とある書物の備忘録

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クトゥルーの呼び声

番外編
クトゥルフ神話TRPGの元ネタのやつ

クトゥルフ神話 TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

クトゥルフ神話 TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

「わたし」は最近、偉大な考古学者だった大祖父エインジェルを亡くし、相続人および遺言執行者として遺品を整理していました。
大祖父エインジェル教授は偉大な人であったとわたしは思っていましたが、一方で生前言っていた妙な調べものについて少しばかり疑念を持っていました。実際だいたいの遺留品は整理できたとはいえ、その妙な調べものに関してあるだろう資料が最後に残り、謎は深く深くわたしに残るのです。

なにもエインジェル教授は亡くなる直前、人類史上誰も見たことがない、いかなる学を持っている人もわからない「よくわからないが確かにあるかもしれない都市」について熱心に調べていたのです。
調べ始めたきっかけはなんと付近に住む早熟の彫刻家から、ましてや彼の夢の中の奇天烈な内容なのです。そもそも早熟の彫刻家は才能こそあれど、変人として周りからも認知されていた人でもあり、触れられないような人間だったのです。そんな彼の夢をエインジェル教授は熱心に研究していました。

そんな膨大な資料を整理しながらわたしは考えます。それでもわけがわからず、やっぱり例の彫刻家が大祖父をたぶらかしていたのではないか、と疑念を抱くのです。

※この記事はクトルゥフTRPGルールブックに収録されている『クトゥルーの呼び声』を読んで書いた感想になります。ラヴクラウドの作品ですが、ラヴクラウド作品集で読んだものではありません。なので、作品紹介はクトルゥフTRPGルールブックになっています。

ーーー(ネタバレあり)---




妙な粘土板
物語の発端は、わたしが遺品整理していたところ見つけた粘土板から始まっています。
優秀な大祖父がこんなもの信じていたなんて……と半信半疑な状態だったわたしですが、「わけが分からならなすぎる」ということから少し詳しく調べてみることにしていましたね。
ここら辺ですが、いきなりクトゥルフ神話TRPGっぽい感じがひしひしとあり、「おお! これがかの噂の元ネタ!」と見当違いなわくわく感を覚えましたが、一方でわけのわからない内容が内容のため「これからどうなるんだ?」と疑問も持って読んでました。
ていうか、ここでもうすでに不穏な空気は流れていましたよね。加えて、エインジェル教授が原因不明の死亡というのも不気味さを強調していました。あの死因はなんだったのか、一通り読んでみても「わからない」という答えになるんですが、無意味だとは思えないほど意味深な死を感じさせます。

彫刻家の夢
大祖父が生前熱心に耳を傾けていたという彫刻家ウィルコックスの話、あれはウィルコックスが見た夢についてだったそうです。そもそもウィルコックスとは普段から突飛ようのないことを言う人間であり、加えて彼の夢の(彼はそれを真実だと思っている)話なのだから、信じられるかとか信用とかそんなレベルではなく、ただたんの夢物語に過ぎないような話でもあります。
なのにそんな「夢」に対してエインジェル教授は熱心になったのはほかでもなく、昔あった学会にて「よくわからない造形物? を持った警察官の話」を聞いていたからでありました。
妙な一致、全く互いを知らない同士、ましてや過去の人類につて詳しいはずないのに、互いに言っていることは一緒だというのが不思議に思い(あるいは好奇心を刺激して)もうご年配だろうエインジェル教授は突き動かされていました。
ここ彫刻家ウィルコックスもまぁ調べに協力しましたよね。いや別にいいんですけど、「なんか気になるから夢についてもっと詳しく話して!」と老人に言われて「いいよー(^^♪」的なノリなのがすげぇなって思います。協力といえばエインジェル教授の友人たちとも夢についてやり取りしていました。協力的でいいなと思いました。

