とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

九十九の空傘

46冊目
ライトノベル読みたくて手にとった本です。
それ以外は特に理由はありません。

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

少女は目を覚ますと、靴も履いたまま傘をさしたまま、自分の家ににいました。少女は辺りを見渡すと、自分の家だというのにかなり朽ちた様子が伺えます。わけのわからないまま、家を回って声を出しても、返事はありません。
玄関に行き着けば、扉は曲がりほぼ壊れた状態で雨が入り込んでいました。少女はたまたま持っていた傘をさしつつ、街に出ることにします。
街も自宅と同じく、すべて荒廃していました。なぜ荒廃しているのかそれすらわからず、少女は夢かと思い散歩を試みます。散歩をはじめて高い場所に行き着き、街を見るもそこにあるのは変わり果てた街でした。
とたんに怖くなり、「とりあえず食料を」と少女は登ってきた場所から、見下ろしていた街まで降りることにしました。ところが、いつの間にか周りに霧が立ち込めています。霧があればその場所はとても寒く、少女は引き返し、また別の道を歩き始めます。しかしその先も霧があり、その先も霧が、まるで生き物のように少女を追ってきていました。


---(ネタバレあり)---



カサ
主人公となる中学生女子さんです。わりと度胸があり、行動力もある彼女は、その若さゆえにあれは失敗かなと思える行動が多々ありました。どれこれといってあげませんが、その、ちょっと女性の悪い部分(悪くはないんですけど)が目立っているからでしょうかね。主人公視点だからしょうがないといえますけど。
まぁ、そんな問題があろうけど、自らを「悪人」のほうに向かってゆくぐらいの肝が座っているのだから、成長して経験を積めば彼女は立派な何でも屋になるんじゃないかなと思います。あとがきにもありましたけど、全24話構成の2話が本書になるのだから、おそらくその過程で成長してゆくんでしょうね。
ところであの世界に、成長や老化なんてあるんでしょうか。

シグ
カサいわく、見た目20歳前後という男性です。本人はハードボイルドと言ってますが、いかせんハードボイルドにしては若すぎることと、技名が漫画の技だったため、ハードボイルドな登場な割に厨二病感が拭えないキャラになっていますね。
彼に対して気になることは、カサに対する感情になります。僕が思うカサの性格は「厄介なもの」としてですけど、もしあの世界観にいたとして、あれだけ張り切りを見せる感情豊かな人ってだけで貴重であり、たぶんシグはそこに魅了されたのだと思います。あるいは女に甘い人間なのかも知れませんが。まぁどちらにせよ、そういった巡り合わせが、シグにいい変化を与えたらなと思います。そこら辺も24話構成のどこかでありそうですね。
あと厨二病と表現しましたけど、漫画の敵キャラの使う技を流用するセンスや、服装や、ガンブレラというネーミングセンス、どれも悪く無いと思うんですけどね。残念ながら、カサちゃんにはまだこの魅力が理解できていないようです。

九十九荘とそこにいるモノたち
あのマンションにはたくさんのモノたちが暮らしているようです。小さなコミュニティだからこそ窮屈に思える人(実際は拒絶していただけだったけど)も居るようです。実際にあんな狭いコミュニティだと「みんな家族!」みたいになりそうだと思う一方で、村八分的なノリも行われそうで怖いです。今のところそんな様子はなさそうですが。
ところで、ここでカサの歓迎パーティを開くとかなんとかの時、飲食がいろいろ並んでいましたよね。やっぱりお腹空かないとはいえ食べるというのは大切なことだと僕は思います。荒廃した世界だからこそ、ああいうが活力になったりするんですよね。ほどほどにやって欲しいです。ほどほどに。
ときに、PCおばあさんについてですけど、あの世界では想っていた時のモノを再現するとかなんとかという設定がありまして、あのPCどこまで使えるのか気になりました。インターネットは無理としても、充電ありとか、Word入っているのだろうかとか、メモ帳使えるのかとか。もし物語が続くのなら、あのおばあさんのPCが鍵になると思います。(名推理)

世界観について
世界観については不思議な世界の鱗片を触ったような感じで物語は終わっていました。分量的にも難しいとはいえ、もっと世界観について考察しているシーンが欲しかったなと思いました。やはり24話のうちの2話がこの本ならば、終わる頃には明かされるのかなとかもしれません。戦車とか意味ありげにあったのに、戦争でもしてたにしては、街は綺麗すぎる気がしますが……。どうなんでしょう。
あとは霧や雨が多すぎない? ってことです。霧に関しては湖近くや盆地なみの頻度でしたし、まぁシグは「雷みたいなもの」というようにそういう条件が重なりやすい場所なのかもしれません。

アヤノ
いい子でした。性格に難ある様子は見えたものの、その律儀さからしておそらくこの作中いちばんの正直者だと言えます。そもそもカサと一緒になんだかんだ付き合っている時点で、いい子っぽさがにじみ出ていますよね。あのいい子っぽさが、まさか引きこもりで友達欲しかったという願いで動いていたのだから、切ない気もします。アヤノの思いは「友達がほしい」でした。そして想いがあるのはリボンでしたね。おそらくですけど、「このかわいいリボンだれか(友達)にあげたい」とかなんとか生きてる時に思ってたのかもしれません。そう考えれば、リボンはカサ渡りアヤノの思いはすべて叶ったといえます。
ところで、あんな荒廃しているのにパンツだけ普通にあるなんて、あれわりとすごいことだと思いますよ。普通虫食いとかになっているはずです。持って帰るべき、とその時思ったんですけど、寝たら服も元通りなんですよね。必要なかったです。

【まとめ】
不思議な世界観の話でした。よくわからない荒廃した街並みに、死ぬことがない生活が続いているようです。カサとアヤノ以外はふわっと触れられて終わってますけど、彼らが強く満たされない気持ちを抱えててその世界を生きると考えてみれば、想像するよりきっと苦しいものでしょう。カサは幸い途中に解決しちゃってますけど、シグやら、シグを悪く言ってたサラリーマンやら、PCおばあさんやら、カタナさんやら、いろいろ抱えているものがあるのだと想像してみれば、なかば絶望をしてしまいそうな世界観でもあるように思えます。なんというか、メリーバッドエンドがよくありそうです。
個人的にはもっとカタナさんを活躍させて欲しかったです。だって、カタナさんカサちゃんの心配だけして終わったじゃないですか。
あ、あと最後にどうでもいい話になりますけど、霧の怪人が襲ってくる時、スマブラマスターハンドを想像してシリアスな場面なのにちょっとおもしろくなってしまったのは秘密です。

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