とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

石の庭園

158冊目
悲劇から始まる青春小説

石の庭園

石の庭園

アメリカのニュージャージー州に住んでいる私立高校生のアリスは、幼稚園に入ったころから知っているマシューという男子と親しい関係、幼馴染、友達、親友、家族、あるいは彼氏彼女、など簡単には言い表せない異性がいました。

アリスとマシュー、互いに相手のことは気になっていて、けれども互いに近すぎて、二人は背中を預けるように、それでもいつでも知り合っている大切な仲間のように二人は通じ合いながら学生生活を過ごしています。高校生という境遇もあり、二人はそれぞれ好きなものや夢中になるものは年々違って互いに彼氏彼女の関係になったことはなかったものの、二人は将来結婚して幸せな家庭を作ると思っていました。マシューは幸せな家庭を作るのを夢見て、アリスはマシューのお嫁さんなることが夢だったのです。そしてそれは二人にとって確信に近いものを持っていました。

マシューは人を惹きつける天性の才能を持っていました。
彼が行く先々で、彼に悩みを打ち明ける人がたくさんいるように、彼は高いカウンセリングスキルを持っていて、マシューもマシューで人の悩みを聞いてあげることを純粋な善意で行っていました。
彼は人の救いを何人も行って、そしてその途中になって、彼は一人のジャンキーな女性を救うためメキシコに旅立ったまま行方不明になるのです。

近く卒業を迎えるというのに、アリスは一人残され失望の日々を送っていました。


ーーーー(ネタバレあり)-----



悲劇から始まる物語
いやもうあらすじでマシューがいなくなるのわかってたんですけど、わかっててもなお失われたときの周り、アリスの反応は読んでて痛ましいものがありました。
「行方不明になった」とだけ書けばいいのに、アリスのショックはわかるとはいえ、周りの人達がマシューがいかに愛されていたか、いかにアリスと結ばれるべき人間だったのか、などつらつら書かれてあるのだからもう……堪えるものがありましたよね……。
マシューもマシューで「なんであんな女と旅行に行ったんだ」と思ったりもしたんですが、悲劇とは唐突に起こるものでこうしたことが突発的にでも日常に行われているだろうアメリカを想像したりしてました。でもねぇ……。
ちなみにですがあのあたり、個人的にはグレイスを連れて歩いているところを見たタイヤの店長が「夫婦みたい」と言っていたのが一番キました。

マシューの家族
物語中盤あたりでしたか、マシューの家族のことについて触れられています。
マシューの家族はどうやら機能不全家族のようで、おおよそ子供にいい影響があるような感じではない家族でした。そもそも父親がおらず(出ていて)、マシュの姉たちは反ぐれ不登校ジャンキーなど女性がやらかす系統のことはだいたいしているような人達でもありました。
マシューのすごいところは、そんな姉を立ち直らせようと動いていたところです。本当にここら辺は健気な人だなと思いましたよ。問題は姉たちはそれが自分のために動いているとわかっていながらも、浅はかにとらえているところで、彼女らは欲に弱いところでした。物語全体的に見ても、彼女らは後にまたいろいろやらかしそうです。
一方で母親であるキャサリンはいろいろ捨てて、欲などと闘っていこうという気概を感じられます。人間が弱いものだと自覚したうえで戦っている姿(禅などしてる姿)がなんとも人間的に思えました。マジでああいった家族にマシューという奇跡がいたんだなと、マシューも腐らずよくやったと読破後に思います。

残酷な死の宣告
まだ行方不明になった、という程度の話だったんですが、意地悪なイザベルの一言によってアリスは奈落に突き落とされます。
たしか、イザベルがマシューを卒業アルバムに乗せるかどうかの話をしていて、アリスがイザベルの毒を吐いたと思えば、イザベルは誘いに乗ったとばかりに(完全に悪手、だがアリスには堪える)ほらを吹いて、挙句にマシューの骨の話をアリスに言いつけるんですよね。
読んでて「おんなってこわい」と思いました。ここまで読んでたらわかるんですが、アリスはもう無理だろうけど、あるいは…ともう無理ながらかすかな希望を持ちつつ、さらにはそれを健気に思っていたり、それを耐えうる準備をしていた中での不意打ちという形で、かつ最悪と言っていいほどのタイミングで死を告げられているんですよ。
イザベルはまた言ってるよ、とクラスみんながわかっているような感じが救いと言えます。が、そう考えるとイザベルという人間も何か問題を抱えているのではと、今書きながら思ってます。今思うと作中で唯一救われなかった人間かもしれません。

