とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

なれるSE!11 絶対?管理職宣言

162冊目
ブラック感ある仕事系ライトノベル11

俗に言うブラック企業(スルガシステム)に就職してしまった桜坂工兵は連日多忙に追われていました。
近頃行われた大型案件防衛戦から一息つく間もなく、日常のタスクから、その他こまごました案件が過密スケジュールでやってきます。そんな日々に「新しい人出が来てくれたらなぁ」と工兵はぼやくのです。

中小企業に満たないような弱小企業スルガシステムですが、最近会社を買収したのだそうです。
そんな情報を朝一に伝えられこの上なく驚く工兵ですが、そんな工兵に上司の藤崎は「(買収した)その企業に挨拶に行こうか(意訳)」と持ち掛けてきたので工兵は了承しました。
そんな買収した会社(デジタル・ヴィレッジ)は同じビルの中だったことに工兵は驚きます。そしてあろうことか、挨拶するだけだといっていた土壇場で藤崎は「彼が部長代理だから(意訳)」と皆に紹介するのです。

ーーー(ネタバレあり)---





無茶ぶり
今までいろんな無茶ぶりをされてきた工兵君ですけど、今回は初といえるドッキリ☆的な無茶ぶりをされていました。
ドッキリ☆で終わったらいいんですけど、まさかのそのまま続行という形で、やむ負えない形で管理職という立場に置かれているのが恐ろしいところです。
ここらへん読んでて「ははぁ~工兵君今回も大変だなぁ~」とか思ってたりもしたものの、冷静に考えて「彼、まだ入社して一年も満たないじゃん」という衝撃的な事実に震えてました。派遣されてた先は管理職だった、なんてことは現実的にありそうですが、新人社員が買収した会社の部長(管理者)になった、というのは稀にみる無茶ぶりだといえますよね。そりゃ、反発も起こりますよ。

空回りするふたり
今回の問題の一つになった「あいだの溝」というものはどこにでもあるのではないかと読んでて思いました。
現場と指示してる人の意見が合わない、ましてや買収した後の会社間亀裂というものは大きく、そしてこういったどうしようもない溝が仕事に支障が出てるんだろうな、とか、どうしようもない思いをはせてしまいます。
あの最初あたり工兵と室見の空回りしてる一件ですが、室見さんも室見さんで頑張っていましたよね。ちょっと周りのタイミングが合わなかったというか互いに知らなかったから仕方ないというか、それでもあの初めの挨拶を買って出て、不安ながら前に進んでる様子から「成長してる!」と強く思いました。人見知りだということもありながら、仕事だからと割り切れているところも彼女の魅力ですよね。

経費を知って
DV社(デジタル・ヴィレッジ)の奇妙で面倒な工程を知りながらも、工兵はハンコ押すだけだからと言っていた藤崎の言うことを信じぽんぽんタクシー代とか残業手当を出していました。これで問題はないだろうと思っていた一方で、そんな経費が会社の負担になっているらしいとかロン毛から伝えられ、現実を見てみると恐ろしい実情が見えてきます。
工兵君は優しいからこいった状態に「なにか理由があるはずだ」と疑問を知ろうとしていましたが、普段の仕事だとこうったことを考えずに知ったそばから頭ごなしに「経費削減!」とか言ってきそうで怖いです。いや社会ろくに知らない僕が言うのもなんですけど。
とはいえスルガシステム側もそれを放置しているほど会社に余裕がないようで、できれば早くに、社長に気がつかれる前に何とかしようとしています。ただ一方でその熱意とは裏腹にDV社の反応は薄いものでした。

現実と提案と決裂と
いよいよ会社清算という現実が近くなり、工兵は何とかしようとなんとかしています。ここらへんでカモメとデート? 的なことをしてみたり、夜まで稼働しているDV社の存在を知ってみたり、などイベントを経て、なんと工兵は(仕事を振ることで辻褄を合わせるという)最善の手を一人で思いついていました。ここすごいのは、なんだかんだで提案思いついていることと、徹夜という荒業使いながら形にしているところです。加えて書くならカモメさんという魅力的な女性を置いといて仕事(無給のやつ)をやってるところ。まったく彼は大したやつですよ。
そんな工兵の提案を朝一にやってきた室見に見せ、さらに藤崎の了承を得てからDV社に向かっています。ここらへんもちゃんと段階を踏んでいて、「これはいける」と読んでた僕も思いました。ていうかこれ以上の考えが思いつかないぐらいに工兵の提案がよかったと思います。
ただ、(仕方ないことですが)そんなことも内情を知らないDV社は反発し、提案が破棄されてしまいます。さらに言い合いにもなって、たまりかねた工兵が余計なことを口走り、交渉どころか関係が最悪になりました。もっと言い方があっただろうに、とは思ってしまうのですけど、DV社も色々あったし、工兵君も徹夜の疲労感もあったでしょうからしょうがないようのも感じます。

