とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

怪物

76冊目
だれが怪物なんでしょうね。

怪物 (集英社文庫)

怪物 (集英社文庫)

刑事の香西はもう少しで定年を迎えます。
退職を控えた香西はひとつ、大きな心残りの事件がありました。それは「くるみちゃん誘拐殺人事件」、およそ15年も前の話であり、もう時効も成立している事件なのですが、香西こそ犯人を特定しており、すべてをかけてなんとか証拠をつかもうしていたものの結局逮捕できなかった事件です。
やりきれない思いのまま、香西はたまに現場を思い返します。容疑者の父親が警察庁の高い役職に就いていたからだろうか、調査側が二の足を踏んでいたままうやむやになって事件について香西こそ、香西ひとりは確信を持って当時大学生の堂島昭が犯人だと言っていたのに結局犯人を捕まえることはできませんでした。
香西が確信を持っていた理由は堂島の自宅て漂っていた「匂い」にあります。香西が自覚した特異体質である、香西しか分からない強烈な「死の匂い」があの自宅にあったのです。しかしけれども、証拠がそろわなかった。香西は今もやりきれなさを覚えるのでした。
「死の匂い」は香西にしか持っていない能力です。ゆえに誰にも言うことはできませんが、能力のおかげでこうして周りから「あいつは勘が鋭い」などいわれながら充実した刑事人生を終えることができました。最後の最後まで香西はだれにも能力を言わないまま定年を向え、ひとつ感慨深くやりきれない思いを抱きながら刑事としての残り時間を過ごすのです。

個人的な話ですがジャンルで言えばミステリーよりはサスペンスと感じました。

-----(ネタバレあり)-----


特異体質
ごくごく普通の世界観だというのに、主人公がまるで能力者ものバトルで登場するレベルの特異体質を持っていました。
たしかにたぐいまれなるセンスやら共感覚など発動しているときは、「人知を超えた勘」みたいなことが起こる様子は想像できますが、香西にいたってはもう「使いこなしている」というレベルの使いこなしようでしたよね。
ゆえに孤独で常に疑われないように立ち回って疲弊しているとかなんとか、わかる気がしますが普通にすごい。
物語前もいろいろ大変だったんだろうなとか思いをめぐらせたりしました。
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刑事香西
特異体質のおかげでずっと殺人事件を受け持ったという彼ですが、物語最後自覚するように「特異体質」がない香西とはただの刑事であって、もっと酷なことをいえば「ありふれた刑事」というレベルに止まってしまいそうな普通の人のようでしたね。
本来の性格(物語前の刑事香西)はどうだか知りませんけど、物語上は終始偏見が強く、正義感(と本人が言うだけの執着)が強い様子から「明らかに優秀」とはいえないのがまた悲しいところです。もうすこし疑い深ければ、もう少し賢ければ、など思うシーンもしばしばありましたし……。
気になるのは「もし特異体質がなかったら真崎を疑うのか?」というところですかね。まぁ考えてみれば、特異体質がなければあの堂島が死んだあたりで、そもそも死に気がつかないまま救急車を呼んでいたかもしれません。そうなるとやはり……大変なことになっているでしょう。どちらにせよ里紗と協力すると決めたこと、そもそも堂島の家で死の匂いに気がついてしまったこと、それらが繋がってしまったように思えます。もし石川などに相談したら、また運命が変わったかもしれないのに。(ギャルゲー脳)
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刑事側メンバー
まず石川さん。有能な石川さんは実質香西の妻みたいなポジションでした。僕としてはもっと石川さん活躍してほしい気持ちであったわけですが、香西に疎まれてそのままフェードアウト悲しいですね。引ったくりでちょこっと一緒になるほかにも、香西と一緒に事件解決している様子見たかったです。ちなみに脳内イメージは『名探偵コナン』の高木刑事でした。
次に関口さん。関口さんはうわさ好きな刑事という感じがして人間味のあるいいキャラしてました。日常モノだとしたら多分一番面白い人になると思います。刑事を長年していて勘も鋭いようでしたが、香西にあっさりはぐらかされていました。
今泉さんも香西に「おいおいなにやってんだよーw」みたいなノリで接触していますが、香西自身は「なんでもないですよーw」みたいなノリで適当にあしらっていました。定年退職するからこそ深くいわれなかったとしても、物語の終わり方の雰囲気からしてあの後またこのメンバーと香西は接触することがあるかもしれませんね。今度は敵として。