シグリドとの出会いと
ここらへんで作品のメインヒロインであるシグリドが登場します。後々わかってきますが、彼女はとても純粋で凛とした美しい人間でした。アリスの妙な男っぽさと対照的にとても女性っぽく書かれてあるところがそう思わせている要因かもしれません。
そんな彼女、アリスが犯罪者の朗読会にて具合悪そうだから声をかけるという形でかかわりあうことになります。
ここおもしろいのが、アリスが「マシューならこうしてただろう」という感じでシグリドに声をかけているところです。そしてこのひょうんな声掛けが物語を大きく変える展開を持つことになるってのが、物語のおもしろいところで、一方マシューの影響すごいなって感じです。
シグリドですが、彼女は教壇に上がっている一人の犯罪者が自分が愛していたベビーシッターの女性を殺した男性だと気がついていました。名をフランクと呼ぶ相手は彼女が恨み恨んだ男性だというのです。アリスとの出会いもさながら、ここもまぁまぁ運命的なめぐりあわせを感じます。この朗読会が一種のターニングポイントだったと思います。

されど変わらず続く日々
マシューの死が確定しようが、シグリドのベビーシッターを殺した男性を知ろうが、なにも日々は変わることなく続いていました。
アリスはそんな日々がとても嫌で、嫌なのに何もできない無力感に襲われてもいました。もちろん周りの人は暖かい言葉や励ましの言葉をかけてくれてるんですが、ちょくちょく出てくるマシューのエピソードなど記されていて空気全体が悲しみに満ちているようでした。
そんなアリスですが、ここらへんでなにを思ったのか「刑務所の卒業制作を作る」など言い始めます。それはマシューへの罪滅ぼしであり、加害者側の様子を知るためでもあったようですが……どうにも半分ぐらい自暴自棄になっていたんじゃないかなんと僕は思いました。まぁでも家にこもって腐ってゆくよりははるかにましで、行動しないと何にもならないっていうのをアリス自身無意識で気がついていたのかもしれませんけど。
そういえば変化したといえば、シグリドという友達ができたところが小さな変化だったといえるかもしれません。これは小さいながら大きな変化だったと思います。やはり友達というのは大切だなと思いました。

こちら刑務所内
刑務所には個性豊かなメンバーがいましたよね。みんな悪い人ではあるんですが、素直な人ではあるようで、アリスの献身的な行動に感銘を受けて、アリスが美人だからというものを超えた絶大なる信頼を彼女に向けていました。
会話にちょくちょくユーモアを入れてみせるなど、愉快な人達だなと思いったりしたり、ちょくちょく自分をかっこよく見せようとすることが男子らしくておもしろかったです。かといって自分が悪いことをしたという風なことは自覚しているようで、悪いけど悪い人達ではない(いやでも確定的に悪い人ですけど)って感じがしました。
おもしろかったのは刑務所あたりでの話ではむしろ一緒に刑務所に来たハルが問題があるといえるところで、囚人たちは示し合わせたように「あいつはだめだ」という風なことを言っていたところです。ハルはその浅はかな考えと見栄が最後まで抜けきれず、フランクのかっこいいシーンでも「あいつはだめだ(意訳)」ということを言われていて「おいハルいわれてんぞー」と読んでて思いました。
今思えば、アリスに良識があったからよかったものの、囚人たちに「ハルに言い寄られてオーラルセックスをした」的な事実を囚人たちに伝えられたらマジで暴動、はさすがになくても一発重い一撃がハルに入ってたかもしれませんね。