イベントにて
中盤あたりでIT見本市が行われていました。たのしげな空気とは裏腹に工兵の気持ちは後味悪い感じになっていました。……とはいえエンジニアとしてそれなりの収穫を得るために動いてもいました。ここらへん工兵の強さが垣間見えてるような気がします。これはこれ、あれはあれみたいな。
そんな工兵の前に偶然にもリシーが通りかかり、工兵は思わず彼女に声をかけています。リシーは工兵に気がつくなり、そそくさと逃げていたりもするのですが、紆余曲折(兄と会うなど)して工兵と一緒にお茶をしています。
このチャンスをものにしていのも工兵の強さですよね。室見から「人たらし」と言われてもしかたないような歯がゆいことを言ったりして、なんとリシーを口説いてしまってます。単に説明すればいいものの、勘違いして惚れるような感じで言ってしまうのが工兵っぽいですよね。
余談ですけど、ここら辺に梢さんが登場しています。梢さん、ほんといいキャラしてますよね。以前の貝塚が登場した巻でもありましたけど、梢パワーが息苦しい空気を緩和する効果があるのを改めて実感しました。

様々な協力者
工兵はどうにかする方法をどうにかして見つけなくてはならなくなりました。とはいっても、やっとリシーが「助けて」と言うなど共通のも目標が生まれているからこそ、あとは行動だけといったところで、絶望的ながら先を歩く道はあるような前向きな感じがすでにありました。
少し前に決裂したヤナガワと室見と共に仕事をしているという話を聞くなり(地味にこのあたりヤナガワの律義さが出ててよかったです)、光は見えているような感じもありました。思えばヤナガワが会社どころか仕事まで奪ったという情報を得たからこそ勝利がつかめたといえます。彼の活躍は大きいです。
ところで、作中にちょくちょく登場していたロン毛ですけど、この巻ではかなり(悪い意味も含む)活躍を見せていました。知らなかったんですけど、彼は本来(あの見た目で?)社保労務の専門らしく(困惑)、今回の勝利での彼の活躍っぷりは大きかったと思います。ナイスサポートでした。おそらくこの話のMVPはロン毛でしょう。

形勢逆転
そんな武器を持ち、DV社の信頼を背負って、万全の態勢で兄のいる会社に乗り込んでいました。
適当なことを言って兄と接触、端的に工兵は兄を追い詰めるようなことを言います。終わってから気がつくのですが、ここで出した提案の一つ(切り札)が実のところはったりだというのだから驚きですよね。工兵君の肝の座り方は半端ないなと、終わった後に読み返した覚えがありますね。彼は本当に新人なんでしょうか?
兄でこそDV社は「屑会社だ!」と言ってましたが、それは今までくだらないところでエネルギーを吸われてただけで、かなり有能っぽいところが作中だけでもちょくちょく見えていました。こうしたけりがつき、マイナスからゼロにもどれたということは、彼らの会社の人達がこれからまたいろいろ自由に動けるということですから、今後に期待したいものです。終わりあたりに工兵と室見とすれ違った三人による空気はいいものだと思いました。

【まとめ】
管理職って大変だな、と読んでて思いました。
人の上に立つということは、この巻の工兵君のような苦労をすることになっているということでしょうし、もっと現実は多様に苦労をするんだろうと読んでて思いました。この物語では丸く収まっていますけど、収まらないことだって普通に……あまり考えたくないですね。
そういえばこの話、ちょくちょく過去のスピンオフ話を拾っているところがありました。IT見本市だって以前話してたなんとか48(曖昧)機材の売り込みの様子がありますし、初めあたりに別案件のひと悶着のことが書かれてあった気がします。
そんな余談交えながら、この巻では最後気になる終わり方をしていました。室見さんが困惑しながら新しい名前を言っているのです。次巻、室見さんの知られざる過去がついに明らかになるんでしょうか? 僕、気になります!