とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれる!SE8 案件防衛?ハンドブック

153冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル

なれる!SE (8) 案件防衛?ハンドブック (電撃文庫)

なれる!SE (8) 案件防衛?ハンドブック (電撃文庫)

ブラック企業に就職してしまった桜坂工兵は今日も連日の忙しさに追われていました。
ただこの頃、なぜか「暇よね?」と上司の室見が言うように、なんだか忙しいのは忙しいんですが「以前ほど切羽詰まった忙しさ」というものがないような空気がありました。それは工兵も覚えがあり、妙な感覚を持つのです。しかしそれも感覚を持つ程度、実際は細々とした締め切りがあったり、業平産業との大きな仕事が控えてたり、大型案件のコンペが近くにあったり、と忙しいことには変わりありません。

ここ最近、アルマタ・イニシアティブというベンチャー企業が勢いを加速させていました。
その勢いは目覚ましいもので、案件をガンガン軒並みとってゆき、ある案件に至っては真正面から大企業とぶつかってかつ奪ってゆくなど、ほかの企業の間ではなにかと噂にになっているようでした。

工兵がいるスルガシステムもその風にあおられ、いくつかの案件をアルマタに奪われてしまいます。

動揺を隠せないスルガシステム側、調べてみると、どうやらアルマタは悪い言い方をすれば卑怯な方法(上層部を抱え込む)ことで仕事を奪っていたと知ります。
かといって奪われてしまったものはどうしようもなく、これからを考えているうちにもどんどんアルマタに仕事を奪われてゆくのです。

彼らはいよいよ会社が存在できるかどうかの危機に直面していました。

ーーー(ネタバレあり)---






初めて登場するライバル
思えば今まで登場した「敵」というのは、問題ある顧客だったり、問題あるシステムだったり、大企業だったり、なんか大きなものに巻き込まれただけだったり、などいわゆる「大きな存在」といったものでした。
ただ今回の場合、相手というのは勢いがあるベンチャー企業という、規模でいえば同じレベル、ライバルと言える形であり「向こうがこちらに挑んでくる」という初めてのパターンでもありました。今までスルガシステムが有能な人材や機転をフルに使って逆境を突破して痛快的なものでしたけど、いざそういったのが向こうからやってくるような感じとなれば「なるほど恐ろしいものだな」と思ったものです。
この巻登場した縁の有能っぷりも相まって、どうにもスルガシステムと似たような異常な存在もう一つ増えてしまったようで、今後の展開が気になります(仕事するならこれほど嫌な敵はいないですけど、物語としてはライバルが増えておもしろくなったと思います)。

アルマタ・イニシアティブ
かなり勢いある会社でした。たくさんの案件を取れるだけのビックネーム(社長)の存在などありますが、そもそものアルマタそのものの力がかなりあるようで、ちょくちょく出てくるアルマタ側の描写から「すごい会社だ感」がひしひし伝わってきました。
こうなんというのでしょうか「意識高い系」なんて言葉があるなら、「ガチで意識高いやつ」がアルマタになるでしょうか。意識高いし、それ相応の凄まじいスペックを持つ社員がいそうな感じですし、社員がそれを誇りに思っていてかつ切磋琢磨しているよ感じもあり、もうすごいな! って感じですよね。
途中に縁が「模擬戦をやろうと思います」と言ったあたりで、正直「これスルガシステム勝てるのか?」って思いましたもん。

次々と奪われてゆく案件
初めあたりの大型コンペに敗れてから、後々気がついたリトルトリル案件、さらにはその他いろいろな案件が立て続けに奪われて行っていました。
奪っていったのはもちろんアルマタなんですけど、ここらへん読みながら「アルマタはこれだけの仕事をさばき切れているのか?」と疑問に思いました。まぁ勝手に無茶苦茶な仕事を持ってくる社長がいるスルガシステムもスルガシステムですけど、あれだけ大変な案件を一気に増やしたと考えるとアルマタも相当忙しいと思うですよ。なのに大変そうな感じはあまり伝わってこない、あるいはめっちゃ有能な人がすごい手腕でこなしてるのかなぁと思ったりもしてます。あ、スケジュール管理がめっちゃ優れてる感じなのかもしれません。

と、アルマタに勝手に感心する一方で、スルガシステム(あるいはほかの企業)からしてみればたまったものではなかったでしょうね。なにせ大切にしていた案件ですらあっけなく奪われたのですからもう、読者からすれば同情するしかないレベルです。
個人的に気になるんですが、本当にあんな簡単に案件が奪われていくんでしょうか。仲良くしてきたからこれからも継続的に……なんて生易しいお気持ちで仕事はしないでしょうけど、二年もやった仕事の契約解除があんなあっけなく日常的に起こるんでしょうかね……いや、起こってるんでしょうね……。

