とある書物の備忘録

読書家ほどではない青年が本の感想を書くブログ

アンデスの十字架

104冊目
殺人事件追ってたら過激派組織追ってた

ペルーで妙な死体が見つかります。被害者は神埼四郎、自宅用車のドアを開け、降りようとした所を背後から銃で撃たれたというものです。
被害者のポケットには小切手と紙幣が残っており、リマ警察はこれを日系人を狙った左翼ゲリラの犯行だと考えていました。ただ、神崎が常日頃から持っている黒いアタッシュケースがないことから強盗かもしれないとみて捜査を続けます。

ここに主人公、指月紘平がいます。彼はQ新聞サンパウロ支局で働いているも上司と衝突をし、なんのために新聞を作っているのかわからなくなり、ここしばらく失意に襲われていました。
今回も神埼の事件をサンパウロ紙を読んで知り、それをリライトしてから送っただけなのです。
メールを送った十数分後、小林という同僚から電話がかかってきました。彼は指月を心配しながらも、そろそろ仕事をきちんとやんないと職が危ないということを伝えます。
そして雑談がてらペルーで襲われた日系人達の話になりました。

神埼の事件の一週間前のこと、ペルーアンデス山脈東麗のアマゾン川上流域にて東洋人らしき腐乱死体が見つかりました。頭部一部と黒髪は残っていたものの、他の大半はコンドルに食い荒らされていて、日本メーカーの衣類などで判別した、という話です。
「でも該当する日本人はいない」
そう指月は小林に答えます。小林は「その話を置いておくにしても、フジモリが大統領に就任してから、日系人は何人襲われたの?」と聞き返し、指月は「5、6人じゃないか」と答えます。
ここで指月は気がつきました。小林が暗に「ネタがないならそれ(日系人が襲われた事件を)を調べればいいんじゃない?」と提案してくれていることに。
感化されるように指月は「いつまでに書けばいい?」と小林に言います。

ペルーの過激派組織センデロ・ルミノソがはげしい反発をしていた時代、フジモリ大統領就任後というもの彼らは日系人を標的にしながら無差別に爆弾やらテロをしていました。
そんな場所に行くのだからけして安全な取材ではありません。しかし、指月には職がかかっており仕事は選べません。ここでひとつ特ダネを探しに向かうのです。


----(ネタバレあり)----

指月紘平という男
主人公でした。たしか30代とかなんとかだった気がしますが、年齢や外見や言葉の雰囲気から見合わず古武道の達者のようでした。
ふと海外に派遣される、海外を調査する人は少なからず鍛えているイメージでしょうが、古武道が達者な人は現に居るのだろうかとか思いました。そしてその古武道が対肉弾戦で役立つのかどうか。冷静に考えたらめちゃくちゃなことしてますよね彼。うっかり撃たれなくて(撃たれてますが)よかったです。
ときに美女と仲良くしていたトラブルに見舞われるとか言いながら、民代に至ってはずっと入り浸る関係になっていて、あげく肉体関係を持ち、終わりには親密な関係になっていました。それは別にいいんです。僕が言いたいのはふらっと民代と肉体関係したと振り返るシーンが現れたもんだから「こいつ死ぬんじゃないか」とか思ったということです。指月も指月としてそこ気にしないのか、とか思いました。
ジンクスは所詮ジンクスなんですね。

神崎四郎の事件
物語の中心になっているだろう事件です。この事件の概要は「実は仲間だと思った人から裏切られた」という展開でした。
事件の概要はシンプルでも事件内容は複雑のようで……ジャンルで言えば「事件が複雑」ではなく「権力が複雑」の方です。この権力とは社会権力的な官僚的なものではなく、対センデロみたいな暴力との戦いみたいな複雑さがありました。
個人的に今思うのは、神埼はなかなかに優秀だったのではないか、ということです。神崎自身お金がほしいと(骨董品が欲しかったのでしょうか)思ってやっていたと……暗に出されてましたけど、結局なんでお金が欲しかったのか、いくら残っていたのかなどは謎のままでした。
あのあと家族はどうなったんでしょうかね。国から補助もらえたとしても、放心しているのかどうなのか。

