とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

人間失格

1冊目はなににしようかと結構悩みました。名作にしようかとは目論んでいても、それがざっくりとしたものだったのです。
あてもなくKindleを開いていると、落としたきり読んでない本があって。その一つが『人間失格』でした。

人間失格

人間失格

一言で言えば、恐怖から逃げ続けた男の不幸な話でしょうか。
物語は外部者がその男(主人公:葉蔵)の写真三枚を見るところから始まり、視点が変わって葉蔵の手記により話がすすんでゆきます。
第一の手記は小学生の頃、道化師になりきって生活する少年の苦悩の話。
第二の手記は中学生・高学生の頃、道化師が板についたころ、自分の本心を見破った友人や遊びを教えてくれる友人と出会う話。
第三の手記は社会人の頃、誰かの力を借りなければ生きれない弱った男の話。漫画家になったり、結婚したりします。
どれも性格に難ありという主人公が、一番やってはいけない時に一番やってはいけないことをして、不幸になってゆきます。
この不幸についても上手く言えませんが、不幸な幸運というべきでしょうか、運がよく不幸になっているような感じですね。
本人の幸せ……いえ、漠然とした恐怖から逃れようとした行動、または先に絶望してどうにかしよう奔走するだけなのですが、
それがまた悪手の連続になり、滑稽といえばそうなのですが、その堕ちっぷりが生々しくてなんとも言えません。展開も生々しいです。
まさに生まれながらになにか欠落した男が堕落してゆく話です。


----------(ネタバレあり)------------



一言で言えば、クソメンヘライケメンの話でしょう。
本当にその一言に尽きます。僕が世間の一部なのでしょう、あるいは悲劇の主人公の話と捉えている人もいるかもしれませんが。

気になったことについて振り返って見ましょう。
葉蔵のいう「人に対して得体のしれない恐ろしさがある」という思想、僕もこんな考えをしていたと記憶しています。なんでお世辞とかいうのかと、なんでつまらないものですがというのかと、それ本心ではないだろと日々疑問に思ってました。
今もまだその部分が怖いと思うこともしばしばあるので、この思想にはけっこう共感しました。
ただ問題は行動、道化師になってしまったことも、一番大切なものが否定されるような感覚はだれしも恐怖するのもわからなくもないです。この道化師の行動について僕の黒歴史が思い返される場面もありました。もちろん書かないですが。

次に、イケメンの輪郭が見えてきた頃。葉蔵は友達と遊びまくって、学生運動に参加し、お酒も飲んだとかいう大学生らしい生活をしていたようです。ツネ子という彼女もできました。
これ男子が読むならちょっとした憧れの生活なんじゃないかなと思いました。女遊び、飲み食い、友達と馬鹿騒ぎ、下らないことだとはいえ同士と言える人と出会う。葉蔵は見下していましたが気持ちよかったのだと思います。あと、女性が泣いている時甘いモノをあげろというのはとても参考になりました。使う機会があればやってみようと思います。使う機会があれば。

最後に社会人・その後。この男性に対し社会人と言っていいのかと思うほど屑になってしまいました。できた女性に依存しなんとか生きていたのに、ただ本人が臆病で欲に弱いがために女性を次々と不幸にさせてゆきます。
ところでここらででてきた「キスするぞ」という言い回し、こいつ絶対イケメンだろと再認識しました。これはイケメンにしか許されないことです。もしそこら辺の人が言ったら事案です。
不幸にもイケメンだと冗談の婚約ですら通ってしまい、連鎖し、イケメンが故に、普通なら途絶えてしまうところでも突っ走ってしまったのでしょう。
葉蔵アントささやかな幸福。葉蔵シノニムゆるやかな絶望。

読んでいる時、いろいろな感情になりながらも、予想通り主人公ははトラになってしまいました。犯罪はしてないのに、狂人となり、癈人となってしまってます。反面教師にしようともできない、が、彼の壮絶な人生に悲しくなりながらもコメを見ているような気分になるのは不思議です。
だから、すごい作品だなって思いました。(小並感)