とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

スメラギガタリ~新皇復活篇~

170冊目
大正浪漫帝都東京陰陽師活動劇

1984年帝都東京、和風と洋風の文化が交わる首都で奔走している陰陽師たちの話です。陰陽師陰陽寮という機関に所属し、陰陽寮は日本国内の霊的な案件に対処する宮内所属の組織になります。

この陰陽寮の将来を有望視されている才女こと土御門晴見は「産道の迷い人」という事件を追っていました。それは出産中の女性から、その子供を産み出した直後だという場所から、子供の右手が出てくるという怪異の追跡です。晴見は解決のため異界と繋がる「門」を人工的に設置し、相手がこちらにくるのをひたすら待つのです。

一方、呪的業界から忌み嫌われていた家系「芦屋」の名をもつ芦屋道代は、一方的に権力を行使する陰陽寮に日々不満を募らせていました。彼女はある計画を練っており、それは彼女が違反をした取り締まりがやってきた当日に決行します。それはこの腐敗した陰陽界隈全てを敵に回す革命が目的の宣戦布告でした。

晴見はその前代未聞の報告を受けて芦屋の調査を始めます。彼女自身も陰陽師界隈に変化を求める一人ですが、彼女は陰陽寮の一員なので取り締まる側として動きます。ただ取り締まるにしてはたくさんものを晴見は抱えていました。普段の仕事に加えて、彼女は何をするのか分からない芦屋道代の行動を注意深くうかがい始めるのでした。

ーーーーーー(ネタバレあり)ーーーーーーーー




大正ロマン

物語世界観のキーとなる単語です。色々な単語が出てくるたびに、ずいぶん都合のいい設定が出てきて、ヤッタァ! とうきうきしながら読んでいました。例に漏れず僕も大正ロマンが好きなのでとても楽しめました。過負荷ない設定資料の開示でしたけど、設定ひとつにしてもファン好みの物語がいくらでもありそうですね(ゴクリ)

ところで大正ロマンとはいえ、怪異が登場したり、テレビや車が登場しています。ある意味では無駄だと言える大正ロマンの文化もその矜持も全部大切にして技術進歩と溶け合わせた文化があるんだなぁ、と意味もなくしみじみしました。文化と技術と伝統をいい感じに混ぜ合わせるというのはかなり根気のいる作業ですのでね。

土御門晴見

本作の主人公です。強かな女性で、作中どんな場面でも折れずに事態を収拾してました。役職がらどうしても本音と建前がチグハグになってしまうところありましたが、芯が強いこともあってやるべきところはやってました。とにかくかっこいい姉御肌って感じでしたね。

個人的に印象深く残っているのは百鬼夜行を門前払いしているシーン、ずいぶん無茶苦茶な展開でしたけど、晴見が見事に突っぱねてます。思えば終盤の回想で登場した道代のことを思い返して対照的だと思いました。道代のエピソードは…かなしい事件だったね…

芦屋道代

もう一人の主人公だと言えます。ヤバすぎる計画を立てて、予想外の事態もありながらも完遂してみせるというかなりヤバい人物です。流石に芦屋の血を受け継ぐものとして大胆不敵な言動を見せて、かつ強かな行動をしててもう天晴れですね。彼女に関しては個人的に1番好きなキャラクターなので読みながら計画が成功しろーーと応援してました。夜統が乗り換えて完全にこっち側応援してた(陰陽寮の方も応援してましたけど)

彼女の印象的なシーンは挟森との戦闘シーンとオフの夜統に治療してもらってるシーンですかね。戦闘シーンは言わずもがな夜叉丸を駆使した縦横無尽な戦い方で敵を翻弄してーー思えば火力面というより機動力をとった戦い方でしたーー戦う様はとても画面映えしてよかったです。例に挙げた挟森との戦闘は相手が悪すぎてどうなることやらとハラハラしてました。夜統との掛け合いからもわかるように、役目のためなら命も厭わないところがありましたから…。道代がやられて終わりーーということがならなくてよかったです。

夜統と澄香殿下

完全にできてるのにできなかった微笑ましいカップルです。思えば視線は晴見中心なので自然と二人は保護対象として見ることになりますね。付き合っちゃえと言うのも無粋な一種の形ができていて、二人のカップリングは今後期待が寄せられます。澄香殿下、道代と一緒に連んでいる夜統を見て嫉妬してほしい。

澄香殿下といえば御言霊ですよ。彼女が一度だけ、夜統のために自分がどうなってもいいとして放ったあのシーンはもう健気で痛々しくてグッと来ました。夜統ぇ! お前今こそガッツ見せる時だぞ! と思いました。僕こそそう思ったけど、晴見の内心の心労かなりデカそうだとも思いました。晴見は適度にガス抜きしないとはげそう。からだだいじにして…

将門さん

いいキャラしてましたね。この物語、いろんなキャラのための物語だといえますけど1番は彼のための物語でした。小説の物語としてうまくできていて、読者は作中作や夜統の心情で平将門の人生を追体験することになっています。その過程で彼に近くなってゆき、終盤にかけて盛り上がっていくという展開よかったです。最後回想長すぎない? とか思ったけど終盤のエモさで全部持って行きました。

個人的には将門さんちょくちょくお茶目なところ出てたのがよかったです。高層ビル(そりゃ当時なかったから仕方ないとはいえ)怖がっているところとか、一方で夜統に寄り添っているところとか、回想であるように本来は庶民に寄り添った泥臭い人なんだなと感じました。思えば純粋に平将門として生きれたのは今この夜統の中にいる時かもしれません。そう考えるとやはり鎮魂できたと改めて思います。

終わりに

将門さんのあたりで触れましたが、やはり作品の構成がとてもうまく、あの場面で話していた内容が1番効きそうな場面で回想として出てきたり、作中作が儀式の一部だと気がついたときは役としての自覚が芽生えたり、それぞれのキャラクターの配置がいい意味で効果を発揮していたり、と読んでて感心していました。

感心といえば「古き良きラノベだ…」と読んでて強く思いましたね。少し前の(作品そのものは10年前なんですけど)ラノベを読んでいる感覚がずいぶん懐かしいような気がします。最近のラノベではなくてこういう作品求めている人がいそう。というか今思ったんですけどアニメ化とかできそうな内容ですよね。映像で見たいシーンもいくつかあるしボリュームもちょうど良さそう。アニメ化はよ!

あとは全て終わって「終わってしまった」と平将門のラストを噛み締めながら読んでたら最後に「続」と書かれてあってとても驚きました。ここ最近読んだ小説のどんでん返しの中で1番かもしれない。続きあるのかなと検索したら、ちゃんとあってよかったです。晴見と芦屋の活躍がまた見れるんですね。