうこれシステムエンジニアの枠超えてるじゃん」と思ったりしたのですが、工兵など含むメンバーは持ち前の営業でなんとか客を獲得しています。(どうでもいいですけど、ちょこっとしかメールしてないのに橋本課長のイラストあって「すごい・・・」と思いました)
しかしパッケージ化しているはずのものを柔軟に対応して客をとったため、室見や梢に大きな負担を与えてしまっていたりもして、パッケージを売って終わりのはずが逆に忙しくなるというおかしなことになっていました。
工兵はいいと思って動いてるんですけど、それが裏目に出ていて(初めてなのだから仕方ない)、商品の売り込みも大変だぁと思っていました。

打開したかと思ったら
そんな問題も薬院との会話によって解決に向かっています。用は業者さんに売り込めばいいじゃん、という発想で、もうこれでいいじゃんってぐらいに完璧にはまった冴えた方法でしたよね。本当に問題がなければこれで話は終わると思っていたんですけど、テンションが上がった室見の説明が災いを呼び起こし「パクられる」という新たな問題が発生します。
言ってみればゴシップ記事並みの雑で大きな声の集客をされて客奪われたあれですけど、現在危ない状況のスルガシステムにとっては大打撃になりかねない予感がありました。ただ早く教えてくれた薬院(有能)のおかげで早いこと対処に移ることができたのが幸運でしたよね。
対処とはいっても工兵はどうするのかと思えばいわば「ブランド」を付ける、というもので、それは社長人脈を利用した、強力で確固たる実績をとるというものでした、ここら辺の社長との会話あたり緊張感あってよかったですけど、社長は社長で抜けてて「これこれ」と思ったものです。やんわり人に責任押し付けようとして室見に釘を刺されるあたりとか。

顧客は国
まさかの国に売り込みをするという展開になっています。国って、国ってなんだよって思いながら、思いのほかとんとん拍子に話が進んでむしろ歓迎している感じがありました。
問題があるとすれば物理的なスペックの差(対応できない範囲のスペックだった)ぐらいのもので、これもギリギリで何とかしていますけど、これさえできればわりと全体的にすんなり物事が解決しててあっけないような、ほっとしたような感じになっていました。
思えば大変だったのはあのパクられたあたりぐらいで、国に連絡してからは何もかも好転していたように思えます。問題がなくなってよかったと思う一方で、その好転させた人物を紹介した社長は何者なんだとも思いました。この巻、社長もかなり活躍しています。そういえば最後も活躍してましたよね。悪い方でしたが。

【まとめ】
サービス開発という今まで全く関係なかったジャンルを行っていました。
この巻ではいろいろとサービスが開発されてから売り込んで運用するまでの流れがざっと、ざっとですけど触れてあって「こうやって商品ができていくのか」と漠然と考えていたりもしました。中盤あたりで梢さんが言っていたように、世の中にはこうした商品があふれているんですよね…(周りを見渡しながら)。
ところで梢さんで思い出したんですけど、初めあたりに室見に見せた工兵と梢の一芝居おもしろかったです。ついでに言うと、工兵が梢に迫って、梢が「手をつないでください…」と言ったあたりで「彼女も女の子なんだな!」と工兵くん思ってましたけど「カモメさんになにも言えてすらなかったけどな!」と心の中で思いました。まぁ工兵くんだって男の子だしセーフ。