アリス周りの恋愛模様
刑務所内に向かうあたりから、アリスのそのたぐいまれなる美しさが描写されることが多くなっていました。
そんな美しい女性を見たら口説きたくなるもので、本人はちょっとは自覚しているものの、あまり自覚しておらず、その姿は読者の僕もドキドキさせられていました。
作中まぁまぁ出てくるモーガンもその一人で、彼は(訳アリだが)金持ちであり、音楽的才能を持っていたり、なんかよくわからないけど人脈ももっていました。けれども(少なくともアリスの目から見て)男性的な魅力はあまりなく、見栄っ張りの男の子って感じがしました。
ぱっと具体的に思い出せませんが、そう思わせる描写がいくつかあったりして、作者の描写がうまいなと思い返します。悪い人ではないけどいい人でもない。彼はいい人どまりのいい人って感じがすごくありました。
まぁでも彼は才能あふれているし、やさしい人でしょうし、アリス以外の人間(今後どうなるかわかりませんけど)と付き合ってもうまくいきそうな感じはあります。
一方ハルもアリスに気があるって感じがしていましたが、アリスが「お前はない(意訳)」的なことを言っていて、どんまいって感じがしました。僕が言えるわけではないですが、モーガンにはあるかわいらしさもハルは持っていないような感じるので、がんばれって感じです。
ところでこの二人を見てて思ったのですが、二人ともアリスが体を許していた共通点を持っています。けれどもきっかけはマシューであり、アリスの気が弱っていた時でもありました。なんというか、二人は仲良くやれそうだと思いました。友達にはなれそうじゃないですけど。

レズの先生
アリスの担当教師であるハードウッド先生はレズビアンのようで、その特性がこの物語に多く影響していました。
かといってレズビアンだから物語が大きく影響したというわけでもなく、ハードウッド先生の人柄が大きく影響したといえて、その影響した上にレズビアンという概念が強く後押ししている感じがありました。
個人的にハードウッド先生がお気に入りの登場人物の一人ということもあり、彼女関連の問題もどうやって解決するのかと思っていたりもしたのですけど、うまいようにまとまっていました。アリスの功績はかなりでかいです。
主人公がアリスということもあり、なんの登場人物だろうがアリスとの対比を考えてしまします。彼女らはふたり仲良い二人でしょうけど、その二人がちょっとした擦れ違いによってもう別れる寸前になっていましたよね。アリスからすれば届かない贅沢な願いですが、彼女らに関しては切実な悩みだったでしょう。
ここ、悩みの発端はハードウッド先生は以前に旦那さんをベトナム戦争で失っているところでした。ハードウッド先生はそのショックから立ち直っているものの、旦那さんを今でも愛していてどうにもそれがすれ違いを発生させているんです。思うのは形が違えどアリスと似ているなってところです。

回復の兆し
囚人たちに文章を教えてる中、アリスは着々とマシューに対しての死を受け入れつつありました。ここらへんでフランクにマシューの死について伝えるシーンがあったりしたなど「周りに言う」ということができ始めています。
アリスが幸運だったのはフランクが確かに悪いやつですが、人の不幸を喜ぶような人間ではなかったというところにあります。その恐ろしい事実を知ったうえで「そうか」と頷いて見せます。その受け取り方がアリスの心を動かしていました。
物語全体をもって書きますが、この「フランク」という男性はアリスとは一番の対照的な人物になっていたと思っています。決定的に違うのはその家庭環境と言えるかもしれませんけど、フランクにもフランクの愛した人間がいてそれは幼馴染で、それで互いに通じ合っていた異性でした。なのにそんな彼女を一時的な気持ちで殺してしまった。
フランクとしても不本意なのはわかっていますが、そんなかつて愛した女性を自ら殺してしまったことをもってなお、アリスの姿を「俺の誇りに思ってもかまわないか?(意訳)」と認めているのは心に強く残るものがありますよね。最後のアリスとの別れ際の一連はとてもかっこよく映っていたことを記憶しています。
アリスもアリスでその時、最後の授業の時に言えなかった言葉を言えたようになっていて、良かったなぁと思いました。もちろんシグリドとフランクとの関係も、決して許されないでしょうけど、そういった許されないことを互いに認識できてよかったと思いました。