数々の類似点
例の問題になった定例会でも、「妙な造形物」を持った警視正の話が出てきていました。主観であるわたしはこの造形物を彫刻家の粘土板を見た後で見ているので後々という形になるのですが、すでに警視正の造形物を見ていたエインジェル教授は彫刻家の粘土板にひどく驚いたに違いありません。
エインジェル教授は賢い人間なのでウィルコックスの話を聞いているうちに「同じだ…!!」と半ばわかっていて、その存在を肯定したうえで「どんなものなのか」ぐらいまで調べてそうなのであれですけど、遠く離れて年代も言語も違う二人が(あるいは何人かの人々が)同じ都市を見たり、同じ叫び声? のようなものを聞いていたりしているのはかなりの驚愕ですよね。ましてやドラゴンや妖精のような、どこでも連想できそうな幻想的生物ではなく、どれも誰もが「恐ろしいものだった」と、中は狂いながら話すのだから、恐ろしいことこの上ないですよね……。

恐ろしき宴
そんな数多くの共通点、あるいは異変が分かったあたりで、例の定例巻にて警視正ルグラースが話した、この造形物を入手した現場の話が行われています。
一言で言うと「狂気の宴が行われていた」というところで、それはそれは恐ろしい宴が行われていたようです。読んでみると実際の被害者は近くに住む無力な村人たち10人ほどで、状況はひどい外傷がありながら無残な姿につるされていたぐらいです。こう事実だけ読んでみると、村の住民には悪いですが、その程度の話でもありました。
というのに、屈強な警察官が何人も気絶したり、その悲惨な様子に思わす叫び声をあげてしまう警官がいたりなど、想像を絶するようなことがそこで行われていたようです。それだけすごいことが行われているってまさに異教徒と表現されて弾圧されてもおかしくないですね……。
そんなクトゥルー教の異教徒たちですが、ここにいる人達はあえなく全員逮捕、石造に乗っている不釣り合いな造形物は押収、という形になっています。よかったですよね。狂人たちが謎の薬とかでなんかよくわからんけど力めっちゃ強い、なんてなかったようで。

信仰と神話
取り押さえられた大多数の信者は狂ったそのまま精神病院に入れられたり、そのまま処刑? されたみたいですが、中でもカストロという老人は比較的まともだったようで、ルグラースに対して神話の話を少ししていました。
思えばこのカストロこそ、作中一番と言っていいほど神話について知っていた人なんじゃないでしょうか。そんな彼が信仰している世界観が気になるものの、注目すべきは「星がそろう時、神が復活する」など言ってる箇所です。恐ろしいことにその準備という意味で例の宴を信者はしていたようで(しかも世界中)、加えて恐ろしいのは、もし神が解放されたら世界が狂気の渦に飲まれるというところです。
そういえば世界観で思い出したんですが、クトゥルー教の神は人間が生まれるはるか前から存在していて、人間が誕生してからは夢をつかさどって生きている? らしいとのことです。生きているらしいというのは、死んでいないってだけで、今もどこかで眠っていて、こうした日々にもちょっとした夢を与えているのだ、という風な感じでした。なんというか、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、を思い出しました。

ふとしたきっかけ
思えば今まで陸から話が進んでいたりもして、地底深くからなにか脅威がやってくるのかと思えば、今度の舞台は一転に海に向かっています。
この海に注目したきっかけというのは、わたしがニュージャージー州の鉱石専門の学者から話を聞き行ったとき、たまたま見かけたオーストラリアの古新聞から得た情報を照らし合わせたからでした。ここおもしろいのはあれだけこまめな連絡をしてきたエインジェル教授がその古新聞を(おそらくほぼ確実に)知らなかったというところです。至る所に行われた調査も、まさか地球の反対側まで及んでいるとは思ってなかったんだろうな、と言う感じがします。
わたしはというと、あれだけ彫刻家の話を妄想wとか小馬鹿にしてたくせに、ここにきて持ち前の想像力で確信に近い事件(真相)を見つけています。思えば古新聞に気がついたのもすごいし……さては目星カンストだな?
かくして、わたしは持ち前の行動力とか加えて、船員の生き残りから草原稿を貸し出されるまでの結果を出します。やめときゃよかったのに……と、言い切れませんけど、何事も知りたいという意思というのは血筋なのかもしれません。
そういえば、ここで登場した生き残りの船員も大祖父のような妙な死に方をしています。ひえっ、って感じです。

