とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

放射線のひみつ

149冊目
正しく知って正しく怖がろう

放射線のひみつ

放射線のひみつ

放射線について書かれた初心者向け本です。
東日本大震災からの福島第一原子力発電所が爆発した映像は生々しく覚えていますが、その爆発したのちニュースになった「放射能」についての知識はなにかとわからないまま時間が過ぎていました。

この本には放射線放射能放射性物質の違い、シーベルトの話題(どれぐらい被ばくしたら悪影響なのか)、そんな基礎的なことがかれてあります。

個人的に放射能といえば原子力爆弾という連想がつくぐらい知らないまま怖がっていた節もあり、たぶん僕みたいに「よくわからんけどこわい」と思っている人がいると思います。テレビなどでわからない単語があって気になっているけど、放射能なんて難しそう…とか思っている人なんかが読んだらいいのではないかなと読んでて思いました。

※ネタバレありと書きますが、個人的に気になっているところ挙げていこうと思います。

ーーー(ネタバレあり)---



放射能放射線放射能物質
似たような言葉である「放射能*1」「放射線*2」「放射能物質*3」ですが、よくよく言葉の意味を追ってみるとそれぞれ全く違っていました。
個人的に注目したのは「放射能」でした。この放射能という言葉は脚注を見てもらったらわかると思いますが、「放射線を出す能力の話」を指しているんですよね。つまり「放射能あり」は「放射線を出している状態」であり、「放射能なし」は「放射能を出してない状態」というわけなのです。
言われてみれば能力の「能」が使われて当たり前みたいになりますけど、「放射能」とみて「ははぁ…これは放射する能力の話だな…?」と感ずくほど僕は鋭くはなかったようです。放射能放射線、一文字違うだけで意味が全然違ってきます。今後は間違えずに使っていきたいものですね。

被ばくと被爆
被ばくという単語もよく見ていましたが、個人的あの「被ばく」という文字は「被爆って書こうとしたけど、爆って漢字が難しいからひらがなにしてるんだろう」と思ってましたけど違ってました。「被ばく」を漢字で書くと「被曝」だそうです。
この「被曝」、意味を書いてみると「普通に生活して受ける放射線のこと」だそうで、ちなみにもう片方の被爆は「爆撃(攻撃)によって受ける放射線のこと」だそうです。なんともややこしい話ですよね。
せめて漢字で表記してくれたなら「あの漢字間違ってるぞ、調べてみよう……あっ、意味が違うから分けているのか!」とわかるものを……って書いてても仕方ないです。
ところでこの被曝に関しては、日常的にも被曝してるのだそうです。宇宙から降り注いでいる放射線の被曝や、地球にもともとある放射線による被曝、さらには食べ物を食べることで受ける放射線(食べた後に体に残ったやつ)の被曝など、割といろんな場所から攻撃? を受けているみたいです(見えないのでわからないですよね…)。

シーベルト
原子力発電所事故後から聞くようになった単語「シーベルト」ですが、シーベルトといわれても、僕は「人名かな?*4」と思うぐらいでよくわかっていませんでした。
このシーベルトというものは「放射線によって起こる人体の影響度を示す単位」といえるようで、人体という元があるからこそ「いろんな放射線を同じ物差しで測ることができる」といえる便利なものです。
よく聞くのが、「ミリシーベルト」と「マイクロシーベルト」ですが、これはいわゆる、1メートルのように1シーベルトを「ミリ*5」「マイクロ*6」に見立てて呼んでいるにすぎないのだというのです。
ちなみにですが人体に影響を及ぼすレベルとしての基準を「積算100~150ミリシーベルト」としているようで、それ以上あると「ちょっとあぶないかな(危ないといっても単なる目安に過ぎないレベル*7)」ぐらいです。別に怖がらなくても、普通に日本で過ごしてるだけで1年平均で1.5マイクロシーベルトは被曝していています(90年も生きたら普通に超えてしまいます)。
ちなみにですが宇宙空間では1日に約1ミリシーベルト被曝するようで、宇宙飛行士が半年ぐらいで*8地球に帰還する理由は「放射線量が限界を超えて健康被害を及ぼすため」です。