マシューという少年の真相
ところで、アリスはマシューの親についての真実をいろんな人から伝えられて気がついていました。昔のアリスには信じられなかったでしょうが、アリスはマシューにすべてを話していたとはいえ、マシューはアリスにすべてを話しているわけではないようです。
早い話、マシューは不倫によってできてしまった子供のようで、アリスとは……なんとも言えない……つまり腹違いの親子? 双子? 同い年の兄弟みたいな(言われてみれば一心同体と言えるかも)って感じでした。
これ知ったとき驚きながらも妙な納得があったのが不思議でしたね。なにも彼女はそれに全く気がつかなかったことよりも、周りが何も言ってくれなかったことも、父親と共通点を見たりしたり、「あの家にマシューがいることが奇跡」などおおよそそんな気がしていたのにもかかわらず、まさかこんなことだったとは。
思えばマシューも母親に対して強く当たっていた過去を思い出します。マシューにしては強く当たりすぎなのでは? とか思っていましたが、まぁあんな境遇でああいう譲許ならああいう言い方をしても仕方ないのかもしれません。あの時、知らなかったのはアリスだけってことでした。
けれどマシューはそれを秘密にしたままこの世を去りました。だからというべきでしょうが、アリスにとってマシューは完全なる存在になったのです。少なくともアリスの記憶の中では完璧な男性ということでしょう。

終幕
終わりの、アリスの誕生会など踏まえて物語が終わっています。
アリスは卒業できたようで(思えばここでイザベルざまぁのシーンがあったりとかしましたよね)、思い返してみれば作中登場した問題はだいたい解消されていて、とても感慨深い気持ちで卒業式のシーンを読んでいました。ちょっと前になるんですが、アリスがダンスパーティーに出かけた後にもうだめだといわんばかりの高熱があったあたりはどうなることやら(思えばあれは悪酔いとメンタル終わった感じが合いまった感じだったんでしょうが)という感じだったんですけど、なんとかなってよかったなって思います。
個人的にはラストのラストちょこっと、ほんのちょこっとだけアリスとシグリドとの掛け合い的なものがあるのかと思えば、そんな様子はないようでした。どうでもいいですけどシグリドがアリスに「私、あなたのこと本当に好きよ(意訳)」と言っているあたり僕は本当にドキドキしていました。例のカップルもいますし、キマシ…? と心の中でつぶやいていました。僕思うんですが、作中では気がついてないようですが、やっぱちょっと互いに気を持っているんだと思いますよ(百合豚並感)
まぁどうであれ、最後の最後のアリス誕生日会にて今までのキャラ総出演しているあたりとても良い感じでした。アリスの一言スピーチの雑さもアリスらしくてよかったです。最後みんな集まってパーティーとかすると終わったなって感じがしましたよ。

【まとめ】
序盤の悲しいシーンがかなりきつく、どうなることやらと思ったりしたんですが、読んでみるとせつなくユーモアがあって儚くさわやかな感じの、読後感もいい感じの、なんかいい感じでした。
いろんなキャラがいろんな立ち位置で、いろんなことを言っています。それらがぶつかって、いろんな思いを持っている人がいるんだな、いろんな人がいるんだな、と思わせるようになっています。そしてそれらがアリスを成長させていくんですよ。人間みんな未熟みたいな感じが痛々しくも美しく思い出されます。
この本、女子かなり好きな部類の本だと思います。特に10代20代あたりの女子なんか大多数が好きそうな内容だと思います。けれども僕が読んでも面白いように、普通に読み物としても(いろんな感情になれるという意味での)感動できると思います。フランクの手紙あたりの盛り上がりすごかったです。
うっかり読んだら、のちに一番のお気に入りになりそうな危うさがあるような優れた青春小説だと思いました。

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