遺跡発掘計画
物語後半、というか大多数は遺跡発掘計画ターンが続いています。この遺跡発掘だけ見れば恐ろしいほどの功績を民代はみせていることがわかります。歴史に名前が乗るレベルですよね、これ。
ただ残念ながら(残念でもないですが)お宝は光を受けることなく、また地中深くに眠ることになります。思い返してみればあれだけ問題がありながら、よく遺跡発掘計画すべてうまくいきましたよね。問題もなく……問題は企画者でした。
問題であるスアレス博士ですが、僕は初っ端から怪しいとか思っていました(読破してからいうのもなんですけど)。なにせ、それだけ危険な予想ができているのに「(なぜ君は現場に向かってないんだという意味で)あれ?」と思いましたし、そもそも日本人1人(しかも女性)に任せているのがまた、あれでしたよね。
民代がスアレス博士と話している時、僕は「民代、気が付いてくれ」という思いで読んでましたが、残念ながら民代は盲目していたようで、そのまま騙されることになりました。しかしまぁきれいに騙されたお陰でなんとかなった、ということになるのですが。

天野民代という女性
作中のメインヒロインになります。テレーザがヒロインかと思ってたんですけど、初っ端登場したテレーザはなんだったのかっていうレベルで民代ヒロインしてました。
彼女は芯が強く、さらに学問に勤しむという知的な人物でしたね。インガ・アンデスなどにロマンを感じるってのわかりますが、それが女性となるととても希少な人材だと思います。今までおかしな娘なんて(父親の理解からのびのび育ったのだろうけど)思われていたのだろうか、など考えてました。
やっぱ幸運な人なんでしょう。初っ端ふらっと登場したあの爆発で亡くなるってことも十分ありえただろうし、女性だからこそ美人だからこそターゲットにされる可能性だってあっただろうし。心臓の病気も持っていましたし。うーん、幸運な人です。
思ったんですが、もしかしたら指月の(自称美人に合うと起こる)不幸体質も彼女の幸運さで相殺している可能性がありますね。
正直、指月よりも民代のほうがうっかり死んでしまいそうな気がしたので、最後まで生き残っててよかったです。

過激派組織
リーダー居るタイプの過激派組織でした。たしかフジモリが大統領になった結果、いろいろ改革されてプライドが傷ついたからの憎悪とかなんとか言ってました。
実際のセンデロ・ルミノソはどうだか知りませんが、作中の過激派組織はそんな単純な理由で(単純でもないですが)、街を爆破させたり、コカ作ったり、村を占領して働き手を攫ったり(さりげにここ女性さらってないだけ良心あったと思います。書いてないだけかもしれませんが)など極悪な行為をしていました。そんな極悪な連中をどう対処したものかと読み進めてみれば、まさか最後はあっけなく一網打尽にされていました。
この一網打尽っぷり、ギャグみたいな一網打尽っぷりでしたよね。外の見回りはいなかったのかとか、だれか異変を感じ取れなかったのかとか、いろいろ普通にしていれば気が付いていたものの……と、思ってたんですが、おそらく勝利を確信していた慢心があったんでしょう。
今思えばギャクだと感じた理由、もしかしたらあの最後の爆発のせいかもしれません。

十字架の謎
十字架そのものが鍵になっていて、星のマークが魔法陣になるようです。正直に言うと、僕読んでて気が付きました(またしても読破後のry)。ただ指月はこれをどう気がつくのかと気になったもので、内心「おまえ呑気に遺跡発掘してる場合じゃないぞ」と思ってました。簡単だからこそ(あるいは誰かが一発で見抜く可能性があるからこそ)心配に読んでました。スアレス教授とか数時間あれば気がついたと思います。
それこそ相手の手に渡る前に気がついてよかったですよ。「わからない」からの見回りに来るまで、最後の5分間ひやひやしました。瞑想して冷静になろうとするのはわかりますけど……「おまえ民代抱いてる(車で回想していましたよね)場合じゃないぞ」と僕は内心思いました。それぐらい余裕かましてからの、まさか暗号解読パターン1つ2つしか持ち合わせてないなんて、まさかそれで開くと確信してたなんて……せめていくつかのパターン手帳に書いておきましょうよ。5分間で間に合わなかったら間違いなくゲームオーバーでしたよ……。

【まとめ】
妙なリアリティあるな、と調べたら「フジモリ大統領」や「センデロ・ルミノソ」は実在したとあるのだから驚きました。Wikipedia見つつ、ネット見つつ、いろいろ情報集めてますが、まだ把握しきれていません。これからゆっくりと知っていこうと思います。
ところで作品の方、最後の最後指月はいい記事が書けたそうです。一方で上司はゴミ箱に当たっているとかなんとか、あのあと二人はどうなるんでしょうかね。また大喧嘩しそうです。