次郎丸縁
初めて出てきた桜坂工兵の明確な「ライバル」になるでしょう。彼女は工兵と同じく初対面から「親近感」を持っていて、読んでてわかるのですが「仕事意識」なども似ているのです。ただ意識が似ていてても自身のスペックというものはかなり差があるようで、工兵には多少難しいものがあるようです。
こう考えてみると「ほとんどの能力値で工兵は縁より劣っている(意識がかろうじて同等)」なんですよ。本当に工兵はこの巻よく頑張ったと思います。そんな相手に工兵らしい「プライドも投げ捨て」「持ち前の交渉術」というものを使い、それがとても光ったと思います。思えばこの「泥臭さ」というものは縁はまだ持っていない要素のような気がします。彼女はあくまで正当法でまっすぐに突っ走ってるタイプだと思いますから。でも末恐ろしい人なのは確かです。

開戦準備
中盤あたりで業平案件が奪われつつあるということを橋本課長から伝えられます。地味にこの「伝えられる」という行動そのものが、行動に移った橋本課長の気持ちを垣間見る行動であり(仕事仲間としての)工兵と橋本課長の親睦の深さがうかがえます。
そんな橋本課長から伝えられた情報を知るなり、工兵は焦って何とかしようと動き始めていました。まずどうしたかというと室見と協力して対策を練ってから、(ここで初登場した)福大にソフトを作ってもらうなどしています。
余談ですけど、この福大さんかなり有能でしたよね。いやほんとうに「ノリでソフトを作ってしまう」っていうのが「ノリで作るってレベルじゃねーぞ!」って感じでした。スルガシステムはなんですか、バケモノしかいない会社なんですか。
そういえば、ここで以前登場した「カモメの甥なんていたらいい案を出してくれたかもな」とかふと思い、そして「カモメの甥、まさかアルマタに…?」など勝手に思ったりしてました。

決戦とちゃぶ台返し
ソフト作った時点で個人的に「いけるのでは?」と光を見ていたのですが、いざプレゼンをしているあたりでは縁による容赦ない攻撃がありました。工兵もなんとか回答しているようですが回答しているだけというのが精いっぱいなようでした。
社会のことよくわからないんですけど、社会に出たらこんな鋭い質問(ほぼ詰問)というのが日常的にあるんでしょうか。ちょっと言葉に詰まったら終わりみたいなプレゼン、まぁ緊張で燃えるタイプならいいんですけど、こんなことばかりではもう大変というか身が持たないというか……それが会社の存亡をかけたものだとしたら……社会は弱肉強食なんですね(遠い目)。
縁の攻撃を耐え、やがて工兵がソフトを出すシーンが現れます。このなんかよくわからないけど切り札を出さなきゃいけなくなる展開というのは読者の僕もはらはらさせられて、そしてある意味予想通りそれは罠だったようです。
そしてそれがきっかけで暗雲立ち込めだしてから「もうだめだ感」漂ってましたし、もう大体の人間はそう思って失意を感じている中で最後に工兵が時間稼ぎ? している間に電話が鳴ります。この電話がキーになり形勢逆転、一発で風向きが変わりました。思えばここら辺『逆転裁判』っぽかったです。

なんとかなって
なんとかなってよかったですよね。もう僕も読んでて「もうスルガシステムも終わりだ…」と思っていました。加えて書くなら「あ、次から社長が変わるのかな? …そうかヘッドハンティングか!(スルガシステム編が終わってアルマタ編になる)」すら思ってました(そういえば結果的にはそうならなかったですけど、工兵はボスから名刺もらってましたよね)。
そんなドキドキしながら読んでた僕ですが、ここらあたりで一番ドキドキしたのはきっと橋本課長でしょう。彼女は本当に強い人間ですが、強いがゆえ今回のこれはとても大変でつらいものだったと思います。工兵の機転がうまく回って万事解決といったところでしょうけど、こういうサプライズは事前に知っておきたいタイプでしょうし、今回のこれはそうとうな感情を持ったと思います。いやもう、橋本課長もこの案件で相当つかれたと思います。追い目感じるタイプでしょうから、悪いようにならなくてよかったですよ……。

【まとめ】
初の防衛線となり、今までのドキドキとは種類が違うドキドキがありました。
思えばベンチャー企業というものは、勢いがあるときはいいものの勢いが止まってから(まわりのさらに勢いがある企業から)顧客を掴み続かないといけないんですよね。もちろん顧客がそのまま永遠についてくれるわけでもなく、ついてくれた顧客が奪われるなんてこともあるでしょうから、その顧客を離さないよう常に意識してないといけないようです。その難しさは仕事を撮るよりも難しいのでは、とこの巻を読んでて思いました。