とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

ひみつの校庭

171冊目
だれも知らない秘密のフェンスの向こう側

ひみつの校庭 (ティーンズ文学館)

ひみつの校庭 (ティーンズ文学館)

昔、植物園で植物が多いこの小学校にはちょっと特別な課題を渡されます。それは学校内にある植物の担当を決めて卒業までの6年間、観察してノートに記録をするというものです。ノートは植物観察ノートという専用のもので課題を考えたのも植物好きな校長先生でした。

主人公の葉太は小学5年生。彼も例に漏れず植物ノートをある時期から放置していました。数年ぶりにその話題が持ち上がり、彼の担当の木ハカラメを思い出します。実は小学1年のときに唐突に枯れてから怖くなって観察をやめた過去を振り帰るのです。

ある日のこと、机の中からハガラメの葉っぱが出てきます。長い間整理しなかった机の中だとはいえ気がつかなかったはずがなく、なのにハガラメが枯れてなく瑞々しい青色をしています。葉太は久しぶりに自分の担当の木を見にいくことにしました。

ーーーーーーー(ネタバレあり)ーーーーーーー




ひみつの扉

植物園だった小学校という舞台がすでにいいんですが、その奥には秘密の扉があって、さらに奥には植物が蔓延っているという雰囲気が良かったです。中に入れる条件も「植物観察ノート1冊終わらせた生徒であること」というのもいい。小学校の頃は植物に興味あるごく稀な一部と、それ以外は大体雑草と認知している大多数だろうから難易度的にもちょうどいいと思います。

奥の植物園に向かうために通過するこの扉も知ってる人からすれば特になんとも思わないでしょうが、知らない大多数生徒からすれば一種の学校の七不思議になってそうな不気味さがあります。そういう意味でもいい神秘性を感じる「門」だったと思います。ところで本の表紙になっている窓華の手を引っ張っている葉太、あれは終盤のイラストなんですねぇ…読み終わってから気がつきました。

植物観察ノート

葉太は植物観察ノートをサボっており、思い出したかのように慌てて書き出していました。このムーブが小学生っぽいなとか思いながら、その過程で植物にのめり込んでいるのもこれも小学生っぽいと思って読んでました。終盤わかってくるんですけど植物に対しての情熱は血筋だなんですよね。

思えば誰にも言わずに黙々とノートを書いてたから終わった後に校長先生に渡しているときやっと「ノートを完成させるのは稀」ということを知っています。ここ地味にファインプレーだったと思います。普通途中で友達に言って「そんなのやらんでええだろ」とか言われたらやめちゃうでしょうし。一方で机の中に葉っぱ入れた校長先生も策士です。

裏庭へ

葉太が裏庭に行くと、そこには見たことのない植物や知らない管理人姿が見えます。この知らない管理人は父親だったわけですけど、父親もこの初めの出会いで知らない人風を装っているの地味にすごいなと思いました。普通感動して涙が出ててもおかしくないシーンだというのに、普通に植物の話をしているというのが…と思いながらも、そういえば葉太も一瞬で懐かしさを見抜いたように、無意識で互いを全て理解したのかもしれません。

裏庭に関しては温室など登場しましたけど、全貌はわからないまま終わりました。幽霊の登場人物もラスト唐突に出てきたり、たまたま出てきた人たちが主人公たちに関係あるだけで、基本的に曖昧なままです。ラストに至ってはイヌムギを植えてしまっただめに幽霊犬が他にきてしまった、という展開になっています。たしかに裏庭は特殊な場所ですけど…奇想天外の判定割とガバガバなのでは(悪用するな)。

二人の女の子

作中登場したヒロインは二人いました。片方は気が強くて最近自分体型の変化に戸惑っっている女の子、もう一人は明るく楽しけだけど最近引っ越しすることになってしまった女の子。二人とも小学生っぽさを感じるいいキャラだと思いました。初めに登場した望果は自分が担当の桜の木が秋に咲いてしまう出来事があって心を痛めている展開があります。結果は虫食いだったわけですが、その後望果に胸の内を明かしている時に「いいようになって良かったなぁ」と僕はしみじみ思ってました。体型のこともありますが、あの場面でなんとかの呪いはちょっとダメージ大きい言い回しなので。

もう一人の窓華はクラスの人気者でよく笑っている女の子、葉太と結ばれる様はまさにメインヒロインといえましたね。彼女は引っ越すことに引っ掛かりを覚えていました。なにせ自分の家には愛犬のお墓があったのですから、一人にして置けないと気にしているようです。ただ主人公の粋な計らいによって、愛犬と再会して心置きなく引っ越すという選択をしています。

など思えば主人公は二人の女の子を救っています。もうね冒頭の「葉太君見込みあるよねー」と言っていた女の子は見る目がありますよ。

一成くん

個人的に彼が1番のヒロインと思っています。彼はスポーツ万能、成績優秀で文武両道をしているかなりイケている男の子です。思えば初めから「そこまでいうならノート書くよ(意訳)」という相手の気持ちを思いやり、「お前は泣いてるんだよ(意訳)」と鋭いところがあったり、絵がうまかったり、父親との再会に泣いていたり、主人公は「ただ虫が苦手」と言っていますけど、そういうのが全部なくなっちゃうぐらいいい人でしたね。イラストの葉太にノートを見せて得意げになってるとこかわいい。

思うんですよね。こういういいやつと友達になれるかが小学校楽しめるか境目なんじゃないかなって、そう考えると葉太と一成はどういう出会いをしたのかちょっとばかり気になります。そして今後彼がどう成長していくのかっていっても、とてもモテそうないい少年になりそうです。虫が苦手なのもむしろいいアクセントになっちゃいそう。かわいいとか言われてそう。

開花

アオノリュウゼツランが見事に咲きました。父親の念願でもあり、葉太が見たかったものであり、物語の締めくくりでもあります。この花に関しては作中何度も書かれている通り、何十年に1度しか咲かないらしく、そんな花が存在するのかと驚く一方で初めて花が咲くところを見た人はとても驚いただろうななど思いをはせていました。植物の神秘性を感じる存在ですねぇ。きっと知らないだけで、植物界隈にはこういう話ゴロゴロあるんでしょうね。

今はもう便利な世の中なので「アオノリュウゼツラン 花」とかで検索すれば一発で開花を見ることができます。見てみると意外と質素で可愛らしい花が咲いています。個人的には花というよりも、花の咲いている見た目の異様さに注目してしまいました。あれがああなっている時の迫力は間近でみるととても迫力がありそうです。

この開花をしている植物園を想像して、これを花見として楽しめる程度に知識を持つ人たちは、きっと豊かな人たちだろうと。ラストシーンを思いました。

終わりに

児童文学の恋愛小説といったところでしょうか。少しだけ冒険小説っぽさもありますが、関係性の変化を中心に書いてあるように感じました。舞台は小学校の植物園というごくごく限られた範囲からいろんな物語が紡がれていって、綺麗にまとまっているところがよかったです。葉太が父親と心通わせるシーンなんかぐっときました。

ときに児童文学の恋愛シーンはある意味の威力が高く、手を繋ぐシーンとか手紙のやりとりとか、それだけなのに被弾したような気持ちで読んでました。いい意味でほどよい小学生が読める恋愛本だなと思いました。