どこかの海の話
ここらで台風に遭遇して一人しか助からなかった船員の話があります。屈強な男たちだっただろう、エンマ号のクルーたちはたまたま嵐に巻き込まれたり(ここも偶然そんな感じと思いますが)、その後クトゥルー教の人達と鉢合わせになり「こっちに来るな!」と言われ、攻撃され、向こうに乗り込んで戦闘などしてます。そして討伐しちゃって、向こうに進んでいるとかなんとかでした。
こう書いてみると船レベルの強盗殺人してたりなどしてるんですけど、あの例の恐ろしい宴を想像すると「こいつら悪いやつだ!」と思われても仕方ないかもしれないと思っています。まぁそんな動機があったのかどうなのかわかりませんけど、とにかくクルーたちは彼らを自衛のためにも皆殺しにしたんでしたっけ。
そして「彼らくるなと言っていたがなんでそんなことを?」と疑問に持ってクルーメンバーは船を先に進めることにしていました。

妙な祠
先に進むと妙な島があり、それは海藻などにまみれたよくわからない石塊のよくわからない感じの島だったとあります。言っちゃえば物理法則を無視したような、すべて冒涜しているような、おそろしく奇妙な場所だったそうです。
そんな島を無謀にも探索することに決め(誰かやめようといったらやめていたとか書いてあったので、それぞれが見栄を張っていたのかもしれませんが)、島に上陸して散策を続けています。
恐ろしい高さの階段や、なんか妙な模様の装飾など、いろんな冒険? みたいなことをしてやっと「意味わからないぐらい大きな扉(そもそも扉なのかもわからない)」に到着しています。
もう帰っちゃえばよかったのに、と僕は思わずにはいられなかったのですが、人間の性なのか扉をいじってみたりしています。けれども反応はなく、これで終わりかと思えばなんとゆっくりと開いていくではありませんか。
ここ読んでてびっくりしました。なんで開くんだよって、思いましたね……。
そんな開いた扉からは恐ろしいほどの悪臭や、中にいた「なにか」を見た人は狂気で絶命してしまったり、その何かがほかの人を何人か捕まえて(殺して)みたりなど散々なことをしてきます。当然残る人達は逃げます。

逃げて逃げて闘って逃げる
逃げる間も何人か不幸に会いながらも、この書いている人(ヨハンセン)ともう一人はなんとか船にもどることができたようです。
それから全速力で逃げていた彼らですが、片方が逃げている途中に後ろを振り返ってしまい発狂したまま壊れてしまい(そのうち死ぬ)、残る正気を保っているのはヨハンセンだけにになります。
そんな逃げているヨハンセンですが、やっていくうちになにかが「もうすでに追いついてしまいそう」と気がついたのちに、彼の機転なのか(やけくそなのか)「いっそぶつかってしまおう」という半ば狂った発想に至ってました。
ただこれが功を奏し、相手をずたずたにまではいきませんけど、切り裂くぐらいはダメージを負わせることに成功しています。かなり幸運だったと思う一方で、アイツめっちゃ柔い存在なんだなと思いました。そういえば以前カストロが「生きているが死んでいる死んでいるが生きている存在(曖昧)」的なことを言っていたような気がします。
その力は絶大ながら、肉体が死んでいるから死臭(例のきつい匂い)がしてたのかもしれないし、肉体が死んでいるからこそ柔いのかもしれません。
とはいっても、そんな柔さもまた再生しているっぽいことにヨハンセンは気がついて、その再生中に逃げるとばかりに飛ばして逃げ切っていました。すごい。

【まとめ】
逃げ切って帰れてよかったね、と言いたいところですけど、例のよくわからない存在を完全に消滅させたとは言えないような感じになっています。奇しくもなにも知らない人たちによって解き放たれてしまった得体の知れないなにかは、果たして人類になにを起こしてしまうのか、そんな不安な終わり方になっています。この不安な終わり方に既視感を持っていて、なんかと思えば『シン・ゴジラ』がこれに近く感じました。
ところで、もしこの物語をクドルフTRPG的に考えてみれば、ヨハンセンならクリアと表現してもいい展開かもしれませんが、主観だったわたしは恐ろしいことに気がついたということになり、この後すぐにSAN値チェックが入ってそうな感じがあります。いろいろ知ってしまったわたしはこれからどうなるんでしょうか。てか世界はこれからどうなっていくんでしょうか。……考えたくないです。