香西の協力者とか
香西の協力者といえばまず里紗、堂島をなんとしても逮捕したいという意思(香西は気がついていないが殺意も)あって、結果いろいろあってから思うようになったようです。彼女がしでかした問題は堂島に対しての殺意を事前に香西に伝えなかったこと(むしろ利用していたこと)、楽しくて堂島を煽りまくってしまったこと(あえてかもしれません)でしょうか。いやぁ、けっこう複雑な立場をもった人物の1人だと思います。
次に真崎。真崎君はこの作中一番賢い人物でしょう。彼に対して真っ先に思い浮かぶサイコパスという単語も、僕としては「どうだか」と自ら否定してしまいそうです。なにもどちらかといえば真崎君、アスペルガー的なそういう感じしません? まぁどちらにせよ学術的興味が生死を越えるような人だとは思います。マッドサイエンティストですね。
しかし出てきたときは「一人の研究員」程度だったのに、石川よりも登場してくるなんて思いもよりませんでしたよ。個人的に外見は『BLAZBLUE』のハザマを想像してましたけど、たぶん真崎とハザマとは外見こそ似ているかもしれませんが、性格はほとんど違うと思います。(なにを話しているんだ僕は)
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事件が事件を呼んで
堂島殺してからいろいろ香西が奔走していたあたり、ほんとうにいろいろ「事件が事件を呼んでいる」状態になっていました。人間追い詰められると一番やっちゃいけないときに一番やっちゃいけないことするように、動揺しまくった定年間際のおっさんがただあわあわしていてこっちもはらはらでしたよ。そう思えば真崎なんて手馴れたものですよね(すごすぎて何人処理してきたんだよってなレベルでしたが)。
ところでこの発端である里紗の話からどうすればうまいこと普通の刑事事件がごとく解決したものかと考えてみたんですが、うーん……それが、思いつかないんですよね。強いて言えば里紗のことをほかのメンバー(刑事仲間達)に話していれば、とか思ったり。やはり「香西がしょっぱなあたりで石川に相談すれば」という結論になりそうです。

怪物だれなのか決定戦
作中では真崎を「怪物」として香西も「怪物になった」というような展開になっています。しかしけれども実際の怪物はだれか? と考えたら、僕が思う一番の怪物は堂島だと思います。
真崎はああいう人を普通に殺しちゃうような人だから「狂っている」と言えるかもしれませんが、彼は別に人生どうでもいいと捉えているために、無駄な暴走はしないと思うんですよね。だから無駄にリスクはとらないからまだ……きちんと仕事こなしているようですし別に。と言ったところです。
香西はもともと狂っていた(孤独がゆえ愛着的なものが歪んでいた)ように思いました。なので、彼に危害を与えなかったら別にこちらにも危害を与えないタイプの怪物だと思います。いや、彼は地雷たくさんありそうでけっこう危なそうですけど。
堂島はもう、仕事があるのに欲に負けて危害を加えている(歯止めが利かない)時点で一番やばいですよ。ああいうのが個人的に怖いです。
よって「堂島≧香西>真崎」という感じですかね僕は。
とはいえ彼らはどれも狂っているといえます。似たりよったり、堂島一位といったところです。

俺達の冒険はこれからだ
終わり方がそんな感じでした。終始香島がなぜ怪物に成り果ててしまったのか、という内容になっていて、これまでのこととこれからのことはなにも分かりませんでした。このさき三園が殺害され調査している石川からなんとか逃れようとする、香西や真崎や里紗を見てみたい気もします。
そういえば気になるのは香島がもっている「死の匂いをかぐ能力」が実際にあると分かったというのに、あれはなんの匂いだったのかというのが分かりませんでした。あれは「死の匂い」で完結しているのか、「残留思念」的ななにかなのか……最後その力は本物だと立証されて終わっていましたので……あ、そう考えると香西は能力を共有できる仲間ができて救われたとする物語かもしれませんね。

【まとめ】
わりとみんな怪物でした。上に書いたように一番のクズ野郎は堂島で完結しているものの、どうにもほかの人も(男女含む)普通に一線をがんがん越えそうな人たちばかり、なんともいえない気持ちのまま終わってしまいます。
一通り読んだ僕が言えることは、報告連絡相談をきちんとしましょうということです。ろくに力の無い(僕みたいな)人はこういう危ない人に安易に突っ込んではならない、ということですよ。そして異変を感じたら逃げる。証拠は持っておく。レコーダーも持っておく。用心深さ大切なようです。
いやけど、けっこう彼ら忠告したのに(各自忠告シーン多かったですよね)それぞれまったく聞いてないんですよね。
まぁなんですか、相手が嫌がってたらやめましょうってことですね(まとめ)。