とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

穴 HOLES

43冊目
ブログ感想では初の翻訳小説になります。翻訳小説に対しては数冊読んだ程度なので、ほぼ初めてと言ってもいいでしょうか。
この本との出会いは、いつかまとめサイトで見たことから始まります。そのサイトは忘れてしまいましたけど、実物を見たとき「気になってた本だ」と思い出しましたね。

穴  HOLES (講談社文庫)

穴 HOLES (講談社文庫)

主人公スタンリーはなにかと不幸な少年です。ただ空から靴が降ってきた、たまたまそこにいて靴を拾った……ここまでは偶然かもしれませんが、その靴が有名野球選手が寄付していた靴だった、実は盗まれたものだったと言われれば話が変わってきます。
スタンリーは法廷で「空から靴が降ってきた」と正直に言いました。が、裁判官は「卑劣」ときっぱりと言いい、スタンリーは有罪となります。
ここで裁判官は提案をしてきました「刑務所に行くのと、グリーン・レイク・キャンプに行くの、どっちがいい?」と、スタンリーは多少迷いますが、裁判官は「ここで決めろ」と言われ、キャンプという響きに魅了されたスタンリーはグリーン・レイク・キャンプに行くことを選択します。
スタンリーは先祖代々呪われてました。スタンリーの母親は「呪いなんてない」と断言しているのですが、なにかと「まずい時にまずい場所にいる」ということを体験している先祖達をスタンリーは知ってます。今回の靴の件も、お父さんも、そのまたお父さんも同じようにまずい時にまずい場所にいたと聞かされてました。しかしそんな不幸なことが身に降り掛かったりしても、スタンリー血筋の人達はへこたれません。なにせ、先祖代々のジョーク「あんぽんたんのぺっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせい!」を言って笑うのですから。
さて、スタンリーはグリーン・レイク・キャンプに内心わくわくしながら参加しました。名前に湖(lake)があるキャンプとあって、いろんな体験をできるのではないかと期待していたのです。
しかし運ばれた先は、湖もなければ緑もない荒れ果てた不毛な大地でした。スタンリーはなんにがなんだかわからないままに、カウボーイハットの男と立ち会って指示を受けます。それは「毎日ひとつ穴を掘れ」でした。



-----(ネタバレあり)------



スタンリー
主人公ですね。自らを弱い、デブ、意気地なしなど始めは自己肯定感が低いような気がしますが、毎日穴を掘るという目に見える達成感やいろんな人との関わり(教育に悪そうなのもありましたが)などによってしっかりとした男に成長しています。
彼には不幸体質を人に当たるのではなく、先祖代々のジョークによって笑い飛ばせる強さがありました。加えて、適応力というのでしょうか、まわり大人の顔を見て発言するという社会性も持っていたようです。
彼に関する思いを言えば、「本当に強い人だなぁ」ということです。不幸な運命と巡りあいながら、落ち着いて自分の精一杯をする姿というものは「強い」という一言に尽きます。その強さとは、受け入れる強さでしょうか。言葉に出来ないですが、とてもカッコ良かったです。

テントDの子供たち
テントDには、X線、イカ、脇の下、磁石、ジグザグ、ゼロ、途中にぴくぴくが加入しましたね。彼らに関してはそれぞれ悪事を働いたのだろうな、と思えるほどのナチュラルに非道な行為をしてる雰囲気を感じさせました。悪事を悪事では思ってないような感じすらあり、ノリで車盗む奴もいました。
個人的に思ったのは、そんな国籍も肌の色も関係ない雰囲気を見せているのに、子供が6人と集まってしまえば自然と序列ができてくることでしょうか。「◯◯◯のくせに生意気なー」みたいな序列によっていじめ(本人たちはいじり程度だと思っている)が起こったり、あげく喧嘩騒動になったりと、悪事を働いている彼らにしてはおとなしくも、子供が集まれば大小どうしてもそういった事態が起こってくるんだろうなと思いました。

ゼロ
この作品に登場する良心の一人でしょう、僕も作中だと一番のお気に入りが彼です。彼に関しては迫害を受けながらも懸命に生きている、かつ知的好奇心がたくさんあり無邪気な姿……彼には幸せになってほしいと読みながら思ってました。物語終盤では最善と言える状況になって良かったです。
天才オーラがありましたけど、自閉症あるはサヴァン症候群の雰囲気も感じて取れました。実際はどうかわからないですが、彼のポテンシャルは高いからこそ、自閉症特有の素直さが悪手にならないよう(靴を盗んだことは言わないようになど)生きて欲しいものです。できるならスタンリーのようないい友達なんか増えればいいですね。
あとゼロあの後どうなのか気になります。母親は見つかったのか、大学にでも行くのだろうか……まぁ、それらの穴は想像で埋め合わせることにします。

