とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

窓ぎわのゴースト

159冊目
未練がある幽霊とごたごたする話

窓ぎわのゴースト

窓ぎわのゴースト


来年高校二年生になる黒木薫子は少し変わった兄貴を持っていました。
なにも兄である彼(黒木伸一)は突然「ゴースト・ハンター」という仕事を始めると言い出して、実際にゴーストを消滅させる機械を作り始めたのです。薫子は半ば巻き込まれる形で彼の手伝いをすることになりました。
伸一は薫子が「マチ先輩」と呼んでいる、町田美奈子という彼女がいました。彼女は実際に霊感を持っていて、日常的に幽霊を見るような女性です。そんな彼女の協力ももらっていました。
仕事もかなり本格的ですでに部屋を借り切り、部屋は機材でいっぱいになっていました。探偵のように電話が鳴るのを待ち、けれども部屋を貸し切るのにもお金がかかり、伸一はそれをバイトで費用を賄っています。けれど伸一はゆくゆくは仕事として回っていく程度にはなっていくだろうと考えていたりもしていました。

ある日のこと、そんな彼らのもとに妙な電話がかかってきます。どうにもアパートにてホームレスの遺体が見つかったというのです。
聞くところによると、そのアパートはぼろぼろで近く取り壊しになると話になっていた場所だそうです。一方でそのアパートには妙な現象が起こっている様子を付近の住民が聞いているという出来事も起こっていました。
多くはホームレスが原因だと付近の人達は思っていたものの、あの場所はもう誰もいないはずなのに、という事実もあり「あれはホームレスの幽霊ではないのか」と不穏な噂がちらほら見られ始めていたのです。

そこで伸一に電話がかかってきたわけです。伸一は意気揚々に仕事に取り掛かることにしました。

ーーー(ネタバレあり)ーーー








兄貴に振り回される人々
この物語の語り部は薫子でしたけど、実際主人公は伸一だったのではないか? と思えるほどに兄貴中心に話が進んでいました。思い返してみると兄貴はかなり活躍していて、実際主人公と自ら言ってもいいぐらいの大活躍っぷりだったと思います。
そんな伸一の悪いところは自己中心的で説明不足なところでした、妹の薫子や彼女のマチ先輩は振り回されるシーンもかなりあり、二人にとっては伸一が頭を悩ませる存在だったと思います。
この伸一君、主観薫子だから「ジコチューな兄」なんて描写で終始してますけど、個人的にはかなり有能な人間だという印象を持ちました。マチ先輩が彼と付き合っている理由はわからなかったですけど、どう見ても彼は将来有望だと思いますし、なりより特有の問題児的な思考を持ちながら、なんだかんだ言って常識わかっています。マチ先輩が彼を見込む理由がわかる気がします。とはいえ、相手の情報を聞き出すために青森に電話をしたり、機材を作るために筑波に行ったとかなんとか……ジコチューな兄貴にしてはできすぎる気がします。彼はいったい何者なのでしょうか。

ゴーストの人達
作中ゴーストとして登場してきた人々はどうやら未練をもっているようで、それを理由にあのアパートに住み着いているようでした。
物語ごたごたの原因というのはだいたい「ゴーストたちによる人間への信用のなさ」でした。それは過剰なぐらい怖がっていましたけど、まぁしかたないなと、自分の存亡にかかわることだから無理もないなとも思いました。しかしなんで20年前に亡くなって世間なんて知らないはずの人たちがエクトプラズム消滅装置を知っているのか、その上「あれはエクトプラズム消滅装置だ! 間違いない!」とわかっちゃうぐらい詳しいのか謎でした。いや、草太郎が教えたのかもしれません。そして世間と隔離されてたこそ、そういったものが真実だと勘違いしたのかもしれませんね。