おもに花粉と同じ
放射線の対処の仕方ですが「主に花粉と同じ(意訳)」と表現されていました。
放射線とは「風に乗り」「人体に付着する形で(外部被曝の場合)」影響を及ぼします。加えて「少量では問題なく、多量に一気に浴びることで問題(花粉でいうアレルギーみたいです)」にもなりますね。おもしろいのは、花粉症予防がそのまま放射線の対処法に応用でき、それでだいたい万全とは言えませんが十分対策できるところです。
具体的に言えば「外に出た後は服や体を洗う」「外出後うがい手洗いをする」「外出するときは水にぬれたマスクをする」「花粉(放射線)が多い日は出歩かない(逆に言えば室内にいればかなり軽減できる)」さらに書けば「室内でも外の空気を入れないようにする」「最悪その場から逃げる」……最後は花粉にしては少々大袈裟かもしれませんけどかなり効果的だそうです。
ただ放射線の影響というものは「外部被曝」だけではなく、「内部被曝(食べたりすることで受ける被曝)」というものがあり、外部被曝は上の方法で対策できますが、内部被爆はちょっとややこしい話になります。「よく調べること」が大事だとは思いますが。

リスクの中で生きている私たち
生活のリスクをシーベルト換算するシーンがいくつかあり読んでておもしろかったです。

たとえば、野菜は、がんを予防する効果がありますが、野菜嫌いの人の「がん死亡リスク」は150~200ミリシーベルトの被ばくに相当します。(後略)

肥満や運動不足、塩分の摂り過ぎは、200~500ミリシーベルトの被ばくに相当します。タバコを吸ったり、毎日3合以上のお酒を飲むとがんで死亡するリスクは2倍ぐらいに上昇しますが、これは、2000ミリシーベルトの被ばくに相当します。

肥満でスモーカーでお酒飲んで野菜嫌いの人は……。
福島第一原発事故は深刻な事故ですし、生活や食べ物にも注意しなければならない出来事になりましたが、僕たちが生活しているうえで何気なく「選択してる」その行動は思ったよりも大きいようです。放射線にめっちゃ怖がってるわりには、タバコぷかぷかお酒ごくごくみたいな生活にならないよう、日常のリスクも見直したいものですね。

その他の情報
この本が書き終えられたのが2011年5月10日、というわけで今の状態まで網羅しているわけではありません。
そのことを作者さんは気にしていて、今後の情報を更新する意味合いでいろんなサイトやらをはじめあたりで紹介していました。
ここではそのサイトのリンクなど張っていこうと思います。

朝日出版社第二編集部 ブログ
朝日出版社第二編集部ブログ

・東大病院放射線治療チーム ブログ
team nakagawa

・東大病院放射線治療チーム ツイッター
東大病院放射線治療チーム (@team_nakagawa) | Twitter


参考になりそうなページとか

ICRP*9勧告 日本語版シリーズ
ICRP勧告 日本語版シリーズ(PDFダウンロード) | 公益社団法人日本アイソトープ協会|JRIA

【まとめ】
放射能やら放射線やらなにも知らないなと思いました。
恐ろしいのは知らないのになんとなく怖がっている状態で起こる過度な不便さやストレスなのかもしれません。あと妙な噂。
たしかに「福島第一原発事故」はそれはそれは恐ろしい事故ですが、それはそれは恐ろしい事故というわけではないようでした。恐ろしい事故を正しく知ることで、恐ろしい事故を下手に怖がることもなく(安心はまだできませんけど)安心して情報を見ることができます。今まさにそんな教訓を知るのにはいい機会なのかもしれません。

*1:放射線を出す「能力」のこと

*2:物体を突き抜ける能力が高い粒子みたいなもの

*3:放射線を出している物質そのもの

*4:人名です。放射線防護の研究で功績のあったロルフ・マキシミリアン・シーベルトからとっているとか

*5:1/1000「千分の一」

*6:1/1000000「百万分の一」

*7:この100ミリシーベルト受けて、がんになり死亡するリスクはおおく見積もっても0.5%増える程度

*8:半年で受ける被曝量は約180シーベルトになり、これは福島第一原発の作業員の最大被曝並みだそうです

*9:国際放射線防護委員会