とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれるSE!10 闘う?社員旅行

157冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル10

桜坂工兵と愉快な仲間たちによるブラック企業奮闘記になります。
この巻はメインストーリーではなくサイドストーリーの短編集になっており、『闘う? 社員旅行』『もう迷わない? システムサイシング』『インタビュー? ウィズ・ニューリクルート』『誉=コンティンジェンシー』の4編が収録されています。

ひとつひとつあらすじを書いていきますね。

闘う? 社員旅行:毎日多忙を極めているスルガシステムも、毎年ごとに社員旅行が行われていました。今回もまた社長が直々に力を入れた一泊二日の旅行が計画され、社員みんなはしがらみなしで羽を伸ばしに熱海へ向かうのです。初めて社員旅行に参加する工兵は不安ながらに、仕事をいったん置いて、けれども「悪くないんじゃないか」など思いながら同じ会社の同志と共にバスに揺られるのでした。

もう迷わない? システムサイシング:ASAP*1という悪魔の言葉があり、これを言われたときには現在持っているタスクをいったん置いておいて、できるだけ早くその要件をこなさなければならなくなります。ただでさえ忙しい人達にとって、それ以上に予想外の出来事が割り込まれたらたまったものじゃありません。ただ今回、社長がASAPという単語を発し、新しい仕事を持ってくるのです。

インタビュー? ウィズ・ニューリクルート:新人社員に対してインタビューを行い、就職生に仕事の現実などを伝えようという企画がある企業で上がっていました。その企画の一人目に抜擢されたのが次郎丸縁です。彼女の日常に迫り、仕事の大変さやりがい心意気など聞くインタビューが始まるのです。

誉=コンティンジェンシー:失踪癖のある桜坂工兵の妹こそ誉がまたいなくなったと仕事中に母親から伝えられます。工兵は「いつものことじゃないか」と投げやりに答えたりしたのですが、今回誉が気になっていたのが海外ということもあり工兵も心配になってきました。母親から「見つけたら連絡をして」と言われるなど、気に留めつつ工兵は仕事に戻ると、ほどなく宅急便が来たと伝えられます。工兵は「はて?」と思いながら受付に向かうのでした。


ーーー(ネタバレあり)ーーー




闘う?社員旅行
あんな忙しい会社でもちゃんと社員旅行が企画され、なんだかんだいい感じに回っている様子から、わりとあそこ悪くない会社なのでは? と思ったりしたんですけど、そう思っただけで裏では強制参加に近いものがあったりなど「スルガシステムっぽい……」と思ったものです。
読んでてまず訪れるホラー話ですけど、怖い話かと思ったら別に工兵と全く会ってない状態だった社員(平尾)だったそうです。終わってしまえばちょくちょくあったミステリー感にも辻褄が合ってよくできてるなと思ったりしました。
ところで一番の盛り上がりを見せた有給争奪カラオケ大会、あれ(参加したくなければ忘年会嫌い派の人間ですけど)おもしろい企画だなと思いました。ここ地味にあの場を切り盛りした工兵すごいですよね。そして仕事をやり切った(歌い切った)室見もすごいです。ああいう土壇場で強い人間って尊敬ですよ。
個人的にこの巻で一番おもしろかったのは梢だったと思います。工兵と梢の掛け合いはやはりおもしろいです。

もう迷わない?システムサイシング
ASAPという新しいワードが出てきました。意味は「なるだけ早く」というもので、今あるタスクを置いておいても手に付けるべき急を要する仕事に対して使われる単語のようです。
さてそんな恐ろしいワードを社長が言う、という恐ろしい展開になっていました。読み始めてこのワードを知った瞬間から「社長が言ったらとんでもないことになるぞ」と思ったもので、社長が言った様子から「あー……」って思いました。
投げられた案件もめちゃくちゃな案件で、ほぼ不可能という内容でした。不可能だけなら「不可能!」って拒否すればいいんですけど、社長が全力でやれなど無茶苦茶言って、相手も相手で無知ってこともあり、恐ろしいことになっていました。
というのに、工兵室見梢チームはちゃんとした内容に仕上げたのだからすごい。さらに社長にばれないよう機転を利かせて、さらに素晴らしいことに何も知らないはずの藤崎がナイススーパーフォローをしてくれたおかげで、すべて丸くおさまったままブラック案件を回避していました。
この話のスルガシステム一体感すごかったですよね。まぁ、社長の一言でダメになってましたが(白目)