幽霊と話せる道具
いろいろ問題とかあったんですが、伸一の発明品である「スピリコム」発明により話が一気に進んでいました。
この機械のなにがすごいかって、幽霊と話せるところです。よかったのは、幽霊と話せるとかもう世紀の大発明と言えるんじゃないかというものを、彼らはそんな特許とか考えることなく純粋な人助けに使っているところでした。そういう姿がゴーストたちの信頼を得られたといえるかもしれません。
いろいろゴーストと話していて、薫子たちはゴーストたちの真意を聞き出しましていました。健太をさがしているとかなんとか、問題は健太がこれまで一度も作中に登場しなかったことで、健太君はあの場所にいないところでした。あれを話していたあたり「どうやって探すんだ」って思いました。なにせ目の前にある問題(アパートの取り壊し)をこなすだけで精一杯でしょうし、健太を探す手がかりなんてないんでしたからね。
ところで兄貴、このスピリコム作っていて、普通に実用化されているのがすごいですよね。

それぞれの恋愛模様
さわやかな読後感ありますけど、作中の恋愛関係的なものは結構ドロドロしてましたよね。
たしか主人公の薫子は草太郎に好意を持っていて、草太郎はマチ先輩に好意を持っていて、マチ先輩は伸一の彼女で、伸一は杏子に好意を持っていて、マチ先輩を狙う第三勢力(哲郎)が出てきたりもして、幽霊と人間とのどろどろ恋愛模様が広がっていました。
まぁでも幽霊も幽霊で人間は人間で結ばれることはないと互いにわかっているらしく、半ばあきらめな感じも持っていたりもして、切ないような展開にもなっています。
恋愛模様で一番進んだのは薫子と草太郎との関係でした。草太郎ははじめマチ先輩を見ていたものの、最後の薫子の猛烈アタックにより草太郎は薫子を見るようになり「生まれ変わったらまた会おう!(意訳)」という約束にキスなどしちゃうほどに熱い感じになっています。
一見盛り上がりを見せていますが、彼(草太郎)の切ないところは、母親に愛されなく、さらには片思いの女性がいたとかあったけど実ったことがないという「愛されたかった」という欲望を持っていたところであり、叶った頃はこの世にいなかったというところです。あんな約束かわしてますけど、草太郎だってそれが難しい問題だということはわかっているはずです。「いい夢が見れた」と言えばそうかもしれませんけど……昇天したあとにいい感じになればいいです。

バトルとか再会とか
なんともう一人ゴーストバスターが登場し、主人公たちと対決をするという展開があります。
もう一人のゴーストバスターこと祥次郎すが、普通に改造した銃とかもってそうな危ない人物でしたよね。下手に動くと警察が動きそうな……とはいえ、あんな大規模な機材を持ちながら警察の目を免れていたのでしょうから、それはそれで優秀な人かもしれません。とはいっても、あの様子からそのうち警察に捕まりそうだとは思いました(詐欺的な意味でも)。
ここら辺の展開で個人的に驚いたのは伸一が幽霊修復銃的なものを作っていたところです。確かに未完成らしい貧弱なものでしたけど、ああいったものを短期間で作ってしまう(言っても3カ月ぐらいでしたよね)、そして人生かけて作ってきた機械と対抗までしてしまう(成功している)、のがすげぇ! ってなってました。
祥次郎は伸一知っていたようですし、伸一も祥次郎の技術を認めてましたから、ゴースト・セイバーを発足してから活動しだしたらまたぶつかりそうです。

【まとめ】
読んでて思ったのは「女性向けの本だ」ということで、もっと言えば「女子小学生向けの本だ」といったことを読んでて思いました。
今まで男子小学生向けの本(あるいは男女共同の本)の児童文学には触れてきましたけど、読んでて「これ女性向けだ!」と思ったのは初めてであり、読んでた感じは新鮮でした。ちょくちょく恋愛的な要素があって、さらには切ない感じもあって女子が好きそうな感じがありました。幽霊というテーマが大きかったと思います。
物語万事解決でいいんですが、僕は男子なので伸一の技術力がとても気になりました(正直)。