グリーン・レイク・キャンプ
この話の中心となる単語になります。ここで行われていることは奴隷と同じようなものであり、待遇悪いやら恐喝やらもう計り知れない偽善がありました。子供の無知を利用してなんとか形ができているようなものです。物語終盤では解体されてよかったですよ。
グリーン・レイク・キャンプで働いている大人はいったん置いておいて、このグリーンレイクキャンプはどうしてできたのか個人的に不思議でなりません。非公式にするならば子供を適当にスカウトすればいいものの、罪のある子供達が否応なしに送られてくる場所とする、そのシステムがどうできたのか不思議ですよね。まぁおそらく、偽善集団的なものが作ったんでしょうけど。
しかし狂気が孕んでいる言葉になってしまいました「グリーン・レイク・キャンプ」、読破後には『ダンガンロンパ』の「希望ヶ峰学園」似た負のオーラを感じます。

グリーンレイクキャンプの大人たち
彼らは私利私欲を持ち、子供たちを利用してました。作中に登場したのは所長とミスター・サー(今後サーとします)とミスター・ペンダンスキー(今後ペンダンスキーとします)でしたね。どれも悪い奴らだというのは確かなことであり、それ以外の「カウンセラー」の人達もきっと似たような性格をしていることを想像できます。個人的に私欲を隠して調子のいいこと言うやつは大の嫌いなので彼らは読んでて最高でしたよ。最高な奴らでした。
悪役というより狂人いえる彼らのおもしろいところは、所長とサーとペンダンスキーそれぞれの狂人ジャンルは別物だということです。局長はヒステリックある女性だとして、サーはDVする男性、ペンダンスキーは狂気ある牧師するイメージで固まってました。それぞれ別ジャンルの恐ろしさがまた良かったです。
ペンダンスキーに至っては、一見ふつうの優しそうな雰囲気を出しているのがたち悪く、ゼロを紹介するシーンにて「頭のなかが空っぽだからな!」カタユサユサ のときの「あれ?」といった違和感(異様さ)が次第ににじみ出て、最後は「撃ち殺せばいいんじゃない?(暗喩)」など言うのですからいいっすよね。
いやぁ、どれも屑でした。グリーン・レイク・キャンプでは無邪気な悪意を出す子供も出てきたはずなのに、それら悪事が霞むぐらいでしたよ。ペンダンスキーに限らず、ちょくちょく出てくる彼らの悪意は恐ろしいものがありました。

過去エピソードについて
過去エピソードはどれも余談程度の伏線話になりますが、不思議な話やら湖が干上がる前の話やらいろいろありましたけど、ひいひいじいさん(エリャ・イェルナッツ)が山に豚を運ぶ話が一番印象深く残っています。
エリャが「恋をしたけど、どうしよう」と言えば「豚をあげるからこうするんだ。で、こちらもお願いしたいことが……」と話をするマダム・ゼローニする話の流れが美しくてもう、震えるほど良かったですよ。この過去エピソードの終わりはエリャのど忘れによって悲しい結末になってしまいますけど、あのマダム・ゼローニの話が僕の選ぶ過去エピソードベストになります。

さまざまな奇跡
作中さまざまな奇跡が登場しました。その奇跡はスタンリーが自ら作るようなものではなく、散らばった偶然が、スタンリーの勇気の一歩によって回収されていくような感じでした。あのゼロがスコップでペンダンスキーを流血させた後から、スタンリーの車盗み(車盗みのぴくぴくがあの場にいたのが奇跡)、そのあと水なしで聞いたことある神の親指を思い出しつつ(親指の話を知っていたことも、スタンリーが以前、雷で岩を目撃できたのも奇跡)歩きまわり、突起物を見つけ(船を見つけたは奇跡。というか、100年前の船が残っていたのも奇跡)そこにゼロがいて(ゼロが船を見つけたのも奇跡)ゼロが生き延びれたのも……(以下略)。そんな奇跡が多くありながらも、二人再会した後もたまねぎ見つけたりとか、黄斑とかげがたまねぎ嫌いとか、関係ないだろう過去の話も交えながら、伏線が回収されるさまは、もう、圧巻でした。
個人的に一番奇跡だなと思ったことは、「スタンリーとゼロがテントDで一緒になったこと」ですかね。靴という縁も偶然だとはいえ、同じテントに割り振られてるなんてもう、それが一番の奇跡だと思います。
え? なに、言ってみて。うんうん……そんなのご都合主義? これはスタンリーが勇気を出して選択した結果、だよね。 主人公補正? は? スタンリーはこんなにゼロと一緒に頑張ってきたの、主人公補正なわけないじゃない。彼らが偉大な一歩を踏み出したから、幸運を掴んだ。いい? これは彼らの勇気の結果なの。わかった? よろしい。

【まとめ】
作品も綺麗にまとまってゆくのが爽快でした。スタンリーの勇気と選択が全部良く、最善といえる結果を残して良かったですよ。
ギャルゲーなどしてる人ならわかると思いますが、選択を一つ間違えたらバッドエンドなんてこともあるその境遇に、スタンリーは全部正解パーフェクトコミュニケーションしてるんですよね。これもまた奇跡なのかなと思ってみたり。
しかしこの本、小さな章がたくさんあるんですよね。児童文学とだけあって子供が読むところを想像してみれば、「次の章で終わろ」「いや、その次で」という姿が見えますよ。ボートでゼロと会う辺りからの怒涛の展開は少年少女達を夜更かしさせそうです。
おもしろかったです。また人に勧めれる本が増えました。

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