とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

蟹工船

77冊目
ちょっと前、話題になりましたよね。

蟹工船

蟹工船

オホーツク海カムチャツカ半島沖海域で蟹漁をする人たちの話ですね。
さまざまな理由で漁に出ることになった、いわば「無知」な人たちは蟹工船と呼ばれる船で劣悪な状況(極寒、不衛生、恐ろしい上司)と共に逃げ場もなく仕事をする話でもあります。
良く言えばそこで働く人たちの奮闘記、悪く言えば劣悪な環境でもがく人々の話……まぁ、実際読んでもらうのが早いと思います。

文面で書けば「ひどい職場」「劣悪な職場」と簡単ですけど、想像を一回りも二回りも超える劣悪な環境なので一見の価値ありです。そして時代を感じてみてはいかがでしょうか。

ところで、この作品はプロレタリア文学と呼ばれる分類に含まれます。プロレタリア文学とはなんぞや? は置いておくとして、いつも読んでいる本とはまた違った雰囲気をこの本から感じました。
静かな怒り、みたいなものでしょうか? ともかくそういった時代を感じる本になると思います。


-----(ネタバレあり)-----

蟹工船という仕事場について
蟹工船……船なのに工? と読んでて思ったのですが、意味は「船であり工場でもあるから」でした。船としても工場として扱えるため、航海法が適用されないとかいう(もっとも工場法も適用されていない)状況になっています。「国のために決死で働くんだ!」「ロシアごときに怯むな!」とかなんとか、大日本帝国らしい大義名分がちょくちょくでて労働者を働かせているのが、いやぁ時代を感じましたね。
さらに気になった「蟹工船は実際にあったのか?」という疑問のまま調べてみたところ、蟹工船は実際にあったようです。実際この『蟹工船』のような環境だったかといえば、僕はだたネットで調べた程度の知識なので分かりませんが、お金のために危険に突っ込んで蟹を取って一攫千金なんてことは現実にあったようです。
そもそも

 「蟹工船」のはじめの章に、函館を出航してカムチャツカヘ向かう博光丸が、暴風雨にあって沈没する秩父丸の救助信号をうけたのに、監督の命令で見殺しにする場面がありますが、これは実際にあったことです。

(引用:「蟹工船」は実際にあった話なの?
のように、多少(ネットで)調べたところ、いくらか物語の元となる出来事はあったようです。
ただ僕はいろいろ断言できるほど知識がないので、情報の確認と判断は各自に任せます。

Yahoo知恵袋でもそれっぽい質問はありました。
『蟹工船』(小林多喜二著)に書いてある内容は実際にあったこと... - Yahoo!知恵袋

こちらはウィキペリア、『蟹工船』の舞台の元となった博愛丸の記事です。
博愛丸 - Wikipedia

これは博愛丸で起こった事件(監督がしでかした事件)の記事のようです。
多喜二?:新聞紙面から追う多喜二の足跡:蟹工船博愛丸の虐待事件 - 白樺文学館 多喜二ライブラリー [TAKIJI LIBRARY]
(しかし「画像は、国立国会図書館所蔵のマイクロフィルムより複写、引用」って国立国会図書館すごい)

僕個人レベルの話として、当時のことを書かれた本をちょくちょく読んで……がよいですかね。

半ば騙されてきた人たち
物語に登場する乗務員はほとんど、だまされてやってきたか、いやおうなしにやってきたか、お金がほしくてやってきたか、いろいろ理由がありようですが、基本「貧困」と必要に迫られてやってきたようです。そしてこれから始まる仕事に関して「無知」だったともいえました。つらいのはたとえ蟹工船の実情を知っていた場合でも「乗らざるを得ない」人がいくらか居ることが伺えたことでしょう。
悲しいのは、利益のためにそういう実情を公表しないで、私利私欲のために「弱い」人たちを出し抜いている社会があって、「弱い」人たちが実際に集まっているということでしょうか。混沌とした悪意みたいなものがあってぞっとする思いでした。
個人的には「たくさん物事を知ろ……(ガクガク)」みたいなつもりで教訓にしたいところですが、しかし、当時僕もあの場に居たとすれば、おそらくほぼ確実にだまされていた(蟹工船をなにを思ったか憧れを持っていたかもしれない)と思います。そう考えると正しい情報を受け取れないのは怖いですね。ネットがあってよかった……といっても、そのネットが正しい情報を流していなかったりして。(ホラー的なオチ)

劣悪な環境
これ以上ないほどにアットホーム(寝食運命ともにする)な職場でした。
いやぁ、すごいですよね。飼いならされている、洗脳されている、そんな「異常」っぷりを差し引いたとして、純粋に彼らの体力がすごいです。劣悪な環境だというのに、弱音をあげながらもなんとなく順応するのだからもうすげぇですけど「いい働き手」になっているというのがまた悲しいです。

労働者と赤化について
右翼左翼などそういったノリはネット上でしか見たことない(あるいはあったかもしれないが忘れてる)んですけど、こうした環境(劣悪な作業環境)にてそういう「労働者こそ偉くあるべき」なんて言われたら、そりゃクーデターストライキするのも無理ないですよねぇ。とか思いました。
上手いことするよなぁ、とか思う一方で、こういった勧誘がしっかり打てば響く過程をはじめてみたというか、そういう一例みたいなものを見たような気がします。
僕自身、学生運動の歴史についてちょこっと触れたこともあって、学生はどういう風に運動を始めたかと分かったものの、労働者はどうやって……がこの『蟹工船』に書かれてあったような気がします。
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普通に作品として
メタファーや社会風刺などいろいろありましたけど、普通に作品としてよくできてると思いました。
僕は終始いつ反逆するのかわくわくしながら読んでいましたし、80%ぐらい読んで「はよ反逆しろよはよ」と、じれったい思いで読んでもいました。
終盤になってやっと反逆して「やった! これで勝てる!」とか思ったら、すぐさま捕まって……あのときの絶望感はなかなかいい感じでしたよね。捕まり方があっけないうえに、(なんだかんだいって賢い監督が)効果的で抜群な対処されて「終った……」とか思いましたよ。
けれどもそのとき労働者たちは学んだらしく、すぐに効果的なストライキを考案したようでした。そして「俺達の冒険はこれからだ!」みたいな感じは物語が終わり、後日談でストライキの結果が分かります。結果は成功し結果は抜群で、監督をクビにしたうえにさらし首なんてこともされています。これはやったぜですよ。(監督の「だまされたんだー!」発言は小物感溢れててよかったです。)

現実は小説よりなんとか
劣悪な環境で働いている人が居て「ひえっ」となり、蟹工船は実際あったと知り「ひえっ」となり、小林多喜二の最後を知るなり「ひえええ」となりました。ひどい話だと思っていた作品より作者がひどいことになっていて、想像の斜め上にいったような感じがします。気になる方は各自調べてみてください。(小林多喜二 生涯)などぐぐれば出てきます。

【まとめ】
その後、共に反逆した労働者は各工場などに入れられて……みたいに終っています。彼らはその後何をしたのか、そういったことも気になりつつも、まぁ、この話は結果オーライだったんじゃないかなとか思いました。
そうかんがえたら、この小説は友情努力勝利なのかなぁとか思ったり。