インタビュー? ウィズ・ニューリクルート
次郎丸縁にインタビューする時点ではいい考えではないのか、と思ったもですがテーマがテーマだったのでちょっとミスマッチでした。
次郎丸縁さん、朝から恐ろしい量の距離のランニングをしているようで、終わったら朝食食べながら英語のニュース見てるらしいです。さらにはドイツ語で談笑した後、軽い筋トレをして仕事に向かうそうです。縁さんのなにがやばいって、これだけ意識が高いことしてるのに鼻につくどころか、それが普通だよ? の雰囲気を出しているところです。本人もたぶんそういうの気にしていないところもすごい。
中盤になってスタッフ(クズ)が縁の道具を故意に紛失させて困らせるようなことをしていました。なのに縁さん、その時の対応も迅速かつ適切だし、なにもその後にスタッフの過失に気がついてから許して、さらにきちんとインタビューに答えてるんですよね……。完璧すぎ……つよい……。
ところでそんな次郎丸縁に宣戦布告をして全力ぶつかり完全勝利した新人社員がいるらしいですね。社会ってすごいところです……。

誉=コンティンジェンシー
妹が(ノリで)会社にやってくるという想像するだけでぞっとする話です。この一件で、工兵はいろんな意味で背筋が凍った案件だったのではないかと思います。
誉と工兵が受付で話していた時に藤崎さんが登場するのですが、藤崎さん工兵のこと全く信用できてないとこがおもしろかったです。まぁ藤崎さんの職業柄「不安になりがち」っていうのがある意味でいいように働いているんだとは思いますが、それが部下に向けられたときあらぬことで誤解を招き恐ろしいことになりそうだという不安を残していましたが。
この時、誉はただ仕事場にやってきただけのようで、かといって返すわけにもいかず職場に連れていくことになります。ここでの室見の反応が新鮮なもので、室見が苦手とする性格として部下の工兵の妹というのがおもしろい関係性ですよね。
最後は(工兵のミスにより)誉に一役買ってもらうようになり、誉は見事有言実行、仕事を完遂させてハッピーエンドになっていました。ここ誉すごいポイントだと思います。
誉はその後、社会に期待するようになり勉強するようになったらしく、この職場見学がいいように働いていました。あれだけの修羅場をくぐってなお「期待する」という発想が出てるだけで、「こいつできる!」と思ったものです。そういえば「逆境を楽しむ」という意味では兄妹が似ているといえるかもしれません。

【まとめ】
なれるSEの短編集たしか2回目ですかね。今回はスルガシステムの人達中心で話が回っています。
社員旅行話にて「ついにスルガシステムにも過労死が!?」とか思ったりしたのですが、なんとか生きている人だったみたいでスルガシステム上層部の有能っぷりが見て取れました(そういう部分はちゃんとしてるんだな的な)。
そんな社員旅行を楽しく読み、短編集とだけあってメインストーリーに関係ないだろうと気楽に読んでいたら、誉が登場する話で室見が重要そうなこと「成人している人を連れてこれるなら、わた……(意訳)」など言っていましたよね。
重要そうなことといえば、カラオケ大会でカモメが抜けたとき、明らかに会社のアシスタントパートらしからぬ不穏なつぶやきあった気がしますが、あれは…作中には関係ないですよね!

*1:As Soon As Possible